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2012年04月16日の記事は以下のとおりです。

漆をなめてました

 日常的な作業である食器洗いですが,ある時急激にお皿や茶碗を割ったり欠かしたりすることが続くことがあります。

 注意力が散漫になるとか,手先の動きが微妙に変わっているとか,心配事があるとか,いろいろ原因はあるのでしょうが,大事な食器を傷めてしまうと,とてもがっかりするものです。

 食洗機というのはこうした損害を根本的に解決する1つなのですが,これを導入する前には,私は頻繁に食器を割ってしまっていました。

 特にショックだったのは,ちょっと高価なお茶碗です。

 それなりに高価だった肉の薄い綺麗なお茶碗を,結婚後夫婦揃って買って使っていたのですが,1年ほどで全滅。反省を込めて,私が手焼きの高価なものを買うことにしました。2つで1万円近いもので,購入するとき「自分達が日常的に使うもの」とラッピングを断ると,一瞬妙な間があったことを覚えています。

 それは,特にお茶漬けを食べるとおいしいだろうなと思うようなお茶碗でした。

 これだけ高価だと,さぞや大事に扱うだろうと思っていたのですが,やはり慣れた頃には手を滑らせ,下に置いてあった片手鍋の縁にぶつけて,大きく欠けてしまいました。

 いっそのこと真っ二つに割れてくれればまだあきらめの付いたものを,と中途半端に欠けてしまい,だけども口に当たる部分だけにそのまま使用することは無理という状況に,なんともいえない寂しさがありました。

 こういうとき,私は欠けた部分にホーローを修理する白いエポキシ系接着剤を塗り込んで形を整えます。とても綺麗に修理出来るのでいつもそうしているのですが,安全性にはちょっと無頓着なところがありました。

 食洗機導入の時にも書きましたが,熱でこのエポキシ樹脂が柔らかくなっていました。接着剤特有の臭いも強くなっていて,長時間の加熱で化学物質が溶け出してしまっていることも疑われました。

 なにせ食洗機は,水を循環させて食器を洗う機械です。接着剤から溶け出た化学物質が他の食器にまで回ってしまうのは,大問題です。

 この茶碗だけ手洗いすることを考えたのですが,この機会にエポキシに変わるほかの修理方法を考えてみることにしました。

 欠けた茶碗を修理する方法には,日本古来の金継ぎというのがあります。漆にご飯粒や小麦粉を混ぜて練った糊を使って貼り合わせたり欠けた部分を作ったりして,その部分に金粉を塗るものです。実用的な強度を持ち,かつ美しく仕上がった金継ぎはそれ自身が工芸的に評価されるものです。

 なんだか,割ったお皿が修復で評価されるってのは,なんだか一周回ってしまったようなおかしな気分ですが,私が注目したのは,この漆の糊です。

 漆ですから,乾いてしまえば安全です。固化した漆は耐久性も抜群で,熱にも強く,成分が溶け出るようなこともないそうです。

 問題は,漆ですからかぶれること,そして乾くのに時間がかかることでしょうか。

 まあ,もともとお茶碗を割ったのは私ですし,ダメモトでやってみることにしました。

 私は漆にかぶれたことなど一度もないのですが,そもそもどこに売っているのかわかりません。東急ハンズのサイトを見ていると,チューブ入りの生漆が800円ほどで売られています。

 とりあえずこれを購入。

 まず,お茶碗のエポキシ接着剤をすべて取り除きます。少し深いところにも食い込んでいるので,少し削って完全に除去します。そしてその断面に,生漆を塗ります。いきなり糊を塗っても付きが悪いらしく,これでしっかり固着するようにするそうです。ここで数日放置。

 そして乾いたところで,ご飯粒を練り潰し,生漆と混ぜて糊を作ります。出来上がった糊をこんもりと欠けた部分に盛ります。

 失敗は,この糊の作成にありました,ご飯粒が綺麗につぶれてくれず,ぶつぶつが残っていました。水分も足りない乾きかかったご飯粒だったことも問題で,私は漆を混ぜればなんとかなると,強引に練り続けたのです。

 これがまずかった。

 数日後,右手になにやらみみず腫れのようなものが出てきました。腫れ上がり,猛烈にかゆいのです。どうやら,作業中に漆が手に着いたようです。

 ほっといても良いことはないということで,土曜日に観念して皮膚科に行ったのですが,処方された最も強力なステロイド剤を塗る生活が始まりました。

 そうこうしているうちに,漆のかぶれが体のあちこちに出てきます。移ったものなのか,時間が経過して発症したのかは分かりませんが,作業当日の気温が高く,実は上半身裸で作業をしたことも今思えばバカなことをしました。お腹,腕,足,脇の下と,あちこちに水疱ができてしまいました。

 他人には移らないそうですので,嫁さんや子供が発症することはないと思うのですが,恐ろしいのは生漆が知らないうちに飛び散ってしまい,これに触れることでしょうか。赤ちゃんがかぶれたら,大人のように「かゆい」だけでは済まないでしょう。まずいことをしました。

 少しずつかゆみも沈静化して,治りかかった2週間後,ちょうど糊も乾いただろうと,削る作業を始めることにしました。

 洗面台に持っていき,デザインナイフで削ったのですが,随分柔らかいです。あれ,と思って断面を見ると,透明になっておらず,白く濁った部分が出てきました。しかも,漆特有の臭いもします。もしかして・・・手に付いた漆を見て,疑いは確信に変わりました。漆は,まだ乾いていません。

 確かに,漆は時間ではなく,条件で乾くものです。私の叔父は,漆を塗ったテーブルが届いた日,肘をついて腕がかぶれ,数日間高熱にうなされたと聞きました。

 私の手はすでに漆まみれです。せっかく漆かぶれが落ち着いてきたのに,また派手にやらかしたのか・・・と焦りますが,ここは嫁さんに救援を求めます。

 漆は油溶性です。油絵の具の油が良いそうですが,そんなものは私の手元にはありません。そこでサラダ油を手に出してもらい,これで漆を落とします。案外綺麗に落ちる物で,最後にこれをハンドソープで除去します。

 まだ指先にねっとりとした感覚が残っていますが,これ以上はどうやっても落ちません。

 そして,このお茶碗に視線を落とします。どうしようか・・・悩んだ末,処分することにしました。漆にかぶれてまで修理に臨んだお気に入りのお茶碗ですが,漆にかぶれるリスクがまだまだ続き,しかもそれがどれくらい耐久性のあるものか,わかりません。電子レンジは?食洗機は?そもそもホントに安全?

 どれも,私には答えを用意出来ません。

 泣く泣く,ゴミ袋に入れました。次の燃えないゴミで,廃棄することにします。

 ということで,漆をなめていた私は,漆にこっぴどくやられました。漆がこれほど難しい塗料だとは思わなかったのと同時に,今時の塗料や接着剤はいかに使いやすく出来ているのかと,感心しました。

 漆も使いこなせるようになると,修理修繕の幅も広がるなあと思っていただけに,これほど手強いとは思いませんでした。残った漆も危険なので,次の燃えないゴミで捨てることにします。

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