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2020年02月12日の記事は以下のとおりです。

ミノルタオートコードの修理~その2:完成編

 中判デビューです。
 
 そうです,ミノルタオートコードが動き始めました。

 前回,絞り羽根の組み立てに完徹をし,あげくシャッタースピードもさっぱり出なくなってしまって,もう修復は無理かも,貴重なオートコードを壊してしまったと絶望していたのですが,コツコツ検討を続けた結果,最大の難問だったシチズンMXVシャッターのオーバーホールに成功したのでした。

 その後の修理の経過です。


(1)シャッタースピードの確認

 これまでにシャッタースピードがJISの範囲に入っていることはなんとなく確かめていましたが,それでもやっぱりまだバラツキがあります。

 このシチズンMXVというシャッターは,すべてのシャッタースピードをガバナーで作ります。ガバナー自身の調整と,ガバナーの取付位置の調整によって,全速をあわせ込む必要があるのですが,まあそんなに簡単にはいきません。

 試行錯誤の結果,以下の様なところで手を打ちました。

1 780ms
1/2 464ms
1/5 156ms
1/10 98ms
1/25 34.8ms
1/50 20ms
1/100 11.5ms
1/200 4.56ms
1/400 3.42ms

 ちなみに,JISの規定は計算式によって最大と最小を規定しているのですが,倍数系列なら計算結果を書いてくれてあるものの,そうではない場合は自分で計算をしないといけません。

 ということで,自分でミノルタオートコード用のシャッタースピードの最大と最小を計算してみますと,

1(1000ms) 1230-812ms
1/2(500ms) 616-406ms
1/5(200ms) 246-162ms
1/10(100ms) 123-81ms
1/25(40ms) 49.2-32.5ms
1/50(20ms) 24.6-16.2ms
1/100(10ms) 12.3-8.1ms
1/200(5ms) 6.2-4.1ms
1/400(2.5ms) 3.4-1.8ms

 となります。なお1/250秒以上は誤差の範囲を広げたものになっています。

 とまあ,比べて見ると,ガンギ車が動作する領域(1,1/2,1/5,1/10)と,はずみ車が動作する領域(1/25,1/50,1/100,1/200)のそれぞれに,あまり誤差の傾向が見えてきません。

 期待したのはこの領域の切り替わりによって,誤差の傾向が変化することだったのですが,1/10秒なんてほぼジャストで出ていますが1秒はJISからも外れています・

 そうかと思うと1/50秒はジャスト,1/100秒や1/200秒もほぼジャストなのに1/25秒はギリギリセーフという感じです。

 それでもJISに入っていればまだましで,1/400秒はJISからギリギリ外れていますし,1秒は完全にアウトです。

 まあ,1/400秒は以前2.5ms程度が出ていた事もあり,そんなに素性は悪くないと思います。それに,このくらいの高速シャッターになると,結果にそんなに大きな違いは出てきません。おおらかに考えましょう。

 1秒はさすがに20%以上短いですから,露出が変わってくると思います。思いますが,そもそも2眼レフで1秒なんていうスローシャッターを使うことがあるのか,という話もあって,もしどうしても1秒を使いたいなら,少し絞りを開け気味にすればいいか,そんな風に割り切りました。

 うれしいのはガバナーで押さえ込む中間シャッターの誤差の少なさです。青天の日中で多用する1/100秒や1/200秒,室内や日陰で使う1/50秒や1/25秒がちゃんと使える物になっているので,安心して撮影出来ます。

 で,実際に撮影してからの話になるのですが,倍数系列ではないので,シャッタースピードも「大体こんなもん」であわせることになり,なんだかあまり厳密な話をするのがバカバカしくなってしまいました。それでも十分撮れてしまうのが,この頃のカメラなんだと思います。(ポジはダメだと思いますが)

 もう1つ,この数字はほとんどばらつきません。これもとても大事な事で,毎回値が変わる,向きで変わるなんてことがあると,もう信用出来ません。何度測定してもこのくらいになるというのが分かっているので,とても安心して撮影出来るのです。


(2)巻き上げ機構

 巻き上げ機構はシャッターに比べたらとても簡単で,部品も大きいですし仕組みもわかりやすいのですが,いかんせんブローニーフィルムも未体験,2眼レフもほとんど触ったことがなく,どういう動きをすれば「正常」なのかを知らないので,組み立て後のチェックに不安がありました。

 まず可能な限り分解し,固着したグリスをベンジンで落として,新しい油を塗ります。これだけで随分動きが滑らかに,静かになるのですが,もともと壊れていたわけではなさそうなので,何かが劇的に変わったという感じはありません。

 巻き上げハンドルのラチェットも分解し清掃と注油,フィルムカウンターは巻き上げ後にハンドルを動かなくする安全装置を兼ねている巧みな物ですが,これも分解清掃注油です。カウンターのスプリングをあまりねじってしまうと壊れるそうで,サービスマニュアルによると1/4回転だけ反時計回りにひねってネジ留めするのが正しいそうです。

 さて,組み立てこそ終わりましたが,これでちゃんと動くのかどうか自信がありません。フィルムを入れてから巻き上がりません,コマが重なります,なんてことがあるのももったいないですし,ここはダミーフィルムで動きをみたいところです。

 しかし,私のオートコードはスプールも付属してこなかった代物です。

 そこで,未撮影の新品のフィルム2本からスプールを取り,これに60mmの幅の紙を巻き付けて,動きを見る事にしました。幸い,説明書に書かれたとおりの動きをしていて,このままフィルムを突っ込んでも問題なさそうです。


(3)撮影レンズの無限遠チェック

 本体にヘリコイドを組み込みますが,以前ばらした人が付けてくれていたマークを頼りに組み立てただけなので,当然不安はあります。シャッターを組み込み,D850を使ったオートコリメータ(これ,あまりにうまくいったので別の日に詳しく書きます)で無限遠を確認しますが,なんとまあバッチリでした。

 これだけちゃんと無限遠が出ているとうれしくなるもので,この日は一日上機嫌でした。


(4)ミラーの交換

 この個体で唯一交換が必要と思われた部品が,レフレックスミラーです。くすんですりガラスのようになり,カビも発生しています。アルコールで拭いてみましたが腐食が進んでおり,交換以外に手はありません。

 当初樹脂製の表面鏡を手配したのですが,中央裏側からバネで留め具に押しつける仕組みなので,樹脂製ではたわんでしまい,平面が出ません。

 そこで急遽ガラス製の表面鏡を手配して,カットして使うことにしました。

 30年ぶりのガラス切りですから,どうも緊張してしまいます。私が使っていたのはダイヤモンドのやつで,今主流のローラー式ではありません。ローラー式は角度が適当でもよいですし,切れ味もよいということなので使ってみようかと思いましたが,オイルを併用する物ばかりで,オイルを使わずに切ることができるのか不明だったので,やめておきました。

 表面鏡は表面に傷が付きやすく,心がけるべき事は最初に汚さないことです。オイルなんてとんでもない。

 ドキドキしながら昔ながらのガラス切りを使ってみますが,最初は力のいれ具合が弱かったせいでチーという音がせず,焦りました。

 しかし,やってみると楽勝で,厚さ1mmの表面鏡は面白いほど簡単に切ることが出来たのでした。

 切った表面鏡を本体にセット,清掃していたファインダースクリーンを組み込んで見ると,はっと視界が開けてきます。すばらしい。


(5)ビューレンズの無限遠チェック

 せっかく撮影レンズの無限遠が出てくれても,ビューレンズとピント位置がずれていては話になりません。ビューレンズも無限遠をチェックしますが,一番大事なことはビューレンズと撮影レンズのフォーカス位置が一致していることです。

 ビューレンズの無限遠をオートコリメータで確かめると,大幅にずれています。これほどズレるのも不思議だったのですが,ミラーを交換しているわけですし,ズレる可能性がないとは言えません。

 どっちにしても撮影レンズに無限遠が無調整で出ているわけですので,ビューレンズもこれにあわせるのが筋です。

 撮影レンズの場合,無限遠はシムを入れたり抜いたりして調整する必要があるのですが,ビューレンズの場合はいもネジを緩めて,鏡筒をクルクル回してレンズを前後させます。

 さっさと調整しイモネジで固定します。無限遠,近距離,遠距離と撮影レンズと一致していることをさっと確認してOKとします。


(6)張り皮の交換

 さあ,ここまででカメラの性能が出ているはずです。ここまできたら,あとは張り皮の交換です。

 前のオーナーが色落ちする手芸用の革を適当に切って貼ったらしく,汚いしかび臭いし色も落ちるしで最悪の状態だったのですが,革と接着剤を剥がし,アルコールで拭いて,かなり汚れも臭いも落とすことができました。

 ここに新しい張り皮を貼るわけですが,散々迷って今回はジャパンホビーツールの梨地を貼りました。葉ってわかったのは,梨地はかなり薄手なので,下のデコボコが浮き出てくる場合があるということです。

 それ以外はしっとりとし,手によく引っかかるので,二眼レフのような持ちにくいカメラにはうってつけだと思います。

 背面と右側面には型紙がなく,現物合わせで張り付けます。前面,上面,左側面には型紙はありますが,最後には現物合わせで張り付けていきます。

 実はこの作業が絞り羽根の組み立てに続いて時間のかかった作業になるほど時間がかかったのですが,控えめに見て,あまりうまく貼れたとは言えません。でもまあ,やり直すのももったいないし,このままでしばらくいこうと考えています。

 梨地のカメラってあまり見かけませんし,ニコンタイプが一番オリジナルに近いように思ったのですが,梨地でも十分格好いいです。


(7)試写

 新品のHP5 plusを装填,スタートマークまで巻き上げた後フタを閉じ,ハンドルをクルクル回して行くと,カウンターが1で止まります。よし大丈夫。

 記念すべき1枚目はアイロンをかけている嫁さんです。

 ぱしゃっと撮影します。レンズシャッターの音が心地よいです。

 後は家の外と中を撮影し,12枚取り終えました。

 すぐに現像し,コマを眺めてみます。

 いうことなし。何も問題ありません。

 ピントもバッチリ出ています。コマ間のバラツキもなく,よく整っています。光漏れもなく,かぶりも見当たりません。絞りもシャッターもちゃんと動作しているようで,露出のバラツキも少ないです。


(8)ということで

 ミノルタオートコードは,無事に復活しました。分解しなくてもこのくらいの性能を維持していたかも知れませんが,勉強がてらこうしてオーバーホールを行ったことで,すぐに壊れることはないでしょうし,誤差の程度も把握出来たのでよかったと思います。

 それにしても,この画質はすごい。生唾をのんでしまいます。

 イルフォードのHP5plusはTri-X相当なので,そんなに微粒子ではありません。しかしさすが中判です,粒子が十分に細かく,解像度もすごいです。

 定評あるロッコールレンズが優秀なのか,それとも中判というフォーマットのなせる技なのかわかりませんが,とにかく細かいところまで良く写っています。

 そして画像の質感が素晴らしいです。少し目を出したチューリップを撮影しましたが,ピント前後の土のゴロゴロした感じが,実によく写っています。絞り込んで遠景を撮影すれば,こんな所まで写っているのかを感激し,近距離のポートレートでもF5.6程度で背景がボケボケになるのを見てさすがラージフォーマットと感心することしかりです。

 とにかく,35mmに比べて,すべてが「大げさ」に写るのです。劇的に写るというのでしょうか,ちょっとしたことで,大きく結果が変わってくるのです。

 これは確かに,センササイズの小さなPENTAX Qとフルサイズ一眼レフとを比べたと機の印象に近いです。

 その35mmですが,同じようにモノクロで撮ったものと比べて見ると,もう一目瞭然。粒子の細かさといいえ,豊かな階調といい,中判はすごい情報量を持っているものです。

 35mmフィルムはいずれなくなるかも知れませんが,中判と大判はデジタルカメラで代替できません。だから,きっと長く生き残ると確信しました。

 そう,昔の写真で,やたらと高画質なものとかあって,これってどうやって撮影しているんだろうと思ったことがあるのですが,答えはラージフォーマットなんでしょうね。35mmよりブローニー,ブローニーより4x5,という風に,情報量が増えてきます。

 そう考えると,当時映画用フィルムを流用した35mmは,小さいけど低画質と評価されたはずで,だからこそ長きにわたって中判との共存が実現していたのでしょう。

 確かにコストはかかります。しかし,2眼レフには使ってわかる強烈な魅力があります。

 被写体が,撮影されていることを意識しないように進化したのが一眼レフの系譜です。被写体が撮影されるために何かをするのではなく,撮影者ができるだけ邪魔をせず,そこで起きている事をそのまま取りこむというのが,当時の写真が目指した方向だったと思います。

 一方で,証明写真とか集合写真なんかは,被写体がカメラを意識せざるを得ません。にっこり笑う,レンズを見る,瞬きをしない,などという些細なことも,被写体が撮影されるためにわざわざ起こす行動です。

 こうした行動も,撮影者が被写体と対話した結果で,被写体が撮影者のために時間と手間を提供してくれるからこそ,成り立つ撮影です。

 スナップ撮影を最右翼に,スマートフォンや高性能一眼レフの登場で,気が付かないうちに撮影されてしまった被写体が多くを占め,またそうした写真が評価される時代だと思いますが,一方で一連の対話の結果として撮影された写真というのは,被写体がカメラを意識するだけではなく,カメラのために何かをする,と言う行為を記録しているという意味で,とても貴重な物になってきていると思います。

 速写性に劣る2眼レフは,そのたたずまいや撮影枚数が少ないこともあって,じっくり被写体に向き合ってからでないと撮影出来ません。

 そうしたある種の緊張感を双方に求める2眼レフというカメラによって記録される写真は,ライカでもなくニコンでもなく,スマホでもデジタル一眼でもなく,独特の空気を纏っています。

 どうも「やらせ」を快く思わないのが普通の感覚のようですが,それは報道とかドキュメンタリーとか,見る人が真実であることを前提にしているから非難されるのであって,撮影時にしっかり作り込んだ写真であることを見る人も理解しているのであれば,それは「やらせ」とは言いません。

 

 ハードウェアとしては旧式で,手作業による追加工だらけの工業製品に過ぎませんし,大きなフィルムにゆとりを持たせて撮影するだけの大らかなカメラです。

 しかし,その見た目,雰囲気,撮影までにかかる手間,被写体との会話という,他のフォーマットのカメラとは大きく異なるもののおかげで,2眼レフが写す写真は他のどれとも違うものになるのだと,実際に撮影して気が付きました。

 そうか,これが2眼レフの魅力か。

 最初に使った2眼レフが,水準以上の性能を持つミノルタオートコードで本当に良かったと思います。

 デジタルカメラでは代わりにならない,まさに特別なカメラ,それがこのミノルタオートコードです。面白半分ではなく,積極的にこれを選び,じっくり撮影を味わうことが,このカメラで出来るようになったかと思うと本当にワクワクします。

 もう隅々まで理解しました。長く付き合っていけそうです。

 

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