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2012年09月27日の記事は以下のとおりです。

デジタルカメラ列伝 その2~SIGMA DP1s

・DP1s(SIGMA,2009年)

 レンズメーカーとしての名声が,もはや揺るぎないものとなったシグマは,しかしながら,焦っていた。

 自分達の手塩にかけたレンズ達は,本当にその実力を出し切っているのか。画質を決めるボディが,あるいはセンサが,自分達の誇りであるレンズの真価に邪魔をしているのではないか。

 レンズ屋ふぜいがなにを言うか!ボディを作り,マウントを持つ大手カメラメーカーの嘲笑が聞こえる。

 シグマは考えていた。今のCCDにせよ,CMOSセンサにせよ,足りない情報を計算で補完している以上,それはウソである。ウソは偽色として視覚化され,しかもウソをウソで塗り固めるために,せっかくレンズが集めた情報を削るローパスフィルタまで使っている。

 こんなバカな話はない。レンズメーカーの誇りにかけて,なんとかしなければ。

 シグマは,長い旅に出る。まず銀塩時代から酷評されつつも続けていたオリジナルのボディをデジタル一眼レフとして新開発。搭載するセンサに,FoveonX3の採用を決定する。

 FoveonX3は三層構造をもつ,全ての色をピクセル単位で取り込む事の出来る希有なセンサである。ウソがない,それがすべてだった。やがてシグマは,このセンサを開発するベンチャー企業を子会社にしてまで,FoveonX3の「正直さ」に惚れ込んでいく。

 こうして誕生したSDシリーズは,唯一無二の画像を吐き出すカメラとして,その名が少しずつ知られてゆく。

 そしてシグマは考えた。このセンサを使えば,究極のコンパクトデジカメが誕生するのではないか。他社がそのレンズ設計で躊躇するAPS-Cサイズのコンパクトデジカメは,自分達だからこそ到達出来る頂ではないのか。

 無骨で飾り気のない金属ボディ,あえて明るさを欲張らずに追い込んだ性能で一眼レフも真っ青な単焦点広角レンズ,そしてウソをつかないFoveonX3。役者は揃った。

 しかしシグマは自らの見通しの甘さに,愕然とする。まともな画が出ない。

 やってもやっても,これだけの素質を持つカメラにふさわしい画像が出てこない。死屍累々,もはや場当たり的な対策でしのげるレベルの話ではないと判断した時,シグマは開発中止ではなく,もう1つの険しい道を選んだ。

 作り直す。

 大幅な発売延期の結果,ようやく我々の目に前に姿を表した究極のコンパクトデジカメ,DP1。ホワイトバランスは外れ,AFは遅く,あげくに合焦しない。露出も外しがちで,2枚目の撮影まで延々待たされる。電池も早く切れて,カメラとしては最悪といってもいい。

 しかし,出てくる画に,息を呑む。

 不自然な色の強調や過度なシャープネスなど,画像そのものは幼稚であっても,そのポテンシャルの高さに気付いた人は,まるで秘密の金鉱を掘り当てた気分がした。RAWの深い淵に静かに潜む,膨大な情報。今目の前にある画像を構成しているのは,そのほんの一部に過ぎない。

 あふれんばかりの情報にどれだけ手が届くのか,狂信者はその挑戦を,嬉々として続ける。

 被写体を選び,構図を決め,光を読み,さらに一歩前に踏み出して,シャッターを切る。渾身のRAWデータを納得ゆくまで現像し続ける。暗部に隠れた輪郭が浮かび上がり,声を上げる。1枚のJPEGを得るのに,いったい何時間かかるのか。すべては,この戦いに勝利するため。

 DPシリーズは,28mm相当のDP1シリーズと41mm相当のDP2シリーズが誕生し,それぞれが初代,s,xと,着実に進化している。

 そして志半ばで故人となったFoveonX3の生みの親からその名をもらって,4600万画素相当の新世代センサを搭載したDP1Merrill,DP2Merrillが,今,圧倒的な高画質で高い評価を得ている。

 しかし,DPシリーズを愛する狂信者にとっては,自らがRAWにたゆたう豊かな情報を引き出さねばならない事実に,変化はない。

 手伝ってくれとは言わない,むしろ邪魔をするな。

 果たして,それは誇り高きレンズメーカー,シグマ自身の声ではなかったか。

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