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2018年05月の記事は以下のとおりです。

シュアのフォノカートリッジ生産終了を受けてアナログ祭り~その3

 2mの高さから箱ごと落下させ,その内壁に接していたスタイラスガードが持ち上がるほどの衝撃を受けて左chのレベルが2割も下がった,私の大事なV15typeVxMR。

 なんとか修理しようと試みるも原因にさえたどり着けず,結局あきらめる羽目になりました。

 中古ショップもオークションにも同じ物は見当たらず,万策尽きたと思っていた所で,私はV15typeVxMRの出自についての,重大な秘密を知ることになります。


 google先生にV15typeVxMRのことをいろいろ聞いていたところ,ふとある記事を目にしました。

 V15typeVxMRは,V15シリーズにあらず。

 うーん,以前からそういうことを言われていたので,今さらという気もするのですが,ちょっとよく読んできます。

 V15シリーズはシュアが送り出した高級MMカートリッジのシリーズで,その音質はもとより,LPレコードの再生技術の発展に技術的解決策を与えて大きく貢献してきた,ファンの多い名機の血統です。

 特にV15typeIIIはモダンジャズのピークに登場し,ジャズファンの心を掴んで離しませんし,V15typeVはその集大成として,とても素晴らしい完成度を誇りました。

 時は既にCDの時代。typeVは比較的短命に終わり,V15シリーズ不在の時代が長く続いた2000年台,復活を望む声に応える形で登場したのが,復刻版と銘打ったV15typeVxMRです。

 私はようやく社会人になって自分のお金が使えるようになっていたこの時期,長年の夢であったV15シリーズの購入を決断し,この復刻版を買ったのです。

 その音は確かにV15であり,私はとても満足していました。V15の血統であることに疑問を持ちませんでした。

 しかし,記事には耳を覆いたくなるような事実が書かれています。

 V15typeVxは,V15にあらず。

 外見的な特徴から,V15typeIからV15typeVまで続くいわゆるV15シリーズには,V15typeVxを含めることは出来ないのだそうです。それは電気的特性においても同じで,シュアは公式に語ってはいないが,どうもV15typeVxは「別の血統」になるということです。

 これ,なるほど説得力があるので私も信じるのですが,ならV15typeVxは誰の子供なんだよ,となるわけです。V15を名乗る以上は,それ相応の血筋でないと困るのです。

 記事では,衝撃的な事実が書かれていました。

 まず,シュアはアメリカの量販店であるRadioShack向けにOEMをやっていました。Realistic V15 RSというOEMカートリッジがそれですが,もともとRadioShackは世界中の工場で作った良品を自社ブランドで安価に売るということをやっていたので,このカートリッジも悪いものではないと思います。

 そういえば,PC-8201で知られるポータブルコンピュータは京セラのOEMですが,これもRadioShackに供給され,TRS-80model100として人気があったという話です。似たような話でしょうね。

 で,OEM用に作られたRealistic V15 RSを自社ブランドで売る際に,シュアはVST IIIという名称を与えます。VSTとはV15 Series Technologyの略らしく,1980年代後半にVST Vと共に,ほんの一瞬だけ市場に出た幻のような製品です。

 公式には,VST IIIはV15typeIIIを,VST VはV15typeVをベースとしたもので,当時の私もこの説明を真に受けて,V15typeIIIとV15typeVは音が違い,TypeIIIの音が忘れられない人向けに出たものなんだろうくらいにしか思っていませんでした。

 超楕円針を持っていたVST IIIは短命に終わり,相変わらずV15typeVがフラッグシップとしてその完成度と音質を誇っていました。

 しかしそのV15typeVも生産中止。おそらく金型が壊れたか,ベリリウムの毒性の問題で生産できなくなったんだろうと思いますが,それでもV15復活を望む声は強く,白羽の矢が立ったのが,あのVST IIIでした。

 想像ですが,この段階でもまだRealistic V15 RSは販売されていたか,販売はされていなくても金型が使える状態にあったかで,すぐに生産できるそれなりのグレードのカートリッジとしてVST IIIを使い,V15を復活させようとしたのでしょう。

 かくして,VST IIIはV15typeVの最終形態であるマイクロリッジ針を奢られ,V15typeVxMRとして,V15シリーズに並んだのでした。

 確かにVSTはV15の血統だといっていますし,これを使ってV15を復刻するのはウソではありません。しかしもともとRadioShack向けの傍流であり,本家の筆頭V15を名乗っていいのかというなにかモヤモヤしたものは当然あると思います。

 V15typeVとV15typeVxに,交換針の互換性は全くありません。それどころか,V15ypeVxとM97系列との間には,交換針の互換性があったりします。これがV15typeVxはV15にあらず,という話につながるのでしょう。

 なるほど,M97xEにV15typeVxMRの交換針を取り付けるとV15typeVxMRの音になりますし,先日書いたM97xEの針圧を増やしてトレース能力を上げるとV15typeVxMRの音に近づくという話も,なんだか辻褄の合う話です。

 日本はもとより,アメリカでもこの議論は盛り上がったらしく,騙されたとかRealistic V15 RSの値段を考えるとV15typeVxMRは高すぎるとか,いろいろな声があったと聞いています。

 ですが,私の耳にはあのV15typeIIIの音が聞こえていました。だからこそ,私はV15typeVxMRの音が気に入っていました。なるほど,VST IIIと同じ物で,針だけ良いものになっているなら,そりゃいい音するわなと妙に納得したのです。

 オルトフォンのように,本体は共通で針のグレードの違いで品種が別れているものを見ればわかりますが,実はMMカートリッジの価格にしめる針の割合は非常に大きくて,特に日本のメーカーでしか加工できないとされたマイクロリッジ針が,ベリリウムのカンチレバーとあいまって高価になるのは当然といえて,またその音質への貢献も針の性能に寄るところが大きいものです。

 だから,基本構造がV15に近似していて,音の傾向もV15typeIIIなら,その針を当時の最高級品にすれば,それは確かにフラッグシップモデルの復刻です。だから私はV15typeVxMRを,V15ファミリと思うのでしょう。


 閑話休題。

 ということではですね,本体を壊した私は,Realistic V15 RSかVST IIIの本体を手に入れればV15typeVxMRを復活出来るということになります。問題はVST IIIなどという超マイナーなカートリッジが手に入るのか,しかも安価なのかどうかです。

 ・・・ありました。某オークションにでていました。お望み通り針はありません。しかしそれなりの高価でした。

 いやー,VST IIIですよ。こんなものが手に入るなんて・

 届いたVST IIIですが,軽くチェックをしたところ問題なし,左右のバランスも正しく,音質もやっぱりV15typeVxMRのそれでした。

 ついでに,LCRメーターでコイルのインダクタンスを測定すると,どちらのカートリッジも460mH@1kHz近辺でした。まあ,インダクタンスまで同じならもう同一のものだと考えて良いですね。

 左側のレベルが小さいV15typeVxMRのインダクタンス2割ほど小さかったのですが,これが故障の原因だったのかも知れません。

 そのまま針だけ交換して使うことも考えましたが,そこはやっぱり見た目にV15typeVそっくりでないと悔しいので,中身を入れ替えてしまいました。

 V15typeVxと書かれたケースに,VST IIIの中身が収まっています。しかしVST IIIとV15typeVxの中身は同じ物なわけで,結局入れ替えていません,というオチになりますね。ああややこしい。

 中身を二つ並べて外見を見比べて見ましたが,製造時期の違いもあってか全く同じとはいえませんでした。大きさや端子などは同じでしたが,内部に隠れてしまうような部分で,リブが追加されていたりして細かい改良は行われていたようです。

 事前に塗装が剥げてしまってところを補修し,クリアラッカーで仕上げたV15typeVxMRのケースに,うまくVST IIIの中身が収まり,元のシェルに取り付けられました。これで完成。音出しも問題ありません。

 結局,落下によって壊したV15typeVxMRは,数千円の費用をかけて修理され,原状を回復しました。今私の手元には,VST IIIと書かれたケースと,V15typeVxの中身が,転がっています。

 出来上がったV15typeVxMRを改めて聞いて見ると,やっぱりこの音だなあとつくづく思いました。私もいろいろ聞き比べを楽しむ人間ですのでわかるのですが,違いが分かったうえでいい音悪い音を区別出来ることと,好きか嫌いかは全く別の話であり,特にいいなあ,これだなあと思うものというのはそのジャンルで1つだけになってしまうものです。

 V15typeVxMRに否定的な意見はまさにその通りで,私も同じ意見です。また,傾向としてシュアのものに共通するものがあって,そこが嫌ならもう全部アウトというのも頷けます。

 ただ私の耳には,同じ傾向とは言えV15typeVxMRとM97xEは同じくくりにはなく,その違いは歴然です。不思議なことに口では説明出来ず,また他の人に分かってもらうことは無理なんじゃないかと思ってきました。

 落下させ壊したV15typeVxMRが,こういう特殊な方法で原状を回復してくれて,本当に良かったと思います。針がすり減るなどセコいことを考えないで,どんどん使っていこうと決めました。

シュアのフォノカートリッジ生産終了を受けてアナログ祭り~その2

 シュアのフォノカートリッジ生産終了を聞きつけてあわてて手に入れたM44GとM97xEを,早速使ってみました。

 2015年に私はトーンアームをグレースのG-940に交換しています。真面目にアナログをいじるのはこの時以来です。ワクワクするものですね。

 シェルはオーディオテクニカのMG-10を長年好んで使っていますが,余っているのが1つしかないので,今回はAT-LT13aを1つ買いました。
 
 まず,M97xEです。中級とはいえ,なかなか繊細でいい音がしますよ。今14000円ほどですから,25年前に8000円ほどで買ったME97HEと同じクラスでしょう。

 ME97HEは正直がっかりしたカートリッジでしたが,M97xEは悪くありません。ただ,適正針圧と書かれた2.0gでは,ちょっと腰の位置が高い印象です。

 そこで針圧をぐぐっと増やします。おお,腰が据わってきました。私の好きなV15typeVxMRに近い音になってきましたよ。これだけ出れば今の私の耳には十分。よし,これでOK。

 次にM44Gです。まず出力電圧が大きく,一発目の音がでかいです。

 それだけでもう元気な印象を受けます。バンバン前に音が出て,モリモリ低音が出ています。高域に伸びもないし,繊細さも解像度も足りませんが,それがどうした。

 とても楽しい音がするカートリッジです。これを30年前に聞いていたら,やっぱりダメな安物と思ったでしょうが,今は違います。元気で結構。

 ただ,常用するかと言えばちょっと違う気がします。繊細さがない,エネルギー感がすごいという個性がメリットになるソースなら,これほど楽しいカートリッジもないでしょう。

 さて,こうして試してならしてみて好印象だった私は,ちゃんと組み付けて針圧などの条件出しを行う事にしました。オーバーハングもちゃんと確認して,しっかりシェルに取り付ける作業を行うのです。

 自室が散らかっているので,事故を防ぐためにダイニングのテーブルで行います。私のお気に入りのV15typeVxMRは,破損が怖いのでカプセル型のケースから,もともとシェルの入っていた紙製のちゃんとした箱に入れ替えてあります。

 2階のダイニングから1階の自室に戻るときに,不幸が起きました。階段を降りていると,4つほど抱えたカートリッジ(V15typeVxMR,M97xE,M44G,DL103)を入れた箱が,パラパラとこぼれて床に落ちてしまったのです。

 軽いものですし,紙箱に入れてありますし,多少の音質変化には目を瞑るとして,壊れることはないだろうと油断していたのですが,確認するとV15typeVxMRとM97xEはスタイラスガードが上に上がって,スタイラスが紙箱の内壁にぶつかっています。

 折れていないかをあわてて確認しましたが,それはセーフです。

 でも,スタイラスガードが動くほどですので,かなりの衝撃があったのでしょう。音を出して確認すると,M97xEとM44G,そしてDL103は大丈夫でした。

 V15typeVxMRは・・・なんと左chの音が小さくなっています。

 しばらく聞いていなかったカートリッジですので,今回の落下が原因だったかどうかはわかりません。ただ,紙箱の中にプラスチックの破片が転がっていたことが1つ,なにより今左の音が小さいという事実が,すでに異常である事を物語っています。

 測定をしてみると,やはり左chは2割ほどレベルが低いです。2割というとかなりですが実はわずか1.5dBですから,一応このくらいならスペックに入っていることになります。

 しかし,もともとこんな差がなかったので,壊してしまったという思い気分が私に乗っかかってきます。

 V15typeVxMRのスタイラスを互換性のあると言われているM97xEに取り付けてみるとほとんど左右でレベル差がありません。ということは原因は本体にあるという事になります。V15typeVxMR・・・とても気に入っていたのに,残念すぎます。

 悔しいので,中をあけていろいろいじってみます。これでレベル差が小さくなることがあれば,そこに原因があったことになります。

 でも,なにをやってもレベル差は変わりません。どうにもならないのでもうあきらめました。

 M97xEでマイクロリッジのスタイラスをつ買うかと思ったのですが,やっぱり私の知るV15typeVxMRとは違います。あの音をもう聞けないのか,そう思うと,悔しくて仕方がありません。

 そこで,私はこのV15typeVxMRを捜す旅に出ました。

 シュアのV15シリーズはすでに生産が終わっていて,交換針もままならない状態です。いきおいマニアが高価で取引している状況で,正直そこに私が参加するのも気が引けたのですが,自分で招いたことですから,つべこべいってられません。

 針のない本体だけが安価に売られていることを期待しましたがあいにくそういうものはなし。某オークションでも見当たらず,万策尽きたように思われましたが・・・

 続く。

シュアのフォノカートリッジ生産終了を受けてアナログ祭り~その1

  • 2018/05/07 12:37
  • カテゴリー:散財

 かの有名なギターメーカーであるギブソンの破綻が伝えられたことも残念ではありますが,この連休でオーディオマニアをしみじみさせたニュースは,なんと言ってもシュアのフォノカートリッジの生産終了でしょう。

 今どきレコード関連商品の生産終了など驚きもしませんが,それがMMカートリッジの雄であるシュアであり,また生産縮小ではなく完全な終了である事に,目を疑った人も多かったのではないでしょうか。

 かくいう私もびっくりした口で,すぐさま大手量販店にM44GとM97xEを手配しました。(無事に買えました)

 今回の驚きは,おそらくLPレコードの生産と販売数が増えていて,LPレコードのカッティングを復活させたレコード会社の話が出てくるなど,レコードの追い風が吹く中での生産終了であったこと,そしてDJ用の定番でさえも生産終了になるという事実に,すっきりしない物があります。

 シュアの主力商品はすでにヘッドホンやマイクに移行していますから,カートリッジなど痛くもかゆくもないビジネスであったはずです。世の中にはシュアよりも小さい会社でも,カートリッジの生産を続けている会社などいくらでもあります。

 需要が減った,材料費が上がったなどを理由にするなら,値上げすれば済む話だろう,現にオーディオテクニカもデノンもそうやってカートリッジの生産を続けているじゃないかと思うのも,無理はありません。

 加えてLPレコードは小さいながらも安定した需要があり,少しずつ拡大している状況です。CDの生産が減っている中で生産が増えている音楽メディアはLPレコードのみです。

 それに,DJの必需品である堅牢で太い音のM44シリーズが果たす役割を考えると,安易に「やめる」などと言えないんじゃなかろうか,と思うわけです。

 特に,CDに移行した80年代後半,いよいよカートリッジも全滅かと思われた中でも今日まで生産を維持できたのは,DJがこぞってシュアのMMカートリッジを使ったからであり,シュアにとっても我々にとっても,足を向けては寝られないはずです。

 
 ただ,このシュアの決断が,苦渋の選択であった事も読み取れます。

 シュアは生産終了のプレスリリースにおいて,品質の維持が困難になったことを理由に挙げています。

 まず,近年の状況として,品質を維持できず,コストや納期に問題が出てきたと言っています。これは,すでにMMカートリッジを生産するための金型や生産設備に寿命がきていて,更新をしないといけなくなっていることを意味しています。

 当然金型や設備の更新を検討する事になるのですが,そうした検討を慎重に行った結果生産終了を決断したとあります。つまりこれらの投資に見合うだけのリターンがないので,このまま更新しないで終息させますということです。

 いやいや,なんでシュアより小さい会社が出来る投資を,シュアができないのよ,と思うかも知れません。でも,これは作っているカートリッジの違いによるのです。

 今さらですがMMカートリッジはMoving Magnetの略で,カンチレバーに付いている小型の磁石を振動させ,本体のコイルで発電する仕組みです。針交換が出来ることが特徴ですが,なにせ磁石ごと外せるようになっているので,その取付精度は良くなければなりません。

 そうすると高精度の金型を使い,プラスチックで成型しないと現実的な価格で作る事が出来ません。もっとも,最近だとアルミ無垢材から1つ1つ削り出す方法もあるかも知れませんが,それだって何万円もかかるでしょう。

 高精度の金型は非常に高価で,作るのに何千万円もかかります。元を取るには大量に作るかないわけで,1000個作っただけでは1つ数万円もかかってしまうわけです。

 それに,いかに大きな会社とは言え,数千万円の投資を,20年かかって回収するという話はなかなか体力的に厳しいわけで,それならさっさとやめてしまった方が楽ちんです。

 じゃ,なんで小さい会社がそんな投資に耐えてカートリッジを作ってるのよ,と思うかも知れませんが,生産規模が小さくても成り立っているカートリッジは,ほぼMCカートリッジであることに注目して下さい。

 Moving Coilの略であるMCカートリッジは,カンチレバーについているのは磁石ではなく,コイルです。本体には磁石があり,コイルが振動することで発電する仕組みです。

 構造的に針交換が出来ないことはご存じの事と思いますが,ユーザーの手元でいわば「分解と組み立て」をしないカートリッジですので,工場から出るときにしっかりと作っておけば,それでいいことになります。

 ということは,金型を使って高精度な部品を作る必要はなく,極端に言えば1つ1つ手作りで調整しながら作る事も出来るわけです。

 つまりMCカートリッジは生産数が少なくても成り立ちますが,MMカートリッジは生産数が大きくなければならず,固定費が非常に大きいのです。

 こういう背景もあり,零細業者のMCカートリッジは手作りに近く,とても高価です。一方で,数千円で買えるシュアのM44Gなど,この値段でこの音が出ることに,改めて驚かされます。

 シュアのカートリッジには。MCカートリッジがありません。MMでも高級なものはすでになく,中級以下のものしか存在しません。つまり,すべて安価でなくてはならず,しかし高精度な金型が必要なので初期投資が大きく,長い期間,大量に生産することでしか成り立たない商品であることが,今回の生産中止の理由です。

 単価を上げるのは1つの解決策ですが,それだけでは問題は解決しないのです。

 シュアのMMには,他に代えることの出来ない強い個性があります。私もその個性が大好きであり,いろいろ試してみても,最後にはシュアに戻ってきています。オルトフォンがあるじゃないか,オーディオテクニカがあるじゃないかという意見もあるでしょうが,私は置き換え出来ないものだと思っています。

 まして,MCは音はもちろん,そもそも出力電圧が違うのでMMの置き換えには使えません。

 それが今後はなくなるというのですから残念ですし,CDは消えてもLPは残りそうなのにシュアのMMを体験出来ない若者が増えるのかと思うと,これも残念でなりません。

 同じような苦しい心の内であるのが,おそらくシュア自身でしょう。個人的にはM44Gだけでも残して欲しかったですし,それくらいなら出来るんじゃないかとも思っていますが,すでにシュアのカートリッジはメキシコ生産になっていて,もしかすると生産設備すべてが重荷になっているのかも知れません。

 そんなわけで,今年の夏には生産終了となるシュアのカートリッジは,すぐに入手が困難になることが予想されます。買い占めとか転売とかそういうケチな話ではないのですが,あれほど有名であるにもかかわらず馬鹿にして一度も聞いたことがないM44Gはぜひ聞いてみたいし,かつての中級クラスとはいえ現在のフラッグシップであるM97xEも,馬鹿にしないで使ってみたいと思い,両方とも購入しました。

 この結果,連休は軽いアナログ祭りになったのですが,不幸はここから始まります。

 続く・・・

 

GR1のLCDを修理した

 

20180503101308.jpg

 子供の入学式が先月あり,節目には銀塩で写真を撮ろうと思っていた私は,久々にフィルムを買って,防湿庫から銀塩でしか楽しめないカメラを引っ張り出しました。

 1つ目はCLEとコシナのレンズ。NOKTON Classic40mmF1.4MCと,ColorSkopar28mmF3.5です。このカメラは,自分で電気回路をほぼスクラッチしたもので,娘の生まれたばかりの姿を残してくれたものであって実に思い出深いカメラですが,それゆえにちゃんと動くかどうかが心配でした。

 少し動かしたところ問題なく動いたようで,早速1本通したのですが,もう胸が高鳴ってたまりません。レンジファインダーのカメラはいいですねえ。撮る側も撮られる側も,心地よい緊張感があります。

 もう1つはPENTAXのSuperAとFA43mmF1.9ltd。K-1を買わなかった私はこのお気に入りのレンズをフルサイズで使うことが出来ないため,銀塩専用レンズと考えています。

 APS-Cで使うと43mmという絶妙な画角が変わってしまいますし,銀塩の解像度,銀塩の発色でこそこのレンズの収差が生きる,と感じているので,無理にデジタルで使わないことに決めたのです。

 そうなるとボディをどうするかですが,やはりこれはうちで比較的まともなKマウントのMFボディであるSuperAでしょう。ちょっと挙動がおかしかったのですが,これもフィルムを通してみれば全く問題なし。

 どちらのカメラで撮影したフィルムも,綺麗に現像されて戻ってきました。

 で,このフィルムを3月下旬に発売になったES-2とD850を使ってデジタイズしたのですが,その話は後日。今回はそうしてちょっとした銀塩ブームである私が,これまた久々にGR1を手に取り,修理にあたった話です。

 GR1は言わずと知れたリコーの高級コンパクトで,とにかく良く写るGRレンズ28mmF2.8に,マグネシウム合金製の軽くて丈夫な筐体を持ち,パトローネの大きさが全体の大きさを決めたという小型パッケージングで,今なお人気のカメラです。

 私が持っているのは1996年に発売になった初代で,カメラ雑誌で見た花畑の広告にやられて,旅行用に妥協しない画質のカメラとして新宿のカメラのドイで買いました。懐かしいなあ。コンパクトのくせにF2.8で,絞り優先AEが使えるのが決め手でした。

 その後,私と嫁さんの二人がなにかと言えば持ち出すカメラだったのでそれなりに活躍してくれたのですが,私は私でどうも使いこなせず,AFの中抜けや動作音の軽さに興ざめしてしまい,ちょっと疎遠になっていました。

 話が飛びますが,このちょっと使えてないなあ,という感覚はデジタルのGRになっても感じていて,それであまりGRを使っていません。

 GR1はなんといってもレンズです。とにかく良く写るレンズで,階調も豊かです。

 TC-1や28Tiのように偉そうな面構えでなく,軽快なスナップに向いていることもあり,最終形のGR1vなどは中古でも6万円以上,初代のGR1でも3万円の値段が付きます。もともと10万円のカメラだったとは言え,この値段はちょっとすごいです。

 機構がシンプルで,R1というカメラでこなれていることもあってか,メカが原因の故障は少なく,比較的丈夫なカメラなのですが,それでもやっぱり持病はあり,特に有名なのはLCDのセグメント欠けです。

 GR1のLCDは小さく,セグメントなので大した情報は出てこないんですが,それでもないと不便なのは事実で,残り枚数を示す数字が見えなかったり,各種モードが表示されないことで悲しみに暮れるオーナーは世界中にいます。

 私のGR1は数年前に見たところ,セグメント欠けはなかったのですが,先日確かめてみると見事に欠けていました。いよいよダメになってしまいましたか・・・

 それ以外にも,ファインダー部分の塗装が剥げて黒い地の色がたくさん出てしまってみっともないし,モルトはボロボロになっているしで,これはちゃんと修理しないといけないなあと,意を決して分解を始めました。

 メーカーが修理をやってくれれば潔く修理に出すのですが,もう部品が払底したらしく,LCDについては断られるんだそうです。ただ,数年前まで修理を受け付けていたそうなので,LCDの修理を自分でやった例は検索しても出てきませんでした。

 さて,軍艦部を外してみると,マイコンと操作系をマウントしたフレキが折りたたまれて入っているのですが,ここにLCDも取り付けられています。LCDはハンダ付けではなく,カーボンにょる導電性の印刷がなされたフレキを熱で溶ける接着剤で接着してあります。ああ,この実装方法は安価なLCD製品にはよくあるものです。

 これ,数年間は大丈夫なんですが,10年もすると確実に剥がれてしまい,セグメントの欠けがおこります。

 根本的な修理はフレキの交換で,GR1の場合はLCDごと交換していたんでしょう。調べてみると基板側のフレキが剥がれていて,ここを押さえると欠けがおさまります。

 最初はクリップか何かで押さえつけようと思いましたが,そんなスペースもないし,きっとうまくいかないように思ったので,なにかいい方法がないかと考えていました。

 ふと思い出したのは,この手のフレキの剥がれは,最後熱溶着すれば治るという話を思い出しました。具体的な温度は忘れましたが,フレキが溶けない程度の温度(つまりハンダゴテはNG)で押さえつけてやれば,また導電性を保ったままくっつくという話です。

 事実,私はこの方法で時計を何度か修理しています。コツは,熱のかけ方です。ドライヤーでは範囲が広すぎますし,温度の管理も難しいです。そこで,フローリングの床を補修するキットに含まれていた,電熱のコテを使いました。これは補修剤を熱で溶かす温度にはなりますが,ハンダやフレキを溶かしてしまうような高温にはなりません。

 先端が広がっているのも好都合で,これで数秒間熱を加えて押しつけます。それでもうまくいくことは少ないのですが,ちょっとずつ熱を加えて何度もやり直すより,思い切って熱をたっぷりかけて一発で修理した方が好成績だったりします。

 今回もその方法で試します。

 まず,LCDフレキn接着面を表に出すため,ハンダ付けを外して折りたたまれたフレキを広げます。LCDフレキが出てきたらここに補修用のコテを数秒間当てて,綺麗にくっつけます。

 くっついたら電源をいれて,セグメントの欠けを確認します。

 私の場合,とても簡単に復活しました。その後も不具合は出ていません。もしかすると私は,GR1の持病を治した世界でも稀少な人になったのではないでしょうか。

 ファインダー部分の塗装は,剥げた部分のタッチアップだけと思っていたのですが,あまりに範囲が広いので全部剥がして塗り直すことにしました。数年ぶりにエアブラシを取り出し,似たような色を作って塗装です。これも1時間ほどかかりましたが,まずまずの仕上がりです。

 実はこのファインダー部分のプラスチックは割れがあるのと,一部爪が折れてしまっているので,うまく本体に固定できませんでした。そこでABSの板を細く切って爪を作り,割れた部分もアクリサンデー先着剤で溶着して,ようやく本体に取り付けできるようになりました。

 そして最後に,ボロボロになったモルトを全部交換して完成です。

 こうなるとやっぱりうれしいわけで,フィルムを詰めて外に出ました。いいですね,軽快です。デジカメのようにいちいちLCDで確認しなくてもぱっぱと撮影出来ますし,小さく軽いのはとても楽ちんです。

 ただ,いちいち現像に出し,出来上がったらそれをデジタルにする作業が必要で,写真として仕上がるのに時間がかかることを考えると,残念ながら銀塩が主流になることはもうないだろうなと思いました。

 銀塩には銀塩に良さがあるのでしょうが,今となっては銀塩はあまりに非日常です。以前のようにインフラが整っていたころならまだしも,今のように写真屋さんを探して中1日かかる現像に680円かけるというのも,なんだかもったいない気がします。

 だから私にとっての銀塩は,やっぱりデジタルでは使う事の出来ないレンズを味わう行為なんだと思います。同じ写真とはいえ,もはや気構えも全然違って来ているものです。

 

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