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N-30その後

 音楽との向き合い方をまた1使えたネットワークオーディオプレイヤー,パイオニアのN-30ですが,後日談を少し。


(1)インターネットラジオでNHKを楽しむ

 NHKのラジオ放送は,AMが第一と第二,これにFMを加えた3つがありますが,すべてインターネットで配信されています。「らじるらじる」という,どうしてそんな名前にしたのか,誰か止めることは出来なかったのか,と思われるおかしな名前で呼ばれようとしていますが,多くの人がそうであるように私も恥ずかしくて使いませんし,おそらくこのまま廃れて消えゆく運命にある名前でしょう。

 WEBブラウザ,もしくは専用アプリから聞くことが出来ますが,NHKには広告がないですし,しかも全国放送という事もあって,地域による試聴制限がありません。専用アプリでかつ起動時に位置情報を確認するradikoとは,このへんが違います。NHK万歳。

 これをN-30で聴くには,iPad2で受けてAirPlayで飛ばすというのが解決策なわけですが,なんとN-30で直接聴くことが出来るのです。

 元々,N-30などのパイオニアの製品は,インターネットラジオのディレクトリ(案内サイト)にvTunerと言うところを使っています。vTunerに登録されたインターネットラジオのサイトを,N-30が参照して接続に行くわけですね。

 NHKの「らじるらじる」は,残念な事にvTunerに登録がありません。従ってN-30でそのまま聴くことが出来ないのですが,パイオニアは自前でvTunerのようなサイトを運営していて,ここでユーザーごと(厳密には機器ごと)にアカウントを用意し,自分だけのインターネットラジオディレクトリを作る事が出来るようになっています。

 これ,私はほとんど知らなかったのですが,なかなかお金もかかるし面倒ですよ。維持費というのはボディブローの様にジワジワきますし,メンテをサボるとろくな事はないし,うかうかしていると悪い奴らが群がってきて,某ソ○ーさんのように次期社長が頭を下げることにもなりかねません。

 詳しい説明が説明書にもなく,またWEBサイトにもわかりやすいリンクがあるわけでもないので,使いこなしノウハウのようになっているのが現実だと思いますが,これを利用するとNHKがN-30で聴けるようになるのです。

 え,知ってた?すいません。私は感激したもので。

 方法ですが,ちょっとややこしいので手順を書いておきます。まずはアカウント作成からです。

1.まずN-30をInternet Radioモードにする
2.何か受信している状態でHELPを選択
3.Get access codeを選択
4.しばらくするとaccess codeが表示される
5.http://www.radio-pioneer.com/にアクセスする
6.いきなり英語でびびるが落ち着いて上部にある日の丸をクリック
7.一応さらっと目を通し,「同意します」をクリック
8.先程のaccess codeと自分のメールアドレス,パスワードを入力する
 パスワードはなんとN-30でそのまま表示されるので,ばれるとまずいものは使わない
9.「登録」をクリック

 次にNHKの追加です。

1.「別の放送局を追加する」をクリック
2.以下を入力する
 ラジオ局名:NHK第一(あるいはNHK第二,NHK-FMなど,なんでもよい)
 ラジオ局URL:(先頭にhttp://をつけること)
  NHK第一 mfile.akamai.com/129931/live/reflector:46032.asx
  NHK第二 mfile.akamai.com/129932/live/reflector:46056.asx
  FM mfile.akamai.com/129933/live/reflector:46051.asx
 地域:日本
 ジャンル:公共放送
 type:MP3
3.「Go」をクリック
4.これで「追加したラジオ局」にNHKが追加されている

 そしていよいよ,N-30で聴いてみます。

1.N-30をインターネットラジオモードにする
2.メニューに「Added Stations」が表示されるので,これを選択
3.すると先程登録したNHKが表示されるので選択

 なお,access codeは機器をリセットすると変わってしまいます。再取得をしても変わるので,その場合登録をやり直すことになるのか,それともアカウントを作り直すことになるのかは,試していないので分かりません。

 早速聴いてみましたが,音切れもなく快適です。ビットレートはMP3で48kbpsですので全然駄目なのですが,AM放送の第一と第二は帯域も広く,ステレオになりますのでとても新鮮な感動があります。

 一方でFMは駄目ですね。48kbpsでは音もぐちゃぐちゃですし,ステレオの広がりも破綻しています。アナログチューナーと比較するともう余りのひどさに言葉を失います。

 でも,いちいちFMチューナーに切り替えないでNHK-FMが楽しめる訳ですし,先程書いたように第一と第二はラジオよりも音質がよいわけで,設定して置いて損はありません。

 ちなみにこのパイオニアのサイトですが,vTunerに登録されているラジオ局を検索したり,お気に入りに登録したりできます。例えばビットレートの高いサイトを探すなど,とても便利に使えます。インターネットラジオが受信出来るパイオニアの機器を持っている人は,これを使わないと損です。


(2)インターネットラジオの致命的なバグ

 NHKを登録するために,N-30をインターネットラジオにモードを切り替えたところ,画面が全く表示されなくなり,全くキーを受け付けなくなりました。しばらくしてから突然パイオニアロゴが画面に現れ,再起動するという,まったくもって恥ずかしいバグです。

 まあ,この手のバグには概ね寛容な仏のような私ですから,黙って電源を切って再起動。約2分経過して起動すると,iPodやミュージックサーバーへの切り替えは問題なく出来るのに,インターネットラジオに切り替えた途端に真っ暗の画面のまま,そしてやっぱりしばらくして再起動がかかります。

 なんといいますか,歯止めの利かなくなった暴走ポインタがメモリを蹂躙し,そこで平和に暮らす住民達をなぎ倒していく行く様子が目に浮かびつつ,なんとかインターネットラジオを復帰させようとしますが,どうにもなりません。

 やむなく再起動後にセットアップからリセットをかけて,復帰させました。

 このことで,ネットワークなどの初期設定が全て消えてしまいますので,全てやり直しです。大した設定はありませんのでそんなに手間ではありませんが,こんなわかりやすいバグを見逃してええのんか?と首をかしげてしまいます。

 一通り設定を終えてから気付いたのですが,いくらN-30で探しても,それまで聴いていたラジオ局が見つからないのです。

 おそらくラジオ局が閉鎖されたか,トラブルでこけているかして,画面に出てこないのだと思います。

 しかし悪いことに,私のN-30はそのラジオ局に繋いで電源を切りました。再起動後そのラジオ局につなぎにいこうとしても繋がらないということが起きてしまったわけで,異常系の処理に漏れがあったということではないでしょうか。

 ん?てことは,ネットワークを引っこ抜いても同じトラブルが出てしまうのか・・・いくら何でもそんな問題に気が付かないはずはないよなあ。

 よく分かりませんが,今はとりあえず問題なく動いています。


(3)音楽データの整備

 あきらめて非圧縮のPCMデータを曲ごとに単一のファイルで用意したのですが,ファイル名が長くて小さい画面からはみ出してしまい,不便という話を以前書きました。

 WAVファイルはメタデータを入れ込めませんので,ファイル名を工夫するしかないのですが,長い理由はアーティスト名が入ってしまったからでした。

 そこで,アーティスト名を削除し,ファイル名を短くします。数も多いし,手作業では苦行以外なにものでもないですから,ここは自動化を試みます。

 とはいえ,いちいちスクリプトを書くのも面倒なので,それらしいツールを探すのですが,これがまたサブフォルダを検索対象にしないので,ちょっと面倒なのです。

 また,ファイル名の先頭にはすでに曲順が書かれており,曲順と曲名に挟まれた部分だけを削除しないといけないので,ちょっとばかり頭を使わなければなりません。

 今回使ったツールは正規表現で検索が出来るのですが,不慣れな正規表現を使ってなんとか目的を達成しました。しかし,やっていくうちに不具合が見つかり,ファイル名が訳の分からない文字列になったりして,もう大変です。

 一筋縄には行かない数ですので,コツコツをやっていくしかなく,失敗したファイル名を手作業で確認して修正する作業はクラクラします。ですが,なんとかこの週末に終わらせました。

 おかげで画面に出てくる情報は曲名だけになり,随分スッキリしました。手間をかけた分だけ良くなっていくというのは,ネットワークオーディオの神髄かも知れません。


(4)ジャケット写真

 N-30のディスプレイは小さくて,ジャケット写真が出てこなくても別に悔しいとも思わないのですが,それでもちょっとしたアクセントとして表示されていれば,見た目に賑やかで楽しいかも知れません。

 ところがジャケット写真というのは,なかなか壁が高いんですね。まずメタデータを打ち込めるファイル形式かどうか。WAVは駄目です。

 そして,ファイルサーバがジャケット写真を扱えるようになっているか。フォルダに置いた「cover.jpg」をジャケット写真として送信する機能がファイルサーバにあれば,ファイルにメタデータとして埋め込まれている必要はありませんが,これもサーバの機能ですから,N-30側ではどうにもなりません。

 ということで試してみたのですが,結論から言うと,だめでした。Pogoplugには,ジャケット写真を送信する機能はないようです。

 
(5)次なる目標

 ということで,一通り作業が終わって,夢のCDレス音楽生活が始まったわけですが,SACDについては答えがありません。SACDはリッピングも出来ませんので,いちいちディスクをセットする手間も面倒ですし(面倒と思うかどうかは人によるでしょうけど),ディスクの破損に対し無防備です。

 そこで考えたのですが,それなりに高性能なSACDプレイヤーのアナログ出力を,高音質なリニアPCMフォーマットで録音しておけばいいんではないか,と気が付きました。

 どんぶり勘定ですが,SACDは2.8Mbpsの2chで5.6Mbps,CDは0.7Mbpsの2chで1.4Mbpsですから,ざっくり4倍の情報量があります。リニアPCMと違って,その4倍の情報量が全ての帯域に均等に広がっているわけではないというのがSACD(といいますかDSDですね)のミソなわけですが,そもそも24bit/96kHzであってもCDの3.2倍に過ぎません。

 これが24bit/192kHzというフォーマットになってくるとSACDを越える器と断言出来るわけですが,ここまでいくとちょっと大変ですね。私もそんなレコーダは持っていませんし。

 そこで,まあ適当な妥協をして24bit/96KHzのレコーダで録音すれば,SACDのおいしいところ(可聴帯のきめの細かさとか20kHz以上の部分の空気感みたいなもの)がそれなりに取り込めるのではないかと思う訳です。

 N-30は24bit/192kHzの再生能力があります。Pogoplugの容量にもまだまだ空きがあります。そもそもSACDを楽しむのに,PD-D9というプレイヤーの音質丸ごと録音して楽しんでもよいでしょう。

 そう考えると,悪いアイデアではないのですが,いかんせん録音作業が面倒です。一人でヘッドフォンでモニタして,何時間も音楽だけに集中出来る時間など,離婚するまで取れないでしょう。
 
 それに,私の持っているレコーダは,ZoomのH1という,1万円以下の安物です。もっとも,ライン入力で録音するので,価格のうち大部分を占めると思われるマイク関係の部分が関係なくなりますから,それなり音で録音できるとは思いますが,オーディオ用途ではないレコーダが,果たしてこの用途で耐えられるのかどうか,です。

 もし後々,もっと高級なレコーダを手に入れた時に,今回の作業時間が無駄になるのも嫌ですし,さてどうする!?

シャーシパンチを知っていますか

 シャーシパンチという工具をご存じでしょうか。

 アルミなどの金属の板に,大きめの丸穴を開ける工具です。通常,丸穴を開けるというとドリルを思い浮かべますが,これはドリルではなく,一種のプレス加工です。

 仕組みは簡単で,穴を開けたい金属板を,穴の直径のくぼみを持つウスと,それより少しだけ小さいカッターで挟み込み,カッターをネジを使ってジワジワと押し込んで,切り抜きます。ウスもカッターも鋼で出来ていて,ウスには軸をねじ込むネジを切ってあります。

 もともと真空管のソケットの穴を早く綺麗に開けるために用意された専用工具といってもよく,7ピンミニチュア管のソケット用の16mm,9ピンミニチュア管ソケット用の21mm,GT管のソケット用の30mmなどを一発で開けることの出来る優れものです。

 その昔は定番の工具として知られ,真空管の時代が終わると特殊な工具となりましたが,真空管のアンプ製作には必須の工具ですので,それなりの知名度があります。

 20mmくらいまでの穴ならテーパーリーマーで8mmくらいの穴を少しずつ広げていきますが,やったことのある人ならお分かりのように,なかなか綺麗に広げるのが難しいのです。力加減が強すぎると花びらのような形に広がりますし,かといって弱すぎると,金属がカットされずにバリとなって残ってしまいます。

 調子に乗って広げるとすぐに大きすぎる穴になってしまいますし,断面もテーパーがついてしまいますので,板の表と裏で微妙に穴の大きさが違うのです。

 30mmにもなるとリーマーでも無理で,小さい穴を円周に沿って開けてこれをニッパーで繋げ,丸ヤスリで仕上げるという手順になりますが,完全に手作業ですので綺麗に穴が開くわけでもなく,しかも小穴をたくさん開けるので,板の歪みも結構出ます。なにより,その労力が大変で,1つや2つならいいですが,これを10個も20個もヤレ,と言われれば,もうへばってしまうでしょう。硬質のアルミや鉄なら途中であきらめてしまうかも知れません。

 工場では欲しい穴径や形状の金型を作り,これをプレス機を使って打ち抜いていくわけですが,金型を起こすなど素人には無理ですし,プレス機など置く場所もなければ,危険ですしうるさいです。

 そこでシャーシパンチです。径の違う丸穴用に数種類の金型をあらかじめ作っておき,これをプレス機の代わりにネジを使って締め込んで打ち抜きます。

 とても便利な工具だったのですが,いよいよ入手が難しくなってきているような感じです。

 私が入手したのは今から15年ほど前で,ホーザンのK-82という安価なものを買いました。下穴用のテーパーリーマーのような余計な工具も付属しておらず,穴径も3種類のみですが,たしかこれを1500円ほどで買った記憶があります。

 その前に,同じホーザンから出ていたミニパンチを中学生の時に買いましたが,ちょうど9mmや10mmといった穴を綺麗に開けることが出来ずに四苦八苦していた時に,同じ趣味を持つ友人に「こんなのがある」と教えてもらって,その便利さに驚嘆したという経緯がありました。

 シャーシパンチも,別に真空管の工作を行うために買ったわけではなく,大きな穴を綺麗に開けたいという事から,買うことにしました。事実,RCAのピンジャックなどは,10mmでは穴の内側にGNDが接触してしまいそうな感じですが,16mmだと上手く取り付けられます。(本当は13mmのミニパンチがベストかなあ)

 さて,このシャーシパンチですが,ホーザンはK-81,K-82,K-83というラインナップを古くから持っていたのですが,K-81もK-82もすでに廃番となり,入手出来ません。K-83は5種類もの穴を開けることが出来るのと,下穴用のテーパーリーマーまで揃っていますが,お値段は1万円近くします。電気ドリルが数千円で買えるこの時代に,とても高価な工具になってしまいました。

 エンジニアからもT-15というシャーシパンチセットがありました。値段は5000円ほどで安価ながら,ホーザンのK-83とほぼ同じ内容ですので,こちらがおすすめと言いたいところなのですが,驚いた事にこれは昨年秋に廃番となっていて,今は店頭の在庫だけになっているようです。

 エンジニアは後継品を用意していませんので,結局ホーザンのK-83のみになります。

 そもそも消耗品でもなく,需要が激減しているであろうシャーシパンチが絶滅することは想像に難くなく,もし欲しい方は今のうちに買った方がよいのではないかと思います。

 私は実物を見たことはありませんが,その昔「スコヤパンチ」なるものもあったそうです。シャーシパンチは丸穴を開けるものですが,スコヤパンチは角穴を開けるものです。スコヤ,というのは,英語のスクエアがなまったものです。

 真空管ラジオ,特に5球スーパーがメインだった時代には,IFTの角穴を開ける必要がありました。ですが角穴は丸穴よりも難しいでわけで,これを一発で開ける工具はさぞ重宝したことでしょう。しかし,真空管でラジオを作る事がほぼなくなった時代に,それこそオーディオアンプには全く使い道のない角穴を開ける専用工具が絶滅するのは至極当たり前のことで,今実物を見るのは至難の業でしょう。(なんとgoogleでもひっかかりません)

 また,先程のミニパンチも絶滅しました。私はホーザンのものしか知らなくて,K-71,K-72,K-73の三種類があったことを覚えています。K-71は7mmと8mm,K-72は9mmと10mm,K-73は12mmと13mmだったように思います。

 私はK-71とK-72を持っているのですが,K-71は3mmもあるアルミを無理に抜こうとして,ネジを折ってしまいました。代わりになるものもなく,部品の供給もないので復活の目処は立っていません。

 K-72はよく使う工具ですが,ある時9mm側のウスに10mmのカッターをねじ込んでしまい,カッターを壊してしまいました。新品をもう1セット買いましたが,もったいなくてこちらはほとんど使わずに,壊れてしまったカッターを騙し騙し使っていますので,あまり綺麗に穴が開きません。

 出来ればこのミニパンチを再販して欲しいのですが,なにぶん廃盤になってから15年以上経つようですし,絶望的だなあと思っています。

 個人的に思うのですが,切る,開ける,磨く,という作業に,これほど多種多様な工具が存在するのは,作業効率の向上や仕上がりの綺麗さというメリットを追求したゆえで,お金のない子供の頃には,それらの工具をそもそもしらないか,知っていても高価で手が出ないものです。

 そんな子供の工作は,あり合わせの材料とあり合わせの工具で行いますので,どうしても綺麗に仕上がらないものです。

 しかしある時,そうした専用の工具を手に入れると,ビックリするほど作業が楽で,かつ綺麗に完成することを知ります。そして,工具が欲しくてたまらなくなるのです。

 良い工具を揃えることは,工作を素早く,綺麗に,かつ安全に行う秘訣といってよいでしょう。

 シャーシパンチもその1つだと思うのですが,1000円ちょっとで買えた工具が,今や1万円です。工作を取り巻く環境がどんどん悪くなっていくなあと,残念な気持ちです。

 一方で,電気ドリルなどのパワーツールは,安く簡単に買えるようになってきました。パワーツールが安くなるのは数が出るのと,中国などで生産されるからでしょうが,私に言わせると一体誰がそんなに電気ドリルを買っているのか,そんなもん普通の人に使う機会があるのか,と思ってしまします。加えて,やっぱり安物は使い心地も悪いし,効率も落ちるし,仕上がりも汚いので,使い物になるのは相変わらず高価なものしかなかったりします。

 まあ,パワーツールは目立ちますし,わかりやすいし,とりあえず買っておこうという人がいるのはわかりますが,工作の基本は手動で動くハンドツールです。ハンドツールに良質なものがないと,裾野が広がって行かないよなあと,心配になります。

 その意味では,ホームセンターも随分様変わりしたものだと思います。私が子供の頃は,どんな工具もそれなりに高価でしたが,買って失敗することは少なかったと思いますけど,今は安いものがある代わりに,それらは大体失敗します。またそれらは概して長持ちしないものですが,工具に対する愛着がわかないという意味でも,今の子供達はかわいそうだなあと思ったりするのです。

2011年の散財を振り返る

 月並みな言葉ですが,2011年は大変な年でした。大きな地震,大きな台風といった自然災害から,放射能汚染の恐怖や交通機関の麻痺という人的原因に由来する混乱,そしてヨーロッパの経済不安やタイの洪水,一向に良くならない景気といった具合に経済面でも,とても暗い年だったように思います。

 そんな中,我々には子供が授かり,不安と期待に忙しくする毎日です。利己的な本音の吐露をお許し頂ければ我々にとって,2011年には子供が生まれた事を越える事件はありません。

 余談ですが,数々の歴史的な出来事をお腹の中で体験し,母親の不安も喜びもその時々に感じてきたであろう子供が,罪のない無垢な表情を我々にふと見せるときに,むしろ直視しがたいもの悲しさを感じることが多くなりました。

 といいつつ,2011年も私はいろいろ散財をしました。年初に当たり,昨年を振り返ってみたいと思います。


・何にお金をつかったか

 昨年は,どうも電子部品や測定器にお金をかけたように思います。ディスコンになった半導体,春に作ったガイガーカウンタや夏休みに作った歪率計や周波数カウンタを完成させるために揃えた部品,ベンチ型のマルチメータなど,電子工作関連の買い物が多かったように思います。

 この手の買い物は,買ったときより,買った後の方が時間がかかるわけで,その意味でも随分と楽しませてもらいました。時間がなにかとないなかで,もっとじっくり味わえば良かったと思うこともありますが,完成して一段落したときの喜びというのは,とても心地よいものがあります。これはいつになっても変わりません。

 測定器はともかく,部品ですからそんなに高額にならないだろうというのは甘い考えで,1回の買い物が5000円を簡単に超えるのがこの世界です。単価は小さくとも,数を買えばびっくりするような値段になるものですから,この点は反省すべきですね。


・ガジェット編

 カメラ関係は概ねそれまでの機材に不満もなく,揃えたいレンズも特になかったのですが,子供が生まれることを理由に,手軽で高画質,でも本音のところは面白いオモチャとしてPENTAX Qを買いました。嫁さん用にと買ったのですが,嫁さんはややこしいカメラに思ってしまったようで,年末に投げ売りされて衝動買いした5000円のOptioRS1500しか使わなくなってしまいました。

 PENTAX Qはまだ謎の多いカメラです。JPEGで出した画像は修正の必要がないことも多いですが,いざ修正をしようとすると結構簡単に破綻します。それで念のためRAWでも出しておくのですが,RAWからの現像を手間をかけて行っても,良く出来たJPEGにかなわなかったりするので,まだまだ撮影者の意図を反映させるほどの技が私にないということでしょう。

 案外面白いと思ったのは,動画機能です。使わないだろうと思った機能ですが,綺麗に動画が手軽に撮れることで,結構使うようになりました。

 ところで嫁さんにあげたOptioRS1500ですが,使って見ると結構楽しいカメラで,画質も十分。5000円なら文句なしです。大事な事は,カメラが身近にあることです。

 ガジェットと言えばIDEOSです。常時接続の3G回線を持つ必要性から,当時もっとも維持費の安い選択肢を選びましたが,結論からいうと安いなりのもので,過度な期待は禁物です。通信速度の遅さよりむしろ,安定して繋がらないことが多いために突然の切断にビクビクしながらの通信を強いられていますし,IDEOSは小型ですが,あまりに端末自身の能力が低すぎて,もうAndroidだと思わないで割り切って使う必要性すら出てきました。アプリのアップデートも極力しないように使っています。

 そうそう,Nintendo3DSを地震の後に買いました。結局ほとんど使っていません。プチコンが動いたことでなんだか目的を達成してしまったような気がしています。まあ,2月発売予定のキラータイトルでどうなるかわかりませんが・・・


・工具・測定器編

 工具は,リューターを買いました。HP-200SGというなかなか良いもので,基板の穴開け用に小口径の超硬ドリルまで揃えましたが,実は昨年の出番はゼロです。リューターを使うような作業がなかったこともありますが,リューターのようにゴミが飛び散る工具は,ちょっと使いにくいのが現実です。

 一方,中古で買ったベンチ型のマルチメータDL2050が,もはや手放せない存在です。テスターでもよいのでしょうが,電圧や電流といった基礎的な測定が,決まった位置に必ずある測定器で行える便利さは想像以上のものがあります。検討開始は,ハンダゴテの電源と同時に,マルチメータの電源をいれるようになりました。ただ,どうも精度に自信がなく,無理をしてでも新品を買えば良かったかなあと思ったりしています。

 そういえば,お気に入りのデジタルオシロのHP54645Dにオプションを増設し,FFTが出来るようにもしましたが,こちらもやはり使い道がなくて,ほとんど使っていません。もったいないことをしたかなあと思っています。


・家電編

 地震の後の電力不足は,電気大好きの私にとっても深刻でした。もし停電して冷房が使えなかったらどうしよう,などと考えていたら,わずか3Wの消費電力の扇風機「GreenFan2」が大変に魅力的に見え,春のうちに買うことにしました。

 デザインはみんなが言うほど良いものでもないと思うのですが,風の質の高さと消費電力の低さには満足していて,背面のプラスチックのフタが撮れてしまったという問題で交換になることさえなければ,是非おすすめしたい家電の筆頭に来たと思います。

 これに組み合わせる非常用電源として,PD-350というポータブル電源を買いました。200Whの鉛蓄電池を備えたものですが,インバータ出力が150Wと小さく,実は照明器具と扇風機くらいしか動かせないため,大きさと価格,そして廃棄の面倒臭さを考えると,無駄な買い物だったと言えるかも知れません。

 電動歯ブラシも長年使ったブラウンのものから,パナソニックのEW-DL11に買い換えました。さっさと結論から言えば,電動歯ブラシなどは,慣れてしまえばどれも同じです。


・コンピュータ関連編

 タイの洪水が大騒ぎになる前に,2.5TBのハードディスクWD25EZRXを6480円で買えたことはラッキーでしたが,1年ほど前にMacBookProのメモリを増設したことくらいで,以前のようにコンピュータの部品やオプションを買わなくなりました。

 そんな中で,ちょっと面白いのはPogoplugです。まだまだ不安定で,手間をかけてやらねばなりませんが,大容量のHDDを繋いだ時の便利さは特筆すべきものがあります。とにかくここに突っ込んでおきさえすれば,関係者がいつでも見る事が出来るという楽さは,その手間を越えるものです。

 ・・・といいたいところですが,ちょうど年末の夜に,突然HDDがクラッシュ,復旧できない状態に陥りました。幸い失ったデータはなく,ほぼ元通り復活出来ましたが,最終的にHDDを修復できない状態を起こした大容量ストレージを接続したPogoplugに対する信用は地に落ち,Pogoplugはストレージと言うより,たんなるデータ交換ツールになりそうな感じです。

 ところで私のものではありませんが,嫁さんにiPad2をプレゼントしたのも昨年のことです。以後嫁さんはiPad2をずっとそばに置き,なにから何までこれで行っています。私自身はiPadにそれほど興味がないのでよく知りませんが,いろいろ不満もあるようです。

 ただ,嫁さんのメインマシンはかなり昔のMacBookですし,大きさと重さを考えると,iPad2は必須アイテムだったと思います。

 嫁さんが入院中にiPad2を持ち込んでいたのですが,生まれたばかりの子供の写真のうち,このiPad2で撮影された1枚が,とても良い写真で,見る度に唸っています。パーソナルなツールは常に手元にあるので,そこにカメラが付いていることの価値はとても高いと思います。


・電子工作編

 前述のように,昨年は電子工作の充実した年でした。主要部品だけ集めたものの一生完成しないだろうとなんとなく思っていた歪率計は無事に完成,気になっていた秋月の8桁周波数カウンタキットのレストアも終了し,念願だったTCXOを源発振に持つ高精度化も実現でき,常用ツールに昇格しました。

 また,手放しで喜ぶような事ではないのですが,ガイガーカウンタも自作しましたし,ちょっとしたことでは中国製の容量計の精度を追い込む改造も出来ました。

 主にケース加工の話ですが,年末にはStereoの付録が実用レベルに組み上がり,現在もメインシステムとしてCM1をほぼ毎日鳴らしています。

 1つ目新しいことがあるとすれば,インクジェットプリンタを使ってパネルに貼り付けるシートを印刷するという,試してみたかった手法が身についた事が進歩でしょうか。

 懐かしのインスタントレタリングは需要が激減しすでに入手困難になっています。ただ,仮に入手が可能であっても手間がかかる,文字の形や大きさが自由に選べない,綺麗に貼り付けられない,耐久性に劣るといった欠点があって,私もこの20年使った事がありません。

 最近は,発色のいいしっかりしたフィルムにインクジェットプリンタで印刷を行い,表面を耐候性に優れた保護フィルムで覆うという,なかなか本格的なステッカーの自作キットが売られていて,これを使うととても綺麗にパネルが仕上がります。

 金属の表面のヘアラインをそのまま使うことは出来ませんが,その代わり手間も汚れも危険性もあってその上綺麗に仕上げるのが難しい塗装をせずとも,美しい着色とレタリングが出来るのですから,これは使わない手はありません。

 結局,自作品の見た目というのは,パネルの綺麗さに寄るところが大きくて,最近は細かい事に気を遣わなくなった私でも,やっぱりパネルが綺麗だと人に見せるのも恥ずかしくありません。

 ちょっと本題からそれますが,この方法を簡単にまとめます。まず,穴開けが終わったパネルを,スキャナで取り込みます。これは実物のデータを原寸で取り込み,パネルの形状や穴の位置を決めるためです。

 まあ,きちんと寸法が出る加工をすれば,別にこんな事をしなくてもよくて,直接図面を作って行けばいいんですが,私のように鈍くさい人間は,どうしてもずれてしまうので,こういう現物合わせしかありません。アマチュアの手作りだから許されているわけですね。

 で,取り込んだ画像をPhotoshopなどで加工していきます。まず色を抜き,白黒の2値画像にし,パネル外形と穴をはっきり確定させます。それが出来たら,あとはツマミなどを別のレイヤーに置き,文字を入れていきます。シートは白色ですから,最終的に何らかの色が塗られますが,その色との兼ね合いも重要ですね。

 これまで難しかった塗り分けも問題なく可能ですし,ディスプレイの穴など,どうしても綺麗に加工することが難しい大きな角穴は,少し大きめに開けておき,シートを上から貼ることで綺麗に仕上がります。あと,後で貼り付けるときに迷わないよう,基準となる点や線を見えない位置に用意して置くとよいです。

 画像が出来たら印刷をします。印刷が出来たら少し大きめに切って,乾いてから保護フィルムを貼ります。この時,誇りや気泡が入るとみっともないので,注意します。

 完成したら,直線を出す必要がある角穴のくりぬきは先に定規とカッターで行い,ボリュームの軸穴などは隠れるのでそのままにして,パネルに貼り付けます。

 大きめに切ったフィルムをパネルの裏側に折り返すのもよし,パネル外形に合わせて切るのも良し,です。そして隠れてしまう穴を貼り付けた後に切り抜いて完成です。

 とても簡単な方法ですし,作業そのものはとても楽しいものです。試行錯誤も出来るし,仕上がりも綺麗ですが,シートがやや高価なので失敗すると精神的ダメージが大きいですから,慎重にしたいところです。

 そうそう,もう1つ電子工作のトピックでは,古い部品を少しずつ集めるようになりました。というのも,私が昔少ないお小遣いから厳選して買った電子工作の本や,最近買うようになった古い本に載っている記事が,いよいよ部品の入手が問題で作れなくなって来ていると感じたからです。

 2SC1815までディスコンになる現在,ゲルマニウムトランジスタなども今が入手の最後のチャンスでしょう。決して安くはないのですが,役立ちそうな部品は見つけたところで少しだけ買うようにしました。

 気をつけたのは,部品を買っただけでは価値がないので,きちんと整理し,すぐに使う事が出来るようにしておくことです。また,使いこなすためにデータブックも可能な限り用意して,詳細な仕様を手に入れて置くことも望ましいのですが,当時のデータブックはなかなか大変で,高価で入手困難ですから,よく考えて買うことにしています。

 それもまあ一段落で,主な部品についてはだいたい揃ったと思います。この部品で新規に工作をする事も出来ますし,これまでに作ったものや,昔の家電製品の保守にも使えます。例えばCMOSの4000シリーズだけでも何百も種類もあり,きりがないのですが,置き換えが不可能なものを出来るだけ揃えておきたいと思います。


・総括

 思い起こせば,それは本当に欲しいものなのか,無理に欲しいと思って買う機会を作ろうとしてなかったか,と問われて,答えに窮するものも多かったと思います。少々浮かれ気味なところもあったのですが,今年はしきい値を上げて,本当に欲しいもの,必要なもの,他に変わるものがないものに絞り込んで,無駄なお金は使わないようにしたいと思います・・・

 と,そんな時に限って,家電が壊れたりするんだよなあ。

古書の値段と価値

 年末を迎え,そろそろ大掃除やら散らかった部屋の片付けやら,らやねばという気持ちが徐々に高まってくる時期になりました。

 家にあった本屋雑誌の多くは,すでにScanSnapでPDFになっており,かなりの数が電子化されたのですが,空いたスペースに新しい本が入ってしまうので,結局あまりスペースが出来た気になりません。

 そこで,折を見て,スキャンする基準の引き下げを行うのですが,現在残っている本は高価だったり思い入れがあったり,続き物で揃っているものだったりするので,ここで安易にスキャンして廃棄してしまうと,ちょっと後悔してしまいます。

 特に,絶版となり古本としてそこそこいい値段で流通しているものもあるので,それらを「邪魔」という理由で安易に処分するのは,所有する人間の責務として慎むべき所でもあります。

 ということで,この年末にまた基準の引き下げを行い,10冊程度のスキャンを行う予定でいるのですが,今回から念のため,amazonでの価格を調べてから判断することにしました。

 するとまあ,ビックリするような値段の本が出てくるのです。ちょっと紹介しましょう。新品の価格よりも高い値段がついていて,これ以下で買うのはちょっと大変かなあと思うようなものを数点選んでみました。

・オーディオ系
オーディオ用真空管マニュアル 26000円
世界の真空管カタログ 6750円
オーディオDCアンプ製作のすべて 下巻 10800円
真空管オーディオハンドブック 12800円
クラシック・ヴァルヴ 13173円
ステレオ装置の合理的なまとめ方と作り方 3759円
内外真空管アンプ回路集 6249円
真空管活用自由自在 4366円
音楽工学 17980円
現代真空管アンプ25選 9798円
直熱&傍熱管アンプ 4800円

 「オーディオ用真空管マニュアル」はラジオ技術社から出ていた時代から定番となっていたデータブックです。その後インプレスから発売になり,私はその頃に買いました。既に絶版となっているのですが,なにかというとこの本から引用されるので,未だに人気があります。それにしても,26000円はないですよね。
 
 そもそも,20年ほど前ならいざ知らず,今は真空管のデータなどいくらでもネットで調べることが出来ます。データブックを持つ事の価値は確かにあると思いますが,それにしても26000円なんていう値段はちょっとなあ,と思います。

 「オーディオDCアンプ製作のすべて」は,かの有名な金田アンプの本ですが,なぜか下巻の方が随分値段が高かったので上巻は挙げませんでした。どうも,自作オーディオの世界では,金田アンプは宗教的なようで,本も高値で取引されるし,部品も高値で偽物まで出回ります。恐ろしいことです。

 この中で,「クラシック・ヴァルヴ」だけは良い本だとおすすめしたいです。無線と実験の連載で,著者のコレクションである珍しい真空管に,ヒーターだけともして撮影されたものなのですが,真空管の黎明期の貴重なものも多数あり,資料性は極めて高いと思います。

 あと,「音楽工学」が目立つ値段ですが,これはオーディオの世界では古典的名著と言われたもので,かのオルソン博士によるものです。音や音楽を工学的見地で論じたものですが,この本によってオーディオの世界が電子工学の世界とリンクしたといって良いと思います。今は絶版ですが,やはりオーディオを長く趣味としている人間としては,原典に触れないで語ることには参りません。
 

・コンピュータ
Apple2 1976-1986 19950円
COMPUTER PERSPECTIVE 8000円
アップルデザイン 21800円
X68030 Inside\Out 6000円
Outside X68000 8000円
Inside X68000 6119円
わかるマシン語入門 PC-6001/6001mk2 5000円
マイクロコンピュータの誕生―わが青春の4004 14243円
復活!TK-80 7500円
レボリューション・イン・ザ・バレー 3800円
PC‐E550・PC‐1490U2活用研究 6145円

 さすがといいますか,Appleとmacintoshに関係するものは,高値になる傾向があります。「Apple2 1976-1986」は写真が中心の本ですが,程度のいいApple2を探すだけでもそれなりに大変な21世紀に,ウォズへのインタビューを加えて発売されたことに,価値があると判断されていることを私はうれしく思います。

 「アップルデザイン」は,もともと高価な本でしたが,それだけにあまり数も出ていないのかも知れません。アップルデザインといいつつ,フロッグデザインが中心となった本ですが,試作機やデザインコンセプトなど,興味深い写真も多くあります。でも,この値段はどうでしょうかね。

 「マイクロコンピュータの誕生―わが青春の4004」は言わずとしれた,嶋正利さんの著作ですが,どういうわけだか復刊されることも,文庫になることもなく,随分前から高値安定という本です。怖いもの知らずの若者がアメリカに乗り込み,泥だらけになって世界を変える技術を開発するという,躍動感あふれる名著だと思うのですが,これが広く読まれないことはとても残念です。

 あと,「COMPUTER PERSPECTIVE」ですが,これは本当に良い本です。もともとIBMが開催した展示会をまとめた本ですが,1890年代から1940年代のコンピュータを貴重な写真と共にまとめてあります。コンピュータの歴史書としては,この本が1つの基準になるのではないでしょうか。

 「復活!TK-80」はそんな価値のある本とは思いませんし,X68000関連の本も,突然値上がりしたり二束三文になったりするのでなんとも言えません。ただ,「Outside X6800」と「X68030 Inside Out」は,ハードウェアの解析に普遍的な手法が記述されているので,とても参考になるものだと思います。

・カメラ
ニッコール千夜一夜物語 3900円
ニコンファミリーの従姉妹たち 3350円
カメラメカニズム教室〈下〉3500円
コンタックス物語 3800円
写真レンズの歴史 8000円
クラシックニコン完全分解修理手帖 9000円

「ニッコール千夜一夜物語」「ニコンファミリーの従姉妹たち」「カメラメカニズム教室〈下〉」「コンタックス物語」「写真レンズの歴史」はいずれもアサヒソノラマから出ていたクラシックカメラ選書です。アサヒソノラマが解散し,これらの本は引き継がれずに絶版となりました。

 なかなかいいシリーズだったので残念なのですが,資料性に乏しい,定年したオッサンの回顧録に過ぎないなど,つまらない本は数百円で売られています。その一方で過去の名著の復活,カリスマ設計者の自伝や,熱狂的なファンがいるメーカーの本,資料性の高いものはちゃんと高値になっていて,ほっとします。

 「ニッコール千夜一夜物語」「ニコンファミリーの従姉妹たち」はニコンの技術者が明かした裏話で,カメラやレンズを単なる工業製品としてだけではなく,それを作った人の想いや背景を丁寧に書き起こしていきます。特に前者は,すでにベテランとなった一流のレンズ設計者が「素晴らしい」と思った過去のレンズをとりあげ,その設計者と設計思想に,尊敬と感動をもって迫るすがすがしさがあります。

 「写真レンズの歴史」は確かに名著で,今日のような高性能写真レンズに至るまでの流れが一望できるものです。レンズの発明や設計は,かつては個人の能力に強く依存していて,一握りの天才の存在がまさに世界を変えた時代が長くありました。工業製品であるレンズと設計者という個人をリンクし,かつその技術的な解説まで試みた本という点で,単なる年表に終わっていないことは高く評価されると思います。


・電子工作
アマチュア無線 自作電子回路 4500円
自作電子回路テキスト 6000円
ビギナーのためのトランシーバー製作入門 7989円
松本悟のデジタル・ゲーム製作集 6000円
エレクトロニクス333回路集 5250円
エレクトロニクス301回路集 6988円

 電子工作もホビーですので,やはり著者のファンが欲しがる傾向が強いように思います。

 「アマチュア無線 自作電子回路」「自作電子回路テキスト」はJA1FCZ大久保忠OMによる電子工作の本で,ミニコミ誌で連載された回路を掲載してあります。さすがFCZ研究所を主宰され,多くの自作アマチュア無線家を育てた方だと思いますが,だからこそこういう本を絶版で放置するのは惜しいと思うのです。

 「ビギナーのためのトランシーバー製作入門」はJA7CRJ千葉秀明OMの本ですが,続編となるSSB編と共に名著だと思います。千葉OMは80年代からメーカー品に劣らない完成度を持つ自作アマチュア無線トランシーバーを高い再現性で実現していた方で,多くのノウハウを駆使して雑誌に多くの製作記事を発表されていましたが,この本はその集大成とも言える内容になっています。

 「松本悟のデジタル・ゲーム製作集」は,初歩のラジオを中心に製作記事を発表された松本悟先生の本です。この頃,値段も下がって手に入りやすくなったC-MOSの4000シリーズを中心としたデジタルICを使って簡単なゲームを作る事がブームになりましたが,松本悟先生の設計した回路は非常に洗練されていて,独創的でありながら,再現性に優れていました。

 最後の回路集の2冊ですが,1950年代から1970年代くらいまで,こういった回路図集が根強い人気を持っていました。プロの電子回路設計者がこれらの本を参考にしていたのですが,今眺めてみると,その当時の部品や回路技術がよく見えてきます。


・楽器
DXシンセサイザーで学ぶFM理論と応用 27666円
最新エフェクター入門―15センチのサウンド魔術師 7000円

 楽器の世界も摩訶不思議です。今でもギターのエフェクタを作る工作の本はちょくちょく出ているのですが,楽器の世界は古いからダメ,という世界ではなく,古かろうが安かろうが,いい音がすればそれが正義ですので,古い本にも現役並みの価値があるわけです。

 一方で,復刊することはほとんどなく,それは出版社が倒産したりするからかも知れませんが,どっちにしても音楽雑誌の出版社にとって,電子工作の本を作るというのは,その読者フォローも考えると,あまり積極的にはなれないのかも知れません。

 「DXシンセサイザーで学ぶFM理論と応用」はヤマハから出ていた本で,著者の一人はFM音源の開発者である,かのジョン・チョウニング博士です。FM音源は現在でもソフトシンセを中心に使われている音源ですが,実はその音作りや基本原理をちゃんと解説した本は少なく,FM音源の初期に登場したこの本が現在でも教科書として使われているのです。

 ちょっと考えてみると,今の若い人が体系的にFM音源を学ぶ機会はそう多くないはずで,言ってみれば40代に偏った技術なんではないかと思うのですが,この本を復活させることがFM音源というシンセサイザーを,人的に支えるために最低限必要なことではないかと,そんな風に思います。

 「最新エフェクター入門」は誠文堂新光社から出ていた本で,初歩のラジオなどに掲載された回路が出ています。他のエフェクター自作本と違い,どちらかというとミュージシャン視点ではなく,音楽が好きで楽器も演奏する工作好きを対象にしたもので,ゲルマニウムトランジスタやビンテージワイヤを無闇に指定して再現性を引き下げるような今時の工作記事より,その合理性という点でとても好感が持てます。

 実は,amazonでは価格が出ていなかったのですが「エフェクター自作&操作術 V3.1」も私は持っています。雑多な感じがしますが,とにかくたくさんの製作例が登場していて,元を正せばこの本に行き着く,という回路も珍しくありません。

 出版社がもうありませんので,復刊は絶望的と思われますが,出来ればもっと多くの人の手に渡るとよいなあと思います。


・ゲーム
横井軍平ゲーム館 50155円
レイストーム (ゲーメストムック Vol. 53) 4200円

 ゲームの世界もマニアックで,例えばBASICマガジンの別冊であるALL ABOUTシリーズの初期のものなどは,随分と高く出取引されているようです。

 「横井軍平ゲーム館」は,ゲームウォッチやゲームボーイ,ワンダースワンの開発者として知られる任天堂の横井軍平氏を取材した本です。ほとんど同じ内容で復刊しているので値段も下がっただろうと思ったのですがそんなことはなく,こんな非現実な値段がついています。

 私はこの横井軍平氏という人を技術者として師と仰いでいて,枯れた技術の水平思考を自らの指針として来ました。そのきっかけになった本ですが,まさかこれほどの本になっているとは思っていませんでした。

 「レイストーム」は,当時死ぬほどやり込んだレイストームの本です。攻略本と言えばそうなのですが,今や伝説となったゲーメストの出版社,新声社のムックですから,復刊の見込みはありません。

 とはいえ,もう過去のゲームですし,とっととスキャンして捨てようと思ったのですが,実はそれなりに値打ちがあると分かって残してあります。確かに,開いて見てみると,懐かしさがこみ上げてきます。

 思い出せば,1995年頃までは,秋葉原でもゲームのお店が盛況で,たくさんの客がいたものです。本屋さんでも攻略本は重要な位置を占めていましたが,今はマンガの横っちょに,ごくわずかの本が列んでいるだけです。


・ガンダム
GUNDAM CENTURY RENEWAL VERSION―宇宙翔ける戦士達 7249円
ガンプラ・パッケージアートコレクション 5970円

 ガンダムは息の長いコンテンツで,かくいう私も子供の頃には随分とはまったものでした。今にして思えば,モビルスーツが体系的に開発されて来たという歴史をちゃんと設定してあり,自動車や航空機,あるいはカメラや鉄道車輌のような整理された世界が作られていたことが,私の脳みそを刺激したんだろうと思います。

 その設定を事後に後から裏付けた本が「GUNDAM CENTURY」ですが,1980年代初期に登発売されたこの本がようやく復刊したときに買った本が,もうこんな値段になっています。

 まあその,2001年宇宙の旅とか,スタートレックのような本格的なSFと違って,科学的な緻密さをガンダムに期待するのは無理がありますが,スペースコロニーやモビルスーツという,ガンダムの鍵となる技術について,それなりの説明を行っていることは,とても面白いと思います。ガンダムを知るなら,楽しく読めるのではないかと思います。

 もう1つ,「ガンプラ・パッケージアートコレクション」ですが,これはガンダムのプラモデルである「ガンプラ」のボックスアートを集めた画集です。もともとプラモデルのボックスアートには,それ単独で評価される作品性が存在しますが,私の場合それだけではなく懐かしさも手伝って買うことにしたものです。

 私が言うまでもないことですが,ガンプラはボックスアートという点でも画期的でした。背景は暗い単色のトーンでグラデーションがかかっており,他のメカはほとんど描かれていません。

 ミサイルが飛んだり,家を踏みつぶしたりと言った表現が全く行われず,暗く重厚なイメージを与えるボックスアートは,他のどれとも似ていない独自の世界がありました。つまり,見た瞬間にガンプラと分かるものだったのです。

 「超絶プラモ道」などで,パチモノプラモの存在がにわかにクローズアップされましたが,中身はそれまで販売されていた怪獣のプラモデルそのままなのに,ガンプラブームがやってくると箱だけをガンプラ風にしたパチモノプラモがたくさん出てきます。

 以後,プラモデルのボックスアートのあり方が大きく変わったと言ってもよいでしょう。ガンプラの前後でプラモデルは大きく変わりましたが,ボックスアートもその1つだったというわけです。


 
 こうしてみると,高値になる本には,一定の規則性がありますね。1つは強い趣味性があること。そしてそれが大人のホビーであること。お金があるから高値になるのですね。

 そして,学術的な資料性の高さよりは,著者やテーマなどに,個人崇拝があること。その人の本だからというコレクション性も重要な要素のようです。

 そして,なにより中身が面白い事。面白いだけではなく,その面白さが語り継がれることです。同じように絶版になったシリーズでも,面白くない本はゴミですし,面白い本は宝物となります。無名のオッサンの自伝で,しかも似たような話が複数の本になっていたりすると,評価は下がるものです。

 実は,今回調べる過程で,すでにスキャンして廃棄した本のなかに,随分と高価なものがいくつか見つかりました。悔しいなあと思っても後の祭りです。概して年月を経るほどに古書の値段は上がるものですし,廃棄した当時よりも今の方が値段が高いというのは,まあ当たり前の話ではあります。

9R-59とTX-88A物語 9800円
オペアンプIC実験と工作マニュアル 4000円
マイコン手づくり塾 4999円
マイコンストーリー 5200円
プロ電子技術者のコモンセンス 18000円


 とまあ,いろいろ書きましたが,そもそも私は本を売ることはしない人ですし,私の本の価値は私が決めるものだと思っている人なので,どうでもいいことだということに,はっとさせられました。

データブックには酒の肴がいっぱい

 最近は特に登録も必要なく,誰でも半導体のデータシートを無料で手に入れる事が出来るようになりました。データシートで儲けようと考えるメーカーなどないわけですし,そういう点で言えば本来無料で提供されてもよさそうなものですが,印刷物になると実費が当然かかるわけで,かつてはその部品を使うプロの技術者に限定した配布物という性格の強いものでした。

 大きな会社に属する技術者の場合は無償でも,中小企業や個人では,仮にプロの技術者であっても有償だったという話は良く耳にしたものでしたが,これもまあ,仕様書を作る側の言い分としては,決して安くはない分厚い本を,無尽蔵に配るわけにもいかないわけですから,一定の歯止めをかけるという意味で「原則的に」有償配布としていたんだろうと思います。

 もちろん,アマチュアに対しては,無償はもちろん,有償でも配布対象にはなっていませんでした。当時はそれが当たり前だったのです。

 ところがその仕様書を書籍として出版社が販売するようになると,アマチュアだろうが子供だろうが,誰でも買うことが出来ますし,全国どこでも本屋さんを経由して手に入れる事が出来ます。その代わり,出版社はちゃんと儲けないといけませんから,手間のかかる分厚い本にふさわしい価格で販売することになります。

 だから,半導体のデータブックは,誠文堂新光社やCQ出版社からかなりの種類が販売されていましたが,いずれも高価でした。

 これが大きく変化したのはインターネットが一般化した1990年代後半ですが,この時を境に,配布方法はインターネット,費用は無償という方法が普通になりました。

 学生と言うだけで邪気に扱われた苦い思い出がある私にとっては,いい時代が来たものだなあと思ったものです。

 ところが,この配布方法にもちょっと問題が出てきました。

 配布する半導体メーカーが,製造中止にした部品の仕様書の配布をやめるようになったのです。もちろん当たり前のことですし,紙の本の時代から製造中止の部品は掲載されなくなっていましたが,紙の場合は多くの部品が集まったデータ集として手元に残るので,昔の半導体のデータも残っていて,必要な時に見ることが出来るわけです。

 しかし,インターネットで配布されたPDFファイルの場合,多くはお目当ての部品のデータだけをダウンロードして終わりにします。何千とある部品の全てを「将来見るかも知れない」でダウンロードするような人はいないし,また迷惑な話でもあります。

 だから,「まあいつでも見ることができるしね」と油断していると,突然見る事が出来なくなっていることに気付いて慌てることになるのです。

 出来れば,半導体メーカーには,昔の半導体でもデータシートを配布して欲しいなあと思うのですが,これもメーカーの立場で言えば,仕様書を配っているということは,今でも供給されていると解釈されたり,配布物に対するサポートが必要になったりと,配布するだけでその行為に対する責任が発生するわけですから,やっぱり不必要なものは配りたくないのが本音の所でしょう。

 メーカーが自分の判断で配布をやめる場合などはまだいいのですが,吸収や合併,あるいは撤退などで,そのメーカーのデータシートが根こそぎ消えてしまうことがあります。例えば,DRAMのデータシートは日本のメーカーのデータシートがなかなか読みやすくて勉強にもなったのですが,今や東芝も日立もNECも三菱も,DRAMはやっていません。

 なぜそんなに古いデータシートにこだわるかと言えば,1つに歴史的資料という側面があります。例えば,初期のゲルマニウムトランジスタの仕様書をみて,その特性が現在のトランジスタに比べてどう違うかを比較すると,トランジスタの進化の歴史や,そのトランジスタを使う製品の歴史が見えてきます。

 もう1つは,いい教科書になるということです。DRAMの話を例に出しましたが,今配布されているデータシートを見れば全てが分かるかといえばそうではなく,分かっている人向けに書かれている書類だけに,昔から続く基礎的な技術についての話などは省略されている場合も多いのです。

 ところが,その種類の部品が登場した頃の仕様書だと,その当時は最新の珍しい部品ですから,とても詳しく書かれています。これを読んでおくということは,今の仕様書を読むことをとても簡単にしてくれるのです。

 また,この手のデータブックには,個別の部品の情報以外に,必ずその動作原理や基礎理論,使い方のノウハウや応用回路例,信頼性に対する考え方などの,共通した情報がかなり詳しく書かれています。専門書を1冊買って読むほどの内容だと私は思うのですが,半導体を作る人がその専門知識で簡潔に書く解説は,とてもわかりやすくて信憑性も高いものだと思っています。

 これが読めるだけでも,データブックを手に入れる価値があるというものです。


 で,前置きが長くなりましたが,私も最近,古いデータブックを読むのが楽しくて,いくつか買うようになりました。歳を取ったのだと言われればそれまでですが,どちらかというと私が生まれる前の本を読むのが面白く,少なくとも私が目にすることなどなかったはずのデータブックを見てみたいと思うようになっています。

 それら古いデータブックに記載されている部品は,私が子供の頃に部品屋さんで手に取ったり,雑誌で見たりしたものでしたが,その部品の一次情報を手に入れる事など当時は考え及ばなかったわけで,これは私にとっては全く新しい体験なのです。

 ただ,そういうデータブックというのは,得てして高価です。趣味で買うには高価ですし,手に入れた本はボロボロでとても汚く,加えて十中八九,たばこ臭いです。

 そんな汚いものを大事に本棚にいれて置かねばならないわけで,端から見ると嫌で嫌でしようがないんじゃないかと思います。でも,その面白さは一度開くと何時間でも時間がつぶせてしまうほどのものなので,もうあきらめるしかありません。

 データブックはおろか,カタログ類だって簡単にもらうことにできなかった学生時代,当時のエレクトロニクスショーで面倒くさそうに追っ払われた10代の少年は,「どうぞどうぞ」と気持ちよく渡してもらえる仕事に就こうと,その時強く思ったものでした。

 そんな記憶の反動でしょうか,見たことも手に取ったこともないはずの昔のデータブックに,なんとなく懐かしさがあるのです。


・NEC・エレクトロニックス・データブック1964
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 1964年のNECのデータブックです。誠文堂新光社から出ています。当時のNECが扱っている電子部品がほぼすべて網羅されている1200ページ近い分厚い本で,製本上の問題から次の号からは製品ごとに分けると書かれています。

 当時主役だったテレビやラジオ用の真空管に始まり,衛星通信に欠かせない進行波管などの特殊電子管,ゲルマニウムからシリコンに移行しつつあったトランジスタ,そして最先端のエレクトロニクスの象徴だったIC,リレーや真空ポンプなど,巨大メーカーが高度経済成長期に繰り出したパンチの数と重さに,腰が立たなくなる一冊です。

 巻頭の折り込みには,多摩川下流に広がる広大な玉川事業所の全景写真が掲載されており,電子管と半導体,そしてコンピュータ開発の聖地であった当時の様子を見ることが出来ます。

 そしてなにを隠そう,私がこの本を手にしたのは16歳の時。当時バイトをしていた大阪のジャンク屋デジットにあったこの本を休み時間に眺めていたのですが,その面白さにすっかりはまってしまい,店長にしばらく貸して欲しいとお願いしたのです。

 店長はニコニコしながら,「ええよー,でもかえしてな」と許可をくれたのですが,現在も私の手にあるという事は,つまりその,お返しできていないということです。

 当時は他のデータブックと同じく,お店の備品と思っていたのですが(それでも悪いことには違いない),冷静に考えると1964年にデジットがあるはずもなく,きっと店長の私物だったんだろうなあと思います。

 そういえば,当時の売り物に,進行波管がありました。おそらくこれの仕様か何かを調べて,そのまま店頭に置かれていたんでしょうね。

 あくまで「まだ借りている」本ですが,それでも私の宝物の1つです。


・NECエレクトロニクスデータブック1961
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 手帳型のポケットデータブックです。かさばらずポケットに入れておくことが可能なデータブックです。最近古本屋で購入しました。1000円という値段につられて買いましたが,あまりに程度が悪く,食べこぼしなどもあって,さすがに保存には抵抗があって,スキャンして捨てました。

 ポケットサイズとはいえ,かなり広範囲の品種を網羅していて,1964年版のデータブックに近い内容になっていますが,いかんせん文字も図も小さすぎてかなり見にくいです。

 また,真空管については特性の一覧とピン配置が確認出来る程度の資料であり,特性曲線などは掲載されていませんので,まさに現場でさっと確認という目的で作られたものでしょう。

 掲載品種はテレビやラジオ用のメジャーな真空管はもちろんのこと,水冷の送信管やクライストロン,進行波管といったNECの得意技を始め,撮像管,ブラウン管もテレビ用からレーダー用,みんな大好きニキシー管やリレー放電管,光電管まで幅広く,様々な品種のデータが記載されています。

 参考回路もさすが真空管時代の最後のピークといえて,熱陰極グリッド放電管による位相制御,計数管によるカウンタなどが掲載されています。

 半導体は本当に初期のものが掲載されていますが,真空管と違い,特性曲線などの詳細なデータも記載されています。あと,この時すでにバリキャップがラインナップされているんですね。セレン整流器やゲルマニウムの整流ダイオードがまだ現役だった時代ですから,ちょっと驚きました。

 そして,さすがポケットデータブックだなと思うのは,単位の換算表,ギリシア文字の読み方や元素の周期表,三角関数表や摂氏と華氏の換算表,当時のテレビとラジオの周波数と送信電力の一覧,各国の時差と通貨のレート(当時は1ドル360円の固定相場制です)などの便利データが用意されています。

 面白いのは,旅行用品のチェックリストで,19品目書かれています。こうもり傘とか空気枕,みやげというのがちょっとほほえましいですね。

 そして最後に,1961年と1962年のカレンダーと住所録,本籍地や家族の生年月日を書く個人メモ欄で終わっています。いやー,当時の日本人の合理性というか,幕の内弁当っぷりを見せつけられた気がします。


・NEC電子デバイスデータブック〈半導体・集積回路編 1972〉 (1972年)
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 誠文堂新光社刊のデータブックで,A4サイズで1000ページを越える大型本です。1970年代の半導体を見てみたくて,買いました。書き込みからどこかの大学の研究室に置かれていたもののようで,古本屋で最近買いました。確か5000円ほどだったように思います。

 内容はかなり充実しています。本当にこれが1972年のデータブックなのかと思うほどおなじみの部品が出ています。NECは業界でも早くにゲルマニウムからシリコンに移行した半導体メーカーとして知られていますが,その結果完全にゲルマニウムトランジスタは過去のものになっています。

 でも1972年だなあと思うのは,やはりこの頃品種を増やしつつあったICです。TTLが主役になりつつある時代で,まだDTLも使われている時代です。カラーテレビがIC化される時期でもあって,今はもう見る事のない古い世代のICが目白押しです。

 個人的には,uPA63Hなどが登場するもう少し後のデータブックだとよかったのですが,まあ贅沢はいえません。


・東芝半導体ハンドブック1
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 これも誠文堂新光社刊で,昭和37年といいますから,1962年のデータブックです。前書きには,これまで真空管なども全てまとめていたが,掲載品目が増えたので半導体だけ分けたとあります。古本屋で3500円くらいで買った記憶があります。

 この本を買った最大の理由は,ゲルマニウムトランジスタのデータを見たかったからです。東芝は比較的遅くまでゲルマニウムトランジスタを作っていましたし,2SB56などの定番も持っていたメーカーでしたが,よく考えるとそれらのデータを私は見たことがありませんでした。

 そこで手に入れて見たのですが,2SA52,2SB56などの定番とその後継ゲルマニウムトランジスタ,出たばかりのシリコントランジスタ,ダイオードや初期のサイリスタなど,もうウハウハ宝の山という感じです。(現物がないのに宝の山とはいいません)

 はっきりいって,この本の価値は,ゲルマニウムトランジスタ全盛期のデータブックということに尽きます。

 ただし,半導体といいつつ,ICはまだ1つも掲載がありません。1961年のNECのデータブックにも記載はなく,1964年には初期のものが少し登場しているので,まあそんなものという感じでしょう。

 その代わり,B級プッシュプルでは必ず目にした温度補償用のサーミスタやCdSなどが掲載されており,当時の回路と部品の有りようがよく分かります。


・東芝半導体データブック トランジスタ 1980年
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 メーカーから直接配布されていたと思われるデータブックで,緑色の表紙のものです。1980年1月のものですから,実際の内容は1970年代後半で,日本の電子技術がいよいよ世界に勝負を挑む,そんな勢いを感じます。

 このころの東芝は,とっくにトランジスタのシリコン化を終えていまして,ゲルマニウムトランジスタは全く登場しません。また,この段階ですでに2SC1815と2SA1015というスーパーデュオが掲載されていますので,古いという印象は受けません。

 それに,俗に言う「袴つき」のパッケージはもう消え失せています。2SC372も2SA495も,全部TO92です。

 残念なのは,このデータブックがトランジスタに限定されていることです。東芝と言えば国内でも屈指の品種を誇るICメーカーで,1980年代の自社の家電を支えた立役者なわけですが,この頃既にICだけで別のデータブックが出来てしまうくらいの品種が揃っていたのです。

 後にトランジスタでさえ小信号トランジスタだけで分けられてしまうのですが,この頃は民生用のリニアICが百花繚乱絢爛豪華な時代ですから,そんな個性的なICの仕様をこの分厚さの本で見ることが出来たら,枯れることのない泉を止むことなく汲み上げるかのような,満ち足りた気分を味わうことが出来ただろうにと,悔やまれます。


・半導体技術資料 電界効果トランジスタ(FET)第2版1984

 メーカーが配布したものですが,データブックというよりはその名の通りFETに関する技術資料です。この当時,FETといえばオーディオか高周波で,品種も接合型が主役で,一部高周波用には4本足のMOS-FETが少し使われているような時代でした。

 そんな頃のFETだけでまとまった資料はとても詳しく,個別の部品のデータを調べるための資料性の高さに加えて,FETを使うとこんな幸せになるよ,という解説にも主眼が置かれています。

 FETの基礎,原理に始まり,当時開発されたばかりの内部でカスコード接続されている次世代のMOS-FET,2SK241に詳細な解説が出ています。読み応えはかなりあります。

 実はこれ,数年前にスキャンして捨てようと思った事が何度かありました。A4サイズでしたし,2SA30Aや2SA389,2SK170といったオーディオでは今でも使われるものから,2SK19や2SK241,3SK73などのおなじみのデバイスが出ていたので残して置いたのですが,今にして思うと残して置いて良かったと思います。なにより和文タイプの手作り感が,この頃の東芝のデータシートには漂っています。


・1962ナショナル真空管ハンドブック

 これは半導体ではないですし,それに復刻版で10年ほど前に購入したものです。当時のオリジナルも,復刻版も誠文堂新光社から出ています。

 1962年と言えば,真空管はそろそろ下り坂にさしかかるころです。その頃の松下はフィリップスと提携をしており,アメリカをお手本にしてきた東芝やNECとは一線を画した,ヨーロッパをお手本にした優秀な真空管を多数製造していました。

 ある意味では,この頃のデータブックが一番充実していたとも言えるわけで,それがこうして復刻されたという事に,当時もとてもありがたいと思ったものです。

 実は,昨今の真空管アンプブームは,大抵の真空管のデータをPDFで入手出来る環境を作ってくれました。メジャーな真空管は当たり前ですし,特殊なものであっても,市場に出ているものについては誰かが必ず用意してくれているものです。

 ですから,今はこうしたデータブックのありがたみというのは,それ程ではないのが実情です。しかし,巻頭に書かれた解説などはとても興味深く,勉強になるものですし,当時どんなものがラインナップされていたかを知る貴重な資料です。

 惜しいのは,やっぱりトランジスタも見たいなあということです。

 フィリップスとの提携は真空管だけではなく,トランジスタやダイオードも含まれていました。ですからゲルマニウムダイオードは1N34でも1N60でもなく,OA90なのです。

 また,トランジスタもヨーロッパのOC~という品種の互換品を作って2SB~としていたりと,ちょっと他とは違うメーカーでした。例えば2SB178はOC72だったりします。それに,どういうわけだか,日本で一番長くゲルマニウムトランジスタを製造していたメーカーでもありました。

 そんなパナソニックは,現在でもディスクリートのトランジスタやショットキーダイオードの大メーカーとして知られています。

 てな具合に,古いデータブックを積み上げてみると,なんとも言えぬ幸せ感があります。酒の肴にまさにぴったり。当時の独特の文体である「~に好適であります」といった言い回しなど,くーっ,アルコールと一緒に脳のひだひだに染み渡ります。

 たまりません。

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