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2011年08月18日の記事は以下のとおりです。

Break away from the past

 Googleが老舗のモトローラを買収したニュースは,お盆でぼやけていた日本人の頭をたたき起こすようなニュースでした。Androidが1兆円近いお金をかけてもらえる子供に育ったことを,関係者はどんな風に見ているのでしょうか。

 私個人は,携帯電話メーカーとしてのモトローラにはそれほどの思い入れはありませんが,三角波と正弦波をうまく組み合わせて「M」という頭文字をデザインしたあのロゴは,小学生の時に眼にして以来「いいなあ」と思っていました。

 モトローラは1928年(昭和3年)にシカゴで創業,当時は創業者の名前を冠してガルビン製造会社と名乗っていました。ラジオの部品(という補助パーツ)を作っていた経緯から,1930年代の自動車ブームに乗って,カーラジオの製造に乗り出します。

 当時のラジオは大きく重く,さらに自動車という劣悪な環境で動かすにはとても難しいものでした。電源だって,初期は大きな蓄電池やAC電源を使うもので,およそ「モビリティ」とは相容れないものでした。

 ガルビンのカーラジオは,自動車を表すMOTORとラジオを表すOLA(これはピンとこないでしょうね,でも戦前のなんとかオラというラジオの名前はよく見られたのです)を組み合わせたMOTOROLAをブランド名にします。公式には動きを表すMOTOと,ラジオを表すROLAを組み合わせたものとなっていますが,まあ意味するところは同じようなものでしょう。

 なんと1928年の創業です。ラジオを手がけ,軍用を含み通信機を手がけ,戦後は半導体を手がけ,コンピュータを手がけて,モトローラは通信とコンピュータという20世紀の特徴的な技術で巨大な会社となりました。

 私くらいの世代にとってのモトローラは, C-MOSロジックの14000シリーズと,MPUであるMC6809やMC68000,そしてPowerPCでしょうか。モトローラは戦前から続く大企業ですし,意志決定や品質維持のためのプロセスはすでに確立しており,話を聞くととても官僚的だし,出世のための派閥抗争も並の民間企業程度にはあったそうです。

 半導体はいわばベンチャービジネスで,ライバル達はインテルやナショナルセミコンダクタなどの若い会社ばかりです。TIやレイセオンがようやく相手になる会社かなと思っていたのではないでしょうか。

 ですが,モトローラの半導体は,日本市場を重視してくれていたこともあり,とても入手しやすかったのです。私が子供の頃,部品屋さんで4000シリーズを買うと,日本製よりもモトローラ製の方が多かったこともしばしばです。価格も安く,性能も良く,品種も揃っているので,子供だった私はあのMマークを見て,アメリカというエレクトロニクスの本家本元に胸を焦がしていたものでした。

 そして1980年代,マイクロプロセッサは若くて元気のあるインテルの80系と,大量の資金と優秀な技術者を抱えた巨大な老舗モトローラの68系という,何もかも対照的な2つで覇権争いが本格化します。

 これだけ違うものですから,棲み分けだって出来たと思うのに,彼らは闘うことを選びました。後に巨大企業のIBMと組みPowerPCを手がけることを,この頃誰が想像したでしょうか。

 モトローラが顧客としていた企業に,アップルがあります。初期のMacintoshはMC68000を用いていました。アップルはインテル以上にくだけた会社でしたが,ヒッピーの集合体のような会社を,1970年代にモトローラがまともに相手をしていたとは思えません。

 Macintoshが登場したときには,すでにアップルは大きな会社になっており,アメリカンドリームを具現化した夢の会社として有名でしたから,さすがにその頃にバカにされることはなかったでしょうけども,それでもモトローラが彼らの文化や思想を理解出来ずにいたことは,想像に難くありません。

 そのモトローラは,次第に儲からないビジネスを切り売りしていきました。

 半導体は大規模なLSIをフリースケール,トランジスタや小型の半導体をオンセミコンダクターとして分社化,すでにMマークの半導体を手に入れることは出来なくなっています。ICの型番にMCがついているところに,その名残を見ることが出来ます。

 モトローラはテレビ工場を1980年代にパナソニックに売却してテレビ事業から撤退していますし,軍事関係はジェネラルダイナミクスに売却,衛星電話もイリジウムの破綻で撤退しています。世界で最初の携帯電話を開発した会社らしく,携帯電話メーカーとしての生き残りをかけていましたが,それも携帯電話部門とソリューション部門で会社を分割し,これをGoogleが買ったことにより,モトローラは我々から非常に遠い会社になってしまいました。寂しいものです。

 かつて,MC68000が登場した時,そのユーザーズマニュアルの表紙には,「Break away from the past」と書かれていました。

 インテルが8ビットを引きずった8086を出していたことに対し,MC68000は未来を見据えた気高い思想と引き替えに,究極の8ビットと呼ばれたMC6809との互換性を捨てました。

 MC68000は高い評価を受け,絶賛されたわけですが,勝負は結果としてインテルに軍配が上がり,モトローラは切り売りされてしまったのです。

 なにがモトローラをそうさせたのか,その理由を知りたいものです。

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