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2008年04月25日の記事は以下のとおりです。

小さい会社が巨大企業に飲み込まれる時

 ここ数日で報道された技術的なニュースについて,少し感じた事を書こうと思います。

(1)パイオニアのプラズマディスプレイ事業を松下電器に統合

 パイオニアのプラズマディスプレイは,その技術力に突出した物があり,内外で高い評価を得ています。私も実物を見てみましたが,KUROの素晴らしさには,プラズマディスプレイのポテンシャルの高さを感じずにはいられません。

 私は現在主流の液晶テレビにはさっぱり魅力を感じず,特に欲しいとも思っていないのですが,大画面テレビを買うときになったら,できればプラズマディスプレイを買いたいなあと思っていました。

 松下電器の一人勝ちを見ていると,松下電器のテレビ屋としての意地を感じるのですが,技術的にというより,そのスタンス的に,パイオニアとは全く違う考え方をしていると思います。

 松下電器くらいになると,プラズマディスプレイでもそこそこの数が見込め,数を売ることで利益を出すことが現実的に可能です。でもパイオニアにはそこまでの数を見込めません。それでパイオニアはプレミアム戦略で,数は出なくとも単価を上げる作戦で乗り切ろうとしたのですが,これは素人の私でも間違いだと気が付きます。

 所詮,大画面のディスプレイ事業というのは,設備産業なのです。

 となると,やはりお金を持っていて,数を売ることの出来る会社しか継続できません。技術力の高さと製品の性能だけで生き残れるようなものでは残念ながらないということです。

 しかし,松下電器も,おそらくパイオニアには一目置いていたはずです。例えば予備発光をなくすといった,その技術力は,松下電器もライバルとしては物足りなくとも,盟友としての尊敬はあったはずです。

 しかし,そのパイオニアは,技術力とは裏腹に,それを事業に結びつけるだけの体力を持っていません。すでに決着の着いているライバルが退場するのですから,松下電器の勝利で終わっていいはずなのに,パイオニアの技術者の転籍を基本的に全員受け入れ,パイオニアの作った技術を自社に融合させるとまでいうのですから,勝者としては破格の対応であると思います。

 それだけ,パイオニアは価値があった,もっといい言い方をするとパイオニアの作った技術が優れていたのだ,ということなんだろうと思います。つまり,松下電器の技術陣が,技術者として公平だったということでもあるのでしょう。

 とはいえ,松下電器が火の車で,転籍を受け入れるだけのゆとりがないとそういう話にもなりません。ここが重要なのですが,松下電器は昨年から大量の中途採用を行っています。数百人単位,しかも長期的な採用を行っているのですが,その大部分は技術者,中でもディスプレイ事業にはかなりのてこ入れがあるようです。

 優秀な人材を確保するために,企業はお金と時間と手間を信じられないほど投入します。松下電器も例外ではなく,それだけのリソースを投入して,果たして本当に優秀な技術者なのか,優秀であっても即戦力としてディスプレイ事業に貢献してもらえるか,さっぱりわからないわけですね。

 実績のある技術者を採用できたとしても,前の会社の技術を手土産に持ってきてくれることはありません。それは契約違反ですし,マナーとしても許されません。

 ところがです,高い技術力で知られたパイオニアから,まとまった数の現役エンジニアが,その技術を手土産に転籍してくるのです。ディスプレイ事業に貢献すること間違いなしの技術者が一度に揃うなんて,千載一遇のチャンスでもあるわけです。これはおいしすぎます。

 さらに大事なことは,パイオニアのプラズマディスプレイが,理論や特許だけではなく,実際の製品,しかも量産品として市場に導入されていることです。そのエンジニアは量産品を作っています。松下電器は量産品で食べている会社ですから,量産できる技術と人でないと,値打ちがないのです。

 ということで,結論から言うと,パイオニアの技術は間違いなく生きると思います。彼らの技術は尊敬を受けていますし,その技術を生み育てた人もそのまま残ります。松下が持つ大量生産を行う技術,製造能力と組み合わせれば,まず間違いなく進化したプラズマディスプレイが世に出てくるでしょう。

 松下電器での扱いにもよりますが,パイオニアからの転籍者のモチベーションもそれほど下がらないでしょう。むしろ,プラズマディスプレイ陣営の大同団結と考える前向きな技術者もでてくるのではないかと,私などは感じます。

 また,パネルの性能以外にも,松下電器は基礎研究能力,半導体の開発能力で世界の先端にいます。パネルの高いポテンシャルを生かし切る駆動技術,そしてテレビ屋としての画造りのノウハウが結集し,これまでにない高画質を見せてくれるはずです。

 松下電器が勝者として奢らず,パイオニアが敗者として卑屈にならず,偉い人はともかくせめて技術者は技術に公平であり続け,お互いの仕事を尊敬し合って,よりよい物を作るという最終目的に向かって突き進んで欲しいと,私は願ってやみません。


(2)アップルが買収した会社

 先日,アップルが決算を発表しましたが,例によって絶好調だったようです。いちいち数字は書きませんが,絶好調であることはもはや当たり前で,以前のような大騒ぎもないようです。

 私も決算についてはそんなに興味もないのですが,問題は同時に出た話で,P.A. Semiという半導体会社を買収したという事実です。

 P.A. Semiという会社,私は直接話をしたことはないのですが,あるルートで一度紹介を受けたことがありますし,個人的にも興味のある会社でしたので,それが今頃,しかもアップルに買収されるという形でお目にかかるとは考えてもみませんでした。

 このP.A. Semiという会社,さすがに普段は偉そうなアナリスト達もノーマークだったようで,過小評価も過大評価も様々です。そういう少ない情報からアップルの買収劇を邪推する話もあちこちで出ていて,ちょっとうんざり気味です。

 P.A. Semiは,低消費電力マイクロプロセッサの開発を目的に設立されたファブレスの半導体会社です。ISSCCでも論文を発表するなど,技術的には定評のあるベンチャーです。

 DECはその昔,世界最速のマイクロプロセッサであるAlphaをVAX11の先にある21世紀の理想郷として開発,その割り切ったデザインに起因するソフトウェア開発上の制約と引き替えに手に入れた爆速クロックで,尖ったユーザーからの支持を受けていました。

 Aplhaは結局終焉,その遺伝子は多くの設計者が移籍したAMDでK7やK8に受け継がれるのですが,DECはAlphaとは別に,低消費電力プロセッサでも強烈な製品を作っていました。

 それがStrongARMです。ARMはイギリスのプロセッサメーカーで,低消費電力で動作する組み込みプロセッサとして世界を席巻しています。自身は製造を行わず,その代わりどこで作っても同じ性能が出るように設計を行っていることで,世界中の会社がARMのライセンスを購入して,作りまくっています。

 ARMにとってその設計データは最重要資産です。製造に必要な形で提供されるデータはいわばソースリストではないため,中身についてはさっぱりわかりません。

 ただ,ARMは,世界で数社だけ,その中身を公開しています。

 ARMが技術力を認め,内部を改編することを許している,本当に特別な会社,その1つが当時のDECだったのです。

 改編した内容はARMにもフィードバックされ,次の世代のARMプロセッサにも反映されます。もちろん,多額のライセンス料も必要でしょうが,お金だけではどうにもならないものでもあります。

 DECは,当時のARMプロセッサを改良し,組み込みプロセッサとしてはにわかに信じがたい高クロックと,考えられないような低い消費電力を両立させて,これをStrongARMと名付けました。

 ARM7から改良されたStrongARMの成果は,後のARM9にも取り入れられることになります。

 しかし,DECは解体され,StrongARMのチームはライセンスごとインテルの手に渡ります。当時,インテルはStrongARMそのものより,欲しくても手に入らなかったARMのライセンスを手にれるのが目的だったと言われるほど,この当時いろいろな憶測を生みました。後にStrongARMはXScaleと呼ばれ,それなりの進化を遂げますが,破竹の勢いで急成長するBroadcomに売却,組み込みプロセッサから撤退するのかと騒がれた直後にXScaleと競合する組み込み用x86プロセッサであるATOMを発表するという流れに,妙な納得をした記憶があります。

 いずれにせよ,インテルが買収を行う段階で,自由闊達な文化を謳歌していたDECのエンジニアの多くは,インテルへの移籍を断り,AMDに行くか,別の会社を立ち上げることになります。

 その1つに,AlchemySemiconductorという会社がありました。StrongARMの設計者が結集したこの半導体会社は,ARMの高額なライセンスフィーに納得出来ず,MIPSで低消費電力の組み込みプロセッサを作り上げることにしました。

 出来上がったAu1500などの組み込みプロセッサは,評判通りの低消費電力と処理能力を両立させ,個人的には当時ARMをしのぐ性能だったと記憶しています。

 Alchemyは結局AMDに買収されてしまいますが,同じようにStrongARMを手がけたエンジニアが興した会社が,P.A. Semiなのです。

 創業者でCEOのDan DobberpuhlさんはStrongARMの設計者です。StrongARMはその設計ツールもDEC社内で作られたもので,それゆえ極限の性能をたたき出していたのですが,P.A. Semiは市販のツールで,強力で低消費電力のプロセッサを作ることにしているそうです。

 そして彼らが選んだプロセッサアーキテクチャが,POWERです。IBMがPOWERをオープンにしたこと,その性能が高いことが決め手になったということなのですが,やはりPOWERの持つプロセッサとしての素性の良さがあったのではないかと思います。

 完成したプロセッサの性能は,PowerPC970互換で,クロック2GHzのデュアルコア,周辺チップを取り込みつつ消費電力は13Wと,これを使えばPowerBookG5(しかもDualコア!)があっという間に完成してしまうんではないかと思われるようなものになっています。うーん,これは欲しいかも。

 こんな会社だから,アップルが買収したというニュースが流れると,それはちょっとした憶測合戦になるのです。インテルを裏切るのか,iPhoneに採用されるだろう,UMPCに参戦するではないか,などなど・・・

 でも,アップルは彼らのプロセッサ,つまり製品に魅力があるわけではないと思います。自前でプロセッサを作ることのメリットはないですし,まして外販まで考えたプロセッサメーカーになろうというのもばかげた話です。

 では結局何が欲しかったのかというと,やはり彼らの高い技術力です。間違いなく世界を代表するプロセッサアーキテクトがいる会社です。半導体の設計能力も最先端。こういう人材を半導体会社でないセットメーカーがまとめて手に入れるのは,やはりなかなか難しいものですが,彼らのような人たちが生み出す「カスタムLSI」を作って製品の差別化を図ることは,セットメーカーとしては非常に重要な戦略です。

 アップルはこれまで,こなれた部品を上手に使って,差別化はソフトウェア,とりわけ優れたユーザーインターフェースで行って他を圧倒してきたわけですね。カスタムLSIというハードウェアで差別化を図って優位に立ってきたのがソニーや松下などの日本のメーカーであり,特にポータブル音楽プレイヤーではソニーが熱心に取り組んできたものです。

 結果はご承知の通り,ハードウェアの負けでした。大事なことは,ハードウェアかソフトウェアか,という択一の選択の結果,ハードウェアが敗北したということです。どちらも可能なリソースがあるなら,最強であることに代わりはありません。

 アップルが,世界屈指の半導体スペシャリストを囲い込んだ事実は,アップルにソフトウェア,ユーザーインターフェースに次ぐ第3の差別化技術をもたらすこととなり,私の目には彼らの戦略転換のメッセージに聞こえるのです。

 現実的に,ポータブル音楽プレイヤーの伸びが鈍化しています。この結果NANDフラッシュの需要も減るだろうという予測が出ているくらいで,アップルもiPodでいつまで食べていけるか,不安になっていてもおかしくはないです。

 iPhoneで食べていけるのか,それとも別の物を仕込んでいるのか・・・これから仕込むのかも知れませんが,いずれにせよアップルが次の一手を打ってくることは,間違いないと思います。それも,他社の真似できないような「独自ハードウェア」をひっさげて・・・

 

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