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2013年02月の記事は以下のとおりです。

WP34Sのオーバーレイを作ってみよう

 先日アメリカから届いたWP34Sのキーボードオーバーレイは,さすがに実績もあって剥がれにくく,感触もよくて,まさに最良の選択肢です。

 価格も送料込みで1枚わずかに6ドルですが,それ以上に綺麗に型でカッティングされているというだけでも他の手段を考える理由はないように思います。

 しかし,届くのに時間もかかりますし,張り付けるのに失敗出来ないとか,やはり海を渡ってやってくることに対する抵抗感というのはあって,私はとりあえず自分でどれくらい良いものを作る事が出来るか,試行錯誤を繰り返していました。

 WP34Sには,キーボードオーバーレイの画像が配布されているので,これを600dpiで印刷すれば原寸大のオーバーレイシートを印刷することが出来ます。ですから,自分で解決するべき問題は2つあって,1つは何に印刷するか,もう1つはどうやってカットするか,です。


・チャレンジ(1)

 印刷は耐久性と発色に優れた,エーワンの手作りステッカー用シール用紙(品番28808:現在は廃番)を使ってみました。これは,かつて自作の周波数カウンタやデジタルアンプのパネルを印刷して張り付けるのに使っていて,気に入っています。

 表面の保護フィルムを貼るとかなり分厚くなり,曲がったところに貼ると剥がれてくるのが難点です。

 印刷は綺麗に出来るのですが,問題はカットです。オーバーレイの画像をよく見ると,キーの左右と上には線が書かれているのに,下側には線が書かれていません。

 ふと思ったのは,この部分を切らずに残すことで,キーが手前の部分を支点に沈むように動き,HP20bのような全部が沈み込むキーでも,HP30bやHP35Sのような押し心地を実現出来るようにしてあるんじゃないのか,ということです。

 かくして,左右と上の部分だけカッターで切れ目を入れました。

 裏紙を剥がして本体に張り付けたところ,キーに張り付ける部分が大きすぎて,キーから大幅にはみ出します。仕方がないので,カッターで切ったり削ったりをそれぞれのキーごとに行う手間をかけました。

 ぱっと見るとなかなか綺麗に仕上がったように見えるのですが,シードが分厚く,キーから剥がれてきました。さらに,キーの下側は本体の表面に張り付けられる部分とつながっていますが,この部分から本体部分に張り付けられてところが剥がれてきました。

 また,うまく表面の保護フィルムが貼れなかったらしく,全体に歪んでしまったようで,2日もするとあちこち浮き始めてしまいました。こうなるともう駄目ですね。あきらめるしかありません。


・チャレンジ(2)

 ということで,印刷するシートは同じ物を使うとして,平面に綺麗に保護フィルムを貼って歪みを減らすことと,カットの工夫を行う事にします。

 カットの工夫はいろいろ考えたのですが,この手のシールは面で貼るとどうしても浮いてきます。そこで出来るだけ線で貼るような作戦でいくことにします。

 まず,本体表面に貼る部分も,キーの下に貼られる部分だけにしてカットしてしまいます。ちょっと不細工ですが,綺麗に貼れる事の方が重要です。

 キー表面に貼る物は完全に切り離して貼り付けます。そうしないと,本体部分とつながったところが浮いてしまいます。この時,少し小さめに切り出しておくとうまく貼れます。

 結果ですが,ぱっと見た目には綺麗で,うまく仕上がったように思えました。ところがやっぱり,キーに貼り付けたシールが,曲がったところで浮いてきます。本体に貼り付けた方は大丈夫のですが,キーのほぼすべてが浮いてしまうのです。

 強めの両面テープで貼り直したりしましたが,やはりだめです。もっと薄い物,あるいは保護フィルムを重ねないタイプの物を選ぶしかなさそうです。


・チャレンジ(3)

 今度はシートを選んでみました。薄いこと,インクジェットプリンタで綺麗に印刷出来る事,耐水性と耐油性に優れていることが重要です。

 選択肢は2つあり,1つは保護フィルムを使わないタイプ。印刷面が表面に出ますが,どういう訳だか耐水性がうたわれています。もう1つは転写シールというもので,プラモデルでよく使われるデカールをじぶんで作るようなものです。

 後者は薄くなることは間違いないし,最近は糊が白色になっており,下地が透明な物しか手に入らなかった昔と違って白色を表現出来るようになっているのですが,いかんせん糊が水溶性ですし,転写したフィルムもひっかくと剥がれるそうです。また,いくら白色を表現出来るとはいえ,下地が透けて見えるという話ですので,今回の用途には工夫をしないと使えそうにありません。

 それに,プラモデルのデカールは,貼るのがなかなか難しいわけですが,それをこの形状のキーに貼り付けるのは,なかなか大変そうだという事で今回はやめました。

 それで,今回選んだのは,エーワンのラベルシール(品番29281)です。白色のポリエステルフィルムで,表面はインクを吸収・定着する層になっているようです。これまで使っていたステッカー印刷用紙に保護フィルムを貼らないで使うような感じでしょうか。

 水溶性の染料インクを使ったインクジェットで印刷して,水に強いなどと言うのはどうも信用出来ないなあと思ったのですが,長時間でなければ滲んだり流れたりすることはなさそうです。しかし,さすがに指で触る物だけに,油には耐えられないんじゃないかと思います。

 そこで,表面の保護層を作るべきと考えたのですが,私の場合クリアラッカーを軽く吹き付けました。

 印刷してから一晩放置し,クレオスのスーパークリアの半光沢をさっと2,3回吹きます。発色も良くなり,触った感じも改善されて,かなり良い感じになりました。

 これを(2)と同じようにカットして,貼り付けていきます。なるほど,うまくいきそうです。

 しかし,やはりキーの小さな物は一部剥がれてしまいます。そこで折れ曲がる部分をさっとカッターでなぞって,弱く切れ目をいれてから,合成ゴム系の接着剤を使って接着しました。

 これで今のところ問題は起きていません。見た目もなかなか良くて,素人の工作としては,まあこんなもんだろうという出来です。

 
 今回のオーバーレイの自作で大事なことは,薄くて綺麗に印刷出来るシートを,実用上十分な強度の保護層で仕上げて作るというプロセスを完成できたことでしょう。吹き付けるスーパークリアは(気休めかも知れませんが)UVカットですので,紫外線による退色はちょっとでも改善されると思いますし,耐油性も耐水性も確実に向上していることでしょう。

 保護フィルムのあるステッカーシートよりも随分安価ですし,これをうまく使えば自作品のケースを綺麗に安価に仕上げることが出来そうです。

SA-76は21世紀のカシオトーンたるものか

  • 2013/02/06 15:46
  • カテゴリー:散財

 正規の音楽教育を受けたわけではない私の初めての鍵盤楽器は,電動式の空気オルガンでした。今にして思えば,親戚が我々に不要品を押しつけだけだったように思いますし,事実,そんなに値打ちのあるものではなかったように思います。

 幼かった私も,鍵盤を押せば音が出るという事に興味はあっても,音楽を演奏することが出来たわけではありませんから,鍵盤楽器は難しいという先入観が出来上がり,ますます苦手意識と和音を出す事への憧れが強くなっただけでした。

 ところが,中学生の時にコンピュータとギターを手にした私が,和音をある程度自由に出せるようになって,鍵盤楽器への抵抗が減ってきました。そこで手にしたのがミニ鍵盤のキーボードです。

 いろいろ悩んだのですが,入手の関係から,カシオの「サンプルトーンSK-1」を入手し,随分遊んだ覚えがあります。

 SK-1は安価なサンプリングキーボードですが,サンプリングが出来るという機能以外にも正弦波合成方式のシンセサイザー機能を持っていたり,ブラスアンサンブルはなかなか分厚い音が出てきたり,ビブラートだけではなくポルタメントまで装備していたり,リズムとコードを指定すればそれらしい伴奏をしてくれたりと,なかなか遊びがいがありました。

 4音ポリですから,難しいコードは押さえられませんが,左1つ,右3つという基本的なコードパターンを覚えたキーボードでした。原点ですね。でも当時,せめて6音ポリならなあと,伽叱ったことをよく覚えています。

 その後,いくつかのシンセサイザーを手に入れて打ち込みを始めるようになってから,ミニ鍵盤に触れることなど全くなかったのですが,おかげさまでミニ鍵盤へのアレルギーは私にはまったくなく,機会があればまた使ってみたいなと思っていました。

 そんなおり,娘が音の出るおもちゃを面白がるようになったので,ここは定番のおもちゃであるミニキーボードを買ってみようと思い立ちました。ミニ鍵盤で機能満載でおもちゃとして良く出来ており,価格も手ごろと言えば,これはもうカシオトーンです。

 といいつつも,実のところカシオトーンには良いイメージを私は持っていません。ミニ鍵盤のキーボードとは言え,やはり楽器ですから,音も思想も楽器でなければいけません。そのためにはちゃんとした楽器メーカーから出ているものでないといけないと思っているわけですが,探してみるとこの手のお手軽キーボードって,もうカシオ以外からは出ていないんですね。

 それで,カシオトーンがどれくらい進化したかを見てみようと,簡単に調べてみました。なにせ,25年前のカシオトーンにはがっかりさせられましたし,本当に欲しかったのはヤマハのポータサウンドでしたからね。

 なになに・・・37鍵モデルで実売3000円ちょっと,44鍵モデルでも5000円ほどですか・・・安くなったものですね・・・100音色にリズム用のパッド付き,ディスプレイもLCDですか・・・なかなかやりますね・・・え,8音ポリ!

 参りました。カシオトーンと言えば4音ポリが当たり前なのに,37鍵モデルでさえも8音ポリです。すごいじゃないですか。

 しかもデザインも立派な物です。以前のカシオトーンから一皮むけたような,とてもまとまったポップなデザインです。37鍵モデルではブラックとグリーン,44鍵モデルではブラックとオレンジという,カラーリングもかわいらしいです。

 むむ,MIDIないとか,ペダルがつかないとか,キートランスポーズができないとか,ピッチベンダーやモジュレーションホイールがないとか,そういうことはこの際割り切れるくらい,面白そうです。

 ということで,娘に買い与えるという口実で,結局買ってしまいました。カシオのSA-76,44鍵モデルです。約5000円。

 37鍵のSA-46でもよかった(しかしSA-46なんて往年のカセットテープみたいでオッサンにはビビビときますよねマジでスーパーアビリンって感じで)んですが,せっかくの8音ポリですから両手で弾きたいし,右手もバンバン転回してトップノートで歌いたいじゃないですか。

 ですので,ちょっと大きくなりますが,SA-76にしたというわけです。決して,某アニメ映画でキーボード担当の女の子が使っていたとか,そういう不純な理由では一切ありませんのでゴホンゴホン。

 話は少し飛ぶのですが,今回カシオを楽器メーカーとして調べてみたところ,なんか最近破竹の勢いなんですね。びっくりしました。

 昨年の発売になった本格的なシンセサイザーであるXW-P1とXW-G1は,25年も前のCZやVZシリーズの再来と話題になっていますし,これまでの出来があまりにナニなので完全に無視していた電子ピアノも,Priviaシリーズで随分高評価を得ているようです。

 そもそも,ソフトシンセ万能時代が10年ほど前にやってきて,ハードシンセはもう終わったと誰もが思ったわけです。

 1970年代,シンセサイザーはそれこそ個人発明家が試行錯誤の末にコツコツと手作りするのが当たり前だったわけで,一部のプロや専門家しか使わない特殊な楽器ゆえに,高価でかつ台数も限られ,お店も制限されていました。だから小さい会社でもどうにかなったんでしょうね。

 シンセサイザーにもデジタル技術とLSIが必須になった1980年代中頃から,技術的に優位だった日本の大手メーカーが台頭します。潤沢な資金を持ち,開発と生産設備への多額の投資に耐える規模と大量生産が可能な製造技術を有し,高機能な製品をたくさん作り,たくさん安く売って,それまで特殊な楽器だったシンセサイザーを一気に身近なものにした日本のメーカーは,技術でも販売でも,当時の中小メーカーを圧倒しました。キーボード専門誌には日本のメーカーの記事と広告が踊り,海外メーカーの製品の扱いは小さくなる一方でした。

 しかし,他の工場製品と同じように,大量生産に見合うだけの市場がなくなり,価格競争に陥ると,途端に新しい技術への開発投資も抑えられてしまい,日本のメーカーからは魅力的なシンセサイザーが登場しなくなります。

 シンセサイザーは日本人にとって身近な物でしたが,日本のメーカーが目立たなくなってくると,海外の個性的なメーカーがにわかにクローズアップされ,広く知られるようになります。

 ですが,別に海外のメーカーにしてみれば,無理に大きな商売をすることなく,相変わらず個人に近い小さな組織で高価で台数の少ないシンセサイザーをコツコツと作っていたわけですから,別になんとも思っちゃいないでしょう。

 そして近年,ソフトシンセもなんとなく行き詰まり,ハードシンセの再定義が行われつつあって,その復権の兆しが見えてきました。

 日本のシンセサイザーメーカーがようやく復活するのかと思っていたら,三社ともその勢いは既になく,そこへ颯爽と登場したのが,カシオです。

 日本の古参シンセサイザーメーカーがなかなか浮上のきっかけをつかめずにいて,一方の海外メーカーはいたずらに規模を負わずに面白いものを作っているこの状況で,電子楽器の専業ではないメーカーが再参入を果たすことの意味は,案外大きいように思います。

 巨大な資金,高度な製造技術,豊富な人材,そして大きな販路。カシオは電子楽器の世界では謙虚ですが,実は巨人であることを我々は忘れてはいけません。

 噂によれば,ここのところ不調の電子楽器メーカーからリストラされた技術者がこぞってカシオに入社しているとかいないとか。XVの次としてのXWだったら,ちょっと笑えないですよね。

 技術力もそうですが,音楽を創る道具としての楽器はかくあるべし,と言う思想がカシオに宿ると,もう怖い物はないように思います。

 ちょっととりとめもない文章になりましたが,カシオの再参入はそれなりに計算された,このタイミングを狙って行われた,本気の再参入だったと,私は思っています。

 思い出してみると,ヤマハ,コルグ,ローランドのシンセサイザーは,ステージでとにかくよく見ました。プロと同じ楽器を使いたい,同じは無理でも同じメーカーの楽器を使いたい,そういう気持ちはごく普通のものです。音楽産業は縮小の方向といいつつ,ライブは盛況ですし,クラブシーンも実に元気です。

 こういうところで目にする楽器が,市場と作るのだろうと思います。今,ヤマハ,コルグ,ローランドの楽器が,こうしたところに出てくるのって,ずっと少なくなっているように思いませんか。そして,これが出来る体力があるのが,カシオだったりするんじゃないかと,そんな風に思うわけです。

 若い人には我々オッサンのようなおかしな先入観はありません。パイオニアがDJ機材メーカーとして成功したのと同じように,素直にその良さを評価して受け入れる若い人が,カシオを愛用すると面白い事になるなあとそんな風に思うのです。

 閑話休題。

 えーとSA-46の話でしたね。5000円とはいえ楽器ですので,使ってみた感想です。


・全体の印象

 かわいらしいデザインですし,かなりまとまったよい印象を持ちますが,それでも細部には良くも悪くもカシオらしいエッセンスが見え隠れします。左右のスピーカーの位置にある,半円状の模様など,余計だと思うんですがね。

 ぱっと見ると,1970年代のポータブルレコードプレイヤーとか,ラジカセのような印象を受けます。黒とオレンジという配色が妙に70年代っぽいなあと思いました。

 大きさの割に軽くて,手に取った瞬間「軽いな」と思うのですが,かといって演奏中にその軽さを意識するようなことはなく,案外しっかりしています。

 また,ちょっと感心したのは運びやすさ,持ちやすさです。本体の上側を握ると,裏側のくぼみに指がかかり,無理なく持つ事が出来ます。これはいいです。思わずクリンゴンの伝統の武器「バトラフ」のように振り回してしまいました。

 スイッチ類は可もなく不可もなく,価格相応の感触です。鍵盤についてはもう少し頑張って欲しかったかなあと思いますが,黒鍵が押しにくくて,これは支点がかなり手前にあるからだと思います。ま,値段を考えると贅沢かも知れません。

 ただ,見過ごせないのは,鍵盤を押すと,押していない隣接する鍵盤側にかなり大きな隙間が出来て,子供の指なら入ってしまうのです。この状態で隣接する鍵盤を押し下げてしまうと,指をかなり強烈にはさんでしまいます。実際,娘の指は真っ赤になっていました。子供向けに作られているのに,子供に危険な製品というのは,日本製だから仕方がないのかなあと思います。


・音

 なかなか大したものだと思います。ピアノはさすがに無理があると思いますが,限られたROMによくもここまで詰め込んだなと思うくらい,良く出来ています。

 私が気に入ったのは,ストリングスアンサンブル(40と41)です。アタックもリリースもよく調整されていますし,粒が細かく,8音ポリらしく音が綺麗に残ってくれるので,とてもこの機械から出ているとは思えないでしょう。これ,例えばピアノやギターの弾き語りにちょっと加えてみると,かなり馴染んで「おっ」という反応が返ってくるんじゃないかと思います。

 他は・・・あんまり好印象の音はなかったです。生楽器はあまりリアルではないし,オルガンも立ち上がりが遅くて少なくともロックやジャズには向きません。シンセ系についても,シンセブラスは全然下品じゃないし,SE系は全然キラキラしておらず,これでは周りの楽器に埋もれて終わりです。使えません。

 そうそう,歪んだギターは,波形そのものの再現が簡単なので,SA-76でも結構面白い音がするのですが,いかんせんこの手の音色は演奏法でそれらしさを作り出すものですので,ピッチベンドやビブラートがないこの機種では,もうどうにも使えません。シンセリードもウインド系もそうです。


・良いところ

 多くの方が指摘していますが,ボリュームがスライド式のアナログボリュームになっています。1つ前の世代のSA-45だと,ここはスイッチ式だったそうなのですが,電源を切ると音量が初期化されることがとにかく不評でした。

 そこを改善するのにアナログボリュームというのはどうなのよ?と思うのですが,アナログボリュームの方が使い勝手は良いのですから,これは歓迎すべきところでしょう。

 あと,チューニングが細かく出来ます。440Hz±99centで調整可能な世界で最も安いキーボードなんじゃないでしょうか。トランスポーズは出来ませんが,目一杯ずらせば半音動かせるわけですので,結構使い道があるように思います。

 そうそう,デモソングはかなり派手で,本当にこれだけの音が入っているのかと思うほどです。良い意味で従来のカシオトーンを裏切る最たる例だと思いますけど,デモソングの常として,これだけの音楽を自分で演奏する術は用意されていないんですよね。

 あと些細なことですが,音を出しながら音色を切り替えると,それまで鳴っていた音の音色は変化せず,次に押さえた音から新しい音色になります。同時に2音色音を出すことが出来るワザなのですが,例えばリリースの長いストリングをから,急にブラスに切り替えるときに,ストリングスがスパッと鳴り止んでしまうととっても不自然なわけで,SA-76はそういうことがありません。

 トーンリメインとか,そういう言い方をするすばらしい機能ですが,実はこれ,1980年代後半よりも後にようやく出てきた機能なんですよね。それも高級機に限られた機能で,ステージで使うシンセサイザーには必須の機能となりました。確か,EnsoniqのVFXが最初だったんじゃないかなあと思うのですが,それが5000円の鍵盤にも当たり前のように搭載されていることに,年寄りの私は感慨深い物を感じました。


・残念な所

 まず,せっかくの音の良さを使いこなせないことへのフラストレーションをなんとかして欲しいです。ピアノ系はペダルがないので全く使い物にならず,前述のようにシンセリードやサックスなどもピッチベンダーがないので演奏上の工夫が出来ません。

 ビブラートでそれらしさを演出する音色ではモジュレーションホイールがないのでやはり工夫の余地がありませんし,そうやってふるいにかけると使える音色というのはオルガンやストリングス(あとオケヒット)に限られるように思います。

 ペダルはジャックだけ用意してくれればいいし,ピッチベンダーやモジュレーションホイールは近接センサやタッチパッドで構いません。とにかく操作できる手段がないことには,どうにもならないのです。

 あと,ドラムのパッドへの音色アサインが駄目です。バスドラム,スネアドラム,ハイハットと,まあここまではよいですが,なぜクラッシュシンバルがないのか,なぜタムタムがないのか,これじゃフィルインが決められないじゃないですか。

 惜しい。いちいち惜しい。

 また,やっぱりキートランスポーズは欲しいです。私がすべてのキーのコードを均等に覚えていないことは恥ずかしいこととしても,44鍵しかないキーですから,トランスポーズで有効に使いたいじゃないですか。

 それと,電源を切ったら設定を忘れるというのは最悪です。せっかくチューニングをしても,電源を切るとゼロに戻されるんです。つまり,その場限りの緊急時用の機能だと割り切らないといけないのです。

 そんな楽器あるかいな。

 私は家の楽器はすべてA=442Hzでチューニングをしていますが,こういう用途には使えないです。それに,設定値を変更するのにボタンを回数分だけ連打する必要があることも困ります。だって,99centまで調整出来るわけでしょ,100回近く連打させて,電池が切れたり電源をOFFにしたらまたゼロに戻るなんて,これ社内で問題にならなかったんでしょうか。

 せめて設定値くらいはマイコンのSRAM領域に残しておいて,バックアップするくらいのことはやって下さい。

 そうそう,電池が単3を6本も使うというのは,残念すぎます。せっかく軽く小さく出来ているので,電池6本で随分重たくなります。ACアダプタを別売りにするんだったら,電池での運用をもっと便利にしてくれないといけないです。

 せめて4本です。6本だとエネループを一度に充電出来ません。昇圧回路を使ってくれとは言いませんが,今どき4.8Vもあれば十分スピーカーもなりますよ。

 そのくせアルカリ電池で公称6時間てのはちょっと短いです。コルグのMicroPianoは同じ単三が6本でも15時間も持ちますからね。


 もう一つ,繰り返しになりますが,大事な事なのでもう1回書きます。安全性については疑問です。押した鍵盤と押していない隣の鍵盤との間に結構な隙間が出来て,子供の指なら入ってしまいますが,この状態で押していない鍵盤を押さえると指をはさんでしまいます。

 さらに,鍵盤の端の部分に尖っている部分があり,はさむとかなり痛いです。ついでにいうと,鍵盤が上がっている状態だと,本体の下ケースの部分にかなりの隙間がありますが,鍵盤を押せばこれがかなり狭くなります。指をはさむとかなり痛いと思います。

 ということで,細くて柔らかい指を持つ1歳や2歳の子供が使う場合には,事故に気をつけないといけないと思いますが,子供のすることですからそれはもう無理。やっぱり親の目の前で使わせるのが精一杯で,出来れば触らせたくないなあというのが本音の所です。


・まとめ

 かなり進化していると思われた21世紀のカシオトーンに対して,私は過度な期待をしていたようです。確かに音はかつての(安物)GM音源並になっていますし,同時発音数も8音になっていますが,それ以外は進化しておらず,残念なままです。

 ただ,これが5000円であることを思い出すと,進化とは低価格化なんだとはっとさせられます。そういう意味では確かに21世紀のカシオトーンなのかも知れません。

 ところで,カシオトーンが好きな人というのはたくさんいるもので,2音ポリの80年代のモデルとかを「最高」とか言う人もいるんですね。だけど,私にはよく分かりません。和音が出ないとやっぱり使い物にならないと思います。シンセサイザーの歴史を紐解くと,ポリフォニックシンセの誕生がいかに画期的なことであったかを思い知らされますし,電子楽器誕生前の鍵盤楽器に,モノフォニックのものなどなかったことを,ちょっと思い出してみると良いかもしれません。

 モノフォニックのシンセサイザーを否定するわけではありません。モノフォニックのシンセサイザーには,単音の楽器であるだけの価値が備わっていて,他の楽器に負けない太さとかスピードとか,逆にチープさとか,そういう音そのものの存在感はもちろんとして,奏法によって表現力を高めるという事が可能になっていないといけないのです。

 管楽器には多くの奏法があって,音程,音色,音量が時間的に変化するよう,演奏者は巧みに操作をしています。モノフォニックの楽器なら,これがないといけないと思うのですが,カシオトーンは,単純にポリフォニックシンセからコストを理由に同時発音数を減らしただけに見えて,私は楽器演奏の本当の楽しさをスポイルしていると思っていて,結果「楽器なんて楽しくない」と思う人が出ている可能性を,憂いているのです。

 まあいいや,5000円だし。

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