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2016年01月25日の記事は以下のとおりです。

FMブースターを作る

  • 2016/01/25 13:56
  • カテゴリー:make:

 2012年4月に,それまで東京タワーから送信されていた首都圏のFM放送がスカイツリーからに変更になったのですが,実はこの時送信出力が下がっていることは,案外知られていません。

 東京タワー時代には10kWだった出力が,スカイツリーに変わってから7kWになりました。スカイツリーになると,地上高が倍ほど高くなるので,視聴可能エリアは広がると言いますし,高層の建物が少なくなることで電波の障害も減るというのが目論見だったわけですが,私のようにもともと良好に受信出来ていた人にとっては,出力が下がってしまうことが目に見えた「改悪」になってしまいます。

 ですから,スカイツリーに移転したNHK-FMは受信レベルが下がってしまい,ノイズも増えました。一方,東京タワーにとどまった東京FMは,取り付け位置が300mほど高くなり,送信アンテナも性能の良いものになったことで,以前よりも良好に受信出来るようになりました。

 聞き流すだけならそんなに音質にこだわっても仕方がないのですが,録音するとなると話は別で,やっぱりいい音で遺したいものです。しかし,残すに値する番組を放送しているのは,今回悪化したNHK-FMだったりするので,私は正直困っていました。

 受信レベルが下がったことで,明らかにセパレーションが悪くなっているのがわかります。ステレオ受信時のノイズも増えています。

 少しでも受信レベルを稼ごうと,アンテナの向きを再調整してみたのですが,現在の位置が最良と分かって断念。結局年始の東京Jazzのダイジェストは,この状態で録音したのでした。

 ここで,ふと世の中にはアンテナブースターなるものがあることを思い出しました。

 私は実家にいた頃も,引っ越した後も,強電界地域で過ごしたのでブースターの世話になることはなく,作る事も買うこともしないですんだので,検討する事を忘れていました。

 でも,これを使うとテレビでもFMでも,受信状態が改善するというのが定説ですし,昔から「初歩のラジオ」あたりでの自作の定番になっていました。うーん,これは試してみたいところです。

 完成品を買えば楽ちんなんですが,適当な物が見つかりません。なら作るか,という話になるのですが,以前私はテレビ用のブースターを2度ほど作り,いずれもブースターではなくアッテネータを作ってしまい,以後高周波回路に対する苦手意識を拭いきれずにいます。

 以前は広帯域アンプをICで作ったわけですが,今回は80MHz付近の狭帯域アンプです。周波数も低いし,実装の難易度も低いでしょう。簡単な物を探して,作ってみようという気になったのでした。

 FMブースターの定番デバイスは,なんと言っても2SK241です。それなりにローノイズ,それなりにハイゲイン,安くて,しかもバイアスなしで動くという,もう魔法のようなデバイスです。

 以前はそれこそどこでも安く買えたデバイスだったのですが,ディスコンになってからは入手が徐々に難しくなり,GRランクはすぐに枯渇し価格が高騰,Yランクも昨年秋には大手部品店から姿を消し,いよいよ入手が難しくしまいました。

 私は高周波アレルギーがありますけども,壊れたラジオなどの修理用の部材として確保しておく必要性から,2SK241はいくつかのストックを持っています。これが使えると,ちょうどいいなと思っていました。

 長年電子工作をやっていますし,一応プロの設計者な私ですが,高周波は成功例がほとんどないので,ここは謙虚に誰かの回路をそのまま作ってみたいと思います。工夫するのは,デッドコピーがちゃんと出来るようになってからです。

 作ってみることにしたのは,CQ出版から出ていた「講習回路の設計・製作」という本に出ていた,FMブースターです。2SK241を使ったもので,コイルは手巻き,ゲインは20dBくらいということで,性能も十分で自作にもってこいです。

 最初の設計例という事で,設計のやり方が非常に丁寧に書かれています。いやー,これは勉強になるなあ。

 2SK241という高周波増幅用MOS-FETは,内部で2つのFETがカスコード接続されているという,ちょっと変わったデバイスです。回路記号では何の変哲もない3端子のMOS-FETに見えますが,中身はソース接地とゲート設置のFETが繋がって入っていて,高周波回路でもゲインが落ちないように工夫された回路を,たった1つのFETで構成できるようになっています。

 しかも,バイアスをかけなくてもドレイン電流が流れてくれるというデプレッション特性と,ゲートをプラス領域に振ってもドレイン電流が増えるというエンハンスメント特性の両方を持つという変わり種で,ゼロバイアスでも,バイアスを調整して任意の特性に追い込む事も出来るという,実に良く出来たMOS-FETです。

 このデバイスが登場した1980年代は,ICやLSIの進歩がすごかった時代でしたが,実はこうしたディスクリートデバイスもちゃんと進歩していたというのが興味深いですね。それまではJ-FETの定番である2SK19などを使ってましたし,もう少し高性能なものが欲しい時にはデュアルゲートFETを使っていましたので,外付け部品がほとんどいらず,実装も調整も楽ちんな2SK241は,まさに革命的だったんじゃないかと思います。

 2SK241は東芝のデバイスでしたが,その後日立や三洋からも同じようなFETが登場し,無線機やラジオによく使われたそうです。ですが,海外には相当品や同じ構造のFETは見当たらないそうで,どうも日本独自のFETということらしいです。

 日立はすでにルネサスになりとっくの昔にディスコン,三洋も今はなく,東芝も2SK241を廃品種にして久しい今,この一世を風靡したデバイスは人類史上から消えようとしているのです。

 まあ,時代の流れですので仕方がないです。手持ちの在庫を上手に使っていきましょう。

 FMブースター,早速部品集めです。

 デバイスは2SK241ですが,説明によると,ゼロバイアスで大きなゲインが取れるのはGRランクということです。在庫を調べてみると,Yランクは腐るほどあるのに,GRランクは中学生の時に何かを作るために買った2本が,外し品として残っているだけでした・・・

 Yランクで作るという事も考えましたが,外付け部品がほとんどない回路というのはデバイスの素性に頼った設計とも言えるので,ここは素直にGRランクを使う事にします。もう一度言いますが,工夫はデッドコピーが出来てからです。

 基板は,さすがに万能基板ではダメでしょう。しかしエッチングをするのは面倒です。なんかないかなとジャンク箱を漁っていると,幸いなことに手頃な大きさの両面銅箔のガラエポ基板が見つかりました。

 部品の数も少ないので,Pカッターで溝を掘り,さっさと基板を作ってしまいましょう。(やってみたら30分ほどでできちゃいました)

 コイルは0.8mmのホルマル線を巻いて空芯コイルにするそうです。ジャンク箱を漁っていると,オーディオ用のパワーアンプの出力に入れるLCフィルタ用に,でっかいトロイダルコイルが出てきました。これに巻いてあるのがちょうど0.8mmということで,ほどいて使います。

 入力と出力を分離する静電シールドに,銅板がいるそうです。これもジャンク箱を漁っていると,ちょうどいいサイズの銅板が見つかりました。いやー,うちのジャンク箱にはなんでもあるなあ。

 トリマコンデンサは先日秋月でいくつか買った物を使いますし,コンデンサや抵抗もチップの物が見つかったので,これでいきます。お,全部揃ってしまいました。

 部品が少ないので,組み立てはあっという間です。電流が10mAくらい流れることを確認してからシールド板を取り付けます。

 そこらへんに転がっているBNCコネクタをハンダ付けし,SSGを入力に,FMチューナーを出力に繋ぎます。

 さっと試してみると,とりあえず動いているようです。トリマの調整も書かれた通りに出来ますし,ゲインも取れているようですので,いい感じです。放送波を入れて見ると受信状態は随分と改善しているようです。

 手応えを感じた私は,これを金属ケースに入れる事にしました。いろいろ考えたのですが,以前デジットで買った訳ありアルミケースを使う事にします。

 あとは電源で,+10Vなのですが,ジャンク箱をまた漁っているとちょうど10V100mAというトランス式の小型のACアダプタが見つかりました。これにしましょう。

 と,ここで作業は中断,なんとギックリ腰で3日間布団から出られなくなってしまったからです。

 翌週,なんとか復活した私は,ケースの加工(訳ありケースは大きすぎるので,半分の大きさにぶった切りました)を行い,Fコネクタを取り付け,ケースへの組み込みも終わって,あとは最終調整というところまで来ました。

 さて,電源投入。しかし取り付けた電源LEDは光りません。もしやとおもってテスターで調べると,なんとまあ電源の極性が逆になっています。何度もかくにんしたのに,最後の組み立てで間違えていました。

 あわてて修正するも,もう増幅しなくなっていました・・・壊れたようです。

 あー,もうダメだ。やっぱり高周波は私には無理だ。

 壊れる部品はMOS-FETくらいのものですので,こいつが死んだに違いないのですが,今や貴重なGRランクです。うちにはあと1つしかありません。厳しい現実にめまいがします。ああ,なんと馬鹿なことをしたものか。

 それに,交換作業にはシールド板をよけて交換しないといけません。すでにギリギリのサイズのケースに組み込んでいるし,基板を小さめに作ったのでコイルの下にハンダゴテを差し込まないといけなかったりで,これはかなり厳しいです。

 でも,ここであきらめるわけにはいきません。失敗するかも知れないので,今回はYランクに交換です。これなら多少数があるので,やり直しも出来ます。

 やってみると案外簡単に交換ができました。電流も5~6mAと,Yランクらしい値になっていますので,これで動いたでしょう。SSGを繋いで,ちゃんと増幅していることも確認出来ました。ふう,よかったよかった。

 これで3つのとリマを再度調整するのですが,金属ケースにいれたことで動作が安定し,調整がさらに楽になりました。0dBEMFでも,ちゃんとシグナルが確認出来るくらいです。

 ぐいぐいと調整を追い込んで行って,ピークを掴んだところで終了。放送波を確認すると,受信状態がかなり改善しています。いいですね。

 ここまで来ると,基本的な性能を調べてみたくなるものですが,あいにく私には高周波用の測定器は揃えていません。そこでFMチューナーとSSGだけで出来るように,測定を工夫してみました。

 結果は以下の通りです。

・消費電流:5.7mA @9.45V

・ゲイン:77dBEMF - 54dBEMF = 23dB @83MHz
    82dBEMF - 81dBEMF = 1dB @76MHz
    78dBEMF - 63dBEMF = 15dB @80MHz
    78dBEMF - 72dBEMF = 6dB @90MHz

・帯域幅(-3dB):3.3MHz(81.6MHz~84.9MHz)


 どうですか,なかなかのものでしょう。NFは測定出来ないので作りっぱなしになりますが,2SK241のNFから考えて,まあ3dB程度というところではないでしょうか。

 この本の記事によれば,同じ回路を別の人が1つずつ作ってみたそうです。するとゲインは22dBと25dBになったということですから,私の23dBというのは悪くない数字です。なんというか,GRらんくかYランクかはあんまり関係ないようです。

 帯域幅については,記事では5.5MHzと4.0MHzですので,私の製作よりもずっと広いです。帯域が広いほどゲインは下がるので,私の場合は帯域が狭い代わりにゲインが高いという傾向があるんでしょう。

 この結果,76MHzではほとんどゲインがないという状態になっています。でもまあ,80MHzから87MHzくらいで10dBくらいのゲインがあれば,実用上は問題ないと思いますし,それに一番使うのが82.5MHzのNHK-FMですから,これで問題なし。

 ということで,ギックリ腰で中断するわ,中学生でもしないような凡ミスで振り出しに戻るわで,たかがこれだけの回路にどんだけ時間をかけているんだかと,情けなくなるFMブースターの製作ですが,結果を見れば上々で,FMチューナーのレベルメーターも振り切れ,セパレーションも良くなり,満足な状態を手に入れました。

 元々の電波が汚いせいもあり,もう少しノイズが減ればいいのになあと思うことはありますが,ここから先はいろいろ大変だと思うので,FMの受信の問題はここら辺で一区切りとしましょう。

 しかし,もう少しちゃんと測定をする環境を構築したいなあ・・・お,この本の最後の方に測定器の自作も出ているなあ・・・・作ってみるか。

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