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ハンドセットの増設と充電台の改造

 先日,固定電話を買い換えたという話を書きました。xxxがyyyしてzzzだったりするので詳しいことはちょっと差し控えたいのですが,後日談です。

 本格的な運用に入ってみると,これがなかなか便利でして,親機と子機という訳のわからん区別ではなく,ベースステーションにワイアレスのハンドセットという携帯電話のようなシステムは,どの電話機を使っても機動性が損なわれることなく,また電話機によって機能差があったり使い方が違ったりするという問題もありません。たいへん合理的です。

 そして,インターコム(内線ですね)がまた便利です。フロアが分かれているときには手軽に連絡が付く手段として我が家では定着しつつあります。

 今は2階の家に住んでいますが,近々引っ越しをする新しい家は3階建てですので,2つしかハンドセットがない今のシステムをどうやって設置するかが問題です。

 外線は1階に来ます。リビングは2階,寝室は3階に来ますので,ベースステーションを1階に置き,ハンドセットを2階と3階に置くというのは結構自然だと思うのですが,悪いことにベースステーションが充電台を兼ねていますので,残念ながらベースステーションだけ単独で設置するわけにはいきません。

 最初からハンドセットが3つのシステムを買っておけばよかったのですが,使い物になるかどうか半信半疑でしたし,3台のシステムは2台のシステムよりも割高なので,まあ2台で試してから考えようと思ったのです。

 そもそも1階にもハンドセットがあった方が便利ですし,追加でハンドセットを買い増しすることにしました。

 しかし,悪いことに簡単には手に入らないんですね。

 そこで,同じハンドセットを同梱する,ベースステーション付きのセットを買ってみようと言うことになりました。ハンドセットが1台だけのセットなら,そんなに高価ではありません。

 ただ,ベースステーションとのセットで販売されているハンドセットが,別のベースステーションに登録出来るのかという問題はあります。しかも,全く同じハンドセットを買うことが出来ず,下位機種の留守番電話機能なしのモデルしか買えませんでしたから,これはかなりのバクチです。

 まあ,3600円だし,面白そうだから試してみました。


・異なるベースステーションに登録出来るか

 結論から言うと可能でした。

 ベースステーションのシステムはL702M,今回買ったのはL601Mです。L70xとL60xとの違いは,留守番電話の有無です。

 留守番電話はベースステーションの機能ですので,ハンドセットは一見すると同じに見えるのですが,その留守番電話を操作するためのキーに,印刷があるかないかが見た目の違いです。

 実は,追加用の別売りハンドセットは,L70xとL60xで共通のL7という製品です。つまり,L7を買えば留守番電話のないL60xでも使えるわけです。ということは,L70xのハンドセットはL60xでもつかえると推測されます。

 問題は逆が可能かどうかです。印刷の違いだけで中身が同じであれば,L70xのベースステーションにL60xのハンドセットを登録することは可能でしょう。ですが,下位機種のハンドセットが登録出来るとなにかと不都合もあるだろうし,あえて登録出来ないようにしてあるかも知れません。

 届いてから試したところ,うまくL70xのベースステーションにL601Mの'ハンドセットを登録することが出来ました。ちゃんと電話もかかります。

 DECTという規格は汎用の規格ですので,メーカーや機種が違っても同じ仕様に従っています。異なる携帯電話メーカーの電話が同じように使えるのと同じ話ですが,話はベースステーションとセット販売されるコードレス電話ですから,特定の相手しか登録出来ないようになっている可能性は大いにありました。

 しかし,少なくとも今回のケースでは大丈夫でした。

 
・機能制限はあるか

 L601は留守番電話のない下位機種です。留守番電話の機能そのものはベースステーションにありますが,操作はそれぞれのハンドセットから行います。ですから,ハンドセットには留守番電話の操作という機能が求められるのです。

 L702Mの留守番電話の操作には2つの方法があります。1つはメニューから留守番電話機能を呼び出して操作する方法,もう1つは左上のボタンにあるショートカットを使って直接機能を呼び出す方法です。

 試したところ,前者はメニューに現れず,選ぶ事が出来ませんでした。フタをされてしまっていますね。

 そこで後者を試したところ,左上のボタンを押した瞬間にメッセージの件数を知らせる音声が流れ,留守番電話の操作メニューが表れました。

 そこからは,テンキーに割り当てられた操作も受け付けるようになり,留守番電話機能のすべてにアクセス出来るようになりました。

 つまりこの操作にはフタはされていないことになるのですが,ひょっとするとフタをすることが出来なかったのかも知れません。

 つまり,ショートカットでの機能呼び出しは,キーが押されたことをベースステーションに伝えるだけがハンドセットの仕事で,そこから先は決まった手順でベースステーションとハンドセットがやりとりをするという仕組みなのかも知れないです。

 メニューなら,メニューに出てこないようにフタをするのは簡単です。ショートカットボタンの処理がハンドセット側で行われているなら,ここにもフタをするだけですので,話は簡単だったはずです。

 しかし,そうなっていないところを見ると,ハンドセットではボタンを押したことをベースステーションに送るだけの機能しかしていないんじゃないかと思うのです。ボタンを押したことを伝えないようにフタをすると,他の機能にも影響が出ますので,それは出来ません。

 ベースステーションからの返事がハンドセットから届くときに,ハンドセット側で無視するような修正は可能でしょうが,それは新機能の追加になるくらい面倒な修正でしょう。それなら放置が一番楽です。

 つまり,メニューからの留守番電話機能へのアクセスが出来ないのは,入り口がふさがれているだけで,機能そのものが消されていたわけではなかったということです。

 留守番電話機能のキーへの印刷がありませんので,慣れていないと使いにくい物になるかもわかりませんが,ショートカットで留守番電話機能に入ってしまえば,あとはメニューに従うだけですから,なんということはないでしょう。むしろキーがスッキリとして,見やすくなり,格好良くなっていることの方がメリットがあるかも知れません。


・充電はどうする?

 登録がうまくいった場合に,ちょっと考えないといけないなあと思っていたのは,この問題でした。

 一番簡単なのは,追加のハンドセットに付いてきたベースステーションをそのまま使う事です。もちろん外線には接続しません。

 しかしこの方法は2つの懸念点があります。1つは,ベースステーション機能を殺しているわけではないので,電波が出続けている可能性があるということ,もう1つはベースステーション機能が動いていることで消費電力が大きいこと,です。

 この問題を根本的に解決するには,ベースステーションを改造し,単なる充電スタンドにすることです。

 そこで,ベースステーションを分解し,中の基板を取り出しました。

 そして6Vのスイッチング型のACアダプタを用意し,これに合うジャックをベースステーションの穴に接着剤で貼り付けます。

 充電の接点との間を配線して完成です。

 ただ,充電端子にどんな電圧が出ているかわかりませんので,L702Mのベースステーションと充電台それぞれの電圧を測ってみます。ベースステーションは6.8V,充電台は7.9Vほど出ています。これだったら6Vに安定化されたACアダプタを直結しても大丈夫だと,考えました。(これが間違いだったのですが)

 改造したベースステーションに電話を置くと,ちゃんと充電を開始します。しかし1時間ほどで充電が完了しています。随分早いです。

 消費電力は,AC100V側で0.2Wほど。無改造のベースステーションでは2Wくらいでしたから,ヒトケタ違います。よしよし,これでok。

 ・・・と思って数日後にハンドセットを手に取ると,ほんのり暖かいのです。まあこういうことは別に珍しいことではないので気にしないでいたのですが,問題なのは電池そのものが暖かかったことです。

 気になって他のハンドセットを確かめると,冷たいままです。

 おかしい。

 この時,L702Mに付属の充電台を分解したときのことを思い出しました。なにやら大きめの抵抗(47Ω)が入っていたのです。

 なるほど,これが電流制限抵抗か。

 そこで,電圧を無負荷で測るだけではなく,負荷を入れた時の電圧も測定してみました。予想通り,大きく電圧がドロップします。直列に大きめの抵抗が入っている証拠です。

 まてよ,この抵抗は,もしかするとトリクル充電の為の抵抗なんじゃないのか。

 そう考えて計算すると,やはりその通りのようです。ざっと20mAから30mAくらいの電流が流れます。トリクル充電は,電池の容量の1/20から1/30の電流を常時流しますので,まさにぴったりの数字です。

 私は,ハンドセット側に充電回路が入っている物だと思い込んでいましたが,トリクル充電しかしないなら,抵抗1本で済んでしまうのですね。それならベースステーションなり充電台に入れた方がよいですよね。

 今度はベースステーションも測定します。無負荷で6.79V,1kΩの負荷で6.00Vまで下がりました。この結果,等価的に見える内部抵抗は131Ωとなります。

 私はここでかなり焦っていました。トリクル充電の抵抗を入れず,電池に直接ACアダプタの出力(しかも6Vに安定化されている)を繋いでいたかも知れないのです。電池があっという間に過充電になり,もしかすると安全性も損なっているかも知れません。

 そこで,ACアダプタと充電端子の間に100Ω2Wの抵抗を入れることにしました。47Ωでもよいのですが,手持ちに適当な物がなかったことと,充電電流が少ない方が安全だという考え方からです。

 これで試してみると,30mA程でトリクル充電されることがわかりました。仮に電池の容量が700mAhなら1/20以下ですので,大丈夫でしょう。

 今のところ,これで満充電にもなりますし,おかしな発熱もありません。やれやれです。

 後日,他社製のコードレス電話の回路図を見てみると,やっぱり私の推測は当たっており,トリクル充電を抵抗1つでやっていました。充電回路であるこの抵抗はハンドセット側にはなく,充電台側に仕込まれていました。いやはや,危ないところです。


 そんなわけで,これでようやく3台体制になりました。今どき固定電話に手間とお金をかけるなんてどうかしてるなあと思いつつ,やはり携帯電話とは違う面白さがあるものです。昭和生まれはこれだからなあと,自分の年寄りっぷりに,苦笑いが出てしまいます。やれやれ。

埋もれたHDCDでハイレゾ音源を入手

 ハイレゾ音源がにわかに脚光を浴びています。SACDの基盤技術として生まれたDSDも配信ですっかりメジャーな存在になりましたし,かつては雲の上の存在だった24bit/192kHzのPCMでさえも楽しめるようになってきました。再生環境もPCを使うか,一部のハイエンド機器しかなかった時代を経て,今はネットワークプレイヤーを使えば3万円ほどで楽しめます。

 良い時代になったものです。

 私もN-30というネットワークプレイヤーや,SACDでCDを越える情報量の音楽を楽しむ人間ではありますが,いかんせんハイレゾののソースを確保するのがなかなか面倒です。SACDはリッピングできませんし,DVD-Audioはすでに死んでいます。

 そうすると配信に頼るほかなくなりますが,なかなか高価ですし,一気に揃えるのは難しいです。

 まあ仕方がないなあと思っていたのですが,ある時「HDCD」という4文字を見て,突然記憶が蘇りました。

 そう,前世紀の遺物ゆえ,すっかり忘れてた,あのHDCDです。

 HDCDは日本国内ではマイナーな規格に終わりましたので知らない人が大多数かと思いますが,これ,アメリカで生まれた高音質フォーマットです。

 CDと完全な互換性を有しており,従来のプレイヤーで再生可能,しかしHDCDに対応したシステムで再生すれば,20bitに拡張されるんです。

 対応機器は1990年代後半から2000年代にかけて様々なメーカーからリリースされていて,アメリカやヨーロッパのメーカーだけではなく,日本のメーカーにも対応機種がいくつか発売されていました。

 「ほーすごいなそいつは」と感心する事なかれ。

 大体,16bitのCDに,余計に4bit追加して20bitの情報を詰め込むような錬金術や永久機関などどう考えても不可能です。だから,HDCDというのは冷静な目で見る必要があります。

 Wikipediaを見ても,どうも読みにくくてスッキリしません。そこで,私の知っている範囲で簡単にHDCDのことをまとめておこうと思います。正確な表現をすると難しくなるので,簡単な言葉で直感的にわかるような説明をしますので,厳密には正しくないことを書くかも知れません。ご了承下さい。


・そもそもHDCDってなんだ?

 HDCDは「High Definition Compatible Digital」略です。最後のCDがCompact Discでないことに注目して下さい。つまり,CDのハイレゾというわけではなく,デジタルの音楽そのものを,互換性を維持して高精細化するという,まあ夢のような嘘のような話です。

 実際にはDATにもMDにも適用可能なんだそうですが,そういう例を私は知りません。ですので,ここでは「CDと完全互換ハイレゾCD」という意味ぐらいに考えておいて下さい。面倒ですから。


・HDCDの特徴って?

 HDCDは,従来のCDと完全な互換性を維持しつつ,20bitに相当する情報を詰め込んだものです。HDCD対応のプレイヤーで再生すれば20bitで再生されますが,非対応のプレイヤーでもちゃんと16bitで再生されます。極端に劣化したり,再生出来なくなったりするようなことはありません。


・どうやって20bitを16bitに詰め込むの?そんなこと出来るの?

 例えば,ソニーのSuperBitmappingという技術があります。これはノイズシェーピングという手品を使って,低域のノイズを高域に移動させるものです。

 20bitでA/D変換された音を16bitに丸めてしまうと,本当なら録音されていた小さな音がノイズにうもれて再生出来なくなってしまいます。そこで,低域のノイズを減らし,20bitで記録出来ていた小さな音が埋もれないようにするわけです。

 ノイズを減らすとS/Nが上がり,ビット数を増やしたのと同じことになります。20bitでA/D変換した情報が無駄にならないわけですね。

 とはいえ,CDは16bitしかない箱ですから,20bit相当の情報をそのまま入れるわけにはいきません。そこで,ノイズシェーピングによって低域のノイズをノイズが耳に付きにくい高域に移動させ,全体の箱の大きさを変えずに,耳に付きやすい部分のS/Nを改善しようというのが,SuperBitMappingです。

 なんだか騙されたような気分になるのは無理もありません。私だって騙しているような気分ですが,まあ難しい数学の話はちょっと置いておいて,そういうことが出来るんだと思って,納得して下さい。

 HDCDは,これと同じような事をやっています。聴感上目立たない高域にノイズを持って行き,低域のノイズを減らすという点ではSuperBitMappinngと同じなのですが,それを実現する方法がノイズシェーピングではなく,ディザという方法になっています。

 ディザというのは「震える」という言葉を語源に持つ処理なのですが,わかりやすいのは白か黒しか印刷出来ない場合に,点描によって中間のグレーを表現するという例えでしょう。この点描のことをディザといいます。ディザを使えば,離れてみたときに白と黒が混じってグレーに見えてくれます。

 しかし,近づけば白と黒がはっきり点々になって見えてきます。それに,細い線などは完全に潰れてしまうでしょうね。

 白と黒しか表現出来ないということは,つまり1bitです。1bitしかないのですから,中間のグレーは本来なら表現出来ません。しかしディザを行うとグレーが表現出来ます。1bitの器しかないのに,それ以上の情報を埋め込む事が出来ていますよね。

 その代わり,近づけば白と黒がブツブツと見えてきますし,細い線は潰れてしまい,表現することが出来なくなります。細い線,つまり白と黒の繰り返しの回数が多いものは表現出来なくなるわけですが,繰り返し回数が多いということを「周波数」と置き換えて考えると,低い周波数は1bit以上の情報量を持つ一方で,高い周波数は情報量を減らしているわけです。

 これが,ディザによる,低域から高域へのノイズの移動です。近づくというのは人間の目の周波数特性を高域に拡大する事で,その時に見える白と黒のブツブツは,つまりノイズと置き換えてよいでしょう。

 ノイズシェーピングは,高域に行けば行くほどノイズが増えるという特性を持っていますが,ディザの場合には最終的に高域にノイズを押しやることになっても,低域や中域のノイズの量を一定にすることが出来ます。

 HDCDでは,高い周波数の成分を元の信号に加算することでディザを行って,16kHzまでのノイズの量を一定に保つことで,聴感上不自然にならないようにしています。

 このように,HDCDでは,20bitでA/D変換した音を,ディザによって16bitの器に押し込んでいます。人間の耳には目立たない16kHz以上のノイズは増えていますが,その代わり16kHz以下のノイズは均等に減っていますので,効果が大きいというわけです。

 これで分かるように,HDCDはエンコードの時に仕込む物で,再生時には特別な仕組みが入りません。ですから,HDCDは普通のCDプレイヤーで再生しても高音質だということになりますね。


・んじゃ結局16bitなんじゃないの?

 その通りです。16bitの器に,捨てていた20bit相当の情報を詰め込んだだけですので,全体の情報量は16bitのままです。それに,20bit相当の情報を入れても,再生時のD/Aコンバータが16bitだったりしたら,ここでノイズがばーっと発生してしまいますので,無意味になります。

 つまり,デジタルフィルタによって20bitになった信号を,20bitのD/Aコンバータで変換して初めて,その恩恵を受けることが出来るわけです。ただし,この時も特別な処理が必要な訳ではありません。


・でも20bitになるという話もあるんじゃ?

 そうそう,そうなんです。HDCDにはオプション規格があり,本当に20bitのデジタルデータを作る事が出来るんです。16bitの器から20bitのデータが出てくるなんて,なんだか嘘のような話ですが,これは一種の圧縮によるものです。このオプションを,ピークエクステンションといいます。


・ピークエクステンションとは?

 HDCDのうまみは,このピークエクステンションにあると思います。

 例えば,CDの16bitの器に入りきらないような音量差を録音しないといけないとします。この時,一番大きな音に合わせて録音するので,小さい音はノイズに埋もれて録音されなくなります。

 けど,1時間の録音のうち,大きな音が出るのはほんの一瞬で,ほとんどの時間は16bitの器で十分取り込めるような場合,この大きな音の為に他を犠牲にするのはあまりに惜しいですよね。

 同じ事は,デジタル録音が生まれる前,テープレコーダで録音していた時代にもありました。しかし,デジタルではある最大値を超えると急激に歪むのに対し,アナログでは大きくなるに従って徐々に歪みが増えるような特性になっていました。

 だから,アナログの場合には,急激に大きな音が入ってきても,そんなに大きく歪みません。アナログ録音の時には,多少オーバーになっても,普段の音量を重視して,大きめの音で録音することができたのです。

 HDCDではこの仕組みを再現しようとしました。音が小さいときはそのまま比例関係でA/D変換しますが,音が大きくなると,比例関係をわざと崩し,A/D変換の時に音が10増えてもA/D変換は5しか増えないというような,一種のコンプレッサをはさんだのです。

 こうすると,大きな音が実際よりも小さい音になってしまいますが,その代わり大部分の時間を占める小さな音がちゃんと記録出来るようになります。自然界の音は,16bitくらいではどうせ取り込めません。だから切り捨てるか,曲げて押し込むか,どちらかしか方法はありません。

 つまり,HDCDでは曲げて押し込む事を選んだのですが,ここではっと気が付くことがあります。もしもHDCDであることを判別できるなら,HDCDの時には,その曲げた部分を逆の規則によってまっすぐに伸ばして元通りにしてやればいいんじゃないでしょうか。

 これがピークエクステンションです。

 HDCD対応のデコーダーは,HDCDであることを判別し,かつピークエクステンションが有効であることが分かった場合に,ノンリニアPCM部分をテーブルから伸張し,20bitのデータに戻します。

 ノンリニアの部分を演算でリニアに戻すわけですから,当然情報の欠落はあります。ピュアな20bitではないのですが,それでも小さい音から大きい音まで,全部取り込む事の出来るメリットはとても大きいと思います。

 Wikipediaによると,ピークエクステンションはオプションであり,これが使われている例は少ないとありますが,実は私の手もとには結構な割合で使われているディスクがあります。HDCDの存在意義はここにあると私が思うゆえんです。

 ただし,注意があります。

 もともと16bitだったものを,ピークに合わせて20bitにしたのですから,全体の音量は下がってします。4bitも追加されますから,音量は24dBも下がるんですね。

 そこで,HDCDでは,20bitになった状態を基準におき,16bitの場合にはこれと同じ音量になるよう,16bitの時の出力を小さくすることを求めています。でも,なんだかバカバカしいなあと思うのは,出力を小さくすると,今度はアナログのステージでノイズに埋もれてしまうかも知れませんよね。アナログ部の設計がなかなか高度になってしまいます。


・他のオプションはないの?

 あります。ローレベルエクステンドがそれです。これはピークエクステンションの逆で,レベルが低い時間が続く場合に,その部分の音量をブーストして記録し,再生時に元に戻して再生するものです。

 しかし,このオプションが使われているディスクはかなり少ないと思います。実際に,私の手もとには1枚もありませんでした。

 技術的にも,レベルが低い時間がどのくらい続けばいいのか,急に大きな音が来たときはどうなのか,エンコード時のブーストと真逆の変化が,本当にデコード時に実現出来るのかなど,ちょっと疑問なところがあります。


・HDCDを判別する仕組みは?

 従来のCDとの互換性を維持するために,なかなか巧妙な方法を取っています。CDのフォーマットをいじる訳にはいきませんので,そこに書き込まれるデータに細工をして,判別しています。

 音が変わってしまわないように,比較的長い間隔をおいて,判別する信号を入れてあるというのが1つ目の工夫です。

 2つ目の工夫は,16bitのデータのうち,LSBの1bitだけ,ディザの信号を重ねるというものです。その信号の揺れ方がHDCDだと判別できるような規則に従っていて,まるで隠しコードを埋め込んだように見えます。

 このように,ディザのかけ方をある規則に従って行うことで,HDCDかどうか,あるいは各種オプションが使われているかを判断出来るようになっています。確かにこれだと,従来のCDとの互換性を維持することが出来ますし,音質の劣化も最小に出来ますね。


・どこにもHDCDと書いてないけど,実はHDCDだった?

 HDCDのエンコーダを通せばHDCDの判別信号が埋め込まれます。だから,スタジオに設置されているHDCDエンコーダの存在を意識しないで,いつのまにやらHDCDになっているものもあるんじゃないか,という意見があるようです。

 HDCDをうたうのに,特にライセンス料が発生したり面倒臭い手続きがあるわけではありません。だから,「知らないうちにHDCDになってた」という話は本当の話じゃないかと思います。

 こういう場合,問題となるのはHDCDにふさわしいデータになっているのかどうかです。

 極端な話,マスターが16bitだったらHDCDにする意味はありません。HDCDデコーダを通して20bitになっても,その中身は16bitです。

 また,マスターが20bitや24bitであっても,A/DコンバータがΔΣ型だったら,ちょっと面倒です。

 先に,HDCDはディザによって16kHzまでのノイズを均等に下げると言いましたが,これは均等に量子化ノイズを含むマルチビット型のA/Dコンバータが疲れている場合にのみ,意味があります。

 ΔΣ型はノイズシェーピングを使ったA/Dコンバータですから,すでに高域になるに従ってノイズが増えた状態のデータを吐き出します。そんなデータで均等になるようにディザをかけても,意味がありません。

 元のデータがどうやって作られたのかが結構大事で,HDCDではその規定もあります。


・CDと完全互換で20bitならすごいじゃないか。今後も期待したい。

 残念ながら,エンコーダを作っていた会社はすでになく,スタジオで稼働しているエンコーダが壊れてしまったら,もうおしまいです。

 デコーダについても,半導体はすでにディスコンになっていますから新規に採用して製造することは難しいでしょう。

 ソフトウェアデコードなら可能性はあって,PCでHDCDを楽しむ方法はあると思いますが,以前正式に対応し,解説まで丁寧に行っていたマイクロソフトも,最近はHDCD対応を積極的にうたわなくなりました。


・自分のCDがHDCDかどうか見分けるには?

 いろいろ手はあるのですが,私の場合foobar2000というソフトを使いました。HDCDのプラグインをインストールしたfoobar2000には,HDCDかどうかをスキャンする機能が備わります。

 HDCDの判別信号は,CDからのリッピングでも維持されます。さらに面白いのは,可逆圧縮であるflacで圧縮して,ちゃんと維持されることです。

 ですから,flacになっている音楽データをfoobar2000に登録,そしてHDCDスキャンをかけると,HDCDと判別されたファイルがリストアップされます。この時,ピークエクステンションなどのオプションの対応具合も分かるので,大変便利です。


・HDCDのデータを作ってみよう

 HDCDスキャナでHDCDのファイルが抽出できたので,これをハイレゾ音源に変換してみましょう。ツールはDOSコマンドになっているのですが,HDCD.exeを使います。

 HDCD.exeはなかなか使いにくく,ワイルドカードが使えなさそうなので,私の場合バッチファイルを使って一気に処理しました。変換に時間のかかる物もあり,そうかと思うと数十秒で終わるものもあったりで,どうもよくわかりません。

 まず,HDCD.exeに食わせるために,flacをwavに戻します。

 そして,wavファイルをこのコマンドで処理します。そのファイルがHDCDだと判断されれば,Detected HDCDと表示されます。そしてしばらくすると,24bitのwavファイルが出来上がります。

 ここで音を出しても良いですが,私の場合はこれをflacに変換してN-30でならしてみました。

 結果ですが,やはり音量は相当下がっているように思います。24bitのデータに,ほぼ16bitのデータを入れるのですから,8bit分,つまり48dBも小さくなるのですから,当たり前ですね。

 それで,20bitにした音はどうかというと,はっきりって私にはよく分かりませんでした。もともとそれなりに音の良いCDだったので,これが20bitになっても微々たる差だと思うのですが,じっくり聞き込めば違いがわかるようになるかも知れません。

 ここで注意しないといけないのは,ピークエクステンションの有無です。ピークエクステンションが有効であろうとなかろうと,HDCD.exeはDetected HDCDと表示し,24bitのデータを作ります。HDCDに対応していない普通の16bitのファイルでも,HDCD.exeはMSBに8bit分のゼロを追加して,24bitのファイルを作ります。もちろん,音量はそのまま小さくなります。

 ピークエクステンションが有効なHDCDを24bitに変換し,これをflacに圧縮すると,元のflacに比べて大きなファイルが生成されます。しかし,ピークエクステンションが有効ではないファイルを24bitに変換してflacに圧縮すると,HDCDであるにも関わらず元のファイルとほぼ同じ大きさになるのです。

 つまり,ピークエクステンションが有効でないと,元の16bitから意味のあるデータは増加しないということになります。こういう場合,音量が小さくなってしまうという弊害しか出てこない訳で,手間もかかるし作業自身の意味がありません。

 ピークエクステンションが有効な場合には,明らかに意味のあるデータが加わっていることがわかりますから,これは意味があります。結論から言うと,foobar2000のHDCDスキャナでピークエクステンションがかかっているものだけを選び出し,変換すべきだったということです。


 そんなわけで,見慣れたCDラックからお宝を発掘する楽しみと,費用をかけずにハイレゾ音源を増やせるメリットがHDCDにはあります。今後増える事はないでしょうが,当時のCD製作者が,出来るだけいい音で聞いてもらいたい,と言う気持ちを込めたHDCDを,ようやく味わうことが出来たことを素直に喜んでおきたいと思います。

MIDIが変えた世界にグラミー賞

 2月10日の夜のニュースで,ローランドの創業者である梯郁太郎さんが,MIDIの開発への貢献をたたえられ,グラミー賞を受賞したと報じられました。

 昨年2012年はMIDI誕生から30年の節目の年でした。

 昨年末にはローランドの梯郁太郎さんとシーケンシャルサーキットの創業者デイブ・スミスさんの両名がグラミー賞を受賞するというニュースは,関係者の間ではすでに広く知られていましたから,先日のニュースは「そうかそうか授賞式だったんだな,ご本人は出席されなかったのか,残念だな」くらいの話だと思っていたのですが,国内のテレビニュースでの扱いは大きく,個人受賞としては日本人初の快挙,国際的な規格の開発者が日本人だったなどと,わかりやすい形でその功績が紹介されていました。

 思えば私がMIDIを知ったのは1984年のコンピュータ雑誌(電波新聞社のマイコン)でした。MIDIと一緒に歳を食ってきたなんだなあとつくづく思うわけですが,MIDIが他の規格と違って特徴的なのは,その間基本的な仕様が全く変更されず,30年前の機器と現在の機器がちゃんと通信して動作するということでしょう。

 もちろん,USBのようにUSB2.0の機器にUSB1.1の機器はつながって動作します。しかし,MIDIにはバージョンはなく,機器によってメッセージの対応能力に差はあっても,規格上は対等です。それだけ良く出来た規格だったと言えるのでしょう。

 ということで,MIDIの誕生のお話を,ローランドの貢献を中心に少しまとめてみたいと思います。

 1970年代に登場した音楽用のシンセサイザーは当然アナログ式でした。VCO,VCF,VCA,LFO,EGなどがそれぞれの機器として独立していて,それらをパッチコード繋いでいくというモジュラー式のシンセサイザーが多く存在した時期でしたが,特筆すべきは減算方式のシンセサイザーの生みの親であるモーグ博士が,それぞれのモジュール間でのインターフェースを「電圧」で行う仕組みを徹底したことでした。

 これによって,モジュールの出力を別のモジュールの入力に入れて制御するなどの柔軟性が生まれ,シンセサイザーは大きな表現力と可能性を手に入れる事になります。

 余談ですが,ミニモーグなどのステージ用シンセサイザーは,このモジュール間接続が固定されていて自由度に乏しいと見なされていました。またモジュールを縦横に並べ,その交点をON/OFFすることでややこしいモジュール間接続を行おうとしたのが,マトリックスモジュレーションです。

 音程を指定する鍵盤との接続インターフェースも電圧で行われ,鍵盤からはその音程に応じた電圧が出力されるわけですが,鍵盤の代わりに自動的に電圧を決まった時間で出力する装置を取り付ければ自動演奏も可能になります。

 8個や16個程度のボリュームを一定の間隔で切り替えるだけの簡単なシーケンサーに始まり,やがて当時普及を始めたマイクロコンピュータを搭載して,何千もの音を記録出来るMC-8やMC-4が登場して,「テクノポップ」のブームを技術的に支えたのでした。

 ですが,この電圧による制御というのは,なかなか面倒なのです。まず,1Vあたりどれだけ音程が変化するのかという取り決めに2種類ありました。Hz/VとOct/Vの2種類です。

 Hz/Vは電圧と周波数が比例,Oct/Vはオクターブと電圧が比例します。モーグやローランドはOct/Vを,ヤマハやコルグはHz/Vを採用していましたが,使い勝手の良さはOct/V,安定性と回路の簡略化や低コスト化はHz/Vに分がありました。

 このように,単純な電圧のやりとりにも関わらずメーカー間での互換性はありませんでしたし,それ以前にポリフォニックシンセはこの方法では制御できません。かの名機Prophet5でも,CV/GATE入力はVoice5のモジュールのみにつながっている,モノフォニック専用のインターフェースでした。

 和音が演奏出来るポリフォニックシンセには,和音分だけのモノシンセと,それぞれに割り当てを行う為のマイクロコンピュータが必要だったわけで,それは世界初のポリフォニックシンセであるProphet5であっても,Jupiter8であっても同じです。

 ポリフォニックシンセは,鍵盤のうち,どのキーが同時に押さえられたかをマイクロコンピュータがスキャンし,内蔵された複数台のモノシンセを割り当てていきます。モーグのPolyMoogやコルグのPS3100のような,キーの数だけモノシンセを用意するという方法はマイクロコンピュータを使わないならやむを得ませんが,現代の視点で見るとあまりに無謀な解決策です。

 では,このマイクロコンピュータから信号を出し,他のポリフォニックシンセのマイクロコンピュータに入力してやれば,シンセサイザー同士が接続出来ることになりますね。なにせ,どの鍵盤を押さえられたかを知っているのはマイクロコンピュータですし,それをどこに割り当てたかもマイクロコンピュータが決めているのですから。

 少なくとも,マイクロコンピュータに与える情報は,どのキーが押されたのかという情報だけで済みそうです。この情報を,ある仕組みに従って送受信する仕組みがあれば,ポリフォニックシンセを「発音情報」だけで操ることが出来そうです。

 こうして,内蔵されたマイクロコンピュータを使って,シンセサイザーが通信を行う考え方は,比較的早くに登場していたようです。しかし,当時のアメリカのシンセサイザーメーカーは大型化を志向しており,同時に出せる音の数にせよ,反応速度にせよ,高いものを望んでいました。その結果,インターフェースにはパラレル方式が望ましいとされていたのです。

 一方,まだまだ零細企業だったローランドは,ステージで利用出来る小型のシンセサイザーを主軸に置き始めていました。そこに求められるのは信頼性と簡便性です。そこでローランドは,マイクロコンピュータを使った通信方式に,シリアル方式を開発します。

 DCBと呼ばれたこのインターフェースは,14ピンのアンフェノールコネクタに,i8251というUARTの信号をそのまま引っ張り出し,5VのTTLレベルで送信と受信を31.25kbpsで行うデジタルインターフェースで,1982年にJuno60とJupiter8に搭載しました。

 DCBによって,ポリフォニックシンセは初めて他のシンセサイザーとつながって,制御し,制御されるようになったのでした。

 ただし,DCBには欠点もありました。まず,14ピンのアンフェノールコネクタは大きく,高価でした。また,通信の方式も5VのTTLレベルでしたからノイズに弱く,異なる機器でグランドを繋ぐ必要があったためにグランドループが出来上がり,これがノイズを発生させて動作が不安定になったりしました。それにケーブルも長くは出来なかったのです。

 そこでローランドはDCBの欠点を改良します。まずコネクタには,ヨーロッパで標準的に使われていたDINコネクタを採用します。この時,送信と受信が1つのコネクタに揃って出ている必要はないという判断から,入力と出力をそれぞれ別のコネクタに分けることにします。

 次に通信の方法は,5VのTTLレベルではなく,フォトカプラによって絶縁されたカレントループで行う事にしました。電圧の高い低いではなく,電流が流れたか流れないかで判断するこの仕組みは,ケーブルが長くなったりノイズが乗ったりしても信号に与える影響は小さく,また接続した機器がフォトカプラで電気的に絶縁されたことで,グランドループも影響することがなくなり,高い信頼性と優れた使い勝手が実現しました。

 こうして,次世代DCBがローランドによって開発されているなか,シンセサイザーのインターフェースを統一しようという動きが出てきます。前述のように,アメリカのシンセサイザーメーカーは大型化を目指していて,処理能力のあるパラレル式が有望とされていました。

 一方,いち早くマイクロコンピュータを内蔵してシンセサイザーをポリフォニック化したシーケンシャルサーキットは,ローランド同じステージで使用される小型モデルを主力としていました。

 シーケンシャルサーキットも,電話用のモジュラージャックを流用たマイクロコンピュータ同士の通信手段を開発していましたが,グランドが共通の電圧インターフェースであるなど欠点も多く,同じような思想で開発を行っていたローランドは,次世代DCBをシーケンシャルサーキットに紹介するのです。

 当時,せっかく開発した技術を他社に公開するなど危険すぎると,ローランド社内には当然反対意見も多かったそうです。しかし,こうした通信規格は広く公開して多くの機器がつながるべきだという梯郁太郎さんの考えで,公開されました。

 これを受け,シーケンシャルサーキットは次世代DCBの採用を決定,そしてヤマハ,カワイ,コルグ,オーバーハイムを加えた6社によって1981年,ついにMIDIとして発表されます。

 以後,ローランドを中心に開発が進み,1982年10月に仕様が公開されます。そして記念すべき1983年1月のNAMMショーで,シーケンシャルサーキットのMIDI対応1号機であるProphet600と,ローランドのMIDI対応第1号機であるJX-3P(実際にはJupter6の可能性が高い)との接続デモが公開されたのです。異なるメーカーのポリフォニックシンセが細いケーブルで繋がり完全に操作できることは,その後の音楽制作のスタイルを劇的に変えていくことになります。

 そして30年が経過し,MIDIは現在においても標準的な楽器間接続インターフェースであり続けています。これまでに機能の拡張もありましたが,発音情報を実時間でやりとりするという楽器接続の基本的な機能にはほとんど変更はなく,現在に至っています。

 1990年前後には,MIDI2の噂も流れていました。当時を思い出すと,コネクタをMiniDINコネクタという小型の物にするとか,MIDIの最大の欠点と言われた転送レートの遅さか来る発音タイミングの遅れを改善する高ビットレート化,さらに長い距離で通信が可能なるように長いケーブルを使えるようにするなどの話が出ていたように思うのですが,結局MIDIは当時のままです。

 こうして,MIDIは日本のローランドとアメリカのシーケンシャルサーキットが旗を振り,シンセサイザーの標準的な接続インターフェースとして広く普及することになりました。MIDIのベンダーIDのトップはシーケンシャルサーキットで,ローランドは日本のベンダーIDの2番目に定義されています。(1番目はカワイです)

 この貢献に対し,ローランドの梯郁太郎さんと,シーケンシャルサーキットのデイブ・スミスさんが,グラミー賞を受賞したわけです。

 アナログシンセサイザーをマイクロコンピュータで制御する,そしてマイクロコンピュータ同士を繋いで通信させる,そうした発想がどれほどの利便性を生み出したか。アマチュアからプロまで,スタジオからステージまで,電子楽器のある,ありとあらゆる所で,MIDIは今も使われています。

 ざっと調べたところ,MIDIという規格が大きく変更されるという話はなさそうです。30年もの間安定して使われ続け,高い評価を受け続けたインターフェースは本当に珍しく,見事と言うほかありません。これからもMIDIは使われ続けることと思います。


 - おまけ - DCBの詳細

 MIDIの原型となったDCBは,ローランドのローカル規格ですし,すぐにMIDIに置き換わったために,ほとんど情報がありません。ですがちょっと調べてみました。MIDIとの比較を行いながら見て頂けると,面白いのではないでしょうか。

・電気的仕様

 14ピンのアンフェノールコネクタです。ピンアサインは以下の通りです。

1. Rx Busy
2. Rx Data
3. Rx Clock
4. Ground
5. Tx Busy
6. Tx Data
7. Tx Clock
8. Unreg (Jupiter8ではNC)
9. VCA Lower
10. VCA Upper
11. VCF Lower
12. VCF upper
13. VCO-2
14. VCO-1

 Jupiter8では上記すべてが接続されていますが,Juno60では1から7のみが接続されています。9から14まではCV信号です。

 Juno60の回路図を見ると,2から7はi8251からシュミットインバータを介してそのままつながっています。1はオープンコレクタになっていて,i8251のRxRDYにつながっており,5はDSRに,2,3と6,7はそれぞれクロックとデータにつながっています。

 データとクロックとビジーの3つを送受信に使うというなかなか贅沢な仕組みで,MIDIの前身とは言えあまり綺麗な方法ではないような印象です。

 ビットレートはMIDIと同じ31.25kbpsです。ここはMIDIにそのまま引き継がれていますね。LSBファースト,データ長8bit,ストップビットは2bitで奇数パリティです。


・プロトコル

 DCBでは,ブロックという単位で通信が行われます。ブロックは識別子とデータ,そしてエンドマークの3つで構成されます。

 識別子は後に続くデータがどういう意味なのかを示すもので,F1hからFEhまでが予約されていますが,パッチを切り替えるFDh(パッチコード)と音程情報を示すFEh(キーコード)の2つ以外は未定義です。

 まずパッチコードですが,続くデータは1バイトで,音色を切り替えます。MIDIでいうプログラムチェンジにあたりますが,これが有効なのはJupiter8だけで,Juno60では無視されます。

 次にキーコードです。これは続く1バイトが音程を示しています。7bit目が1ならノートオン,0ならノートオフです。0bit目から6bit目の7bitで音程を示しますが,0をC0,96をC8として割り当てています。

 そしてこのデータは同時発音数分だけ送信され,Juno60では6バイト,Jupiter8では8バイト続きます。

 それぞれのブロックの終わりにはエンドマークのFFhが送信され,これで通信が終了します。

 MIDIと同じく,時間情報は含まれず,音程と発音のON/OFFだけが実時間で送信され,受け取った側がその場でリアルタイムに処理します。通信で発生するレイテンシや,受け取った側での処理によって,発音に遅れが出るのはMIDIでもそのままです。


・チャネル

 DCBは機器を1対1で繋ぐことが前提になっていて,必ずマスターとスレーブが決まります。従ってMIDIと違い,チャネルという考え方は必要なく,そのメッセージがどの機器を対象としているかを区別する手段はありません。

 初期のMIDI機器がチャネルを実装せず,オムニモードでしか動作しないことを考えると,当時はどうもチャネルという考え方が一般的ではなかったような感じです。そう考えると,MIDIがメッセージの下位4bitにチャネル情報を割り当ててあることは,なかなか先進的だったと言えるかも知れません。


・まとめると

 よく見てみると,DCBとはなんとまあ原始的な規格でしょうか。これがどうやったらMIDIになるのかと思うほどです。仕組みが原始的という事もそうですが,それ以上に概念が単純で,MIDIで投入された様々な考え方が,いかに検討を重ねたものであったかをうかがい知ることが出来ると思います。

 例えばデイジーチェーン接続が可能になるTHRU端子,同時発音数に制限を設けない,チャネルによる16台までの同時制御,ベロシティをノートメッセージに盛り込む考え方,ピッチベンダーなどのコントローラをリアルタイムで送受信する方法,メーカーIDやプロダクトIDによる機器の区別,ベンダーローカルなプロトコルを規定できるシステムエクスクーシブメッセージを許可するなど,DCBの改良とは言えないくらいに,新しい技術で作られているのがわかります。

 梯郁太郎さんの著書に,DCBをベースにしたように受け取れる表現もあるので,DCBがMIDIになったという話も耳にしますが,こうしてみてわかるように,DCBからMIDIへの飛躍は大きく,もしもDCBがそのままMIDIになっていたら,きっと廃れていったに違いありません。

 DCBを過度に評価するのは,どうやら公平ではないようです。

WP34Sのオーバーレイを作ってみよう

 先日アメリカから届いたWP34Sのキーボードオーバーレイは,さすがに実績もあって剥がれにくく,感触もよくて,まさに最良の選択肢です。

 価格も送料込みで1枚わずかに6ドルですが,それ以上に綺麗に型でカッティングされているというだけでも他の手段を考える理由はないように思います。

 しかし,届くのに時間もかかりますし,張り付けるのに失敗出来ないとか,やはり海を渡ってやってくることに対する抵抗感というのはあって,私はとりあえず自分でどれくらい良いものを作る事が出来るか,試行錯誤を繰り返していました。

 WP34Sには,キーボードオーバーレイの画像が配布されているので,これを600dpiで印刷すれば原寸大のオーバーレイシートを印刷することが出来ます。ですから,自分で解決するべき問題は2つあって,1つは何に印刷するか,もう1つはどうやってカットするか,です。


・チャレンジ(1)

 印刷は耐久性と発色に優れた,エーワンの手作りステッカー用シール用紙(品番28808:現在は廃番)を使ってみました。これは,かつて自作の周波数カウンタやデジタルアンプのパネルを印刷して張り付けるのに使っていて,気に入っています。

 表面の保護フィルムを貼るとかなり分厚くなり,曲がったところに貼ると剥がれてくるのが難点です。

 印刷は綺麗に出来るのですが,問題はカットです。オーバーレイの画像をよく見ると,キーの左右と上には線が書かれているのに,下側には線が書かれていません。

 ふと思ったのは,この部分を切らずに残すことで,キーが手前の部分を支点に沈むように動き,HP20bのような全部が沈み込むキーでも,HP30bやHP35Sのような押し心地を実現出来るようにしてあるんじゃないのか,ということです。

 かくして,左右と上の部分だけカッターで切れ目を入れました。

 裏紙を剥がして本体に張り付けたところ,キーに張り付ける部分が大きすぎて,キーから大幅にはみ出します。仕方がないので,カッターで切ったり削ったりをそれぞれのキーごとに行う手間をかけました。

 ぱっと見るとなかなか綺麗に仕上がったように見えるのですが,シードが分厚く,キーから剥がれてきました。さらに,キーの下側は本体の表面に張り付けられる部分とつながっていますが,この部分から本体部分に張り付けられてところが剥がれてきました。

 また,うまく表面の保護フィルムが貼れなかったらしく,全体に歪んでしまったようで,2日もするとあちこち浮き始めてしまいました。こうなるともう駄目ですね。あきらめるしかありません。


・チャレンジ(2)

 ということで,印刷するシートは同じ物を使うとして,平面に綺麗に保護フィルムを貼って歪みを減らすことと,カットの工夫を行う事にします。

 カットの工夫はいろいろ考えたのですが,この手のシールは面で貼るとどうしても浮いてきます。そこで出来るだけ線で貼るような作戦でいくことにします。

 まず,本体表面に貼る部分も,キーの下に貼られる部分だけにしてカットしてしまいます。ちょっと不細工ですが,綺麗に貼れる事の方が重要です。

 キー表面に貼る物は完全に切り離して貼り付けます。そうしないと,本体部分とつながったところが浮いてしまいます。この時,少し小さめに切り出しておくとうまく貼れます。

 結果ですが,ぱっと見た目には綺麗で,うまく仕上がったように思えました。ところがやっぱり,キーに貼り付けたシールが,曲がったところで浮いてきます。本体に貼り付けた方は大丈夫のですが,キーのほぼすべてが浮いてしまうのです。

 強めの両面テープで貼り直したりしましたが,やはりだめです。もっと薄い物,あるいは保護フィルムを重ねないタイプの物を選ぶしかなさそうです。


・チャレンジ(3)

 今度はシートを選んでみました。薄いこと,インクジェットプリンタで綺麗に印刷出来る事,耐水性と耐油性に優れていることが重要です。

 選択肢は2つあり,1つは保護フィルムを使わないタイプ。印刷面が表面に出ますが,どういう訳だか耐水性がうたわれています。もう1つは転写シールというもので,プラモデルでよく使われるデカールをじぶんで作るようなものです。

 後者は薄くなることは間違いないし,最近は糊が白色になっており,下地が透明な物しか手に入らなかった昔と違って白色を表現出来るようになっているのですが,いかんせん糊が水溶性ですし,転写したフィルムもひっかくと剥がれるそうです。また,いくら白色を表現出来るとはいえ,下地が透けて見えるという話ですので,今回の用途には工夫をしないと使えそうにありません。

 それに,プラモデルのデカールは,貼るのがなかなか難しいわけですが,それをこの形状のキーに貼り付けるのは,なかなか大変そうだという事で今回はやめました。

 それで,今回選んだのは,エーワンのラベルシール(品番29281)です。白色のポリエステルフィルムで,表面はインクを吸収・定着する層になっているようです。これまで使っていたステッカー印刷用紙に保護フィルムを貼らないで使うような感じでしょうか。

 水溶性の染料インクを使ったインクジェットで印刷して,水に強いなどと言うのはどうも信用出来ないなあと思ったのですが,長時間でなければ滲んだり流れたりすることはなさそうです。しかし,さすがに指で触る物だけに,油には耐えられないんじゃないかと思います。

 そこで,表面の保護層を作るべきと考えたのですが,私の場合クリアラッカーを軽く吹き付けました。

 印刷してから一晩放置し,クレオスのスーパークリアの半光沢をさっと2,3回吹きます。発色も良くなり,触った感じも改善されて,かなり良い感じになりました。

 これを(2)と同じようにカットして,貼り付けていきます。なるほど,うまくいきそうです。

 しかし,やはりキーの小さな物は一部剥がれてしまいます。そこで折れ曲がる部分をさっとカッターでなぞって,弱く切れ目をいれてから,合成ゴム系の接着剤を使って接着しました。

 これで今のところ問題は起きていません。見た目もなかなか良くて,素人の工作としては,まあこんなもんだろうという出来です。

 
 今回のオーバーレイの自作で大事なことは,薄くて綺麗に印刷出来るシートを,実用上十分な強度の保護層で仕上げて作るというプロセスを完成できたことでしょう。吹き付けるスーパークリアは(気休めかも知れませんが)UVカットですので,紫外線による退色はちょっとでも改善されると思いますし,耐油性も耐水性も確実に向上していることでしょう。

 保護フィルムのあるステッカーシートよりも随分安価ですし,これをうまく使えば自作品のケースを綺麗に安価に仕上げることが出来そうです。

WP34Sの書き込みについて

 WP34Sが面白いです。

 現在進行形のオープンソースっていうのは,毎日プロジェクトの様子を確認しないとお尻がムズムズするのですが,新しいビルドが出ていたりすると何が変わったのか確かめる必要があったりして,キャッチアップするのが大変です。

 WP34Sの最新ビルドはV3.2_3363です。安定版としてダウンロード出来るものから既にバージョンが0.1上がっていますが,今のところこれで深刻な問題は出ていないように思います。

 それはそれとして,ようやく本体へのファームウェア書き込みが安定してきました。ついつい手順を忘れてしまうので,ここにメモしておこうと思います。


(1)用意するもの

・FT232RLを使ったUSB-シリアル変換モジュール(秋月のAE-UM232R)
・FT232RLのWindows版ドライバ(CDM 2.08.24 WHQL Certified.zip)
・Windowsが動くPC
・MySamBa(WP34Sのプロジェクトからダウンロード)
・最新のファーム
 (32kHzのクリスタルをつけている場合はcalc_xtal_full.bin)
・本体


(2)本体とAE-UM232Rの接続

・以下のように接続する
  本体 - FT232RL
   RxD - TxD
   TxD - RxD
   Vcc - 3V3
   GND - GND

・AE-UM232Rのジャンパ
 J1 - 右側をショート
 J2 - ショート

・本体のERASEとRESET端子については,一度でもWP34Sを書き込めばオープンでよい

・私の場合,本体にピンをハンダ付けし,コネクタで接続するようにしたが,ポゴピンが手に入るなら無改造でOK。というかこんなにしょっちゅう書き込むならポゴピンでないと大変。


(3)PCの準備

・AE-UM232RをPCに接続,ドライバをインストールする。デバイスマネージャを確認し,COMポートの番号を覚えておく。

・MySamBaを解凍し,起動。COMポートを設定し,用意したファームを指定する。


(4)本体の操作

・あらかじめ各種設定やプログラムをフラッシュメモリに保存しておくと便利なので,P.FCNからSAVEを選んでセーブしておく。

・電源が入っているときでも入っていないときでもよいが,ONキーを押しながらDキーを押すと,デバッグモードに入る。(ちなみにもう一度Dを押すとデバッグモードから抜ける)

・デバッグモードに入ったら,ONキーを押しながら6キーを押す。SAN-BA? bootと表示されるので,6キーだけ指を放し,再度6キーを押す。ここで表示が消えるが慌てない。

・背面の背面のリセットを押し,コネクタを取り付ける。


(5)書き込み

・本体のONキーを押す。表示はなにも出ないが,慌てなくていい。

・MySamBaのSendFileを押す。

・うまくつながるとプログレスバーが進み,約24秒で書き込みが終了。

・MySamBaを終了し,背面のリセットを押して,コネクタを抜く。

・ONキーを押すと,少し間があってから表示が表れる。設定をSAVEしてある場合にはRestoredと表示され,自動的に元の設定が書き戻される。ただし,日付と時刻は再設定が必要。

・X.FCNからVERSコマンドを選びバージョンを確認。「34S3.2T3363」という表示は,Version3.2ビルド3363,32kHzのクリスタル実装済み,という意味。


 こんな感じです。

 一度もWP34Sを書き込んでいない場合はERASE端子を配線し,内蔵フラッシュを消去してからSAM-BAモードで起動する必要があったりするのですが,私はすべて書き込み済みですので,現在用意しているケーブルはERASE端子を配線してありません。

 とはいえ,大げさな話でもなんでもなく,ERASEとVccをつないで背面のリセットを押してやるだけです。これで次の起動時にフラッシュが消去され,SAM-BAモードで起動します。リセットを押した後はもうERASEとVccをつないでなくても構いません。

 ところで,MySamBaでつながらないという場合が厄介だったりするんですが,配線が切れていないか,ちゃんとつながっているかを確認して,それでもだめならCOMポートの番号が正しいかどうかも見てみましょう。

 SAM-BAモードの時は表示も消えていますのでわかりにくいのですが,SAM-BAモードはあくまで電源が入っているときの状態ですから,リセットを押した後ONキーで電源を入れてあげないといけません。電流計を繋げば6mAから8mA程度の電流が流れることを確認出来るので,表示が出ていなくてもわかります。

 ということは,表示が出ていないので気が付かないけれども,すっと電源が入ったままになってしまう状態が起こるわけですね。CR2032は最大で220mAh,HP20bやHP30bは2つ並列ですのでこの倍ですから440mAhとして,8mAだとざっと55時間で切れる計算ですが,気が付かずに放置しておくと4日ほどで電池が切れます。

 電池が切れると当然うんともすんとも言わなくなりますから,表示が出ない状態だとますます混乱に陥ります。気をつけないといけないですね。

 そうそう,やっぱりもとの状態に戻したい,という場合ですが,HP20bについてはオリジナルのファームが公開されており,これを書き込めば元に戻せるはずです。しかし上位機種のHP30bについてはファームは公開されておらず,元に戻すことができません。

 HP30bはプログラムが可能になったりと,HP20bの上位機種にふさわしい機能を持っています。キーも液晶もHP20bより良いものなのでWP34Sにすればメリットは当然ありますが,元に戻せない改造であることは知っておく必要があります。


 WP34Sを実戦投入して1週間ほど経過していますが,キーの反応が普通の電卓よりも若干遅いことを除けば,実に手に馴染むよい電卓だと思います。高機能ですのでどこにバグが潜んでいるかわかりませんし,使いこなしも難しいのでマニュアルはしばらく読み込まないといけませんが,それだけの価値のあるものだと思います。

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