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2013年09月19日の記事は以下のとおりです。

オーディオのおける混変調歪み

  • 2013/09/19 08:55
  • カテゴリー:make:

 VP-7722Aというオーディオアナライザが高級機たるゆえんは,1980年代中頃の測定器にして,来たるべきデジタルオーディオの開発設計に耐えうる,超低歪みをとらえることが出来るものであったことでしょう。

 歪率0.0001%という発振器は現代においてもトップクラスです。もちろんこれを使って測定する歪率計も,十分な性能を持っています。

 基本性能の充実はもちろん,多機能てんこ盛りなのも,さすがフラッグシップモデルです。2ch同時測定,左右のレベル差をdBで一発測定,相対値の表示,高調波歪率の測定だけでも3つのモードを持ち,しかも2倍,3倍,4倍,5倍の高調波を抜き出して測定する機能まで持っています。

 さらに,通信機の評価に使われるSINADを測定出来たり,S/Nも自動測定する機能があったり(S/Nですから,信号がある時とない時のレベル差を計らねばなりませんが,それを自動でやってくれるんですね)と,オーディオに関する測定を簡単に,かつ高精度に行う事が出来る,まさにアナライザにふさわしいものだと思います。

 もう1つ,特筆すべき機能が,混変調歪み率の測定です。

 ぱっと調べてみたのですが,旧松下のVPシリーズで,混変調ひずみ率が測定出来るオーディオアナライザは,ありません。通常,専用の測定器を使うことがほとんどなのに,VP-7722Aは出来ちゃうんですね。

 ところで,混変調歪みって,オーディオの世界ではあまり耳にしませんし,測定においてもあまり重要視されていないように思います。一般にいわれる高調波歪み率とはなにが違うんでしょうか。

 普通,オーディオの世界で歪率というと,高調波歪み率をさします。そもそも歪みとは,アンプの入力と出力が比例関係にないために起こるもので,特にHiFiオーディオのように波形を変えないことを重要視される世界では,とても重要な指標となります。

 当たり前の事ですが,でかい音が入ればでかい音が,小さい音が入れば小さい音が出て欲しいわけです。もっというと,高い音が入れば高いまま,のこぎり波が入ればのこぎり波のまま,出力に出て欲しいわけです。

 実際のアンプはそこまで理想的ではないので,例えば10倍のゲインを持つアンプが,1をいれれば10で出ても,10を入れて100が出てこないで,80しか出なかったりするのです。比例関係が崩れてしまうと波形が変わってしまいますし,波形が変わるという事は,倍音の構成が変わってしまうことになります。

 このように,比例関係が維持されないことはアンプにとって致命的なのですが,特にこの比例関係を直線性といいます。別の言い方では線形といいますが,ほら,小学生の時の算数で習った比例のグラフは,まっすぐな直線でしたよね。比例関係にないグラフと言えば,例えば二次関数の放物線がそうですが,これなどは非線形の代表です。

 ある関数をf(x)として,y1=f(x1),y2=f(x2)とした場合に,y1+y2=f(x1+x2)が成り立つ関数を,線形といいます。難しい言い方ですが当たり前の事を言ってるだけで,線形なら1を入れて10が出てくる時,2を入れれば20が出てくるという話に過ぎません。

 線形では,一次関数というくらいですから,かけ算は1回しか行われないので,計算は単純な四則演算だけで済みます。これが2次関数なんかになるとx^2が入ってきたりしますので,これを解析するには平方根を使う必要が出てきます。三角関数なんかがはいってくると,もっとややこしい話になります。

 さて,直線性が崩れてしまうと,入力と出力が比例せず,出力の波形がゆがんでしまいます。これが歪みです。単一の周波数で作られている正弦波が歪んで波形が変われば,単一だったはずの周波数に加えて,その数倍の周波数の正弦波が混じるようになります。この数倍の周波数の正弦波を,高調波といいます。

 楽器の世界では倍音というのですが,同じものでも有益なものは倍音,望まないものは高調波というような気がしますね。

 のこぎり波は1,2,3,4,5・・・と整数次の倍音で構成されます。矩形波は1,3,5,7・・・と奇数次の倍音で構成されます。だから,入力に正弦波を入れたつもりが,のこぎり波になって出てくると言ったことだって,起こるわけです。困りますね。

 どれくらい直線性を保っているかは,どれくらい高調波が発生したかを見ればわかります。完全に直線なら高調波は発生しません。

 そこで,高調波歪み率を測定するには,歪みのない綺麗な正弦波を突っ込み,出力された信号から入力した正弦波の周波数だけ取り除いて,発生した高調波の電圧を測定してやればよいです。これが高調波歪み率の測定の原理です。

 ただ,入力の正弦波だけ除去するのであると,アンプが乗せてしまったノイズなどが混じってしまいます。これらはアンプの非線形によって発生したものではないのに,測定結果が悪化するので,これをどう扱うかで高調波歪み率の測定方法が変わります。

 THD+Nと略されるものは,入力された正弦波以外の成分すべてです。つまりノイズも含みます。THDはノイズを含みません。

 また,100Hzの入力なら,例えば20kHzまでの範囲に200倍音まで入ってきますが,10kHzの入力なら2倍音までしか入ってきませんので,同じアンプが入力する周波数によって大きく測定値が変わってしまうことになります。

 だから,何倍音まで計算に入れるかという範囲を最初に決めておく場合があります。通常10倍音まで含めることが多く,実はVP-7722Aはこの時代の製品にしてDSPによってこれを可能にしています。

 ここで頭のいい人は,アンプの非線形で発生する成分てのは,所詮は入力した周波数の倍だけでしょ,という事に気が付いたでしょう。倍の周波数というのはつまりオクターブ上の音ですから,確かに波形は変わりますが,耳障りな不協和音を発生させません。

 しかし,歪みのあるアンプは,明らかに耳障りですね。それは,これから説明する混変調歪みが原因です。

 混変調歪みとは,2つの周波数を入力した場合に,出力に入れた周波数以外の正弦波が出てくるものを言います。これも,非線形が原因です。

 線形の場合,2つの周波数の正弦波を入れても,2つの正弦波がそのまま出てくるだけです。しかし,非線形の場合には,2つの周波数の和と差が出てきてしまいます。三角関数をちょちょっといじれば分かるのですが,面倒臭いので省略。

 これがなぜ問題になるかというと,例えば1kHzと50Hzの2つが入って来た場合に,950KHzと1050Hzの正弦波が発生してしまうのです。これは明らかに整数倍ではないため,不協和音のように濁って聞こえてしまうのです。

 しかも,非線形なんですから,それぞれの正弦波に高調波がはっせいしますから,990Hzや1100Hzも出てきますし,さらに985Hzも1150Hzも出てきます。これが2kHz,3kHzにも同じように出てくるので,倍音だらけ,しかも非整数次ということで,濁って濁って大変なわけです。

 実際のアンプは,もちろん正弦波を聞くためにあるわけではありません。複雑な倍音構成をもつ楽器を再現したり,複数の楽器や声を混合したものが,ありのまま出てくる事が必要です。ですから,実際の使い方としては混変調歪みの方が問題になるんですね。

 しかし,混変調歪みも,高調波歪みも,結局非線形という同じ理由で起こるものですから,どちらか一方だけ測定すればそれで済んでしまいます。高周波の世界では非常に問題となるのでむしろ混変調歪みの方が重要ですが,これを測定するのはなかなか面倒なので,オーディオでは高調波歪みの測定が一般化しているんでしょうね。

 混変調歪みを測定するには,2つの周波数の正弦波を入れねばなりませんが,その周波数と大きさを決めないと,結果が一致しません。そこで一般に2つの方法が標準化されています。SMPTE法は60Hzと7kHzを入れ,そのレベル比は1:4にします。そして7kHzの周辺にでる成分をフィルタで切り出してその大きさを測定します。つまり2つの周波数が離れている場合を想定しているわけですね。

 もう1つはCCIF法といって,11kHzと12kHzという近い周波数の正弦波を2つ入れます。もし系が完全な線形ならば2つの周波数以外は出てきませんが,非線形であれば2つの周波数の和と差の成分が生成されて,しかもその高調波が発生します。これをフィルタで切り出して測定します。

 いずれの場合も,測定に必要なのは,低歪みの発振器が2つと,その出力を正確な比率で混合する機能です。それゆえ,専用の測定器を使うのが普通です。

 ですが,VP-7722AはSMPTE法で混変調歪み率を一発で測定することが出来ます。これはなかなかすごいことです。ですが,実際にこれを使わねばならんかというと,そうでもないんですね。

 どっちにしても非線形が原因であり,高調波歪みが大きいなら混変調歪みも大きいはずですし,どちらかの値しかない何かとの比較を行わない限り,どちらかを測定するだけで十分ということなのでしょう。

 面白いなと思うのは,原因は同じであっても,聴感上は全く異なるものになるだろうということです。その違いを数値化するという点では,どちらの数字にも意味があります。

 SMPTE法では,商用電源の周波数である50Hzや60Hzと音声信号が一緒に入った場合をシミュレートしていると言えます。今のアンプはそうでもないですが,真空管アンプやラジオはハムが結構大きかったですから,非線形によって肝心の音声信号がどのくらい濁ってしまうかを数値化することは,確かに性能評価には有効でしょう。

 CCIF法はまたちょっと違う考え方です。近接する周波数ですから,これは複数の楽器を同時にならした場合をシミュレートしているといえそうです。つまり,直線性の高いアンプを作れば,2つの楽器が濁らず,綺麗に2つの楽器として聞こえてきますよと言う,そういう性能評価に有効な数字であるということです。

 ハムが入ってこないように作れば実使用上はSMTPE法で出てきた数字は無意味になりますし,音源が単独で,残響音も全くない,それこそ朗読を再生するようなケースでは,CCIF法の数字は意味を持ちません。

 しかし,そういう極端な例はほとんどありませんし,数値と実際の音とが乖離して,スペック競争に陥りがちな性能の数値化にあって,どちらも現実の「音の良さ」を数値化しようという,結構高い志で始まったものなんじゃないのかなと,思ったりします。

 気の利いたカタログには混変調歪みは書かれていても,アマチュアの測定項目にはなかなか入ってきませんし,市販の機器でもこれらが仕様として公表されているものは,そんなに多くはありません。ちょっと残念だなと思います。

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