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TIのICが秋月で買えない

 何を今さら,という感じのニュースらしいのですが,たった今知った事なので私はとても驚いています。

 ついさっき,秋月電子のサイトでTIのオペアンプを見ていました。いつもは見る事のないQ&Aを眺めていると,9月と10月に追記されたものが目に付きました。

 ディスコンでもないのに在庫限りなのはなんで?

 ・・・え,どういうこと?

 秋月電子からの回答は,なんでも,TIがエンドユーザーを特定出来ないお店には販売させないという方針を取ったとのことで,これにより秋月では販売出来なくなったそうです。

 ちょっと待って下さい。

 TIはICの発明者を擁していたほどの半導体の老舗にして名門で,古くはシリコントランジスタで存在感を高め,74シリーズのロジックで世界を制覇,1990年代からDSPに軸足を移したかと思えば近年はアナログICに舵を切り,名だたるアナログICメーカーをことごとく傘下に収めた,超巨大半導体メーカーです。

 正直にいえば,私にとってのTIは廉価版オペアンプとセカンドソースのメーカーであって,安く安定して手に入る製品を用意してくれていることが最大の価値でした。

 個性が強い,超高性能なICは,TIには結びつきません。

 様々な機能を持つ面白いICが揃っていて,データシートを眺めているだけで楽しかったナショナルセミコンダクタ,オーディオ用のAD/DAコンバータで先頭を走り,強烈な性能のオペアンプに憧れたバーブラウンも,すでにTIに買収されてしまいました。

 TIの資金力と人材をもってすれば,ナショナルセミコンダクタもバーブラウンも主要製品は安定供給されるだろう,特にアマチュアにも優しかったナショナルセミコンダクタが安定的に存続することは大歓迎だと思っていたのですが,まさか市中の部品屋さんで買えなくなってしまうなんて,想像もしていませんでした。

 調べてみると,この方針が出始めたのは今年の3月頃。すでにこの頃から一次代理店以外の流通が止まりつつあることがわかります。特に我々アマチュアが親しんでいた秋月電子やマルツ電波からは,買えないものが出始めていました。

 根拠のない噂話ですが,事の発端はある中国の代理店が,最終製品に搭載すると見せかけて安く購入した部品を高い値段で流してボロ儲けしていたことにTIの幹部が激怒,その部品が誰の手にあるのかを完全に把握出来ないところには売らないと決めたらしいです。

 まあ,こういう面白い話には嘘も混じるものですが,特に中国の「偽物」にはどの半導体メーカーも顧客も頭を痛めているのが現状で,TIが手間暇かけてきちんと流通を管理するという今回の決定によって,偽物が一掃される可能性があります。

 少なくとも,市場に流通している部品はすべて正規品と言うことになるので,顧客は安心してTIの製品を買うことが出来るようになります。これは大きなメリットです。

 でも,電子工作を楽しむ子供たちにとっては,そんなことは理解出来ません。

 TIの製品は,高価で超高性能なものばかりでなく,また特殊なものばかりでもなく,昔から汎用品として長く使われてきたものも多くあります。入手しやすい,安く買える,性能が間違いないということでTIを使ってきた製作記事の執筆者も多く,この方針変更はそうした信頼を根底から覆すものです。

 もっとも,そうした汎用品はTI以外からも販売されるので実害はないのかも知れませんが,他社を買収し市場を独占した会社は,その決定が与える影響を熟慮して欲しいのです。

 その上で,中小企業やアマチュアなどの弱者を救うのも,お金のある大きな会社の仕事の1つにして欲しいなあと思うのです。

 TIのケースでは,TI自身が直販サイトを立ち上げています。誰でも買うことが出来ますが,さすがに1個からというわけにはいきません。送料もそれなりにかかりますし,単価もあまり安いわけではなく,問題のは納期です。店頭でその場で買えるほどの迅速さは当然なく,1週間も程もかかってしまうようです。

 ならdigikeyなどのTIが認めたディストリビュータ経由で買えばいいんじゃないか,と思う訳ですが,クレジットカードと海外発送が前提になっていることを考えると,中学生くらいの子供が秋葉原でTIのオペアンプを2つ買って帰るということが出来なくなってしまうことはまず間違いありません。

 こうして,私にとっては子供の頃から馴染みのあったTIが,とても遠い存在になってしまうのです。残念でなりません。

 思えば,1980年代までの日本のメーカーの半導体がこんな感じでした。小さい部品屋さんはNECや東芝,日立といった巨大企業と直接取引できるわけはなく,代理店の商社が間に入って,小さな部品屋さんに卸していました。

 基本的に自社の最終製品のために半導体を作っていた日本のメーカーは,汎用品よりも特定用途向けの半導体に面白いものが多かったのですが,それゆえに代理店が扱わないものも多くあって,結局部品屋さんの店頭に日本のメーカーの半導体が並ぶことは少なかったのでした。

 だから,興味を持った製作記事に日本のメーカーのICが使われていると(そしてそれらの多くはキーデバイスだったりする),絶望的な気分になったものです。

 日本の半導体メーカーの力が落ちて,面白いものも安いものも海外のメーカーのものになって,ことアマチュアの半導体の入手は随分と楽になったと思っていたのですが,今回のように最大手のTIが部品屋さんに部品を売らせなくするという話になると,時代が逆戻りしてしまったように感じます。

 TIのように高性能アナログICをいわば寡占しているメーカーが,他に変わるもののないナショナルセミコンダクタやバーブラウンを買ったのですから,買った側にも一定の責任が発生すると私は考えています。

 資金力に任せて市場を独占した上で,市場をコントロールすることに問題があるという考え方は,各国の独占禁止法の根拠となっているわけで,今回のケースでは,TIという会社が中小企業を顧客と見なさないことに,企業の責任が問われるんじゃないかと思うわけです。

 データシートの配布については,著作物であるデータシートを勝手に配布していることに私は問題を感じていたし,公式のホームページに行けば手に入るものであればその方が安心だし確実なので歓迎すべきことだと思います。

 しかし,TIもそうなのですが,かつては日本語のデータシートを用意していても,今は日本語を用意しないことも多く,最新版をダウンロードしたら英語のみだったという事は頻繁に起こります。

 加えて,ディスコンになったもののデータシートもダウンロード出来ない場合が多いです。部品屋さんにしてみれば,自分達が今売っている商品のデータシートを提供出来ないことは確かに問題でもあります。

 ということで,TIのような最大手が流通に縛りを入れて来たことに私は警戒心を解くことが出来ません。他の会社が追随しないことを願うばかりです。

 

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