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2015年03月27日の記事は以下のとおりです。

化学調味料で一発逆転

 我々ファミコン世代にとって化学調味料とは,禁断の毒物でした。多くは親,それも母親にすり込まれたものなわけですが,子供がゲーム脳なら親もまたゲーム脳だったと,つくづく思います。

 手放しに化学調味料を賞賛するのも,また否定するのも誤りで,どんなものでも,食べ過ぎは体に悪いものです。過ぎたるは及ばざるがごとしとは,まあよくも言ったものだと思います。

 その昔,味付けは海水で行われていたそうです。お米を炊くのも,魚を焼くのも,海水を使っていたという話なのですが,さすがに面倒なので海水の主成分である塩を抽出して,これを料理に使うようになったのが現代です。

 厳密に海水には塩化ナトリウム以外にもいろいろなものが溶け込んでいるのですが,海水を再現する調味料としてそれらを調合するという話はなく,やっぱり塩化ナトリウムが基本調味料として,世界の食卓に君臨しているわけです。

 こうすることで,いちいち海水を用意しなくて良くなったのですが,純度の高い塩化ナトリウムにしておくことで量の調整が確実に出来るようにもなりました。これは食品工業において,特に大量の食品を生産する場合に必須となるものです。

 また,塩という切り口だけで見れば,それは塩化ナトリウムであれば作り方はなんでもいいわけですから,海水を煮詰めて作る以外に,塩田に蒔いてもいいし,イオン交換樹脂を使ってもいいのです。

 同じ理由で,いちいち昆布や鰹節からダシを取っていたら,手間も時間もお金もかかって大変なので,これらから抽出し純度を高めた「うまみ」成分を使うようにすれば,料理がとても楽になり,しかも美味しく出来るようになるわけです。

 また,塩と違ってうまみ成分というのは複雑な構造をしていますから,海水を煮詰めて終わりとか,岩塩を掘り出して終わり,というわけにはいきません。

 ですが,昆布や鰹節から取り出すと手間も時間もかかって,うれしくありません。だから,うまみ成分を特定し,これを別の方法を駆使して安価に大量に,安定した品質で作る事が出来れば,大変にありがたいわけです。

 天然のダシからうまみ成分を特定し,高純度なものを作ることのメリットは,量の調整が確実にできる,安く作る事が出来る,僅かな量で硬い効果が得られる,ということになるわけです。

 うまみと塩味を同じレベルで話すことに無理があると思う人もいるでしょうが,その話も2004年までの議論です。2004年には,味を感じる受容体に,うまみ成分で信号を出すものが'発見されました。塩からい,甘い,酸っぱい,苦い,という4つの独立した味覚に,第5の味覚として「うまみ」が組み込まれたのです。

 ということで,私にとって化学調味料は,塩や砂糖と同じです。塩も砂糖も,食べ過ぎると体に悪いでしょう。同じ事です。味の素の大さじ一杯を昆布から摂取しようと思ったら,非現実な量の昆布を食べないといけません。

 自然の力が優れているとすれば,含まれている量が少ないから危険なほど大量に摂取するのが不可能になっているということでしょうか。そう考えると人間は,そのリミッターを解除することを「テクノロジー」と呼んでいるという事になるでしょうね。

 化学調味料は,すでに様々な食品に使われていますから,すでに食べない生活を長期間続けることは,不可能です。また,おいしいと思う食べ物には概ね化学調味料が使われているので,好むと好まざるにかかわらず,化学調味料を使って作った味が,現代のおいしさの基準になっていることも,認めざるを得ないでしょう。

 これで体に悪ければ話は別になるのですが,体に悪いかどうかはその分量で決まる世界であり,ここに気をつけて上手に使えば,料理が美味しくなること間違いなしです。

 事実,化学調味料を否定し,これを使わない家庭料理の,なんとまずいことか。あるいはなんと手間のかかることか。食品添加物には化学調味料以外にもたくさんのものがあり,それこそ体に悪そうなものも多いわけですが,手間がかかることで外食の回数が増えたり,冷凍食品や出来合いの総菜を使う機会が増えてしまうなら,保存料などの食品添加物が山盛り入ったこれらを食べる方が,よほど問題があると私は思っています。

 で,私は以前から,安いという理由で味の素を多用していたのですが,投入する分量が難しく,効果のある分量が非常に狭いことが経験的にわかっていました。ちょっと入れるだけで大幅に効き目が変わってくる,適量の範囲が非常に狭い,とてもピーキーな特性です。

 昆布だとたくさん使わないといけないですから,分量の多少の多い少ないが最終的な料理の味に影響することはほとんどありません。しかしうまみ成分そのものである味の素は,ほんのちょっとで自然界では考えられないくらいの「濃度」に出来るんですね。これが難しいのです。

 プロは,大量に作りますよね。だから化学調味料も大量です。多少の多い少ないでは,味にそれほど影響を与えないわけです。家庭料理はそうはいきません。

 入れすぎた化学調味料はどうなるかというと,うまみを感じる受容体以外の受容体にむりやり入り込み,ここでおかしな味として認知されることになります。化学調味料独特の薬品っぽい味とか,えぐみとか,ああいう不自然さは,入れすぎによるものです。

 話を戻しましょう。

 私も夕食を作る担当者になっていますので,手早くおいしく安価に,しかも毎日作ることを求められています。化学調味料を否定していたら,とても回りません。それなら積極的に使おうと,いろいろ検討してみました。


(1)うまみについて

 うまみと一口にいっても,いろいろあります。人間には「うまいな」と思う物質が複数あるという事なのですが,それぞれ感じ方が違います。

 また,よく知られた事実として,混合した方が単独で使うよりも強く味を感じるというのがあります。お砂糖にちょっと塩をいれると甘さが強くなることを経験している人は多いと思いますが,うまみもしかり。グルタミン酸とイノシン酸を一緒に食べると,単独で食べるよりも強くうまみを感じるのです。


(2)うまみ成分の種類

 うまみ成分には複数あると書きましたが,大雑把にいうと,こんな感じです。

・アミノ酸系・・・グルタミン酸
・核酸系・・・イノシン酸,グアニル酸
・有機酸・・・クエン酸,コハク酸

 核酸も有機物だよとか,そういう中学生レベルのツッコミは却下です。


・グルタミン酸

 グルタミン酸は,昆布だしの主成分です。かの池田菊苗先生により発見され,うまみを司るものとして世界に知られるようになった,記念碑的物質です。

 私がすごいと思うのは,世界共通で誰も否定することのない,塩辛い,甘い,酸っぱい,苦いの4つの味以外に,もう1つ「うまみ」を追加しようと考えたことです。これを明治時代にやってるんですから,なんという自信かと思います。

 そこから100年以上時間を経て,本当にうまみを感じる受容体が発見されて,味覚は5つだったことが証明されるわけですから,もう脱帽です。

 で,池田先生は昆布からグルタミン酸を抽出したのですが,その後小麦のグルテンを加水分解したり,石油から合成とか,紆余曲折を経て,今はグルタミン酸を生成する細菌にサトウキビの絞りかすの糖分をエネルギーとして与え,温度と酸性度を管理して発酵させ,大量に安価に安全に生産しています。

 このグルタミン酸(実際にはグルタミン酸ナトリウムですが)を商品化したのが味の素です。大企業になりましたが,もとはこのグルタミン酸を調味料として生産して販売するために立ち上げられた会社です。

 そして今も,味の素の看板商品は,味の素です。


・イノシン酸

 イノシン酸は核酸系のうまみ成分です。食品添加物としては「アミノ酸等」と書かれるし,同じ核酸系のグアニン酸と区別されないという可愛そうな物質ですが,これは鰹節のダシの主たるうまみ成分です。

 今調べて分かったのですが,致死量LD50が,14.4kg/kgなんですね。これ,60kgの大人だったら,860kg食べると半分が死ぬよと言う意味ですから,やっぱり食べ過ぎは毒なんですね。

 
・グアニル酸

 これも核酸系のうまみ成分です。同じ核酸系のイノシン酸と一緒にくくって「核酸系」とすることも多く,区別されない場合も多いようです。

 ですがグアニル酸は,シイタケのダシ由来の成分です。

 区別しないのか,区別出来ないのかはわかりませんが,どうも製法上一緒に出来てしまう,別々に分けることが出来ないということではないかと思います。
 
 どっちにしても,イノシン酸とグアニル酸は一緒に食べると,うまみがブーストするそうです。ただ,グルタミン酸ほど安く作る事は出来ず,核酸系の調味料はどうしても高価になりがちで,スーパーの店頭でも「高いな」という印象のものにしか入っていません。

・クエン酸

 クエン酸はよく知られているように,ミカンやレモンの酸味の成分です。実のところうまみの受容体には作用しないので,厳密にはうまみ成分ではありません。

 ですが,他のうまみを強める働きがあるため,配合されているケースがあります。


・コハク酸

 これも良く知られた物質ですが,れっきとしたうまみ成分です。貝類に由来するうまみです。

 また,日本酒やワインに含まれていて,あの独特のうまさを作っています。

 面白いのは,コハク酸は効き目が独特で,ちょっと多いと,独特のえぐみとして感じるんだそうです。(あの,貝類独特の味が私は子供の頃から苦手だったのですが,大人になると受容体の数が減って感度が下がるので,好き嫌いがなくなるんだそうです。)

 しかも,他のうまみを増強するか単独の味として認識されるかのしきい値が低く,ちょっとの分量でコハク酸単独の味になってしまうそうです。

 その意味では使い方が難しいうまみ成分という事になります。


(3)手に入る化学調味料

 うまみ成分にもいろいろあって,それぞれに由来や味に差があることがわかったところで,それらがちゃんと区別して手に入れられなければ,意味がありません。

 そこで,市販の化学調味料を調べてみます。

・味の素(味の素KK)

 安価で,個人で買っても困らない程度に小分けされて,しかもどこでも売っている,化学調味料の代名詞がこの味の素です。グルタミン酸が97.5%,核酸系が2.5%という組成ですから,ほぼグルタミン酸と考えてよい調味料です。

 グルタミン酸は昆布だしの成分ですから,味の素=昆布,ともう暗記してしまいましょう。

 これ単体でぺろっとなめてもマズーとなるだけで,ちっとも美味しくないのですが,それもそのはずで,他の調味料と組み合わせることで本気を出す調味料です。特に塩は必須なのですが,塩の使用量の10%以上を入れてしまうと,本当にまずくなります。入れすぎるくらいなら,入れない方が100倍ましです。

 味はシンプルで素材の味を上塗りするような暴力的なものではなく,まろやかと言うよりも鋭角的な味がします。コクはないですが,涼しげなうまみが上品です。

 個人的な経験では,これ単体で美味しくするのは大変で,他のうまみ成分とバディになってくれることを祈りながら,鍋に投入するという儀式が不可欠です。どちらかというと偶然性にかける部分も否定できなくて,それほど美味しく仕上がらなくても,まあ味の素だしなと割り切るだけのゆとりがなくてはいけません。

 シンプルな料理ほど成功率が上がるのも味の素です。エンドウご飯を炊くときにさっと一振りとか,とろろ昆布をお湯に投入し,醤油と味の素で味を調えるとろろ昆布のお吸い物とか,ありがたい調味料だと思います。


・ハイミー(味の素KK)

 ハイミーならスーパーに売っていますよね。お値段は味の素に比べると随分高いのですが,それは組成の違いです。

 グルタミン酸が92%,核酸系が8%となり,味の素から製造コストのかかる核酸系を3倍も増やしています。

 核酸系は前述しましたが,鰹節とシイタケのうまみです。暖かい料理の味をぐっと高める働きが強いのですが,量の増減に対する味の変化が大きいので,これこそ使いすぎに注意です。

 とはいうものの,私は使ったことがありませんので,パス。


・いの一番(MCフードスペシャリティーズ)

 いの一番は,昔はスーパーでも買えたメジャーな化学調味料だったのですが,今は業務用としてしか販売されておらず,1kgという個人なら子供の引き継げる暗いの量でしか買えません。お値段もそれなりにしますし,成分を見てもハイミーと同じですので,互換品かなと思ってしまいますがさにあらず。

 どうも,核酸系のせいぶんに違いがあるとのこと話で,名前の通り鰹だし由来のイノシン酸が強いようです。ゆえに,いの一番=鰹だし,と覚えてしまいましょう。


・ミック(MCフードスペシャリティーズ)

 さあ,このあたりから知名度がぐっと下がり,知る人ぞ知る世界になってきます。

 ミックは業務用化学調味料の傑作と言われ,どんな料理も一発で劇的においしく出来る,魔法の粉です。

 その組成は,グルタミン酸が89.8%,核酸系のリボヌクレオチドニナトリウムが8%,アスパラギン酸が2%,そしてコハク酸が0.2%です。

 いの一番なんかと比べて見ると,アスパラギン酸とコハク酸がミソなわけですが,アスパラギン酸はアミノ酸の宝石箱たる醤油を代表するうまみ成分であり,コハク酸は前述のように貝のダシ由来です。

 いってみれば,これでまずいはずがないというリッチな組成を実現した化学調味料であり,単体をぺろっとなめても,それなりにうまいと思ってしまう完成度です。

 また,組成が複雑であるがゆえに,すでに互いを高め合うように作られていますから,味の素のように運転を天に任せる味付けをするのではなく,狙った味にすぱっと収れんしていくキレの良さがあります。

 また,使用量も味の素よりもずっと少なくて済みます。昆布,鰹,貝,シイタケと何でもありですから,どんな料理にも使える幅広さも特筆すべき点です。

 値段もハイミーやいの一番とそれほど変わらず,業務用しか手に入らないという点さえ目を瞑れば,まさに最強の化学調味料といってよいと思います。

 とはいうものの,いい話ばかりではなく,味の素は素材の味を上塗りしませんが,ミックは「ミックの味」に塗り替えてしまいます。

 確かに美味しくなるし,これを天然のダシで実現するのは素人には無理と,脱帽気味になる問答無用のすごさがあるのですが,味噌汁でも野菜炒めでも煮物でも,ミックを使えば何を食べても同じ方向性の味になってしまい,素材や調理方法の「必然性」に疑問を口に入れた人々に投げかけたあげくに,「うまいんだけども・・・」という釈然としない後味が残ります。

 ですので,絶対量を少なめにすることも大事ですが,ミックを使う料理を一品くらいにとどめておくのが,鉄則ではないかというのが私の結論です。


・ミタス(富士食品工業)

 ミックと双璧をなす,化学調味料の雄です。組成はグルタミン酸が88%,核酸系のリボヌクレオチドニナトリウムが8%,クエン酸が4%です。

 注目すべきは,クエン酸です。うまみではなく,酸味の成分であるクエン酸をあえて配合しているのがミソなのですが,これも前述のように,他のうまみ成分をマイルドにする力があります。なにやら,鶏ガラスープのような味も感じられるんだそうですが,私は使ったことがありません。


(4)メーカーの変遷

 味の素を除き,何だか耳慣れない会社が作っているのが,化学調味料です。あれ,こんな会社知らんぞ,ってなことが,私も調べていてなんどかありましたが,変遷を調べると,妙に納得することもしばしばです。

 ここ10年ほど,大手企業のリストラが進み,主力事業ではないものはどんどん切り売りされてきました。販売停止にならなかっただけましなのかも知れませんが,製品名は知っていても,メーカーは初耳という状況の根源が,この20年ほどの不景気にあるというのも,また興味深いところです。

 なお,味の素については,昔からなにも変わっていないようなのでさくっと省略し,MCフードスペシャリティーズと富士食品工業を紹介します。


・MCフードスペシャリティーズ

 MCフードスペシャリティーズはいの一番とミックのメーカーです。もともと,いの一番とミックは別々の会社の商品でした。

 いの一番は,武田薬品が作ったもので,年配の方はプラッシーというジュースと一緒に,お米屋さんで売られていた事を覚えているかも知れません。

 その後,武田薬品の調味料事業はキリンビールとの合弁である武田キリン食品に移管されます。さらに武田薬品の食品事業からの撤退を理由に,武田キリン食品はキリンビールの完全子会社となって,キリンフードテックと商号が変更されます。

 一方,ミックは協和発酵が作っていたものなのですが,戦前から続く名門企業である協和発酵は,とにかくあちこちに事業を切り売りしており,食品部門が協和発酵フーズとして独立したのち,先のキリンフードテックと経営統合し,キリン協和フーズとなります。

 ここに至って,いの一番とミックが同じ会社の製品になるわけですね。

 この時,キリン協和フーズはキリンビールの持ち株会社であるキリンホールディングスが全株式の65%,協和発酵キリンが35%を保有しています。

 さて,このキリン協和フーズですが,元協和発酵である協和発酵キリンの株式をキリンホールディングスが取得し,キリンホールディングスの完全子会社になります。

 そして,ここに三菱商事が登場。三菱商事がキリン協和フーズの株式81%を取得して子会社化し,商号をMCフードスペシャリティーズと変更し,現在に至るわけです。

 武田薬品と協和発酵の製品が三菱商事の子会社で作られるようになるなど,およそ想像出来なかったと思うのですが,耳慣れないその会社名は,今や三菱商事に由来するものだと覚えておくといいでしょう。


・富士食品工業

 もともとミタスは,旭化成で作られていたものでした。旭化成の話をし始めるとこれまた大変な異なるので省略しますが,旭化成の食品事業が旭フーズとして分離します。

 これが,1985年に専売公社から民営化した日本たばこ産業に買収されて,子会社であるJTフーズと合併します。この段階でミタスはJTフーズの商品となります。

 一方,戦前から続く調味料のメーカーに富士食品工業があったのですが,ここが2008年にJTと資本提携します。おそらく,この段階でミタスが富士食品工業に移管されたのではないかと思います。

 JTの食品事業は,加ト吉に譲渡されたり,缶コーヒーから撤退するんじゃないかととか,なにかと騒がしいわけですが,ミタスもそうした波にのまれているということでしょう。


 こうしてみると,味の素がどれほど名門なのかがよくわかりますね。他の調味料は売られ売られて流されて,なんとか生き残っている感じがしますが,味の素は今も昔も,味の素です。大したものです。

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