エントリー

師匠との再会

 先日,高校時代からの友人の結婚式に集まったことがきっかけになり,この年末の帰省ではその友人達と改めて晩ご飯を食べようという事になっていました。

 私は当日は昼過ぎに大阪入りすることになっていたので,晩ご飯までの時間をどう過ごすかを話し合ったところ,我々の聖地である日本橋の散策でもするか,ということになりました。友人二人は大阪在住ですから日本橋は別に珍しいものではないはずですが,そこは私にあわせてくれたということでしょう。

 いざ日本橋にいってみると,なかなか混雑していて活気があります。確かに不景気ではありますが,年末の買い物に出てきた人々にとって,少し気が大きくなる楽しい時間だったのではないかと見ていて思いました。

 ちょうど20年前に2度ほどバイトをすることがあり,そしてその後も機会があれば必ず顔を出していたジャンク屋のデジットは相変わらずの盛況で,店員さんも元気でした。特にこれを買おうと決めていた訳ではないのですが,ひとまわりすれば面白いものが見つかるものです。

 そんな風に店内を回っていると,おや,なにやら懐かしい方の姿が・・・

 なんと,私が20年前にお世話になった,当時のデジットの店長その人の姿がありました。

 相変わらず汚いシャツの上にこれまた汚い作業着を着て,無造作に伸びた長い髪はぼさぼさですが,さすがに半分くらいが白髪になっています。当時のままの銀縁の眼鏡の奥には,これも当時のままの「わかりやすい表情」をたたえた瞳が,若者のように輝いています。

 高校生の時にバイトをしたときも,さんざん怒られました。激しい口調で怒鳴られたことも数多いのですが,今の私の「基準」の多くは,彼からの教育によるものでったと,その縁を今でも誇りに思っています。

 バイトの期間はそれほど長いわけではなかったのですが,クソ生意気な高校生だった私は,今の私くらいの年齢の大人が頼もしく,バイトをやめてからもちょくちょく店に顔を出しては,煙たがられながらもまんざらでもなかった説教をされては喜んでいたものです。

 そして大学を卒業するとき,いくつかの会社から最終的に就職先を選ばねばならなくなったとき,唯一相談できたのが彼でした。彼は反体制的な人だったので,てっきり大企業に行くなというはずと思っていたのですが,意外に一番大きな会社にいけといいます。理由を尋ねると,次の会社への就職が楽だから,とすぐさま答えが返ってきます。なるほどと納得した私は,その会社に就職することにしたのです。
 
 以後,生活場所を東京に移した私は,彼と会う機会は少なくなり,最後にはデジットの店頭で見かけることもなくなって,私が彼と会うチャンスは消え失せてしまったのです。

 なにやら取引先のお客さんと商談でも始めるらしく,新製品のHi-Fiアンプのキットを得意げに紹介していたところを,一段落したところで割って入った私は,少し大きめの声で「Kさんですか」と話しかけました。

 「ええそうですよ」と笑顔を崩さず,大きな声で答えてくれたのですが,残念ながら私の顔を見ても表情を変えることはありませんでした。私は「覚えてらっしゃいますか, Aです。」と話をしますが,「ごめん,覚えてないわ」と返ってきます。

 でも,ここで申し訳なさそうな顔をしないのが彼のいいところです。

 私は負けずに「20年ほど前にバイトで使ってもらったものです。就職先を相談して,その会社に今でも行っています。」というと,「少しずつ思い出してきた。」と,うれしい反応を見せていただきました。

 ですが,15年ほど前までは私の顔を見ると「元気してるか」と声をかけてくださったことを考えると,少々残念な気もしましたが,彼の記憶は次々に蘇ってきたようで,取引先のお客さんに「こいつはほんまに生意気でねえ」とニコニコしてお話をしています。しばらくすると商談のために2階の事務所に二人は去ってしまったのですが,「またおいでー」という最後の言葉を真に受けて,私はまた訪ねていこうと思っています。

 私の手は汗でびっしょりでした。なんといっても,振り返って今の私の何割かは,彼の考え方に大きな影響を受けて出来上がっています。彼にとっては数多くのバイトの一人であったとしても,私にとってはかけがえのない師であることに間違いありません。

 おそらく私一人でも日本橋には行っていたでしょうが,友人と待ち合わせて行ったことで,偶然にも出会うことの出来る時間に居合わせることが出来たわけです。友人との縁と,そしてそれがもう1つの縁をたぐり寄せたことのすばらしさに,私は珍しく興奮気味でした。

 ところで,その友人ですが,大阪在住の二人がわざわざ東京から戻ってきた私を連れて行った先は,あろうことか和民でした。理由は2000円のクーポンがあるから,といっていましたが,すでに大阪の人間は自らの食を誇ることすら,出来なくなっていたようです。なお,そのクーポンは来年1月から有効だったというオチまでつき,私はひたすら飲むばかりだったというのはここだけの話です。

ページ移動

ユーティリティ

2020年05月

- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31 - - - - - -

検索

エントリー検索フォーム
キーワード

ユーザー

新着画像

新着エントリー

過去ログ

Feed