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2008年05月19日の記事は以下のとおりです。

薬師寺展をみる

 先日の土曜日,上野の国立博物館で行われている「薬師寺展」を見てきました。

 前代未聞の,日光菩薩立像と月光菩薩立像の背中を見ることが出来るというのが最大の触れ込みですが,普段見られないからただ珍しいという話なのではなく,そのお姿が写実的で素晴らしいという,このことに尽きます。

 薬師寺に限らず,仏像の背後に回って背中を見る,などというのは普通は考えにくいことですし,私などそんな罰当たりなことは恐れ多いのですが,背中までが「ありがたい」と考えれば,少しは許されるかも知れません。

 土曜日は昼過ぎは良いお天気で,我々が到着した時刻では入場制限を行っていました。10分ほど待ったでしょうか,その間日傘を貸し出すサービスなどがあったりして,興味深いなと思いながら列んでいると,割とあっさりと入場できました。

 しかし予想通り,館内は随分と混んでいます。音声ガイドがいかんですね,あれを使われると,じっとその場にとどまってしまう人が出てきてしまいます。あと,平成館というところは,ハイビジョンテレビがあちこちにあって,ここで必ずといっていいほど人の足が止まります。私は博物館にテレビという生活臭漂う庶民のアイテムが大きな顔をしているのが興ざめな人でして,文字や図表にくらべて動画のわかりやすさと,ハイビジョンによる情報量の多さがどれほど見学に有効であったとしても,ちょっと見学者に親切すぎるんじゃないのかなあと,そんな風に思ったりしました。外国の方の見学者もいるので,ハイテク日本をアピールする趣向が見え見えなのもちょっと鼻につきます。

 なんだかんだで,日光菩薩立像と月光菩薩立像にたどり着きます。仏像の周りに群がる人,人,人。

 押すな押すなの盛況にも関わらず,当たり前ではありますが皆マナーもよく,そして面白いことに一箇所にとどまらず360度動き回る人が多いので,真そばでじっくりと見ることは,案外簡単でした。

 銅で出来ている大きな仏像ですが,途中に継ぎ目などはなく,一気に鋳造されたものなのだそうですが,近寄って見ても,遠くから見ても,この角度で見るといいとか,ここから見るとちょっとダメだとか,そういうのがなく,つまりどこから見ても,どうやってみても,それぞれにため息の出る美しさなのです。

 2つの仏像の表情は,日光菩薩側から見たときと,月光菩薩側から見たときで,微妙に表情が違うのです。足下から(そう,随分近くに寄ることが出来るのです)見上げる時も,少し高いところから見下ろす時も,やはり見え方が違います。

 見所の1つ,背中の柔らかな質感ですが,当時の美的感覚に忠実と思われるふくよかで柔らかな曲線は無駄も破綻もなく,まるで女性の背中のような暖かさを見る者に与えます。これが銅で作られているのかと思うほどです。

 背中を見られることを前提に作ったとしか思えないのですが,しかしこれが人の目に触れることなど,長い歴史の中でおそらく初めてのこと。思うに,見えない部分でも手を抜かない,それが日本人の「仕事」なんでしょう。

 一通り歩いて約1時間30分。見終わって感じた事は,とにかく仏像の圧倒的な存在感です。他に出ていた展示物にも確かに珍しい物がありましたが,数としては全部で20数点と多くなく,私のような人間にはちょうど良い規模だったと思います。

 1つ感じた事があります。

 以前,ある美術館で仏像を「美術品」として鑑賞したことがありましたが,最初じーっと食い入るように眺めた人々は,思わず両手を合わせ,その場を後にしていました。

 この「思わず」が重要だと思うのですが,今回は大勢の人がいたにも関わらず,誰一人手を合わせる人はいませんでした。私は恥ずかしさから,ばれないように小さく手を合わせるにとどまりました。

 お寺で見る仏像には,問答無用の威圧感があり,これが宗教としての仏教に畏敬の念を抱かせる動機として機能することを狙っているのですが,お寺という独特の施設,入りだったり匂いだったり音だったり,つまり五感に飛び込む情報が仏像をより深く見せているのでしょう。

 とはいえ,思わず仏像に手を合わせる気持ちはいつしか一人歩きし,仏像がお寺になくても,そこから出る「何か」に思わず手を合わせることは,ごく自然な事だと思います。

 もちろん,美術品としての仏像をいちいち拝む必要はないのかも知れません。しかし,日本の仏像は,物理的な大きさや表情の猛々しさだけではなく,その美しさで人々を魅了してきたことは事実でしょう。作り手の意図を想像すると,美術品としての完成度の高さこそ,我々が手を合わせるためのエネルギーであるべきではないかと,素人の私は考え至るのでした。
 
 もう1つ,韓国語や中国語を話す方々が見学に多く訪れてらしたようです。韓国にも中国にもお寺があり,仏像があります。西から届いた仏教が東に伝来する過程で,中国と朝鮮,そして日本の3地域は,互いに影響しあい,そこから新しい物を醸造してきました。日本は最東端ゆえ,日本から出て行ったものは少ないかも知れませんが,元はインドで生まれた教えが,これほどたおやかな仏像に昇華した事実と,そこから日本という文化圏に興味を持ってくれればいいなあと,そんな風に思いました。

 いろいろな感じ方があるとは思いますが,私は今回の「薬師寺展」で,日本はアジア,特に東アジアの一員であることを,改めて誇りに感じました。

 

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