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GW690で感じた世界

 中判のフィルムにしっとりと広がる銀の粒子が,肉眼でも良し悪しがわかるくらいに大きく画像を作り出す様にすっかり魅了され,現在私が手にすることの出来る最高画質と信じて疑わなかったD850をしのぐ情報を残す事の出来る事実に,自らの浅さと焦りを感じた2ヶ月を過ごしました。

 中判に対する大きな可能性を知ってしまったからには,もっと大きなフォーマットに手を出すのも自然な流れです。

 中判の次は大判,しかし大判はロールフィルムではありません。さすがにシートフィルムに手を出すのは非現実で,そうなると中判で最も大きなものを体験するしかありません。

 そこで6x9版です。6x9版と言えば,フジのGW690シリーズです。21世紀になっても新品が買えた6x9版のレンジファインダー機です。

 もちろん,6x9以上のフォーマットもあるにはあって,6x17というのがどうも最大のようですが,これは横長のワイドで私の好みに合いませんし,そもそもそういうカメラをほとんど見た事がありません。

 6x9ならおなじみなの?というあなた,そうおなじみです。

 最近の小中学校は違うのですが,10年くらい前までの集合写真では,この6x9版が使われていました。そしてそれは,ほぼGW690シリーズで撮影されていました。

 特に40年も昔になると,1クラスの生徒の数も40人を超えていて,1枚の写真にまとめるにはかなりの解像度を要求されました。一人一人の顔がきちんと写っていないといけませんし,中央と端っこで写り方に違いがあるという事は,公平をなにより好む学校において許される事ではありません。

 当時の技術でこれが可能だったのは中判以上。私くらいの年寄りになると大判で撮影されたことを覚えているわけですが,大判になるとすでに撮影がメインの写真屋さんの仕事であるのに対し,GW690を使えばDPEをメインにやっている街の写真屋さんでも対応可能です。

 写真屋さんの大半が富士フイルムのネットワークに組み込まれていたことを考えると,GW690を使って学校の写真を撮るというのは悪い商売ではなかったはずで,我々は知らないうちに,6x9版に映り込んでいたといえるでしょう。

 目的が目的ですから,GW690に求められた性能は,隅々まで写る高画質,高解像度。コッテリとした記憶色を再現する発色,ピンボケは絶対に許されないので高精度な距離計,そして簡単には壊れない堅牢性,余計な機能を持たず確実に動作する信頼性です。つまり,プロの道具です。

 集合写真ですし,動く被写体を撮るわけではありませんから,高速シャッターも高精度AFも必要ありません。明るいレンズである必要もないし,連写も必要ありません。露出計を内蔵することも必須ではなく,仮に露出計を内蔵していても確実に撮らねばならない現場なら入射式の単体露出計を使うことがほとんどでしょう。

 これをアマチュアが検討したとき,面倒なカメラ,プロしか使えないカメラと考えるか,落ち着いて被写体と向き合えるカメラととるか,そこが分かれ道だと思います。

 私は後者です。120フィルム1本で8枚しか撮影出来ないのに,被写体と向き合わずなんとするか。撮影者と被写体が同じ目的に向かって協力し合う結果得られた高画質な銀塩写真には,それでしか得られない空気感があるはずです。

 かくして,私の手元にGW690がやってきました。

 初代のGW690で,フジカブランドです。基本設計はIII型でも同じですので,程度の良し悪しと外観デザインだけを気にしておけば済むカメラです。

 入手価格は2万円。程度は悪く,ギリギリ実用レベルです。実は3台あって,これだと思う良い程度の物を買ったはずなのですが,間違えて2番目の程度のカメラでポチってしまいました。

 ドキドキしながら届くのを待って,手にしたGW690は想像以上に程度が悪かったのでさらにがっかりです。

 レンズにはチリやホコリが入っており,心なしか曇っています。ファインダーは曇っていると言うより濁っていて不快なレベルです。

 カウンターは669でしたから,この段階で7000ショットほど。10000ショットで1周しますので,まだ少しはオーバーホールなしで使えるでしょう。

 肝心なシャッターは確認したところ,全速JIS規格をオーバーしています。

1/500 3.44ms
1/250 6.08ms
1/125 9.80ms
1/60 22.2ms
1/30 39.2ms
1/15 78.0ms
1/8 166ms
1/4 320ms
1/2 650ms
1 1240ms

 うーん,辛い。すべてのシャッタースピードで遅れています。ちょっと迷ったのですが,ここでGW690IIIのサービスマニュアルを見てみます。ここにこのカメラの規格が出ていまして,

1/500 1.16 - 3.28ms
1/250 2.33 - 6.58ms
1/125 4.64 - 13.13ms
1/60 11.0 - 22.1ms
1/30 22.1 - 44.1ms
1/15 44.2 - 88.4ms
1/8 88.4 - 177.0ms
1/4 177.0 - 354.0ms
1/2 354.0 - 707.0ms
1 707.0 - 1414.0ms

 だそうです。

 これ,ちょっと緩すぎないかと思うのですが,カメラの仕様としては1/125までは±0.75EV,そこから遅くは±0.5EVまでOKなんだということで,確かに隣のシャッタースピードまで許容範囲が広がっています。これでも十分なんでしょうね,現実的には。

 そう考えるとミノルタオートコードなどはとても優秀で,正直あそこまで神経質になることなどなかったかも知れません。

 改めて見てみると,1/500秒と1/60秒がアウトです。1/500秒は大幅にアウトで,もう当てにならないくらいですが,1/250秒との差分がしっかりあるので,使い道はあります。

 1/60秒がアウトなのは辛いところですが,それもまあわずか100usのオーバーですし,誤差に紛れて毎回変わる数字でしょうから,あんまり気にしなくてもよいと思っています。

 まあ,全体的に遅めとは言え,どれも等しく遅いわけですから,整っていると考えてシャッターには手を出さないことにします。

 で,距離計とフォーカスですが,まず無限遠はバッチリ。オートコリメータで確認しましたが,完全に無限遠は出ていました。

 距離計も1.2mで確認しましたが十分な精度が出ていました。ただ無限遠はちょっとオーバーインフ気味な感じがします。いじるとすれば距離計ですが,近距離で十分な精度が出ていると判断しているわけですし,これももうこのまま触らないことにします。

 可能な限りの清掃を行って,見栄えもかなりスッキリしました。ピント合わせが楽しくなりそうです。

 フィルムの給装も問題なし,軍艦部をあけたついでに注油を行い,スムーズさも出てきました。

 さて問題の,レンズのホコリです。

 シャッターを挟んで存在する前群と後群を外して拭き掃除をしようとしましたが,あまりにネジが固くて分解出来ず,最終的に可能になったのは前群だけでした。それでもホコリは綺麗になり,気分的にもすっきりしたのですが,残念な事に後群に全く手が届かず,広がるホコリや中央に居座る大きなゴミに,とてもイライラしてしまいます。

 無理に分解して壊したりレンズに傷を付けたらもうおしまいです。画質に影響がなければいいかと,割り切りも大事です・・・

 あとは,あちこち剥げたペイントを修正し,彫り込んだ文字にエナメルカラーを流し込んで仕上げます。

 そして試写。

 実は現像に失敗して(120フィルムを1つのリールに2本巻いたのですが,重なってしまってました),正確な評価は難しいのですが,とりあえずフォーカスも問題なし,コマ間隔も正常で,実用に耐えると判断しています。

 画像も十分にシャープですし,素晴らしいと思います。ゴミの影響はほとんどないと思います。無理にバラさなくて良かった。

 そして,手ぶれがかなり目立ちます。一眼レフなら1/30秒でもなんとかなるのに,このカメラだと1/30秒はアウト,1/60秒でも気を抜いたらアウトです。厳しいです。それに十分に絞り込まないと高画質は得られず,F5.6位だと眠いんですね。35mmの一眼レフとは,考え方を変えないといけないようです。

 ついでに言うと,FOMAPAN200に,大きなごま粒のような黒い粒子が一面に広がってしまっていて,6x9ならではの高精細さを感じたり,階調の豊かさに感激したりという事はなく,ちょっと肩すかしのような感じがしています。

 同じような印象は同時に同じフィルムで撮ったミノルタオートコードにもあって,現像液の疲労なのか,フィルムのロット不良なのか,あるいは現像ミスに起因する物なのか,ちょっと考えているところです。

 FOMAPAN200はPETベースでベースが抜けていて,シャープな印象もある,私には好ましい傾向のフィルム故に,20本ほど買い込みました。しかしこうした問題が出てしまうというのはちょっと想定外で,無駄になったらいやだなあと思っているところです。

 そんなわけで,とうとう6x9に手を出しました。滅多に使わないかも知れません。しかし,ここぞというところで,わずか8枚を撮りきることのスリリングさを,堪能したいと思っています。

 引き延ばすことなく,べた焼きで名刺くらいの写真が出来上がる世界。私を含む多くの人が感じている一瞬を切り取るという写真の世界とはまた違った,絵画のように1枚を丁寧に仕上げる写真の世界を知った事は,とてもうれしいことだったと思います。

 

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