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2018年05月29日の記事は以下のとおりです。

ES-2でネガを取りこんでみる

 長期にわたる発売延期の末,さる3月末にようやく発売になったニコンのES-2。名前だけ聞いて「あああれか」と思う人とはじっくり呑みたいと思うのですが,多数の知らない方々のために少し説明をすると,D850のオプションとして用意された,フィルムのデジタイザです。

 デジタイザというからにはフィルムをデジタルデータ化するものなのですが,大げさなものではなく,マイクロニッコールでフィルムを等倍で撮影するための,フィルムを保持したりする小物群の総称です。

 これを使えばかつて高価だったフィルムスキャナと同じことが出来る(というよりもっと簡単にできる)わけですが,そもそもまともなフィルムスキャナが新品で手に入らない現状では,とてもありがたい製品です。

 仕組みはなにも大げさなものではなく,フィルムをマクロレンズを使って等倍で撮影するための,補助用具です。

 とはいえ,マクロレンズで等倍の複写を行うのって,やってみればわかるのですがなかなか難しいものです。平面を維持すること,均一でムラのない光源を用意すること,カラーなら演色性の高い光源が必要な事など,理屈は簡単でもなかなかうまくいかないものです。

 しかも今回はフィルムという小さなものが相手です。平面を維持して固定するだけでもなかなか大変ですし,フィルムは光を透過させて撮影しますから,面光源でなくてはなりません。

 そこでES-2は,フィルムを挟み込むホルダー,そのホルダーをマクロレンズと平行に固定する本体で構成されています。本体の後ろ側はすりガラスのような拡散板がついていて,面光源を作る役割を担っています。

 本体とマクロレンズの先端にねじ込むアダプタはある範囲で動くようになっていて,マクロレンズと平行を保ったまま,距離を固定することができます。

 こうした小物がいくつかで構成されたES-2で,確かにフィルムを「撮影」してデジタルデータ化することは出来るでしょう。しかしそれだけでは実用的ではなく,ミソはD850に内蔵されたネガポジ変換機能です。

 いや,単なるネガポジ変換などPCのソフトでどうにでもなるだろう,というなかれ。ネガフィルムはネガポジ変換(補色への置き換え)だけでは綺麗な色は出ません。これは,フィルムのベースがオレンジ色をしているからで,このオレンジかぶりを補正しないといけません。

 このネガポジ変換機能を本体の機能として組み込んでおくことで,手軽にカラーネガをデジタルデータに出来るというわけです。

 この手のものは昔からあるにはあって,ニコンもES-1という安価な製品を出しています。他社カメラのユーザーも買っている隠れた人気商品ですが,実のところデジタルカメラ本体の性能も良くないといけませんし,画像処理の手間を考えると,お遊びのレベルを超えてなかったように思います。

 フィルムスキャナが優れていたのはオレンジかぶりの補正もそうですが,カラーネガは適正露出から外れるとカラーバランスが崩れてくるので,露出の補正は明るさと色の補正を必要とし,これをきちんとやってくれることにもあります。

 さらに高級機(というより実用機)は赤外線を使ったゴミ取り機能も持っているので,手作業で行うゴミ消しのレタッチをしなくて済むという,大量の写真を処理する時には,そのありがたみを実感したものです。

 また,カラーネガにもポジにも言えますが,画像処理を細かく調整し,フィルムや撮影画像の個性をうまく引き出すような設定も可能になっています。

 D850とES-2の組み合わせで実現するフィルムのデジタイズは,カラーバランスの補正もゴミ消しもやってくれません。画像処理の設定も触れないので,基本的にはフィルムをセットしてシャッターボタンを押すだけの作業です。

 ところが,たったこれだけのことで,とてもうまくデジタル化が出来るのです。

 ところで,なんで「スキャナ」じゃないのか,と言う話ですが,フィルムスキャナは1次元のラインセンサを使い,1ラインずつフィルムを取りこんでいったのでスキャナ,一方でD850は2次元のイメージセンサを使い,一発で画像を取りこみます。

 だからスキャンはやっておらず,そこは生真面目なニコンのこと,スキャナではなくデジタイザなんですね。

 話を戻すと,ES-2はその品物を見ると,2万円は高価だと思います。先に言ってしまうと,得られる価値は2万円を優に超えると思いますが,これなら数千円で買えるES-1を使おうと思う人がいるのも無理はありません。

 しかしそのES-2,待たされた&高価なだけに,細かいところに気が利いて,とても良く出来ています。

 対応レンズはマイクロニッコールの60mm(AF-SとAIAFの両方)と,40mmの3本に正式対応です。とはいえ,レンズと連動する機構があるわけではなく,本体がES-2を認識して設定が自動的に切り替わったり,特殊な機能が発動したりといったギミックはありません。

 余談ですが,そういうギミックがあることを喜んだり,逆にギミックがないことを残念がったりするのが自然な発想のように思うものですが,見方を変えるとそうしたギミックがなくてもちゃんと便利に使えるものならそれが一番いい訳で,まずはそうしたシンプルで機能的に十分なものを考えていく必要があると私は思います。

 光源は各自で準備しないといけませんが,窓際で太陽光を使ってもいいくらいです。しかし,蛍光灯やLED電球の演色性の低いものを使ったり,最初から色味が付いている光源を使うと,発色が悪かったり,色が転んだりしますので注意が必要ですし,いくら拡散板があるとはいっても,やはり点光源だと明るさにムラが出てしまいますので,できるだけ面光源を確保したいところです。

 私の場合,昔買ったライトボックスを使いました。今はもう見る事のない冷陰極管を使ったもので,今どきのLEDのものに比べて見劣りしますが,実は冷陰極管は演色性が高い(ものを作れる)ので,このライトボックスはこういう用途には好ましいです。

 これをES-2と平行に置いて,平行光にします。

 フィルムホルダーにネガを挟み込み,本体に差し込みます。D850をライブビューにしてES-2本体を前後に動かしたり回転させたりして,ちょうどいい大きさで,まっすぐ取り込めるように位置を調整して,固定用のネジで動かないようにします。

 D850の設定から,ライブビューのネガの取り込みを選ぶと,さっとネガがポジに変化します。これはなかなか見事です。

 あとはオートフォーカスでフィルム面にフォーカスを合わせて,どんどん撮影していきましょう。1コマ撮影したら1コマずらして,あっという間に6コマ終わります。これは早いし楽です。

 F8まで絞り込まれるのでシャッター速度は1秒近くになり,手ぶれが心配になる課も知れませんが,カメラと一緒にフィルムも動くので,手ぶれはありません。とはいえ,手ぶれなどの振動でフィルムだけ別の動きをしたり,風があったりしたらぶれるので,出来るだけ早い方がいいのは確かです。光源が明るい方がノイズも少なくて好都合ですし。

 そんなわけで,1コマ1秒くらいで撮影出来るので,ネガの交換の手間を考えても,36枚撮りのフィルム1本を数分で処理できます。

 取りこんだ画像はなかなかよく,考えてみたら高性能なマクロレンズと4500万画素の高級機を使うのですから,かなりお金のかかったスキャナということが言えるわけで,この結果は当たり前といってもいいでしょう。

 実際,銀の粒子がきちんと描画されており,すでにネガフィルムの解像度をD850は越えていることが伺えます。

 期待していたのは,ネガフィルムの画質が今風になっていることだったのですが,そこはやっぱりネガフィルムらしさを残しているので,昔のネガフィルムを現代に甦られるというような使い方には厳しいと思います。

 ちなみに,フィルムのデジタイズ機能にはネガポジ反転を行うカラーネガフィルムだけではなく,そのままを取りこむポジや,モノクロネガを反転させるモノクロネガフィルムにも対応します。

 このうちポジの取り込みは通常の撮影と同じということもあり,RAWでも残せるし,ホワイトバランスも調整可能なのですが,カラーネガについてはネガポジ反転の処理をやる関係か,JPEGのみの出力です。これはちょっと残念です。

 とまあ,全部で8本のカラーネガを取りこんでみました。

・良い点

(1)スタンドアロンでカラーネガが取りこめる

 これは結構重要です。後述しますが,ディスコン前に意を決して購入したフィルムスキャナCoolScanVは,本体はまだまだ元気なのにPCのソフトが更新されず,現行のMacでは全く使うことが出来ません。

 Windowsでも裏技を使い自己責任で動くようにするのがやっとで,やはりPCを使うことが前提になると,案外早くに使えなくなってしまうものです。

 トータルの性能はPCの処理能力にも引っ張られますし,PCのメンテを怠るとサ行が止まることもしばしばですから,スタンドアロンで動くのであればそれが一番いいです。


(2)高速

 なんといっても,シャッターボタンを押すだけで取りこみ完了ですから,早いです。フィルムスキャナでは1コマに数分かかります。


(3)高画質

 素晴らしい解像度,素晴らしい発色,そして素晴らしい画質で,これがフィルムかと思うほどの高画質で取りこめます。安価なフィルムスキャナには,高速でも画質がビデオ並みというのもありますから,これはD850とマクロレンズの高性能が生かされた例だと思います。


(4)テレビに映してみんなで見られる

 そして,その高画質をHDMIでみんなでテレビで見られます。これもこれまで,出来そうで出来なかったことで,昔の写真をワイワイみんなで見るという楽しい使い方が出来ると思います。


(5)なかなかうまくネガポジ反転しているので色もいい

 オレンジベースのネガフィルムは単純な反転ではダメで,ちゃんと画像の処理をしないといけません。そこはやはり,かつてフィルムスキャナをやっていたニコンだけに,ノウハウが伝承されていると期待したいです。


(6)作業スペースが少なくていい

 小さい作業スペースがあれば十分で,これがフィルムスキャナにPCだと大ごとになっていました。電池で動くことも重要で,これでフィルムの取り込みが身近なものになったことは間違いないでしょう。


・悪い点

 大きく重くPCが不可欠で取り込みに時間がかかるフィルムスキャナとの比較でES-2と比較してみると,案外ES-2の欠点が見えてきます。

(1)ゴミ,ホコリ,キズに全く無力

 CoolScanVには,DigitalICEという赤外線を使って取りこんだ画像からゴミ,ホコリやキズを消す機能が備わっています。

 赤外線を使えばこうしたゴミやキズだけをスキャンできるので,これを元にゴミやキズの場所を特定し,消したりぼやかしたり出来るという機能です。

 ES-2を使って取りこむと,当然こうした機能の恩恵にあずかれません。キズもそうですし,案外面倒なのはホコリで,ポンポンとテンポ良く撮影して取りこんでも,あとで見返すと大きなゴミでやり直しになることが多く,うんざりします。

 それでもホコリはやり直せますが,キズはもうどうにもなりません。


(2)ホルダーが使いにくくて6コマごとのネガの交換に時間がかかる

 ES-1とは違って,ES-2では6コマのスリーブを連続して扱えるホルダーが使えるようになりましたが,このホルダーが案外くせ者で,なかなかうまくネガを挟めません。無理に挟むと傷を付けたりしますし,油断すると斜めになります。

 それに,古いカメラでは案外コマ間がばらつくので,結局1コマごとにいちいち確認して位置を合わせる必要があったりします。

 だから,取り込みそのものは1秒までで終わるのですが,フィルム1本を終わるのにかかる時間は案外多くて,30分ほどかかってしまいます。実は,これだとCoolScanVでかかる時間とそんなにかわりません。


(3)RAWで残せない

 これも問題です。私としては,ネガの画像もじっくり仕上げたいと思っていて,それは現像と言うよりもプリントという作業工程だと考えていました。ですが,ES-2ではJPEGしか出力出来ませんので,そこからの加工にほとんど自由度がありません。

 CoolScanVもRAWで残せない(残せるのだが現像ソフトで扱えず,しかもその実態はTIFFらしい)ので期待したのですが,その期待は裏切られてしまいました。

 ホワイトバランスや色の調整,トーンカーブの修正もしたいし,ノイズの除去,退色の補正は必要でしょう。ホコリやキズを自動で消せないなら,せめて手動で消すためにも,JPEGではなくRAWで残せるようにしてほしいと思いました。


(4)色の調整が出来ないので退色したネガには無力

 JPEGでの出力でも構わないのですが,なにせわずかな明るさの変更くらいしか調整がほとんど出来ないので,ネガを作品として仕上げるのはあきらめた方がいいかもしれません。

 D850はホワイトバランスが優秀なのでつい忘れがちですが,フィルムのホワイトバランスは太陽光で固定です。蛍光灯では緑にかぶりますし,適正露出から外れると色が転びます。さらに,経年変化でも色が変わっていきます。

 デジタルは,こうした色の修正などは得意技なのだから,取りこんだネガもある程度の自由度があると信じていましたが,ほとんど変更出来ません。JPEGでいじるとあっという間に破綻しますので実質無理だと割り切るしかなく,つまるところES-2はフィルムの写真を作品に仕上げるというより,手軽に見るのを楽しむものだというコンセプトだと,思い知らされました。


(5)電池の消耗が激しい

 ライブビューで長時間動かすわけですから,かなり電気を消費します。おかげで,フル充電の電池も2本ほどスキャンすればもう電池は半分以下になっています。


(6)光源の確保が難しい

 前述しましたが,演色性の高い面光源で,かつ長時間駆動が可能な光源って,ありそうでないものです。


 とまあこんな感じで,個人的にはES-2にはすごく期待したのですよ。もしかしたら家にあるたくさんのネガとポジを,これで全部取り込み直さないといけないかもと思うくらいの覚悟をしていたのです。

 しかし,結果は良く出来ているけどもう一歩で,作品として作り込むことも出来なければ,作品の素材としての素性も良くないので,結局ネガがテレビで鑑賞できてよかった,でおしまいになってしまいそうな感じです。

 この機能の搭載はまだまだ始まったばかりですし,今後さらに良くなっていくだろうと思いますが,現段階ではこの機能でどこまでをカバーしようとしているのか,今ひとつ見えないと思いました。

 大げさな準備もいらないし,場所も必要なく,簡単な作業で高画質が得られるので,今後も出番はあると思います。しかし,素材として取りこむとか,作品に仕上げるという場合にはこれではやはり物足りません。

 今回,ES-2を使った結果,CoolScanVも引っ張り出すことになってしまいました。Macではもう動かないのでWindows8.1で動かしてみましたが,最初は手間取ったものの案外簡単に動き出し,傷もホコリも消えて,おかしなクセもない,さすがフィルムスキャナという素材性の高い画像が得られました。

 今回は退色していないネガばかりだったのですが,CoolScanVには退色の補正機能も備わっていますから,やっぱり今の段階では,専用機が一番だなと見直しました。

 CoolScanVは時間のかかるスキャナですが,6コマのスリーブなら自動で給装してくれますし,その場に張り付いていないといけないわけではないので,案外負荷は軽いです。

 もちろん,そのCoolScanVはすでに入手出来なくなっています。安価なフィルムスキャナは論外として,今まともなフィルムの取り込み手段はこのES-2くらいしかありません。

 だから,それなりの高画質でフィルムをデジタルにすることが出来るものとして。このES-2には大きな価値があると思います。

 だからといって,フィルムスキャナがもうゴミになるかといえばそうではないということです。

 フィルムの面白さを支えるのは,フィルムスキャナです。まだまだCoolScanVには頑張ってもらうことになりそうです。

 

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