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2010年11月12日の記事は以下のとおりです。

文殊菩薩の怒り

 なく子も黙るじゃじゃ馬,高速増殖炉「もんじゅ」が,なにやら大変なことになっているらしいのです。

 先日NHKの9時のニュースで,重量物が落下したとかで,運転再開の目処が立たなくなったという話をしていましたが,これはウソではないにせよ,本当に大事なことを報道していないように感じている人たちが,少なからずいるようなのです。

 私も聞きかじりですし,専門家というわけではないので本当かどうかを精査するだけの力はありません。しかし,どうもただ事ではなさそうだという気がして,ここにとりあえず書いておこうと思った次第です。

 そもそも,「もんじゅ」ってなんだ,という話です。

 高速増殖炉はよく,使った燃料以上の燃料を作り出す「夢の原子炉」などと言われます。確かに高速中性子を使い,燃料であるプルトニウムを,使った以上に生成するので間違いではありませんが,これで人類は無限のエネルギーを手に入れた!などと大騒ぎする人は,さすがに最近はいなくなりました。

 高速増殖炉の狙いは,燃料であるウランの効率的な利用です。ウランという鉱物資源は無尽蔵にあるものではなく,限りがあります。その点では石油や石炭と同じですね。

 現在世界中で稼働している軽水炉はこの天然ウランの中に1%未満しか含まれていない,ウラン235でなければ,動いてくれません。大部分を占めるウラン238では燃えない,つまり連鎖反応が起こってくれないのです。

 そこで,ウラン濃縮とか遠心分離とか,なんとなくパキスターンな,実にきな臭い仕組みが必要になる上,もともと少ない資源の,そこからさらにわずかしか採れない燃料が,近年の原子力発電ブームの影響もあって,ここ最近ビックリするほど値上がりしているのです。

 枯渇の心配があるうえに,世界中で温暖化ガスを出さない「クリーンな発電所」である原子力発電所がボンボコ作られてしまえば,そりゃ値段もあがります。これで原子力発電の経済性が変わってくる可能性さえあるほどです。

 そうなると,今まで捨てていた,天然ウランの大部分を占めるウラン238を利用出来ないものか,と言う話になります。例えばこのウラン238が現在価値のあるウラン235の100倍存在していたら,一気に資源の枯渇まで100倍も時間が稼げます。ある試算では数万年とか。エネルギー問題は解決したも同然と言い切る学者がいてもおかしくありません。

 ところがそうは問屋が卸しません。連鎖反応を起こすためには,中性子をぶつけて核分裂を起こさねばなりませんが,軽水炉で使われている速度の遅い中性子では,分裂しやすいウラン235しか使えません。

 ここで発想の転換です。実は軽水炉でも,飛び出した中性子のうちいくらかは,ウラン238とぶつかってプルトニウム239に変化していて,しかもこのプルトニウム239が中性子にぶつかって連鎖反応し,核分裂してエネルギーを発生させていることが知られています。その割合は,一般的な軽水炉で30%程度といわれています。

 この,ウラン238がプルトニウム239に変化することを,転換といいます。

 なら,この転換する割合をもっと増やして,プルトニウム239を積極的に燃やしてやる(連鎖反応で核分裂させる)ような原子炉を作れば,間接的ですがウラン238を燃やせることになるのではないでしょうか。

 これが,高速増殖炉です。

 ウラン238を積極的にプルトニウム239に転換するために,速度の速い中性子を使う事にします。これが高速増殖炉の名前の由来です。核分裂によって生じた中性子は,軽水炉の場合,生じた熱を取り出すのに使う水にぶつかって速度が落ちます。また,ウラン238にぶつかっても速度が落ちます。すると核分裂の速度が落ちて暴走の危険が少なくなります。軽水炉がそれでも安全と言われるのはこのためです。

 高速増殖炉では,核分裂で生じた中性子の速度を落とさないように,ウラン238にぶつけてプルトニウム239に転換させねばなりません。だから熱を取り出すのに水では都合が悪く,別のものが必要になるのです。

 この,熱を取り出すものを,冷却剤といいます。軽水炉では水が使えた冷却剤ですが,高速増殖炉では中性子の速度を落とさないで済むような液体として,溶けた金属,なかでもナトリウムを使うと言うことが行われています。

 ナトリウム?実物を見たことがない人がほとんどだと思いますが,実は私も見たことがありません。あぶないですからね,私はどちらかというと見たいとも思いません。

 なにせ,水と強烈に反応して爆発します。空気に触れればあっという間に酸化しますし,なにせ反応性が高いので,触れたものはボロボロになります。だから保存は灯油の中に漬けてあるそうです。とても柔らかい金属で,まるでバターのように切れるのだそうですよ。融点は金属としては低く,液体は水に近い重さなので,冷却系の設備の設計が楽だという話も耳にします。

 世界中でいろいろな冷却剤が候補に挙がりましたが,どれも扱いにくく,結局一番ましなナトリウムが使われているというのが実情のようです。

 ナトリウムは中性子の速度を落とさないので,高速中性子をウラン238にぶつけて,効率よくプルトニウム239を作り出すことができます。あとはこのプルトニウム239をガンガン燃やして,ウラン238をプルトニウム239にしてやれば,打ち出の小槌ってわけです。

 プルトニウムを使う危険性の問題,核兵器製造へのリスクの問題,などなど諸問題があるのは実に深刻ではありますが,これも上手く高速増殖炉が稼働したら,の話です。残念ながら開発から60年を経た現在においても,まともに動いている高速増殖炉は1つもありません。

 しかし,その存在自体が大変に危険なものであることは,もんじゅのナトリウム漏れ事故をはじめ,イギリスやフランスの事故でも明らかです。なんという面倒な化け物を作ってしまったものよと,思わざるを得ません。

 さて,そんな物騒なもんじゅですが,今回の事故がどれほどやばいか,です。

 事故は,簡単に言うと,原子炉の上部に取り付けられた,炉心の交換を行うための設備の一部分が,原子炉の中に落ちた,と言うものです。

 原子炉は液体ナトリウムで満たされています。当然空気に触れてはいけないので,反応しないようなガス(アルゴンだそうです)を充填してあります。こんなややこしい設備ですので,当然原子炉のふたは分厚く,ここにパイプを通して,左側から腕を伸ばし,炉心をつまみ出しては,右側に待機する入れ物にいれて,これを原子炉の外に引き上げるような感じです。

 今回落下したのは,この右側で待機している,入れ物に繋がったパイプです。炉内中継装置というそうですが,これを引き上げるフックのようなものが外れて,するすると原子炉内に落ちたんだそうです。

 すぐに引っ張り上げられると思ったようですが,残念ながらパイプの長さを継ぎ足す部分が引っかかり,装置が変形し,抜けなくなったそうです。設計上の限界の力で引っ張り上げたのに,びくともしないのであきらめた,というのが先日の報道だったわけですね。

 さあ困った,どうしましょうか。

 深刻なのはここからです。結論を言うと,どうにもならない可能性があります。

 まず,この炉内中継装置とやらを抜く方法ですが,引っ張っても抜けないことはわかりました。では削るなり切るなりして抜けるかと言えば,金属のくずが出てしまい,これが炉内にパラパラと落ちてしまうため,出来ません。

 では,フタをあけて取り出しましょう。おっと,液体ナトリウムとアルゴンガスが詰まってました。これを抜かないとナトリウムが大爆発しますね。

 でも,抜いてしまうと,冷却剤がなくなってしまうので原子炉が暴走します。これは困った。先に炉心を抜かないといけません。

 あ,炉心を抜く装置が壊れたんだった・・・・

 仕方がない,このもう原子炉は廃棄しよう・・・え,炉心が抜けないので廃棄できないじゃないか!

 ・・・ということは,原子炉の運転も廃棄も出来ないのに,ナトリウムを98度に維持して循環させ,維持管理しないといけないということになるわけですか。放置するために維持管理しないといけないなんて,これって文殊菩薩の怒りを買っちゃいましたか?

 まあ,ちょっと調子に乗りすぎましたか。しかしこの問題はとても深刻なように思います。現状維持,つまり放置するために設備を維持し,運転を続けないといけない状況になっているということですから,お金も手間もかかるのは当然として,いずれやってくる設備の寿命がきたら,この原子炉は暴走するか,大爆発をするしかありません。

 そうならないために,永遠に設備を維持し,更新し,トラブル無しで動かすことが求められるのです。この負の遺産は,想像を絶するものがあります。絶望でめまいがしそうです。

 毎年国の予算で維持されるわけで,費用面でも,安全面でも,とんでもないものを,我々は次世代に押しつけてしまいました。

 そもそも論は言っても仕方がありませんが,やっぱり言いたい。そもそも,ナトリウムを使うような高速増殖炉なんて,あぶないばっかで実現不可能な代物だったんじゃないんですか?

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