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イコライザアンプの大改修とMCカートリッジの個性

 先日からアナログレコードの再生に,コツコツを取り組んでいます。

 なにせ,日々の生活に忙しく,またそれが楽しかったりするので,時間を気にせず没入していくオーディオにはなかなか取りかかれないのですが,それでも10分15分お時間を見つけては,アナログらしい音を聴くために作業をします。

 きっかけは先日も書きましたが,V15typeiVの入手です。これに安いtypeIII用の互換針を差し込んで,私もようやく本物のV15を手に入れました。

 案外いい音を出すので,ついつい楽しくなっていろいろなレコードを聴いてみたわけですが,ラックからレコードを出して眺めていく鬱に,どうもCDで手に入れていない音源もいくつか発見され,これをデジタル化しないといけないという,新しい課題が見えてきました。

 気分とレコードに合わせてカートリッジを選んでトーンアームに取り付けて,ゼロバランスを取ってから,やはり気分とジャンルに合わせて針圧を増減,レコードを慎重にターンテーブルに載せてクリーニング,ゆっくり針を落としてリードインのパチパチに胸を膨らませるという演奏が始まるまでの儀式は,人によっては「道」とよべるほど洗練されているかも知れませんが,これを面倒と思ってしまうとアナログの良さがすっ飛んでしまうわけで,積極的に楽しめることもまた,その人の素質やスキルであろうと思います。

 私などは緩い人なので,こういう手続きが楽しいのはいいとして,どうせその時だけという刹那感もありますから,完璧を求めるようなことは最初からしません。だからこそアナログレコードという底なしの金食い虫の淵をのぞき込むことなく生きていられるんだと思いますが,ゆえにノイズやハムといった絶対悪にさえ,大らかであることが出来ます。

 不思議なもので,レコードのゆっくりとした回転や,ほのかに灯る真空管のヒーターなんかが目に映ると,ハムやノイズに寛容になってしまうものです。これを録音しておき,別の機会に再生すると途端にハムやノイズも気になって仕方がないという経験は,多くの方がされているんじゃないかと思います。音は音だけ作られているのではないという証拠です。

 ちょっと脱線しましたが,最終目的が録音である以上,それなりのクオリティでないといけないわけで,どうせその時だけだからと大らかに構えていたイコライザアンプのハムやノイズに,真剣に取り組むことになってしまいました。

 私のイコライザアンプはいくつか自作した後,K&Rというガレージメーカーのキットを使っています。創意工夫が光る回路はCR型とNFB型のいいとこ取りをし,現代的でスピード感のある音を実現している一方で,音質的な部品へのこだわりが解像感のある。しなやかな音を奏でてくれます。

 MCヘッドアンプも同社のものですが,これも半導体とトランス方式のどちらの弱点も克服する完成度の高さを安価に実現しています。

 電源と実装は私が手元でやったわけですが,これがまあなんとも適当で,電源は三端子レギュレータで済ませていますし,ケースは安いアルミの小さいケースに十重に押し込んでいるお粗末さです。

 電源トランスも近いところにあるし,ワイアリングにも制限があるので,ハムも出まくりです。

 これではいかんと,改修を行うことにしました。

 まず,電源トランスを少し小さいものに替えて,基盤との距離を稼ぐことにしました。その上で純鉄のシールド板を立てて,電磁誘導によるハムを軽減させます。

 電源回路は面倒なのでこのままでもいいんですが,負電源の7912のパスコンが不適切だったので仕様書に従って大きめの値の電解コンデンサを追加しました。とうも発信しやすい不安定な状況にあったように思うのですが,この対策でノイズも減りました。

 ワイアリングも見直し,アースの取り方も時間をかけて検討しました。試行錯誤をしましたが,ACの3Pコネクタをノイズフィルタ内蔵のものに交換し,ノイズと共にACからの誘導ハムをシールドでカットしました。

 MMではほぼハムもノイズも気にならない程度に押さえ込みましたし,MCでも少しハムが残っているくらいに出来ました。ここまで格闘するのに4時間かかってしまいました。なんと贅沢なことか。

 これまでは,レコードに針を落としていれば,無音部分でハムが聞こえて興が冷めてしまったのですが,今回の対策では無音部分のスクラッチノイズよりもハムが小さいので,針を落とすともう気になりません。このくらいで手を打つことにします。

 実のところ,V15typeIVを楽しめれば,MCでのハム退治なんて必要はないはずなのですが,幸か不幸か私はMCカートリッジの決定的なすごさに気が付いてしまい,これで録音をしようと思った事で,ムキになってMCでのハムやノイズを押さえ込むことに夢中になったのでした。

 Kenny DrewのEverything I Liveというアルバムを,カートリッジをとっかえひっかえで聴いていたときのことです。確かにV15typeIVはいい音を出すのですが,いまいち見通しが良くなく,ピアノとの距離が近く,ペタッと張り付いて聞こえます。

 そこで,ものは試しとAT-F3/IIにしてみると,くぐもって聞こえたピアノが華やかになったと同時に,目の前にすーっと音が通る道のようなものが通り,ピアノとの距離がリアルに生まれ,コトッという弦の振動以外の音もきちんと出てくるようになりました。

 おお,なんという空気感,これはAT-F3/II独自の音なのか,それともMCの音なのか,あるいはオーディオテクニカの音なのか,気になって仕方がありません。

 そこで,AT-15Eaにしますが,急に音の空間が狭くなりました。ならGRADOのPrestige2ならどうかと交換するも,さらに窮屈になって聴いてられません。音が籠もって狭いところに押し込められて,首をすくめているようです。

 DL-103に交換すると,AF-F3と同じように,頭上の蓋が取れたような開放感と新鮮な空気を感じ,ピアノと私の距離が適度に生まれました。前の前がぱっと開けた感覚は,AT-F3/IIと同じ傾向です。

 ただ,AT-F3/IIが華やかすぎたのに対し,DL-103は実に適度で,焦らず落ち着いた,重心の低い音を出してくれます。いや,これは実に聴きやすくて心地いいです。

 AT-F3/IIはきらびやかで,1970年代初期のジャズピアノのアルバムを現代風に甦られてくれますが,ちょっと冷たい感じがして,これならCDで聴くのが正しいよなあと思うくらいです。さすがDL-103,日本の標準器です。

 ということで,MMかMCかの違いは,なんとなくMCの方が線が細いくらいに考えていたのですがとんでもない,MCの空間表現能力であるとか,音源との距離感の再現能力であるとか,まるで冬の朝に深呼吸するような爽やかさというのは,理由はさっぱりわかりませんが,もう認めなくてはならないほどはっきりしています。

 一方でMMの閉塞感,音源との距離の近さと窮屈さはなんでしょう。まるで,ピアノの弦にマイクを立てて,平面的に拾っている感じです。(というか実際にはそうやって録音されているんだから正しい再生をやってるわけですが)

 この距離感の近さが有利に働くソースもあるんですが,少なくとも今回のEveryting I Loveについては,見通しの良さと音源との距離感がとても重要であると感じました。そう,まるで,私が鍵盤を前に座って,自分で演奏をしているかのような感じです。

 ああ,なんと奥が深いことか。

 と,こんな顛末があって,デジタル化はDL-103で行う事が決まったのでした。それで,なんとかハムとノイズを低減させる必要に迫られたわけです。

 惜しいのは,DL-103が丸針であり,特に内周でのトレース能力が他の針に比べて低いことでしょう。それでも,0.65ミルの丸針とは思えないほどの音を出してくれるのでいつも感心しますし,丸針であることも含めて,DL-103のバランスを作っているのだと思うので,かつて存在した楕円針がラインナップから消えているのも,わかる気がします。

 DL-103が凡庸な音を出すカートリッジに過ぎず,よほどV15typeVxMRの方がいい音をさせるというケースももちろんあります。MCとMMの違いがここまではっきりわからないソースも多いです。

 だから,どのカートリッジで聴けば楽しいかを考えるのが楽しいのだと思います。おそらく,どのカートリッジを選ぶのが正しいかという正解などないのでしょう。楽しいかどうか,それに尽きるのがアナログレコードの再生なんだと思います。

 忘れてはいけないのは,これを楽しいと思えない人が大半であるという事です。また,これを楽しむためには手間だけではなくお金もかかるという現実があります。

 だからCDに置き換わったことは正しいですし,良いことだったと私は思います。

 

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