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VM型カートリッジを買う

 オーディオテクニカが,カートリッジの値上げを発表しましたが,周囲の評判についても私自身の意見についても,値上げ後の価格が妥当だという印象から,それでもカートリッジを続けてくれることがありがたく,おおむね好意的なものがあります。

 特に私が先日購入したAT-F3/2については,1万円を切る価格であのクオリティですので,はっきりいって大盤振る舞いだったといえて,価格改訂後の価格が15000円になったとしても,それでも十分にお買い得であることは明らかだと思います。


 むしろ,儲からないからやめた,という話が出たり,価格改定するくらいなら製造中止にしてしまえと考えないあたり,カートリッジを大切にしているんだなあという印象を受けます。さすが,オーディオテクニカはカートリッジでスタートした会社だけあります。

 カートリッジやターンテーブルを支えたDJという用途は,実のところディジタル化が進んでいて,すでにCDを使ったスクラッチのシステムが一般的になっています。ベスタックスなどはDJ機材のメーカーで,別にアナログ機器が売れなくてもその代わりにディジタル機器が売れればいいわけですからそれほど問題はないだろうと思いますが,カートリッジのメーカーはもしDJ用に消費されないと,本当にもう撤退するしかないんじゃないかと思います。

 特にDJでよく使われるMMカートリッジは,安価で使いやすいカートリッジなわけですが,針交換が出来るというメリットがある反面で,金型による製造が不可欠なので手作りが出来ず,ある程度の数がまとまらないと作ることが出来ないものと言われています。

 だから,DJたちがハードなプレイで針をどんどん消費してくれる今は,MMカートリッジは成り立つのかも知れません。一方で高級とされるMCカートリッジは,極論すれば1つからでも手作りが出来るので,中小メーカーによる工芸品がたくさん市場にもあるんですね。

 これら工芸品は,ピュアオーディオ用途に限定されているので,数千円で買える必要はありません。1つ100万円でも,性能が良ければ数は少なくても売れる世界ですので,今後はよくいわれるように,MCカートリッジしか残らないのではないかと思います。

 しかし,MMカートリッジにも名品と呼ばれる物があり,それは強烈な個性を持っていて,今なお多くの人に愛されていることはご存じの通りです。

 私はMCカートリッジを持っていなかったので,評判の良い低価格のものをとして,偶然にオーディオテクニカのカートリッジを選んだわけですが,そのさわやかで現代的な音と愚直な姿勢にまたも(というのは,ヘッドフォンでも同じような体験をしているからです)感銘を受けることになったわけです。

 オーディオテクニカにはMM型にも強烈な個性があり,それはVM型と呼ばれているのですが,カッターヘッドと相似形であることで,チャンネルセパレーションの高さや歪みの少なさを売りにしている,独自のカートリッジです。

 ですが,カートリッジの性能は価格に比例するというつまらない宗教にがんじがらめになっていた私は,1万円以下のカートリッジにそれほどの興味を持たずに来ました。

 それはAT-F3/2を買ったことで誤りであったことを知るのですが,そうなるとオーディオテクニカがMM型という汎用・大量生産品のカートリッジをどう考えて作っているのか,とても気になってきます。

 そこで,値上がりの前に買うという理由を作って,前から気になっていたVMカートリッジを買ってみることにしました。

 AT7Vというカートリッジです。AT-F3/2と双璧をなす価格帯のカートリッジです。どちらも実売で9000円ほどとなっており,使われている素材や設計思想なども,極めて似ているような感じです。

 AT-F3/2があれほど素晴らしかったので,このAT7Vにも否応なしに期待がかかります。高級な素材をふんだんに使い,広帯域を目指したカートリッジは,その個性であるチャンネルセパレーションの高さと相まって,おそらく透明度の高い音を聴かせてくれるのではないでしょうか。

 シェルは,お気に入りのMG10です。これはシンプルで安く,剛性感のあるしっかりとしたシェルで,実売1800円というお買い得感もたまりません。これも6月から値上げされるのですが・・・

 週末に届いたので,早速聴いてみます。

 第一印象は,私の期待通りで,非常にワイドレンジ,透明感があり,音が「遠い」ところでなっているような印象です。どの周波数にもクセはなく,どの音も等しく,公平に出ているようです。

 V15typeVxMRと比較してみると,やっぱりV15typeVはボーカリストの口が目の前15cmの距離にあるというイメージで,それ以外の音ははっきりいって埋もれてしまいます。でも,ボーカルの曲はボーカル以外の音を聴きたいわけではないので,V15typeVxMRは,なんだかんだで大したものだなあと思いました。

 AT7Vはそのへん,どの音に対してもどの楽器に対しても実に平等で,すべての音が聞こえてきます。実際VM型としては高域が良く伸びているカートリッジなのですが,その繊細な高域が濁ってしまわないように,素材を厳選してあるのがありがたいです。

 破綻なく,低い音から高い音まで,特に味付けや誇張を一切廃し,ストレートにある物をそのまま拾い上げるという印象のAT7Vですが,VM型という形式がカッターヘッドと相似形である事と,オーディオテクニカの,明るく現代的というコーポレートとして持つ音のキャラクタが,8000円ちょっとのカートリッジにもここまできちんと盛り込まれていることに,やっぱりすごいなと言う他ありません。

 安くても妥協はしてないという点で,AT-F3/2と共通のスピリットを感じました。

 AT-F3/2とも聞き比べてみましたが,AT-F3/2の方が繊細で,線が細いのですが,解像度は圧倒的に上だと感じました。AT7Vでも十分すぎる音ではありますが,AT-F3/2はさらにその上だと言えるでしょう。

 MM型の個性として,ナローレンジ感と中低域の存在感が欲しい人にとって,MCカートリッジの個性に似ているAT7Vは中途半端な存在に見えるかも知れません。しかし,そこはやっぱりMM型の親戚です。しっかりした太い中低域はしっかり存在していて,そこにきらびやかな高域が重なってくることを,MMでもMCでもない個性だと考えると,これもまた面白いと思わざるを得ません。

 無骨でデザイン的には決して美しいと言えないカートリッジですが,とても良い個性のカートリッジを手に入れました。レコードにあわせて,聞きたい音に合わせて,カートリッジは積極的に選ぶべき物です。個性のあるカートリッジを手に入れることは,それだけ楽しむ範囲が広くなると言うことですので,歓迎すべき事です。

 そうなると,無個性であることが個性として認知されている定番中の定番,DENONのDL103を買わずにはいられないんだろうなあなどと,感じています。

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