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STAGE A120は確かにJBLらしくない

  • 2019/05/23 12:28
  • カテゴリー:散財

 先日,つらつらとオーディオ関連のニュースを見ていたら,昨年夏にJBLから,ペアで2万円を切るブックシェルフ型スピーカーが出ていたことを知りました。

 ちょうどこの頃オーディオにあまり興味がなかったこともあり見逃していたんだと思いますし,仮にちゃんと見つけていても,JBLのような「ジャズに最適」などという,ジャンルを枕詞にするようなスピーカーには手を出さなかったと思います。

 私はモニター指向が強いせいか,特定のジャンルを条件にした「定評」をあまり良い評価とはとらえていません。いろいろ理屈をこねることは出来ますが,音楽なんてのは楽しく聴けることがすべてですし,音の良し悪しは好みや環境,状況によって全然違ってくるものなので,長い時間をかけて収れんした(あるいは変化した)今の好みを直感的に信じればいいと思っています。

 不幸にして超高級オーディオにたどり着いた人は,それはそれで大いに結構ですし,屋台の軒先にかかったAMラジオの音が,ある種の懐かしさと共に深い感動を呼び起こす事だってあるでしょう。音楽,あるいは音というのは,そういうものだと思います。

 僅かとはいえ昔からオーディオに予算配分を行っている私は,幸いにして自分の好む音というのを見つけています。それを基準にしながら,新しい機材に出会うことはいくつになっても楽しいものです。

 で,そのペアで2万円切る激安のJBLですが,STAGE A120といいます。

 114mm(4.5インチ)のウーファーとアルミドームのツイーターによる2ウェイバスレフで,小型ながら低域はちゃんと出ているようですし,HDIという高級機で採用されたツイーターのデザインは,きっと好ましい音場を作ってくれるでしょう。

 それにしても,JBLのデザインは,いつも秀逸です。A120も深い木目と黒の配色が格好良く,まるで高級機のような落ち着きを見せています。KFEの廉価モデルとは大違いです。(まあKEFはコストの大半をスピーカーユニットに振り向けているという証なのですが)

 正面のバッフルの過度を落とした美しい造形は,音響的も見た目にもプラスに働きます。

 実は,今から25年近く前の1995年に,J520Mというペアで定価3万円のスピーカーLを私は買っています。大きなスピーカーが置けない環境にあり,ニアフィールドでの使用を想定した買い物でしたが,JBLに対する漠然とした憧れと価格の安さで手に入れて使っていました。

 ただ,あまり音が良かったという印象はなく,狭い帯域なりにそつなく無難にならすスピーカーだという印象でした。

 その後,実家で使われるようになっているのですが,2008年にボロボロになったウレタンエッジを交換してあります。あれから10年ですか・・・

 で,A120は確かに安く,そこが訴求されているのはわかるのですが,小さいウーファーの2ウェイで安いものというのは随分昔からラインナップされているレンジであって,なにも特別なものではないし,JBLのブランドを汚すようなものではないということです。

 ただ,4312Mは大失敗でした。ブルーバッフルの4312を見た目そのまま小さくしたこのスピーカーは随分売れたと聞きますし,私も視聴しないで衝動買いしました。

 しかし音はお世辞にもいいとは言えず,帯域は狭く,音場の再現性は低い,とてもカサカサした音がしていて,ちっとも耳が慣れてきません。やがて使うのをやめてしまいました。

 この,ブルーバッフルへとJBLブランドへの憧れを崩された苦い経験が,その後のヨーロッパ製スピーカーへの傾倒に繋がるのですが,「気のせいかも」「好みが変わったかも」と何度か聞き返してみても全く結論が変わることはなく,逆説的に自分の耳がぶれていないことがわかって,ちょっとほっとします。

 というわけで,コンシューマー向け低価格ラインのJBLは長い歴史があり,売れ筋である事から考えても決して手を抜いていないだろうし,時代に合わせた音作りを続けていると思いますので,A120に対する「JBLの音ではない」「乾いた音がしない」という評価は,私にとってはむしろ安心材料でした。

 なにより2万円以下です。最近の海外スピーカーの価格低下は止まらず,JBLでも1本1万円以下にしないといけないというのは,ちょっと深刻かも知れません。

 ただ,主にアメリカではホームシアター用のスピーカーとして,小型ブックシェルフの需要があります。サラウンドが5.1chから7.1chに移行すると,フロントは2本でもリアやサイドに4本も必要になるので,単価を下げて欲しいと言う圧力が強まっているんだと思いますし,一方でソースの高音質化も顕著になっているので,性能面でもごまかしや妥協は出来なくなっているんでしょう。。

 A120はリアやサイドのサブスピーカーとして使われる事を念頭に置いてあって,ブラケットが標準添付されていたりしますし,背面のバスレフポートを塞ぐプラグも付属しています。

 一回り大きなサイズのA130にはそうした付属品はなく,バスレフ専用のメインスピーカーとして使う事が想定されているわけで,3000円の価格差以上に,その立ち位置が異なっていることも認識すべきでしょう。

 私はそうしたA120の位置付けに興味がありましたし,ここまできたら最小サイズのJBLを聞いてみたいじゃないですか。だから迷わずA120を買うことにしました。

 お値段は16000円弱。1本8000円ほどですので,もう破格でしょう。

 届いて見ると,まず作りの良さに感心しました。逆に作りの乱暴さを批判する人もいますが,私の個体はとても良く出来ていて,綺麗に仕上がっていました。

 ずっしりと重く,指で弾いてもコツコツといい音を立てています。これは期待出来そうです。

 で,実際に音を出してみますが,これがまた今どきの帯域の広い,定位感のあるいい音を出すのです。低域は伸びているというよりも小型ブックシェルフのバスレフらしいタイトで元気な音ですし,高域も自然に繋がって出てきていて,ハイハットの音で解像感の高さを印象づけます。肝心な中域には艶もあり,音も散らばりません。

 サイズが小さいのでスケール感こそありませんが,その音場の再現性は大したもので,音を出した瞬間に「おっ」と思いました。これはいいです。

 いわゆる分解能はそれほど高くはないと思いますし,全帯域で定位感が抜群というわけではありません。帯域もやっぱり狭いなと感じますし,音の密度は低く,物足りなさはあります。小さいスピーカーにありがちな設置の難しさはついてまわります。

 しかし,目を瞑って聞けば,これがあの大きさの,あの値段のスピーカーから出ているとは思えないくらい,よく鳴っています。デザインもJBLのハイエンドと共通の高級感のあるもので,いかにもいい音がしそうな印象も与えてくれます。

 気のせいかと思って,4312Mにつなぎ替えますが,もう全然ダメ。4312Mは二度と聞かないだろうなと思いました。

 パイオニアのPE-101と専用のエンクロージャでも聞いてみましたが,フルレンジスピーカーらしい帯域の狭さはあるものの,その音場の再現性と艶は素晴らしく,PE-101を見直しました。それでもA120の圧勝です。

 音の傾向からいって,A120はかつてのJBLのアイデンティティである,Jazz向けの乾いた音とは逆の方向に向いていて,小さいエンクロージャから無理に音を出そうとする不自然さが,らしくないと言われる理由ではないかと思います。

 しかし,今のスピーカーに求められている音の方向に素直に従った結果でもあり,それをこの値段でやってのける(しかもこの仕上げでです)JBLは,やっぱりすごいんじゃないかなと思いました。

 ということで,うちでは,私の作業部屋のメインになりそうです。本気で聞くというよりも他の作業中に楽しく聞くという目的は,案外音場の再現性が求められるし,音そのものもよくないと,気が散って仕方がありません。

 確かに,この音のために,わざわざJBLを選ぶ必要はありません。この音なら,国産メーカーも含めていくらでも選択肢はあると思います。

 でも,そこはやっぱりJBLのコンスーマー用スピーカーです。大衆がどんな音を好むのか,よく分かっていると思いました。この価格,そしてこの大きさでは,頭1つ飛び出た選択肢になるでしょう。

 とても気に入りました。
 

SPUその後

 SPU#1Eを使うようになってから1ヶ月弱になりますが,当初の「それ程でもない」という消極的な印象から,今はもうこれしかないと言うほどの安心感と安定感を感じて使っています。

 大変素晴らしいです。

 SPUは基本構造と外観はほぼそのままにしながら,時代と共に改良を重ねてきた現役バリバリのカートリッジです。同じ物がただ長く生産されているわけではありません。

 このあたりがDL-103と違うのですが,個人的には素晴らしい音のするDL-103がいつ買っても同じ音を出してくれる安心感に好感を持っていて,このあたりがSPUとは考え方が違うのかなあと思う部分でもあります。

 SPUは1959年の生まれといいますし,1973年頃の雑誌を見ていると,当時の国内での価格は2万円ほど。これってV15やADCのカートリッジと同じ価格帯で,ついでにいうと国産のまともなカートリッジとも似たような価格です。

 今でこそSPUは高級なカートリッジで憧れの的ではありますが,当時はオーディオ用のカートリッジとしては割と普通のクラスのカートリッジだったんだなあと思います。

 そのSPUが世代を経るごとに価格が上がり,現行のモデルでは20万円を越えるものもあります。もっとも,1973年ごろの2万円は今の6万円くらいだそうですので,国産の高級品なら妥当な価格ですし,V15なんかも為替相場を勘案すると納得のいく価格ではあり,SPUが近年高級路線に進んだことがなんとなく見えてきて興味深いです。

 そんなSPUですが,高級なものになってしまったことへのある種の反省からか,6万円弱という価格で販売されたのがSPU#1です。これも現在のSPUの相場から見ると破格の安さに見えますが,もともとのSPUの価格帯を考えると,まあそんなもんかなあというレベルです。

 しかし,10万円を越える価格であることをせっかく定着させたSPUが,こうして安いシリーズで展開するにはいろいろ議論があったはずで,これまでSPUを使った事がない人への「マイファーストSPU」を狙ったSPU#1によって,私などオルトフォンの目論見通り,まんまと憧れだったSPUのオーナーになっています。

 SPU#1のコンセプトは,安価なことから最初のSPUになることでもありましたが,同時に発売当時の音を再現することもあったそうです。

 1959年に良いとされた音が現代の良い音であるはずもなく,それは単なる懐古主義に成り下がるはずだと私などは思ったわけですが,一方でSPUが現在でも高い評価を得ており,基本構造が他社も含めたMCカートリッジの標準になっていることを考えると,すでにこの当時にある程度の完成度と性能を持っていたとも言えるわけで,だからこそコレクターズアイテムとしての復刻版ではなく,最初のSPUとしてSPUを知らない人達に手に取ってもらうことを狙いに出来るのでしょう。

 ということで,私はオリジナルのSPUの音を知りませんが,SPU#1がそれに近いものだとすれば,SPUに定着したその評価を新品で実際に体験する事になるわけで,当時から変わらないGシェルのあの古典的で優美な外観への憧れも後押しして,SPU#1を使いたくて仕方がなくなったというわけです。

 これまでにも書きましたが,SPUは現在の基準で考えると非常に使いにくいカートリッジで,トーンアームも選びますし,針圧も大きくせねばなりません。ハーバーハングも調整出来ないので適合するトーンアームに取り付けないと歪みが増えてしまいますし,針圧をちゃんとかけられないなら,そもそも音を出すことも出来ません。

 オーバーハングについては,私はアルミの放熱器を加工して台座を作りましたが,その後オリジナルの台座も少し削って,15mmよりも少し大きいくらいに調整をすることができました。

 針圧については,セットカラーと呼ばれる安価な工業用の汎用部品からサブウェイトになりそうなものを探し,ステンレス製のものを1200円ほどで調達しました。

 これで技術的な点ではSPUをならす用意が出来たわけですが,最初の印象が「凡庸な音」という印象だったのに対し,聴けば聴くほど楽しくて,以後他のカートリッジに全く交換していません。

 なんといえばいいのでしょうか,のびのびと音が出るようになったと言うか,鋭角ではないのですがリアリティにあふれ,中音域はとても丁寧で艶やか,低音もタイトで密度のある音が前に出てきます。

 特筆すべきは空間の再現性が素晴らしく,ライブ音源などを聴いていると,まるでその場にいるような奥行きを強く感じる事ができます。粒子が細かいというか,情報量が豊富で,同時に線の太さも持っているので,それこそDL-103とV15の良いところを併せ持った感じがします。

 クラシックや少人数のジャズに確かにフィットするとは思いますが,ボーカルものもとても心地よく,ジャンルによる得手不得手ではなく,使う人の好みにマッチするかどうかに尽きるんじゃないかと思うほどです。

 私が買ったカートリッジの中では一番高価なものがこのSPU#1でしたが,それだけの価値は十分にあったと思います。あれこれつまみ食いをするのではなく,最初からこのSPUを手にしておけば,ずっといい音を楽しめたのになあとも思います。

 しかし,他の人に勧められるかといえば,それは全く違います。これほど使いにくいカートリッジはないと思いますし,今どきの音でもなければ,一般にロックやポピュラーに期待される音を再現する力も乏しいと思います。

 やはり,DL-103やV15を使って,その上でSPUを評価しないといけないのかも知れません。

 とまあ,SPU#1があまりに良い結果をもたらしてくれたので,今私がやっていることは,SPU#1を使ってクラシックとジャズのLPを96KHz/24bitで録音して,いつでもその心地よい音を楽しめるようにしておくことです。

 DR-100mk3でせっせと録音をしていますが,その時間が全く苦痛にならず,楽しくて仕方がありません。まさに30年前のカセットにLPレコードをダビングしていた頃の楽しさそのものです。

 アナログオーディオの本質的な楽しさというのは,このあたりにあるんだろうなと再認識しました。
 

SPUがなりはじめた

  • 2019/04/23 12:01
  • カテゴリー:散財

 さて,前回のSPUの話に続きです。

 本来の正しいSPUとの付き合い方は,何事もお金でスパッと解決,でしょう。

 ゼロバランスが取れないなら補助ウェイトを買う,オーバーハングが取れないならオルトフォンかSMEのトーンアームを買う,トーンアームがあわないならキャビネットを買う,キャビネットだけ買っても仕方がないからフォノモーターも買う,と言う具合にスマートに,素人がジタバタしないのが,とにかく正しいです。

 しかし,私はお金もないし,ジタバタするのが楽しいので,周囲の視線など気にせず,頑張ってみます。

 すでに,針圧の問題は暫定的にどうにかなる目処は立っているので,あとはオーバーハングです。もしかしたら,オーバーハングを調整する仕組みが,最新のSPUには入っているかも知れません。

 ・・・そんなこと,あるわけないです。SPUですよ,SPU。

 とにかく,SPUをちょっと分解してみましょう。

 SPUのシェルの裏側にある,白いカバーを外します。これがSPUらしさの1つで,これが使えないのは残念ですが,オーバーハングを変更すればどうしてもあきらめなければなりません。

 思った以上に小さな,SPU本体が出てきました。

 もともとG型のシェル(全然関係ないですが,私はGとはゴキブリのことだと思っています)は,ステップアップトランスも内蔵するためにこの大きさになったという経緯もあり,中は結構ゆったりしています。

 さらに,カートリッジ本体を固定する2本のビスを外してみます。カートリッジの端子が弱いそうなので,変に曲げたりこじたりしないように気を付けます。

 カートリッジをリードが付いたまま手前に起こすと,残念ながらオーバーハングを調整する仕組みは見当たりません。

 カートリッジとシェルの間には,アルミで出来た部品が挟まっています。どうもこれをうまく使えば,カートリッジの取付位置を調整することが出来そうです。

 まずはこのアルミの部品を外して眺めてみます。そして,原状回復が出来るように,この部品そのものを削ったり穴を開けたりする加工はしないように,考えてみます。

 どうやら,カートリッジとこの部品を固定するところはそのままにして,この部品とシェルを固定する部分を作ってくっつけるのが良さそうです。

 なにで作ろうかな,プラスチックは嫌だし,金属は加工が大変だし・・そんなとき目に入ったのが,小型の放熱器でした。

 アルミで加工がしやすく,大きさも手頃です。

 ということで,のこぎりで切り出し,フィンをへし折って,ヤスリで削って穴を開け,接着剤で固定したのが,以下の写真です。作業は1時間ほどで,まさに朝ご飯の前に仕上げました。

20190423120422.jpg

 実は,当初7mmコネクタ側に引っ込めるために,穴の位置を外側に開けていたのですが,シェルに収めるときにシェルの内側に干渉してしまい,うまく収まらなくなってしまいました。

 ここで無理に削って収めると現状回復が出来なくなりますので,しばらく考えたあげく,苦し紛れに思いついたのが,作った部品をくるっと180度回転させて再接着し,穴の位置をずらしてしまうことでした。

 結果,綺麗にシェルに収まったことと引き換えに,引っ込める長さは7mmから5mmと短くなって,オーバーハングは15mmから17mm程度になりました。実用上2mm程度の誤差は問題なく,気にするほどでもないのですが,オーバーハングゲージで確認するとやはり適正値からズレているのがよくわかり,モヤモヤします・・・

 なお,最後の穴開けでセンターが出ず,接着する場所でごまかしたことは,ぜひ墓まで持っていきたいところです。

 とまあ,ここまででうちのトーンアームにフィッティングを済ませたわけですが,シェルの下側にある白いカバーは,最初に述べたようにあきらめました。

 カートリッジ本体を外に出す切り欠きがこのカバーにあいていることが理由で,取り付けるにはこの切り欠きを広げないといけなくなったからなのですが,カバーがないと見た目が今ひとつという大きな失点がある一方,カバーがない分軽くなるというメリットがあります。

 閉じていないと性能が出ないと言う話もないだろうし,カバーは付けずにすませます。大事にしまっておきましょう。

 さて,肝心の音出しです。

 最初の印象は,凡庸だなあということです。内周での歪みも大きく,スクラッチノイズも大きめに聞こえます。楕円でこれ,オーバーハングを可能な限り調整してこれ,というのでは,結構がっかりします。

 音そのものについても,DL-103やAT-F3/2に比べると,しなやかではありますが解像度が低く,悪くいえば大雑把な音です。

 ただ,弦楽器は伸びやかですし,ボーカルも平面から出てくるのではなく,球形の物体から出てくる感じが出ています。

 歪みが大きいのが気になりますが,概して滑らかで彩度は高く,解像度こそ低く線の細さは感じませんが,かといってエッジがぼやけているわけではありません。

 MMカートリッジでは,楽器と楽器の間の隙間がぼんやりとしており,見通しが悪いわけですが,MCになるとこれがすっきり見通せるようになります。楽器の分離がいいと言うことは,位相特性が優秀だという事なんでしょう。

 デジタル的とも言える切れ味のいいAT-F3/2に対して,まさにモニタ的ともいえる正直なDL-103,そしてSPU#1Eは滑らかで伸びやかで,細かい事を気にするなという大らかさや落ち着きも感じますが,大事な事はこの違いがMCカートリッジという共通の個性を保った上ではっきり表面化することです。いやはや,面白いものです。

 MMカートリッジまで含めるとこれがまた大きく違ってきて,空気がヒンヤリとしているかボワーンと生暖かいか,彩度が高いか低いか,炎天下か室内か,食べ物の臭いがするかスタジオのかび臭い臭いがするか,演奏者がくっきり見えるかぼやーっと見えるか,床鳴りが聞こえるか聞こえないか,音が前に出るか他と並ぶか,中央の2mくらいに集まるか10mくらいに広がるか,など,もうとにかく違いが多くて困ります。

 CDなどのデジタルオーディオの世界だと,違いは僅かで些細なものばかりですので,もうどうでもいいと思ってしまうのに,アナログだともう底なしです。

 これは,良いことだといってしまうにはちょっと無理があり,同じソースを再生するのに環境でこれだけ違いが出るというこの事が,ソースを簡単に正しく再生できないという「バラツキ」が大きいことを示していて,その技術がコントロール仕切れていないことを我々に突きつけます。

 そこを楽しみだ味わいだというのは,趣味ならそれでもいいのですが,技術としては未完成であって,コントロールしやすく再現性の高いデジタルの世界に移行したのは,当然の結果であるとつくづく思います。

 話がちょっと逸れましたが,案外つまらないなあと思いながら我慢してSPU#1Eを聞き続けます。5時間ほど経過すると大分耳も慣れてきました。重心の低いしっかりとした骨格にふくよかでしっとりとした質感をまとった音が,しつこくない形で耳に入ってきます。

 殊更,オリジナルのSPUを模したSPU#1Eをそれだけの理由で賞賛することはしませんので,私は現代的な音ではないと思いますし,LPレコードの溝に刻まれた情報を現代のカートリッジのように大量に吸い上げる能力を期待することは出来ません。そこは50年の技術の進歩を素直に評価したいところです。

 果たしてSPU#1Eの音が,演奏者の聴いて欲しい音であるかどうかはわかりませんが,SPU#1の音がオリジナルSPUの音を尊重するものであるとするならば,SPUは丁寧に情報を拾い上げて磨き上げることをやっているカートリッジだと思います。

 50年前,音響的な理論もまだ乏しく,解析できる測定器もなく,なにより膨大な演算パワーがほとんどない,技術者の勘と経験と個性が強く信じられていた時代において,SPUが1つの到達点として今も支持され尊敬されることに,私はとても納得するものがありました。

 経験上,そのカートリッジの良さを知るには,その良さを知るきっかけとなったLPレコードに出会えるかどうかが鍵となります。SPU#1Eにそうしたソースとの出会いがあるか,私の興味はそこに移っています。

 とても楽しい事です。

 しかし,もうカートリッジはこれでおしまいでしょう。AT-33シリーズも試したいし,V15typeIIIやTypeVも試したい,最近話題の光電型も面白そうだし,きりがありません。

 しかし,それらを「いいなあ」と思えるLPレコードに本当に出会えるのか,と聞かれればさっぱり自信がありません。その意味でも,もうここらへんで十分だと思うのです。

 

SPUは秘境である

  • 2019/04/22 15:20
  • カテゴリー:散財

 私が物心ついた時には手の届くところにLPレコードがあり,細い溝に音が刻まれていることは直感的に理解していましたが,ここから音を実際に拾い上げることが出来た我が家のシステムステレオは真空管式で,セラミックカートリッジでした。

 私がこのシステムステレオについて,わずかに記憶に残っていることは,33回転と45回転に加えて78回転と16回転が選べたことと,やたら薄暗いところにあったこと,そして電源を入れると湿っぽい臭いがして,子供心に「これは危ないな」と思ったことでした。

 いつ廃棄されたかを記憶しておらず,気が付いたらなくなっていました。ちゃんと動いている記憶もないので,どんなものだったかはわかりませんし,この手のシステムステレオはこの当時,あちこちの家に見られたもので,ひょっとしたらいとこの家にあったものと混同しているかもしれません。

 5歳かそこらのときのことでしょうが,父が私を連れてポータブルレコードプレイヤーを電気屋さんに買いに行きました。友人の家でみたテントウムシの形をしたプレイヤーが欲しいとねだったような記憶がありますが,そうしたファンシーなものを嫌いな父が選んだのは,無難なデザインの青いフタの付いたものでした。

 これもまたセラミックカートリッジで,当然モノラルでした。私もそうでしたが,特に弟がウルトラマンだの仮面ライダーなどのレコードをやたらと買ってもらっていたので,これを再生するものとしても活躍してくれました。

 やがて,私はステレオが立体音響であることを知ります。テレビもテープレコーダもレコードもラジオも,とにかくスピーカが1つだけで,モノラルの世界がすべてであった私は,友人の家やCMでみる,左右に2つスピーカーがついている「ステレオ」が,クルマのヘッドライトのように,デザインの都合でただ左右対称に同じ物を配置しただけと思っていて,格好がいいとは思っていましたが実用性には理解がありませんでした。

 それもそのはず,まともなステレオ再生が出来る再生機器は高価でしたし,音楽ソースの入手も簡単ではありません。

 そんなおり,父が借りてきた,8トラックのラジカセで,私は立体音響の世界に度肝を抜かれます。その8トラックのラジカセは奥行きがあり,今思い出せばなかなか高音質だったのですが,これは8トラックのステレオ再生に加えて,FMラジオのステレオも受信可能だったのです。

 ある日,このラジカセの機能をあれこれいじって確かめようとしていた私は,ある切り替えスイッチの「STEREO」「SOUNDSCOPE」の違いを確かめるべく,耳をスピーカーに近づけていました。

 ちょうどお昼頃,NHK-FMをテストソースに使っていたのですが,森進一の音楽が始まった途端に,目の前にぱーっと音が広がって聞こえたのです。

 気のせいかと思って,何度も試しますが,その音の広がりは間違いありません。SOUNDSCOPEではさらに立体的に聞こえます。

 それまで意識していなかった8トラックテープもこのラジカセでステレオで聞けることを知り,ステレオとオーディオが違うものであることを,ようやく理解したのでした。

 1979年にWalkmanが登場し,小さなカセットプレイヤーとヘッドホンが立体的な音を作り出すことに,私も数年後腰を抜かすことになるのですが,そうなってくると自分でもステレオを扱う事の出来るオーディオが欲しくなってきます。

 そんな高価なものはおいそれと替えるはずものなく,父が次に持ち込んだのは,4チャンネルといえばとりあえず売れた時代のモジュラーステレオの中古品でした。

 4チャンネルとは言え,当然ディスクリートでもなければ,マトリクスでもない,なんちゃってもいいところなイカサマ4チャンネルだったわけですが,FMラジオはもちろん,LPレコードもようやくステレオになりました。

 しかし,カートリッジは相変わらずセラミックです。AMラジオに毛が生えた程度の周波数帯域,歪みも大きいし,セパレーションが絶望的でした。

 これで中学生になるまで過ごしていたというのですから。さみしいものです。

 ビートルズに出会い,真面目にLPレコードを聴きたくなり,またFMラジオで面白い音楽をやっていることを知っては,それを録音したいと思うようになり,ここから渇いた喉を潤すように,私はオーディオの道を走り始めることになります。

 とてもよいシステムを詳しい叔父から譲ってもらっていたある友人が,ゴミ捨て場で拾ったというTEACのA-450を私に譲ってくれましたが,これがその後6年ほど私のシステムの中核となります。

 高校生になると,父がまた古くさいコンポーネントステレオを知人から譲ってもらってきました。この時は私は1万円だか,お金を取られたように思うのですが,今思えば廃棄物処理費用として1万円もらいたいくらいの代物でした。

 とはいえ,これは私が独占できる初めてのオーディオ機器であり,オーディオに関する本や記事に沿った経験が初めて出来るものでした。

 特に,LPレコードはベルトドライブの安物ではありましたが,J型のトーンアームはユニバーサル型で,シェルに好きなカートリッジを取り付ける事が出来るものでした。

 ここに至って,私は初めて,LPレコードをマグネチックピックアップで再生する環境を手に入れたことになります。

 しかし,V15typeIIIを使っていた叔父の音には全く手が届きません。これはやっぱりカートリッジだろうと,当時1万円でたたき売られていたVMS30mk2を,郵便局で貯金を下ろして買ったことが,私と北欧,そしてオルトフォンとの出会いでした。


 当時は,FMのエアチェックするための番組表が週刊誌になっていましたが,ここにはオーディオの広告もたくさん出ていました。VMS30mk2もここで知ったのですが,光悦やピッカリング,ADCなどメーカーを知ったのもこの頃です。

 一番欲しかったシュアーは高価で手が出ず,1万円で3万円相当のカートリッジを買うチャンスだと飛びついたのですが,確かに音は良くなったとは言うものの,プレイヤーの性能が低すぎてゴロゴロと音がしますし,トラッキングエラーのせいで歪みも大きく,ワウフラッターも回転数の変動も話にならないレベルで,良い結果は全く得られませんでした。

 この時,M44Gなどを分相応に手に入れておけば私のオーディオ人生も真っ当だったと思うのですが,果たして辞書を片手に英語の説明書を読み込み,なんとかしていい音を出したいと悪戦苦闘することになってしまいました。

 その後,20歳頃で6万円くらいのプレイヤーを買おうと思っていたところに,DP-2500をジャンクで手に入れ,カートリッジもV15typeIVは無理でもMe97HEを買ったりしましたが,やはりあの叔父のシステムの音は出てきません。

 社会人になってV15typeVxMRを買って,ようやく欲しい音が出てくるようになって,そうか,カートリッジの個性がが一番大きいんだなあと思い知ったのです。かかった時間は実に10年,それも青春時代の10年です。

 時代はCDに移行し,LPレコードはそのうち生産されなくなるだろうといわれた時代でも,私にはこうしたLPレコードに対する達成感を渇望する気持ちが強く,ずっと興味を持ち続けられたことは幸いだったと思うのですが,しかし,カートリッジの個性を良し悪しではなく楽しみとしてとらえるようになるのは,さらに10年の時間が必要でした。

 DL-103とV15typeVxMRで常用カートリッジが固定化し,あとは2mREDやGRADOのPrestageなどを気分で選ぶ事をやっていましたが,どれも安物ばかりです。

 そんなおり,自分が知るべき世界で,まだまったく手が届いていないものがある事にはっとします。

 それは,オルトフォンのSPUです。

 SPUは1959年だったと思うのですが,ステレオのLPレコードの登場とほぼ同時期に登場した,黎明期のステレオカートリッジです。放送局用で,専用のトーンアームに取り付けるA型と,ユニバーサルタイプのトーンアームに取り付けるG型が存在し,今日まで多くの派生品種を持つ,息の長いシリーズです。

 シェル一体ということもあり,重量は30gもある上に,針圧が4gとこれまた大きい値です。トーンアームがこうした重量級のカートリッジに耐えられないとセッティングも出来ないという難しさもあり,私には関係のない世界だと思っていました。

 ただ,SPUが今のMCカートリッジの原点であり,今も尚多くのファンが絶賛している事実は知識としては知っていて,それでもきっと最新のカートリッジにはかなわないんだろうと思っていました。

 冷静に考えると,私のトーンアームはG-940になっています。MCヘッドアンプも用意出来ています。SPUをお迎えする環境は,なんとか用意出来るのではないかと気が付きました。

 しかし,SPUは高いです。10万円を越えるカートリッジを,おいそれとは買えません。

 そして調べてみると,なにやら安いSPUがひっかかります。

 オリジナルのSPUを復刻したSPU#1というシリーズが,2016年に登場していて,これが安いのです。丸針で実売53000円,楕円針で実売63000円です。

 SPUとしては破格のこのSPU#1ですが,否定的な意見は全く出てこず,コストパフォーマンスは最高という意見も目にします。そう,あのカブトムシのようなシェルが,私のレコードの上をなぞるときが,現実になるのです。

 ここであらためて,SPUを使うための問題点を洗い出します。

 まずヘッドアンプです。これは大丈夫です。DL-103もいい音でなっていますし,インピーダンスも3Ωに対応します。

 トーンアームも大丈夫です。補助のウェイトがないとダメかも知れませんが,それも500円玉を張り付ければどうにかなります。

 問題はオーバーハングです。私のシステムはどういうわけだか,15mmというオーバーハングを出そうとすると,シェルのコネクタから針先まで45mmにしないといけません。

 通常ここは50mmから55mm程度あるものなので,私はシェルをカートリッジに取り付ける時,最もコネクタ側に取り付けざるを得なくなっています。

 SPUのG型は,この長さが52mmなんだそうで,さすがに適正値の45mmに比べると長すぎます。これではトラッキングエラーも大きくなってしまいますし,かといってシェルから取り出して別のシェルに取り付けるというのも,もったいない話です。

 いろいろ考えましたが,とりあえず買ってから考えることにしました。

 もし,このままでもどういうだかオーバーハングがきちんと出てくれるかもしれず,オーバーハングが不適切でもトラッキングエラーがどういうわけだか小さかったりするかもしれず,トラッキングエラーが大きく出てもどういうわけだか歪みが小さかったりするかもしれません。

 それでもダメなら,それから考えましょう。

 こういう事情もあり,トレース能力の高い楕円針を選ぶ事にしました。本当はクラシックなSPUですので,丸針が欲しかったのですが,丸針でトレース能力が問題なってもあとから交換出来ませんし,丸針ならDL-103もあることだしと,ここは奮発することにしました。

 ということで,あれこれ考えると気が変わるので,もう勢いでポチりました。

 翌日,私の手元には,宝石箱のようなクレイなケースに入った,SPU#1Eが届いたのです。

 いやはや,ここまでとうとう来ました。SPUですよ,SPU。安いとはいえ,新品のSPUです。

 使う人を選び,使うシステムを選ぶ。その音は豊かな中低域を伴い,太く艶やかで,どっしりと構えているのに繊細,しかし派手さはなく,数々の高い壁をわざわざ乗り越える価値があると考えた人だけが持つ事を許される,それがSPUです。

 ロングアームにGシェルのSPUに,どれほど憧れたか。

 それが,手元に来ています。

 SPUのオーナーに,改造だ工夫だは似合いません。最高級のものを手に入れ,ただ音を出しても水準以上,そこからさらに細かくチューニングをし,長い時間でエージングをして,焦らずじっくり,しかし熟成させていくことにこだわりを持ち,豊かな音がこぼれだしてくるのをひたすらに待ち焦がれる,それがSPUとの会話だと,勝手に思っていました。

 私のような,お金のないことを工夫で逃げ切る生活の人は,SPUを持ったらダメなのです。

 SPUのあのごっついシェルが,私の手の中で,そういっています。

 でも,いいんです。そんなSPUを,私が説き伏せてみます。

 まず,なにも工夫も改造もせず,針圧を4gになるようにします。ゼロバランスは無理でしたが,針圧計で4gにすることは出来ました。

 トラッキングエラーを調べてみると,なるほど大きく出ています。これは無視できないレベルでしょう。

 でもかまわず,音を出してみます。

 うーん,トラッキングエラーによる歪みは派手に出ています。

 しかし,澄み切ったMCカートリッジの透明感に,重心の低さと艶やかさがあります。DL-103程の線の細さも,澄んだ空気も感じませんが,MMのような解像度の低さはなく,あくまで音はMCのそれです。

 しかし,針圧の重さからくる安定感と張り出してくる中低域はどうです,SPUを買ったら,V15とDL-103を使い分けることがなくなったという意見を見たことがありますが,まさにその通りです。

 そう,私は,針圧をかけたい人なのです。

 V15でも,針圧をかければ重心が下がり,中低域に艶が出てきます。DL-103も同様です。しかし,これらはもともと軽針圧のカートリッジです。3g以上をかけるわけにはいきません。

 個人的に思うSPUの魅力の1つが,4gという針圧です。軽針圧化を目指して進んで北カートリッジの開発は,標準的な針圧を1.5g程度にする世界をもたらしましたが,SPUは昔のまま,4gとか5gとか,そういう世界のままです。

 レコード盤を傷める可能性は否定しませんが,軽針圧のカートリッジを重い針圧で使うのではなく,重い針圧が適正値として設計されていて,かつそれが長年生き続けているSPUだからこそ,私は大きな顔をして大好きな重針圧を堪能出来るというものです。


 ということで,長くなったので続きは次回。

 とにかく,SPU#1Eは,オーバーハングが不適切で,トラッキングエラーが大きく歪みが出まくっていますが,音の艶やかさ,中低域の太さとMCならでは高解像度に,ロングセラーである理由を垣間見た気がします。

 SPUは言うなれば,人里離れた秘境です。そこに行くには大変な労力が必要で,そこに行きたい,行かねばならないという強い意思がなければ,くじけてしまう厳しさです。

 しかし,秘境にたどり着き,得られたものは,そこを訪れた人にしかわからないものがあります。その味わいは至上のもので,他を選ぶ気が失せてしまいます。

 そして秘境は秘境らしく,長い時間,変わることなく,秘境を目指す変わり者を,じっと待ち続けているのです。

  オーディオを知る人なら,誰でも知っているSPU。しかし,SPUを使っている人は多くはなく,SPUの素晴らしさは知っている人達の間だけで語られる。SPUを聴かずに死ぬ人も多く,しかしSPUを聴くにはどうすればいいのか見当も付かない・・・まさに秘境です。

日本にはJICOがある

  • 2019/04/16 14:04
  • カテゴリー:散財

 前回,イコライザアンプの大改修について書きました。直接のきっかけはDL-103で録音をしようと思ったからなのですが,根本的なところで,私がまたアナログレコードを聴いて楽しいと思った理由が,V15typeIVを手に入れたことにありました。

 何でも書いているように,これは針なしのものを偶然落札できたものだったのですが,壊れている可能性も考えるといきなり高価な針を買うのも恐ろしく,互換性のあるとされるtypeIIIの安い針で動作の確認をしたところ,思いのほかいい音がしたという話でした。

 いい音がするとは言え,ささやかな経験から,カートリッジの音は針で決まると思っている私は,見るからに太く野暮ったいカンチレバーにごつい接合針が付いているこの安物互換針ではV15typeIVの本当の音は出てくるべくもなく,純正針の入手が次のテーマになってしまいました。

 とはいえ,純正針はもう入手が出来ません。中古品を探す方法もありますが,消耗品を中古で買うというのは難易度が極めて高いですし,それにこの時代のシュアのカートリッジは,ダンパーの固化という持病があるので,純正針の入手は非現実なのです。

 ならば互換針となりますが,V15シリーズで高品質の互換針といえば,もうJICOのSASしかありません。

 職人芸にこだわった日本製で,ただ音が出るという話ではなく,音質に配慮した針を独自の創意工夫で製造し,しかもそれが十分にリーズナブルという,とてもありがたいメーカーがJICOです。

 「シュアはカートリッジをやめたが,日本にはJICOがある」とまでいわれるほどの存在感で,国内はもとより,広く海外にも多くの顧客がいるとの話です。

 すでに私のV15typeIVはちゃんと動く事がわかっているので,JICOの針を買えば,きっと幸せになれるでしょう。しかし,安いものでも15000円です。もし好みの音でなかったらどうするか・・・心配ではありましたが,今こそJICOを使うチャンスだと,SASのボロンタイプを注文してみました。

 そうそう,ついでにいうと私は,悪名高いダイナミックスタビライザーと名付けられた,あの黒いブラシが大好きで,他のシュアのカートリッジでも常用しています。

 音質に影響を与えるといわれて,マニアほど使わない傾向があるように思いますが,レコードの反りによる上下運動にきれいに追随することが出来る上,静電気の除去,溝に入り込んだホコリを掻き出すなどのメリットもあり,私はずっと気に入って使っています。

 typeIVはV15シリーズで初めて,このダイナミックスタビライザーを装備したカートリッジになるのですが,typeIIIの針には当然こんなものはついていません。typeIVを完全な状態で使いたいというのであれば,ダイナミックスタビライザーもちゃんと使えないといけないのです。


 さて,10日ほどかかりましたが,無事に届きました。amazonやヨドバシになれていると,この10日が長く感じて大変です。

 届いた針は,想像を超える精密さです。本当にまち針くらいの太さしかないカンチレバーに,緻密に加工された特殊形状のSAS針は取り付けられています。

 頼もしいのは,捺印のある検査証です。この個体をきちんと確かめてくれていると言うのですから,ありがたいです。

 この,緻密な針に対して,チャチなのはダイナミックスタビライザーを含むプラスチックの成形品です。

 特にダイナミックスタビライザーは,あのヌルヌルと抵抗をもって上下に動く仕組みが今ひとつで,途中で引っかかって動かなくなります。

 どうも,このダイナミックスタビライザーを「どうせ使わないだろうし」と軽視しているように思うのですが,私のような人もいるのですから,やはりちゃんと作って欲しいし,出来ないなら出来ないと書いておいて欲しいものです。

 別に動きが悪いくらいいいじゃないかという話もあるんでしょうが,ダイナミックスタビライザーを使う時には針圧を0.5g増やすことになっています。もし,ダイナミックスタビライザーが動かなくなってしまうと,針圧が0.5gも増えた状態になるのです。

 同じような互換針で,ME97用を持っていることを思い出し,これのダイナミックスタビライザーがどうなっているかを見てみたところ,やはりちゃんと動いています。こういう不良は,高価なものだけにいやになってきます。

 少しピンセットで曲げて,動くようにしてみたのですが,それでも完璧とは言えません。

 私は,シュアの高級カートリッジというのは,このダイナミックスタビライザーも他社が真似できない開発成果だと考えていて,上下の運動を適度にダンピングし,静電気もホコリも除去するという巧みな仕組みを,音質やレコード盤に影響を与えないで実現することはとても難しいものと想像しています。

 そしてこのダイナミックスタビライザーは,本体ではなく交換針に付いているために,純正と同じ機能を持つ交換針をシュア以外が作る事は不可能であると考えています。

 しかし,JICOについては,JICO自身もそうしたことを一言も言っていませんし,悪い評判を耳にしません。むしろ絶賛ばかりです。

 期待したのですが,やはりダメだったようです。初期不良で交換をお願いしようかと思いましたが,音そのものは大変良かったので,交換することはやめることにしました。

 で,その音ですが,これは確かに良い音がします。高域も良く出てきますし,低域の膨らみもなく,伸びやかです。

 内周でも全くと言っていいほど歪まず,大振幅も楽々こなします。SAS針のトレース能力の高さは強烈です。

 しかし,V15ってこんな音でしたっけ?もっと骨太で,もっとしっかりとした重心の低い音ではなかったですか?

 JICOの針は綺麗で伸びやかな音がでます。しかし重心は高くなって,オーディオテクニカのカートリッジみたいな高性能っぷりです。

 うーん,V15typeIVをまだ扱い切れていないのかもしれません。少なくともV15typeVxMRの方はボーカリストが目の前にいるような立体感のある音を出しています。typeIVにはそこまでのリアリティがないのです。

 以前も書きましたが,M97xEにV15typeVxMRの針を取り付けるとV15typeVxMRの音になりました。V15typeVxMRにM97xEの針を取り付けると,M97xEの音になりました。

 発電機構よりも,カンチレバーとスタイラスチップが音質に影響を与えるんだという経験則ですが,JICOの針は良くも悪くも,日本の超高性能な針です。そしてV15の音とは違う音を出すのだろうと思います。

 とはいえ,V15らしい立体感や中低域の豊かさは健在ですし,その意味では他のMMが霞んで見えるくらいの精緻な音であることは間違いありません。これはこれで,高評価なのは理解出来ます。

 でもなあ,この音が欲しいなら,オーディオテクニカでいいんじゃないの?

 当時の新品の店頭価格くらいで,V15typeIVを新品に近いコンディションで手に入れたことになった今回の顛末ですが,なんだかんだで結局,V15typeVxMRとDL-103の出番ばかりになってしまうような気もしなくはないです。

 

 

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