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2019年08月27日の記事は以下のとおりです。

日本カメラ博物館とワークショップ

 子供が自らの最大の関心事となり,かつ生活の中心に居座っていると,子供の「夏休み」がまるで自分の夏休みのような感覚に囚われます。いやはや,面白いものです。

 その開放感も,高揚感も,なにやら自分の事のような気分です。自分の生活はなにも変わっておらず,大人には夏休みはないのに,まるで夏休みを過ごしているような気持ちになるのはなんだか得をしている感じがして,これも子供を持つことの特権の1つかなあと思ったりします。

 もちろん,子供は自分で面白い事を見つけてきますし,勝手に面白おかしく夏休みを過ごしてくれるものなのですが,大人は大人の仕事として,子供たちの手の届かない範囲にある「面白い事」を,ぐっと彼らの近くに引き寄せることも,やるものです。

 だからこそ,夏休みになるとあちこちで子供たちを対象としたイベントが開かれるわけで,本気のものから形だけのものまで,それはもう玉石混淆です。

 私は出不精ですし,暑いのも人混みも嫌いなので,子供を外に連れ出す事はあまりありません。学校や地域でちょっとしたイベントが行われることもあり,夏休みはそれはそれで毎日忙しいわけですが,今年に限っていえば,子供が通っている小学校で夏休み期間中に工事があり,イベントのすべてが行われないことになったのです。

 このイベントは近隣の小学校と合同で行われていたのですが,我々の学校で開催できなくなったことで,我々の子供が他の学校のイベントに参加出来なくなってしまうという事態まで招きます。その大人の論理の全開っぷりに,誰のためのイベントやねんと,思ってしまいます。

 なんと世知辛いことか。

 実際には私の想像も及ばない事情があって,やむなき判断という事なんでしょうが,残念な事に本来味方であるべき大人に,こうして「世知辛い」なんていわせてしまうあたり,推して知るべし,というものです。


 そんなわけで,一番割を食っている子供に何かをしようと奮起した私は,ふと目にしたイベントに足を運んだのでした。

 日本カメラ博物館にて,8月17日に行われた「暗室で写真影絵アートを作ろう」です。

 写真影絵アートはフォトグラムとも呼ばれている,印画紙の上にものを置き,上から光を当てて現像し,影絵を作るという立派な芸術作品です。

 ピンホールカメラだのカメラの分解だのというわかりやすいワークショップはすぐに満席となっていましたが,私に言わせればこれらは比較的簡単で,どこでもやろうと思えば出来ます。その気になれば,家でも出来ますし。

 しかし,フォトグラムはそうはいきません。

 今や貴重となった大きなサイズの黒白印画紙がまず必要ですし,光源である引き延ばし機も必要です。現像液や停止液,定着液といった薬剤も必要ですし,これらを扱うために上下水道が完備した作業スペースが必要です。

 しかも,そこは真っ暗でなければなりません。

 そんな場所,あるかいな!

 それだけではなく,これらを使うこなすための指導をする人もいないと困ります。しかも専門的な知識や技術が必要で,そこら辺のおっさんをつかまえてきて,頭数だけ揃えて済ませるわけにはいかんのです。

 どうですか,これは激しく大変そうでしょう。

 しかも,出来上がる作品は写真用の印画紙を使うだけに,白は純白,黒は漆黒と,見事なコントラストを駆使できます。拡大して投影するのではありませんから,くっきりとエッジも立ち,素晴らしい解像感が得られます。影絵という言葉に連想される,あのぼやーっとした投影とは,もう格が違うのです。

 事実,これは芸術家が作品作りとして取り組むもので,子供の遊びではありません。

 これを,かの聖地「日本カメラ博物館」がやってくれるというのですから,たまりません。まるで子供をダシにしたみたいで,私がワクワクしていることが,なにやら後ろめたい気持ちでした。

 8月17日は,東京でこの夏一番の猛暑となった日です。体温を超える気温で,天気予報のお姉さんは「なにもしなくても熱中症になる」と,いわれたところでどうにもしようのない警告を繰り返していましたが,幸いにして誰も倒れることなく,無事にカメラ博物館でワークショップに参加してきました。

 印画紙は四つ切りとキャビネを何枚かもらえるのですが,最初は持参した小物が,どんな影絵を作るのかを試してみる感じで,創造というより実験という感じです。

 しかし,何枚か作るうち,それらを工夫して並べて,物語を考えたりある状況を再現したりと,表現を始めるようになります。そうです,これこそ芸術です。

 慣れない暗室で,薄暗い赤い光を頼りに,触ったこともない液体と格闘し,出来上がった作品は,子供たちにも大いに驚きと感動を与えたようです。

 後述しますが,娘は私が高校生の時に愛読した「究極超人あーる」を,暇さえあれば読んでケラケラ笑っています。わかりやすいギャグで笑っているだけだった娘も,そのうち「暗室って暑いの?」とか「バットってなに?」などと聞いてきます。

 一応説明をしますが,こういう部分はその当時から,写真を嗜むものだけが理解出来る,いわば作者からのメッセージだったわけで,デジカメしか見たことがない8歳の子供が,現物も見ないで理解出来ようはずがありません。

 そんな口惜しい思いをしていた私も,今回のワークショップでは現物を見て触って,使う経験をしてもらえます。これほど血肉になる体験は他にないでしょう。

 私が知る「臭くて暑くて狭くて汚くていつもなぜか薄暗い」暗室とはおよそ反対の,実に快適な暗室での2時間余りの作業はあっという間に終わってしまい,娘は無事に夏休みの自由研究としてキャビネサイズの組み写真を完成させたのでした。

 このワークショップ,形だけの参加費が必要なのですが,そのこともあってか隣接する博物館にも無料で入館できます。特別展も子供向けでしたし,私は私で図録がほしかったので,ちょっと遅くなってしまうのですが,博物館にも立ち寄ることにしました。

 そうするとまあ,娘はどういうわけだか,大はしゃぎです。

 一時期流行したステレオ写真が面白いらしく,ずっと見ています。私にもしつこく見ろ見ろといってきます。

 そしてカメラの展示です。

鰯水のF-1ってどれ?
曲垣が使っていたAE-1はこれだ!
成原博士が持って池から出てきた「ハッセル」と「ローライ」というのは,これな。
えりかが持ってきた6x9のカメラって,こんなに大きいのよ

 とまあ,こんな調子で,あーるの世界が目の前に現れます。私もクラクラしてきました。

 かなうなら,17歳の私に,やがて君の娘は8歳になると,一緒にあーるの話で盛り上がることになるぞ,だから毎日楽しみに生きろよと,教えてあげたいです。

 なお,鰯水のF-1はNewF-1で,博物館にあったF-1とは違っていました。説明に書かれていた当時の価格が鳥坂さんのF3に比べて随分安いのに気が付き,「なんだ安いのか」と小馬鹿にしていたあたり,本能的に鰯水を小馬鹿にする鳥坂さんとお金にうるさい小夜子の両方の素質を持っているように思えてなりません。

 そして,子供向けに,古いカメラを実際に手に取って動かせるようになっていて,物珍しい娘は出ているカメラをひととおり触って喜んでいました。

 いわゆる一眼レフは見慣れているし,私のF3やF2を触っているので珍しいこともないのでしょうが,およそカメラに見えない2眼レフのリコーフレックスを,どうやったら動かせるのか不思議でならないようでした。

 かくいう私も2眼レフは扱ったことがありません。説明書きを見ながら恐る恐る,親子で2眼レフを触って見ます。6cmx6cmの正方形のファインダースクリーンに投影される天地逆転の画像の緻密さに驚き,鉄板を組み合わせた四角柱を上から覗き込むようなカメラが存在したことにも,好奇心が刺激されたようでした。

 そうして,想像以上に有意義で楽しかったカメラ博物館を後にしたのは,到着から3時間半も経過してのことでした。よく遊んだと思います。

 娘は今,家の大きなテレビに映る,呑み鉄本線日本旅で頻繁に登場するキハ40の走行シーンを,自らの愛機であるチェキで一瞬のシャッターチャンスをものにしようと格闘しています。面白い事に,撮影結果について彼女なりの振り返りがあり,これは今ひとつ,これは惜しいと,厳しめの自己評価を続けています。これはもう,立派な撮り鉄です。

 よく,世の親は,子供に芸術性を伸ばして欲しいというわけですが,それは私も同様です。ただ,それは子供のためという話だけではなく,私自身が彼女の作品をもっともっと見たいと思うからです。

 おそらくですが,成長に伴って,その作品はあるフォーマットに従うようになり,形式的な要素を強めることになるでしょう。それはそれで面白いのでしょうが,私個人は子供の自由さや柔軟性からくる予測不能な世界を見てみたいと思っていて,近い将来確実に見ることが出来なくなる前に,たくさん見ておきたいなと思っています。

 そのための表現手段,あるいは道具として,色鉛筆や折り紙があるのと同じように,デジタルカメラがあるというのは,興味深いことだと思います。ボタンを押せば写真が撮れる,しかしその結果には彼女なりの成功と失敗があります。果たして,ボタンを押すだけのカメラを小馬鹿にするマニアたちは,この成功と失敗の線引きを,どう考えるのでしょうか。

 

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