エントリー

カテゴリー「マニアックなおはなし」の検索結果は以下のとおりです。

VM型カートリッジを買う

 オーディオテクニカが,カートリッジの値上げを発表しましたが,周囲の評判についても私自身の意見についても,値上げ後の価格が妥当だという印象から,それでもカートリッジを続けてくれることがありがたく,おおむね好意的なものがあります。

 特に私が先日購入したAT-F3/2については,1万円を切る価格であのクオリティですので,はっきりいって大盤振る舞いだったといえて,価格改訂後の価格が15000円になったとしても,それでも十分にお買い得であることは明らかだと思います。


 むしろ,儲からないからやめた,という話が出たり,価格改定するくらいなら製造中止にしてしまえと考えないあたり,カートリッジを大切にしているんだなあという印象を受けます。さすが,オーディオテクニカはカートリッジでスタートした会社だけあります。

 カートリッジやターンテーブルを支えたDJという用途は,実のところディジタル化が進んでいて,すでにCDを使ったスクラッチのシステムが一般的になっています。ベスタックスなどはDJ機材のメーカーで,別にアナログ機器が売れなくてもその代わりにディジタル機器が売れればいいわけですからそれほど問題はないだろうと思いますが,カートリッジのメーカーはもしDJ用に消費されないと,本当にもう撤退するしかないんじゃないかと思います。

 特にDJでよく使われるMMカートリッジは,安価で使いやすいカートリッジなわけですが,針交換が出来るというメリットがある反面で,金型による製造が不可欠なので手作りが出来ず,ある程度の数がまとまらないと作ることが出来ないものと言われています。

 だから,DJたちがハードなプレイで針をどんどん消費してくれる今は,MMカートリッジは成り立つのかも知れません。一方で高級とされるMCカートリッジは,極論すれば1つからでも手作りが出来るので,中小メーカーによる工芸品がたくさん市場にもあるんですね。

 これら工芸品は,ピュアオーディオ用途に限定されているので,数千円で買える必要はありません。1つ100万円でも,性能が良ければ数は少なくても売れる世界ですので,今後はよくいわれるように,MCカートリッジしか残らないのではないかと思います。

 しかし,MMカートリッジにも名品と呼ばれる物があり,それは強烈な個性を持っていて,今なお多くの人に愛されていることはご存じの通りです。

 私はMCカートリッジを持っていなかったので,評判の良い低価格のものをとして,偶然にオーディオテクニカのカートリッジを選んだわけですが,そのさわやかで現代的な音と愚直な姿勢にまたも(というのは,ヘッドフォンでも同じような体験をしているからです)感銘を受けることになったわけです。

 オーディオテクニカにはMM型にも強烈な個性があり,それはVM型と呼ばれているのですが,カッターヘッドと相似形であることで,チャンネルセパレーションの高さや歪みの少なさを売りにしている,独自のカートリッジです。

 ですが,カートリッジの性能は価格に比例するというつまらない宗教にがんじがらめになっていた私は,1万円以下のカートリッジにそれほどの興味を持たずに来ました。

 それはAT-F3/2を買ったことで誤りであったことを知るのですが,そうなるとオーディオテクニカがMM型という汎用・大量生産品のカートリッジをどう考えて作っているのか,とても気になってきます。

 そこで,値上がりの前に買うという理由を作って,前から気になっていたVMカートリッジを買ってみることにしました。

 AT7Vというカートリッジです。AT-F3/2と双璧をなす価格帯のカートリッジです。どちらも実売で9000円ほどとなっており,使われている素材や設計思想なども,極めて似ているような感じです。

 AT-F3/2があれほど素晴らしかったので,このAT7Vにも否応なしに期待がかかります。高級な素材をふんだんに使い,広帯域を目指したカートリッジは,その個性であるチャンネルセパレーションの高さと相まって,おそらく透明度の高い音を聴かせてくれるのではないでしょうか。

 シェルは,お気に入りのMG10です。これはシンプルで安く,剛性感のあるしっかりとしたシェルで,実売1800円というお買い得感もたまりません。これも6月から値上げされるのですが・・・

 週末に届いたので,早速聴いてみます。

 第一印象は,私の期待通りで,非常にワイドレンジ,透明感があり,音が「遠い」ところでなっているような印象です。どの周波数にもクセはなく,どの音も等しく,公平に出ているようです。

 V15typeVxMRと比較してみると,やっぱりV15typeVはボーカリストの口が目の前15cmの距離にあるというイメージで,それ以外の音ははっきりいって埋もれてしまいます。でも,ボーカルの曲はボーカル以外の音を聴きたいわけではないので,V15typeVxMRは,なんだかんだで大したものだなあと思いました。

 AT7Vはそのへん,どの音に対してもどの楽器に対しても実に平等で,すべての音が聞こえてきます。実際VM型としては高域が良く伸びているカートリッジなのですが,その繊細な高域が濁ってしまわないように,素材を厳選してあるのがありがたいです。

 破綻なく,低い音から高い音まで,特に味付けや誇張を一切廃し,ストレートにある物をそのまま拾い上げるという印象のAT7Vですが,VM型という形式がカッターヘッドと相似形である事と,オーディオテクニカの,明るく現代的というコーポレートとして持つ音のキャラクタが,8000円ちょっとのカートリッジにもここまできちんと盛り込まれていることに,やっぱりすごいなと言う他ありません。

 安くても妥協はしてないという点で,AT-F3/2と共通のスピリットを感じました。

 AT-F3/2とも聞き比べてみましたが,AT-F3/2の方が繊細で,線が細いのですが,解像度は圧倒的に上だと感じました。AT7Vでも十分すぎる音ではありますが,AT-F3/2はさらにその上だと言えるでしょう。

 MM型の個性として,ナローレンジ感と中低域の存在感が欲しい人にとって,MCカートリッジの個性に似ているAT7Vは中途半端な存在に見えるかも知れません。しかし,そこはやっぱりMM型の親戚です。しっかりした太い中低域はしっかり存在していて,そこにきらびやかな高域が重なってくることを,MMでもMCでもない個性だと考えると,これもまた面白いと思わざるを得ません。

 無骨でデザイン的には決して美しいと言えないカートリッジですが,とても良い個性のカートリッジを手に入れました。レコードにあわせて,聞きたい音に合わせて,カートリッジは積極的に選ぶべき物です。個性のあるカートリッジを手に入れることは,それだけ楽しむ範囲が広くなると言うことですので,歓迎すべき事です。

 そうなると,無個性であることが個性として認知されている定番中の定番,DENONのDL103を買わずにはいられないんだろうなあなどと,感じています。

B20を作る

ファイル 119-1.jpg

 2月末から取り組んでいたブラスキットが,ようやく完成しました。

 今度のキットもワールド工芸のもので,以前買い逃した国鉄の蒸気機関車B20型のNゲージ,今回はトップナンバーをモデル化したリニューアル品です。

 前回のキットは,欲しいときには既に完売となっており,どこを探しても見あたらない状態だったのですが,どうも今回のキットはかなり細部が改良されているようで,前回はロッドが動作しなかった(それでも自走するというのは当時としても驚異的だったといいます)のに対し,今回はなんとロッドが動作するというではありませんか。

 ワールド工芸というと,忠実なスケールに細かいディテール,そして美しいプロポーションにこだわるメーカーとしても知られていますが,あの豆タンク蒸機B20をどうやってそこまで再現するのか,興味は尽きません。

 3週間ほどの発売遅れがあり,ようやく手に入ったキットですが,価格が安いのでなめていたところ,とんでもない代物であることがわかりました。

 まず,部品が小さい。何かに固定してハンダ付けを行おうとしても,固定することすらままなりません。

 小さいということは熱がすぐに回るということで,先に取り付けた部品が,別の場所のハンダ付けの際にぽろっと取れてしまうこともしばしばです。

 なにせ指でつまんで位置を合わせながらハンダ付けを行うという作業が,熱がすぐに回って熱くて出来ません。そこで今回はマッハ模型から出ている耐熱指サックを導入します。もともと強力なステンレス用フラックスで指がボロボロになるを防ぐために,指サックは必要だろうなあと思っていたのですが,耐熱性がないとダメだからと見送りにしていたこともあって,ちょうど良かったと思います。

 この指サックの効果は絶大で,サクサク作業が進みます。大型の模型を作るときにはあまり意識しないかも知れませんが,これくらい小型になるとやはり雲泥の差だと思います。

 そうしてどうにかこうにか出来上がったボディがこれです。

ファイル 119-2.jpg

 大きさが分かるものを一緒に置いて撮影すれば良かったと思うのですが,そうですね,大きさとしてはメモリースティックより少し大きいくらいですかね。

 部品点数は多くないので,位置決めがきちんと出来れば時間はそんなにかかりません。

 続いて足回りを作ります。最近,模型用の超小型モーターが手に入るようになってから,ワールド工芸も積極的にこれを採用し,B20の細いボイラー内部にモーターを仕込むことが出来るようになりました。その代わりパワーはないし,過電圧で焼損する可能性もあったりして,一般向けには厳しいのではないかと思います。

 足回りもなかなか大変でした。

 まず,フレームと台枠を作るのですが,先にギアを取り付け(これは簡単),その後車軸を入れてから車輪を圧入します。私はここで万力を出すのをさぼって大きめのペンチで押し込んだのですが,そのせいで車輪に傷を付けてしまいました。後にこの程度の問題は気にならなくなります。

 車輪を押し込んだら,ホイール部分を圧入します。ここにロッドを取り付けます。

 このロッドが非常に細い上,加減リンクはステンレス製で,しかもハンダ付けを必要とするものだったりします。これはもうステンレス用フラックスを使うしかありません。

 細かいハンダ付けと,取り付け順序を間違わないように(間違うと先に進めず後戻りを余儀なくされます)作業を進めることに気が滅入りつつ,なんとかかんとか形にしました。

 モーター取り付け前の段階でスムーズに動作することは確認できたので安心してモーターの取り付けをします。ウォームギアをエポキシ接着剤でモーターのシャフトに取り付け,固定されるのを待ってから慎重に位置決めし,一気に高い温度でハンダ付けします。ここで温度を下げたハンダゴテを使うと,熱の回りが遅くなり,モーター全体を高熱にさらすことになり,失敗のもととなります。熱が拡散しないうちに,必要な場所だけさっと暖め,ハンダをのせるのがうまくいくコツです。

 そうそう,今回は初めて,温度調節機構付きのハンダゴテを使って製作をしています。偶然手に入れたもので,最初は使い慣れずに難儀していたのですが,なれてくるとハンダ付けを行う対象に応じて温度を調整することも出来るし,電源を入れて使えるようになるまでの時間も短く,なかなかよいです。

 モーターを電源器につないで回してみると,これもなかなかうまくいきます。そこで注油を行ってよりスムーズに回そうとしたのですが,この結果圧入したはずの車輪とホイール部分が空回りを始めてしまい,瞬間接着剤で固定をすることにしました。

 しかし,油が馴染んだ部分に瞬間接着剤を使っても意味はなく,結局予備の車軸に交換することになりました。この作業はかなり難しく,結局ほとんどの作業をはじめからやり直すことになってしまいました。

 そんなこんなで,出来上がったのがこれです。

ファイル 119-3.jpg

 実は,この段階では大きな問題に気が付いていません・・・

 さて,ここまできたら塗装です。蒸気機関車は黒がメインなので楽ちんですが,その分おもしろみにかけますね。

 いつものように中性洗剤で洗浄し,超音波洗浄機で細かい部分の油分やフラックスを落とします。続けてマッハ模型のブラスクリーンで錆を落とし,良く乾かしてからマッハ模型のメタルシールプライマーで下塗りをします。

 それから光沢具合を調整した特製セミグロスブラックを吹き付け,同じく特製クリアで仕上げます。

ファイル 119-4.jpg

 ところでこのB20にはウェイトが付属していません。しかしこのままでは軽すぎ,牽引力不足は当たり前,集電すらままならないという有様だそうです。そこで説明書にもウェイトを追加することが推奨されていますが,どこにそんなスペースがあるのかと首をひねってしまいます。

 こんな時は,やはりマッハ模型(マッハばっかりですねえ)のマイクロウエートの出番です。鉛を0.8mm位のボールにしてあるもので,これを溶かさずそのまま接着剤や塗料で固めて使います。ボール状ですので隙間に流し込み,そして固めることでどんな場所にもウェイトを積めるというのが素晴らしいです。

 私の場合,左右の水タンク,ボイラーの先端部に詰め込んでいます。キャブの後ろ側にも詰め込んだのですが,あとでDCCデコーダを組み込むときに邪魔になり,外してしまいました。なお,固定にはトミックスのシーナリーボンドを水で薄めて使っています。失敗してもやり直せるので気楽でいいです。

 さて,ボディと足回りの合体です。今回は比較的組み立て精度も良かったせいか,合体作業に問題は出ませんでした。問題がなさそうなことを確認し,DCCデコーダの取り付け用のリード線を長めに出しておき,合体させます。

 カプラーは付属のものではなく,IMONで売られている台湾製のカプラーを常用しているのでこれと交換しますが,カプラーのホルダーをビスで固定するときにビスをへし折ってしまい,ハンダ付けでごまかしました。急なカーブを曲がるときに,連結が外れてしまうかも知れません。

 さて,いよいよDCCデコーダの組み込みです。今回は特にスペースが厳しいのでDZ123しかありません。キャブに収まることは確認済みなので,配線をして黒いテープで絶縁し,なかば強引に押し込みます。

 そして最後の最後に,集電バネをビス留めして,完成!となるはずでした。

 DCCデコーダ組み込み後に車輪の左右がショートしていないかを確認すると,見事にショートしています。これはおかしい。原因はDCCデコーダ組み込みの失敗でしょう。分解して確認をしますが,ショートの原因はDCCデコーダではありません。

 ではどこだろう・・・答えは,足回り全体でした。

 私は,これはワールド工芸の設計ミスではないかと思っているのですが,シリンダとピストンのシャフトが絶縁されておらず,ここがショートするのです。

 シリンダは鋳造品で,ピストンのシャフトが入り込む空間はかなり大きめに作られています。実際にピストンのシャフトが触れるのは,これを支える真鍮製のガイドです。このガイドは直径0.5mm程なのですが,黒で塗装する部分なので,実は塗料によって絶縁されます。

 しかし,絶縁を意識した塗装ではなく,あくまで外観上の塗装に過ぎません。真鍮モデルを塗装しない人もいるのですが,そういう人はまずショートするはずです。

 私の場合,塗装が弱くなっている部分が作業中に剥がれてしまい,ここがショートの原因となっていたことに加え,精度の問題から一部シリンダの内部に直接ピストンが触れてしまう場合がまれにあり,これが原因でショートしていました。

 困りました。こんなに小さい模型ですから,可動部分を温存したまま効果的な絶縁をどうすればいいものか・・・今回ばかりはもうダメだと思いました。

 思いついた方法は,まずマスキングテープを直径1mm程の丸めてパイプを作り,これをシリンダ内部に差し込みます。その後細い針金で内径を広げ,ピストンのシャフトが抵抗なく前後できるように調整をします。これで絶縁は出来たはず。

 ほとんどショートはなくなり,DCCデコーダの動作も確認できたのですが,それでも時々ショートを起こします。ロッド類の細かい調整を繰り返しながら,なんとか連続運転が可能になるところまでだましだまし持っていきました。

 最後にナンバープレートを接着して完成です。

 そして試運転。

 結果は散々で,全く動作しません。集電不良を起こしているようです。集電能力を向上させるLOCOを使って徐々に走るようになってきます。

 走るようになると,足回りから赤い火花を出し,ショートしていることがわかるようになります。コントローラも頻繁に瞬間的なショートを起こしていることを示しています。

 確認すると,ロッドの遊びが大きく,これが車輪に触れてしまうことがあるようです。それでも左右の車輪がショートするわけではないので問題はないはずなのですが,やはりシリンダとピストンのシャフトの接触が起きているようで,片側が接触しているような時に車輪とロッドが接触すると,ショートが起こるような感じです。

 そこでロッドを少し曲げて,遊びが大きくなっても車輪に接触することがないようにしました。

 これで完璧。スローもきくようになり,思い通りに速度調整ができます。DCCデコーダのパラメータを設定し,このモーターの限界電圧である8Vを上限に設定,中間電圧を低めに設定して操作をやりやすくして完成です。

 30分ほどの走行試験を終えて,早速貨車を連結しました。軽いせいで牽引力は弱く,ワムくらいだと2両でうちの勾配は上れません。平坦線では5,6両は軽いと思うのですが・・・

 苦労はしましたが,最終的にいい感じに走る機関車に仕上がりました。作る作業そのものは部品も少なく大した手間でもなかったのですが,やはり小さいこと,そして電気系の問題に苦労したことで,このキットは上級者向きだと感じました。

 なんでもこのキット,大人気で発売と同時に完売したそうです。再生産が決定したらしく現在予約を取っているようなのですが,かわいいからとか,安いからとか,そんな軽い気持ちで取り組むと,思ったような結果が得られないかも知れませんよ。

ペンタブレット訂正

 先日書いたペンタブレットに関してですが,2つ訂正があります。

(1)MacOSXでのバックライトの自動消灯に関して

 バックライトが自動的に消える設定にしてあっても,タブレットを接続してあると消えてくれないという問題ですが,先日消えていました。あれから何度か再起動を行っているので,それで直ってしまったのかも知れません。ということで,USBにつなぎっぱなしが出来るようになりました。

(2)マウスはいらないのではないか

 マウスに関して,せっかくだしとりあえず調整だけはやっておくことにしたのですが,そうやっていつでもマウスが使える状態にしてあると,いつの間にかマウスに手をかけて違和感なく使っていることが何度かありました。

 キーボードを中心に使っているときはトラックパッドが便利なのですが,そうでないときには真卯を使っていることもあるようです。

 まだまだ使用頻度は低いですが,必要なし,使い物にならん,というほど悪いものでもないということにしておこうと思います。

LPレコードを久々にならして思ったこと

 昨日,久々にLPレコードをかけてみようという気になりました。数年も使ってなかったのでちゃんと動くか心配になりましたが,幸いなことに,記憶にあるLPレコードの音と違っていません。

 一気に聴いたThe BeatlesのABBEY ROADですが,20年ほど前に購入した再販された国内版で,当時のもの(考えてみるとオリジナルの発売から40年近くが経過しているわけですね)とは違うのですが,実は先日から読んでいた「ある本」に看過され,やはりThe BeatlesはCDではなく,アナログレコードでなければならないかも知れないな,再販ものとはいえCDよりはエンジニアが込めた魂を感じることが出来るかもなあ,とそんな風に考えたのが,手間をかけてもLPレコードを聴いてみようと思ったきっかけです。

 ジャケットはすっかり黄色くなってしまいましたが,中のレコード盤は当時のまま。ターンテーブルの電源をいれ,レコード盤を置き,さっとクリーナーでホコリをぬぐって,針を落とします。

 真空管のパワーアンプと,自作のイコライザアンプはもう十分に暖まっています。

 自分の耳にさっぱり自信のない私ですが,The Beatlesのアルバムでも,特にRevolver以降については,LPレコードで聞くとまるでヴォーカルが目の前にいるような,そんな錯覚に陥るのです。

 中学生だった私は,オーディオマニアだった私の叔父がV15typeIIIで聴かせてくれたLet It Beのヴォーカルの生々しさに,それまで自分が使っていた安物のオーディオシステムとは別世界の音を垣間見て心底感激したことがあります。

 以後,私の目標は,The BeatlesのLPを生々しく再生できることに置かれることになるわけですが,理屈の上ではCDの登場によってこの目標は軽く達成されるべきだったはずです。

 しかし,私個人の主観的結論で言えば,そうはなりませんでした。

 数値上の比較において,やはりCDとLPレコードでは明らかにCDが勝っているということは否定出来ません。加えてLPレコードは再生に使う機材によって音が大きく変わるので,どれが正しい音(正しい音の定義は難しいですがここでは原音と一致する音,ということにします)なのかがはっきりしません。機材の価格が上がれば原音に近づくと言い切れるわけでもありませんから,非常に不安です。

 その点,CDは再生に使う機材で変化する音の差が小さいですから,多少の差異はあっても作り手の音がほぼストレートに出てくるものだと考えて良いわけです。

 そこまで頭で分かっていても,やはり改めてLPレコードを聴くと,目の前にヴォーカルが現れます。CDでは残念ながら,それはないのです。

 思いこみでしょうね,どう考えても。LPレコードをかけるまでにかかる手間が呼び込む心理的影響とか,大きな円盤がゆっくり回っている視覚的な効果によるものとか,そういうものも大きなバイアスを与えているはずです。

 それでも,仮にそれらのせいであったとしても,また作り手の意図とは違った音に再生されてしまっているのだとしても,結果としてLPレコードの方が私にとって心地よいなら,もうそれでいいと思うのです。

 考えてみると,原音に忠実な再生を目指していたのはいつの時代も同じであったはずなのに,カートリッジ1つで大きく音が変わる世界を許容し続けていたかつてのオーディ業界は,そもそも矛盾していたのではないか,と思います。V15にはV15の,DL103にはDL103の,SPUにはSPUの音があったわけで,それらを交換して楽しむというLPレコードの面白さは,実は原音再生という基本方針に背く可能性もあるのです。

 このことをどう考えたらいいのか,私はちょっと困っています。作り手はここまで生々しいヴォーカルを感じて欲しいわけではないかも知れません。しかし私はCDを規準にした場合において,大きくかけ離れ,色づけされた再生音を心地よいと感じてしまっているのです。

 許されることがあるとすれば,頭の形も部屋の大きさも,もちろんこれまで生きてきた環境も時間も違うから,同じ音でも人によって違って聞こえるということが前提にあり,その上で経験が支配的な「感性」の問題として,作り手と聞き手の「心地よさ」が一致するためには再生音の物理的データが異なっていて当然,という結論でしょうか。

 この物理的データの違いを,もしも「好み」というのであれば,オーディオはある水準から上は,すべて好みの問題ということになります。(水準に満たないシステムは論外で,そのためにある程度の経済的負担はやむを得ません)

 私はエンジニアという仕事柄,数字で表現されることを第一に考えてきたのですが,最近それだけでは片付かない問題が多いことに考え込むことが増えました。それらをなんでもかんでも「好みの問題」で片付ければ楽ちんですが,もう一歩踏み込んで,その好みの差の存在を胡散臭い印象から遠ざけ,気持ちよく肯定するにはどうすればよいかを,しばらく考えていたのです。

 昨日LPレコードで聴いた時に,考えついた結論は,前述のようなものでした。こうすれば,作り手も,CDも,そして音がコロコロ変わるLPレコードも,すべての世界を肯定することが出来ます。

 そして最後は個人的な好みがすべて。好き嫌いがきちんと許された世界観とは,なんと気分の良いものでしょうか。

 かくして「原音からどれくらい変わったか」を肯定的に楽しむLPレコードの面白さが正当化されるに至り,その懐疑的な意識は薄れ,自由な楽しみ方を得たような気分になったわけです。

 そう考えるとますますLPレコードが面白くなるものですね。目標は原音に忠実にあることだけではなく,私にとって心地よい音であること,です。

 心地よさは原音に忠実ではないという後ろめたさに悩まず,胸を張ってオーディオを追求していきたいなあと,気持ちを新たにした,そんな午後でありました。

 ある水準,は,CDのようなディジタルオーディオでは非常に低く,LPレコードのようなアナログオーディオは非常に高いものです。

 同時に,CDは水準を超えた所からの「心地よさ」への追い込みが,差が小さいだけに難しいのに対し,アナログオーディオは,お金をかければ,あるいは工夫をすれば,どんどん音が変わっていきます。ある水準に達するのが大変でも,そこからどんどん追い込めるアナログオーディオは,本質的に異なる世界なのかも知れません。

Skypeフォンを使ってみて

 年末に実家で使うと便利だろうと,ずっと迷っていたロジテックのSkypeフォン「LAN-WSPH01WH」を買ったことは,ここに簡単に書きました。

 あれから3週間ほどの時間が経ち,それなりに使ってみたので感想を書いておこうと思います。

 結論だけ先に書くと,これは実にいい。ただし決しておすすめはしない,という感じです。

・よい点

(1)やっぱSkype
 通話品質,ややこしい設定が全く必要ない,コンタクトリストなどは端末ではなくサーバーに存在するなど,とにかく簡単で高品質なSkypeであることは,何にもまして重要な利点です。

 通信や電話というのは,相手がいて初めて価値を生むものですが,Skypeはユーザーも多いために,結局かける先が見つからない,ということはなく,これが単なるおもしろガジェットに終わらないところでもあります。

(2)なんと言ってもスタンドアロン
 PCがなくても,PCにSkypeが入ってなくても,とにかく無線LANさえあれば世界中のSkypeに電話をかけたり,受けたりできます。もし,屋外や他のお家で利用可能なネットワークがあればその活用範囲は非常に広がります。

 仮に家の中だけだとしても,PCをいちいち立ち上げる手間はかかりませんし,Skypeはそれなりに重たいアプリですから,PCの負荷の状況で音が途切れたりします。そういう要因を完全に分離できるという気楽さは,スタンドアロンでしか味わえません。

 よく似た製品に,ワイアードのハンドセットのケーブルを無線にした安価な製品がありますが,これは通話にPCが必要ですから,ワイアレスであってもスタンドアロンではありません。

(3)結構軽い
 100gちょっとの重さというのは,携帯電話と比較しても十分軽い部類です。Skypeは無料通話が魅力なわけで,これが重かったり持ちにくかったりすると長電話をする気になりません。この点は心配していたことではありますが,1時間程度の通話については全く無理がありません。

(4)完全にワイアレス
 最近よく見るUSBのハンドセットと違って完全にひもがなくなります。ケーブルっていうのは意外に重量を持っていますし,引っ張られる力に抗するため,腕には結構な力が入りっぱなしになっているものです。

 このケーブルが何かに引っかかっていたりするともう最悪で,一見するとこうしたハンドセットは電話機のメタファーを持ち込んだ「良い商品」に感じるものですが,実際に使ってみるとなんとも中途半端で,悪い点ばかりが目につくようになるでしょう。

 PCでSkypeを使うなら,蝶手がフリーになるヘッドセットを使うべき,です。

 Skypeフォンは完全にワイアレス。電源さえも自己完結していますから,それがSkypeなのかどうかさえ忘れてしまうほど快適です。

(5)音響的な設定やトラブルから解放される
 Skypeを使った人なら経験したことがあるとは思いますが,マイクの種類,位置やマイクのゲインの調整など,良い通話品質を確保するためになかなか面倒な設定が必要になります。

 また,この手のマイクやヘッドセットには安価なものが多く,音を拾うという基本性能に老いてでさえも,当たりはずれがある実に難しい世界です。

 また悪いことに,自分の聞こえている音を改善するには,相手の設定を調整してもらう必要があるわけで,結局妥協して使っている人が多いのではないでしょうか。

 そこへ行くとこの商品,音響的な設定や調整はすでに最適な位置に固定されています。相手に対しても安心して電話をかけることが出来るというのは,手間を省くと同時に気分もいいものです。

(6)電池寿命なども実用性十分
 連続通話が3時間,連続待ち受けが30時間というスペックです。人によっては短いと思う人もいるかも知れませんが,普通3時間もあれば十分でしょう。

(7)SkypeOutにも完全対応
 Skype同士の無料通話だけでもそれなりに便利ですが,市内電話料金で一般の固定電話にかけられるSkypeOutというサービスにももちろん対応しています。ということは,無線LAN環境があれば,世界中のどこにでも市内電話料金で通話が出来るということです。
 
 私は使っていませんが,SkypeInにも対応しますので,こうなると本当に電話と全く同じです。


・悪い点

(1)高い
 実売で約2万円ですからね,確かに中身を考えると安いくらいだと思うのですが,Skypeは2万円出さないと使えないサービスではなく,マイク内蔵のPCを持っていれば,手持ちのイヤホンを用意するだけですぐに利用できるわけです。2万円対0円。それで結局出来ることは全く同じなわけですから,どれほど便利であってもおすすめできる代物ではありません。

(2)安っぽい
 2万円という価格は,昨今なかなか価値ある金額になっていると言えて,特に日本では価格相応の質感や作りの良さが評価されるようになる価格です。

 海外では許されても,日本でこの安っぽさが2万円,という点を不満と考える人は多いでしょう。私は全然気になりませんが。

(3)クレイドルが別売り
 連続通話が3時間,待ち受けが30時間というスペックは十分であると思いますが,毎日使う人は最低数日おきに充電が必要でしょう。電池寿命の短い製品こそ,充電スタンドやクレイドルが必要で,本体には充電用の接点も用意されているにもかかわらず,別売り(少し前は別売りさえもなかった)というのはもはや論外でしょう。

 私もクレイドルは買いましたが,これがあるのとないのとでは,まさに雲泥の差です。

(4)待ち受け時の電池寿命が短い
 待ち受け時の電池が30時間しか持たないのでは,電源を入れっぱなしでは使えません。20時間待ち受けして通話を始めてしまったら,おそらく数分で電池が切れるでしょう。

 この電池寿命なら,少なくとも常時充電の必要があるし,電池の充電サイクル寿命が1年程で尽きるわけですから,交換用の電池の供給もきちんとフォローしてもらう必要があります。

 着信を考えないなら電源をいちいち切るというのが結局のところ最善ということになってしまいますが,後述のようにこれはこれでちょっと面倒なことがあります。

(5)バグ
 仕方がないことですが,バグもあります。私が困っているのは,セキュリティに関する設定が電源OFFでリセットされること。電源を入れる度にセキュリティ設定をやり直さなければならないののは,ついうっかり忘れてしまうものです。

(6)音声通話以外の機能がない
 これも早くから指摘されていることですが,Skypeにはチャット機能もあって,ユーザーも多いようです。それなりに使えるLCDとテンキーがあるのですから,携帯電話と同じ感覚で,チャット機能が利用できると私もいいなと思います。でも,日本だけで必要になるかな漢字変換の実装をしないと使い物にならないわけですから,実現性も低いでしょうね。

(7)起動に時間がかかる
 電源を切らないと電池がすぐに切れるので,通話をするときだけ電源を入れるという使い方が一番自然だと思いますが,起動,ネットワークへの接続,Skypeへのログイン,コンタクトリストの取得という一連の流れが完全に終わるのに,下手をすると数分の時間がかかってしまいます。

 話をする前にあらかじめ電源を入れておくか,潔く待つかしかありません。

 あと,時間がかかる,ということとは違うのですが,デフォルトで接続されるネットワークの接続に失敗したり,途中でキャンセルしたりすると,同じネットワークに再接続したとしても,Skypeへのログインにパスワードを要求されるようになります。テンキーで入れるパスワードは非常に面倒で,いつも接続に失敗しないかと起動時には冷や冷やしています。

(8)角張っていて耳が痛い
 ちょうど耳があたる部分が角張っているため,耳への当て方がまずいとかなり痛くなります。

(9)FONには対応しそうにない
 なにかと話題のFONですが,これには対応しません。また,公衆無線LANについても,WEBから認証が必要なケースでは接続ができません。この問題はなかなか解決が難しそうなのですが,解決できると可能性が飛躍的に広がるので,なんとか検討してもらいたい点です。


(10)音質はいまいち
 音質は,コーデックそのものの音質と,スピーカやマイク,筐体の音響性能によるところがあるのですが,この製品は後者について過度な期待は禁物です。携帯電話以下だと思います。

 ですから,PCにいいヘッドフォンをつないでSkypeを楽しんでいた人なんかからすると,音の悪さにがっかりすることは避けられないでしょう。

 まあでも,Skypeに音質の良さをどれくらい求めるのかと考えたとき,個人的には必要にして十分な音質であると思います。

(11)先々の不安
 2万円の製品がゴミになる時はいろいろなケースが考えられます。Skypeのサービスがそもそも停止した場合は言うまでもありませんが,Skypeのバージョンが上がって,古いコーデックやプロトコルでは接続できないということが起こった場合も,徐々に使えなくなっていきます。

 無線LANについても802.11bやgがいつまで使えるのかわかりませんし,WEPやWPAだって大きなセキュリティホールでも見つかると,あっという間に使えなくなります。

 それに,電池の充電サイクル寿命が1年ほどで尽きることが分かっている以上,この電池が手に入らなくなってしまえば,ゴミ同然ですね。こういうマイナーな機種を手にした瞬間,いつまで使えるか不安になることは,それが便利な存在である場合は時に深刻な問題です。


(12)充電時間は結構かかる
 実は充電時間も結構かかります。本当は2から3時間程度で満タンになってくれても良さそうなのですが,もう少しかかるみたいです。ですから,完全に空っぽになる前に,こまめな充電が便利に使うコツだと言えますが,その場合確実に充電サイクル寿命が短くなっていきますので,長く使うか便利に使うかのトレードオフだと言えそうです。

 ユーザーにこういう心配をさせる製品というのはまだまだ発展途上で,携帯電話も世代が変わると必ずこういう選択肢をユーザーに突きつけてきます。その意味では,この製品もまだまだ発展途上です。


 という感じです。

 個人的には気に入ってますが,携帯電話との比較を自然にするだろう一般の人には絶対にすすめられませんし,ちょっと試してみたら,というような気軽な価格でもありません。

 私は予備の電池とクレイドルを買って,より便利に,より安心に使えるようにしましたが,こういうものが手に入るだけましだと考えられる人だけが,使うような状態になることは間違いないと思います。

 ただ,便利さは予想以上です。私の頭の中では,SkpyeがPCのアプリケーションから,電話へとカテゴリーの切り替えが起こりました。

 もし,世界中でインターネットが利用できるようになり,無線LANでの接続に障害がなくなると,コミュニケーションの手段が劇的に変化するかも知れないと,そんな語り尽くされた当たり前の夢物語が,実はすぐそこまでやってきているという現実を意識させられた上に,その夢が大変に便利で,歓迎されるべき未来であることを,それまで懐疑的であった私のような人間でさえ認識する事となるのです。

 かつて,電話といえば,交換機を介した電話が普通でした。その固定電話でさえもIP化される流れは止まらず,当時次世代交換機と呼ばれた交換機が,木枠を付けたままの未使用の状態でくず鉄としてアジアの某国に輸出されたことがあったらしいのですが,通信の世界で起こっていることは,私たち庶民の知ること以上に,大きなものになっているという,そんな一端を意識させられました。

ページ移動

ユーティリティ

2020年05月

- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31 - - - - - -

検索

エントリー検索フォーム
キーワード

ユーザー

新着画像

新着エントリー

過去ログ

Feed