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2012年10月16日の記事は以下のとおりです。

トランジスタの入手を巡る動き

 ディスクリート部品,特にリードタイプの定番トランジスタの入手がいよいよ難しくなり,値段も上がっているようです。

 とはいえ,代わりに使えるトランジスタは世界中にゴロゴロしていますし,これまで「鎖国状態」だった国産トランジスタの世界が,いよいよ開国したと考えれば何の心配もないのですが,一方で1つ3円で買える汎用品の2SC1815が,オーディオ用トランジスタよりローノイズだったりするという国産品に対する厚い信頼というのは,なかなか消えないだろうなとも思います。

 聞けば,秋月でこれまで200個入り600円だった2SC1815が1900円に値上がりしたのが今年の夏とのことで,今はカタログからも消えています。私は昨年買いましたが,まとまった数が確保出来なくなりつつあるんだろうなあと,そんな風に感じます。

 代わりに海外製の汎用トランジスタが安価に入手出来るのですが,まずピン配置が違いますし,単なるスイッチングなら大丈夫でも,2SC1815の懐の深さをあてにした用途だと,必ずしも同じ結果が得られないのではないかなと思います。

 まあ,本当に欲しい人はすでに買いだめをしているでしょうし,これからの人はこんな昭和時代のトランジスタを血眼になって探すという不毛なことはしないで,今手に入る美味しい部品を使いこなすことを覚えた方が,技術力もアップしてとっても前向きでしょう。

 トランジスタがディスコンになるには,いくつかの理由があります。

 1つは新しい部品で置き換えられる場合。AMのトランジスタラジオも,その昔は当然ゲルマニウムトランジスタで作られていたわけですが,それがシリコントランジスタに置き換わってディスコンになりました。さらにシリコントランジスタも,IC化されてしまってディスコンです。

 1つは,そのトランジスタが使われていた製品が市場から消えてしまう場合。入手困難・価格高騰でその筋には有名な三菱の2SC1971は,CB無線をターゲットにした送信用の出力トランジスタですが,CBなんてとっくに死滅しましたし,そもそもVHFで5Wクラスの出力の無線機なんて市場がありません。この場合,後継品種も出てこないので,一部のマニアは右往左往するわけです。

 最後に儲からないからやめてしまう場合。これはメーカーの都合ですが,例えば2SC1815,2SC945,2SC458,2SC2320は,どれも差し替え可能なメーカー違いのトランジスタですが,ただでさえトランジスタの市場が小さくなっているのに,似たような品種でパイの食い合いをしても損なだけです。単価も利幅も小さく,設備の維持も面倒臭い昨今,先にやめた方が勝ちです。

 結局の所,使われなくなったというのがすべてに共通する背景なのですが,2SC1815のような超ド汎用なトランジスタを含む,TO-92のトランジスタが東芝から消えるというのは,さすがに寂しいものがあります。

 こうしたディスコンに慌てふためくのが,オーディオマニアとアマチュア無線マニアです。どちらもIC化が進み,市場も小さくなって,昔の製品を修理するにも復刻するにも,肝となるトランジスタが手に入らないとどうにもなりません。

 それに,この種のマニアというのは概ね年寄りで,金もあるし時間もあるしで,いきおい買い占めに走ります。余命を考えて買い占めなぞやめて,死ぬまでに使い切れる分だけにして欲しいと私などは思うのですが,まあそれは個人の自由です。

 オーディオは特に金田式DCアンプで使われているものが昔から珍重されています。TO-3というごっついメタルパッケージに入ったパワートランジスタなど,偽物が出回るほどです。1970年代に生産されてとっくの昔にディスコンになったトランジスタなのに,NECのロゴが丸っこい新ロゴになってるなんて噴飯物です。

 偽物でも,それなりに互換性があって動く物なら良心的なのですが,悪徳業者がそんな親切なことをするわけはなく,定格もピン配置さえも違う,形がかろうじて似ているだけのものを刻印し直すのですから,大事故につながりかねません。

 アマチュアはメーカーのように,部品の受け入れ検査をするのに限界があります。検査などしないでいきなり作って動かすこともしばしばですから,信用第一なんですね。だから,アマチュアが利用する部品店が,堂々と偽物を売っているというのは,いくら何でもひどいんじゃないかと私は思います。

 部品店は基本的に交換や返品を受けないのが慣例ですが,偽物を売りつけておいて購入者に全責任を負わせるというのは,まあ詐欺ですね。

 どうしてこんなことを書くかと言えば,先日古本で,1969年に発行された「東芝トランジスタ回路集」なるものを買ったのです。トラ技の向こうを張るプロ向けの雑誌「電子展望」の別冊扱いですが,なにせ東芝のトランジスタの本ですので,広告も当然東芝です。

 中に,東芝のトランジスタをぜひ工作に使ってみて下さい,お近くの販売店で売ってます,2SB56は定価100円です,と,アマチュアに対する広告も存在するのです。

 1969年の100円ですから随分高いんですが,40年以上前の本をパラパラと見てみて,とても活気があって面白いなあと感じたのです。

 当時はゲルマニウムからシリコンへの移行期で,シリコントランジスタもどんどん品種が拡大し,価格も下がって使いやすくなっていった時代です。ICも登場して,ようやく軍事一辺倒から民生品に使われ始めたときではないでしょうか。

 これまでは懐かしい,くらいの印象だったこれらの本も,トランジスタが入手出来なくなると一気に古めかしく,実用度を失った,完全に過去の本となります。真空管も,ブラウン管も,過去の技術というのはすべからくそういうものだから仕方がないのですが,比較的緩やかに進行していたトランジスタの終息は,案外近いうちに来るのかも知れません。

 ところで,そんな話もある中で,ちょっと面白い話です。

 日立のパワーMOS-FETと言えば,2SK134/2SJ49です。1970年代後半に登場した画期的なデバイスで,オーディオ用のパワートランジスタとしてはとても有名です。

 TO-3のメタルパッケージに入ったこの品種はとっくにディスコン。モールドパッケージのTO-3Pになった後継品種の2SK1058も実はディスコンになっていて,日立のオーディオ用パワーMOS-FETは絶滅したかに見えました。

 ところが,あるところにはあるんですね。イギリスのあるメーカーが,互換品を作っています。どうやら現行品です。TO-3のメタルパッケージですから,2SK134と完全互換という触れ込みです。なにやらスイスの超高級オーディオメーカーで採用とか。

 入手は難しいでしょうが,頑張れば手に入るわけですから,これはこれでありがたい話なんじゃないでしょうか。

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