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PENの四角いシャッターボタン

ファイル 305-1.jpg

 かつてminoltaCLEの故障品(断じてジャンクではない)を気軽にチャレンジして下さいと,快く私の修理技術向上のために提供して下さった方が,またありがたいことに要修理品を提供して下さいました。

 思えば,辛く支えを失った時機にも,へし折れてしまわなかったのは,自己表現と自己主張としてのカメラ修理に没頭したことと,これをいろいろな形で支援して下さった方々のおかげです。

 今もどん底の状態で夢も希望もありませんが,どん底も慣れてしまえば都です。人間というのはかくも都合のいい生き物かと思います。

 CLEは私の修理カメラの中でも,非常に意味のある1台です。Mマウントレンズが使える距離計連動型のカメラで,今なお人気の衰えない憧れの名機であったことはもちろんですが,メカではなく電気回路が故障していたため通常の修理が不可能であった状態から,同じ働きをする回路をPICマイコンで作り直して復活させたという,マイコン応用工作技術の数少ない実用例でもあるのです。ゆえに愛着も大きいものがあります。

 距離計の調整も経験しましたし,コシナの安物レンズばかりとはいえ工作精度の良い金属鏡筒の質感を連動する距離計と共に楽しんだり,レンジファインダー機ならではの対象型広角レンズを使ってみたりと,一眼レフとは別の世界に足を踏み入れた点でも画期的でした。

 機材が増えすぎた(防湿庫がいっぱいになった)ことで最近ジャンクカメラの保護とレストアは自重気味な所があったのですが,未知の分野として残っていたのが,ハーフサイズと中判です。

 中判はしゃれにならないので手を出さずにいるつもりだったのですが,ハーフサイズについては,かなり本気でした。というのも,かつてサムライZのレストアに失敗しているからです。

 あの時は,レンズがダメだったんですよ。カビかなと思っていたら,貼り合わせガラスのバルサム切れだったというオチでした。結局それが分かるまで分解を続けた結果,組み立て直す気力も失せて,その日のうちに廃棄したという苦い記憶が甦ります。あれ,5000円ほどもしたっけなあ。

 何年か前,ハーフサイズのブームが起きて,その代名詞であるオリンパスペンの人気が再燃,価格も高騰したことがありました。今は落ち着いているような感じですが,ハーフサイズのカメラには「ハーフサイズであること」以外の魅力にあふれたカメラが多いのも,とても面白いことだと思います。

 そんなわけで,オリンパスペンを機会があるごとに見てはいたのですが,そこそこの程度のものでも結構なお値段で,逆に安いものは復活させられそうにないくらいの程度の悪いものしか見つけられず,お手頃なものがなかなか見つかりませんでした。

 そこへ,先程のCLEの方から,突然の申し出を受けます。送られて来た段ボール箱に入っていたのは,オリンパスペンEEDと,なんとアサヒペンタックス6x7の2つ。

 いやーこれが「バケペン」ってやつか,まぢで化け物だなこいつは,などと6x7を手に取り,思わず及び腰になります。

 そしてその脇にあった,ボクシーで小綺麗なカメラが,ペンEEDでした。

 あれ,ペンってこんな形だっけ?

 そんな風に思ってgoogle先生に相談してみると,なんでもEEDは高級機で,F1.7の明るいレンズにオリンパス謹製の絞り兼用シャッターとプログラムAEを搭載したものだそうです。しかし形は他のペンとはちょっと違っていて,丸みがなく角張っています。このあたりが異端児と呼ばれるゆえんなのでしょう。

 またレンズは意欲的なスペックですが,当時の工作精度から当たり外れがあるらしく,これがこのレンズ(というかカメラ)の評価を二分する理由になっているのだろうという意見もありました。確かにこのレンズの描写については,いいという人と今ひとつという人に別れているように感じました。

 高級機であったにもかかわらず,生産台数は非常に多いという事ですが,しかしあまり中古店の店先で見ることがないんですよね。

 個人的に,このEEDは手に取った瞬間からとても気に入りました。カメラらしさは大きなレンズにやどります。ややオフセットしたレンズを,直線が取り囲むデザインはシンプルでとても綺麗です。技術的に好ましいと思ったのは,セレンではなくCdSを使っていることでしょう。セレンはもう修理出来ませんし,代替品を探すのも面倒です。CdSならストックもあるし,使い慣れています。壊れてもなんとかなります。(ついでにいうとレンズの周りにあるセレン用の複眼が苦手です)

 送って下さった方のコメントによると,電池を入れても動作しない,赤ベロが出るとのこと。赤ベロ?

 ペンEEDは,測光結果が撮影可能範囲を超えてしまうと,ファインダーに赤いベロを出してシャッターボタンをロックします。(この状態でセルフタイマーを動作させてしまいどうにもこうにもならなくなって慌ててしまったのですが,現代ならこの設計はNGでしょう)

 これを赤ベロというそうですが,電池が切れている場合も同様になります。測光系に異常があるのではないかというのがその方の意見です。なるほど。

 外観はスレなど使用感もありますが,その割には小綺麗になっています。なかなか程度が良さそうに見えますが,これは後で謎が解けます。

 レンズはカビも傷もなく,とても綺麗です。変色もヤケもなく,まるで新品のようです。いつもそうなのですが,レンズを見ると,どんなに忙しいときでも修理をしようとやる気がわいてきます。しかし,レンズの正面には分解痕があります。この固体は既に誰かに分解されていますね。中古屋に出すこともオークションに出す事も,控えねばなりません。

 ファインダーは内側がやや曇っているし,ゴミも入っています。掃除が必要でしょう。

 絞りをAUTOにせず,固定にするとマニュアルでシャッターが切れます。速度を変える手段がないのでストロボ撮影用です。動作させてみるとガバナーの音が目立ちますが,一応シャッターはちゃんと切れるようで,ありがちな羽根の固着もないようです。速度が出ているかどうかはわかりませんが,ガバナーのきき具合から考えると,1/15秒とかそれくらいでしょうか。

 さっと表面の汚れを拭い,電池ケースを開けてみますが,液漏れもなく,目視で怪しい部分はありません。これは本当に内部の電気系が死んでいるのかも,と思いながら,電源器を1.5Vに設定して繋ぎます。やはり動作しません。やっぱり電気系かぁ・・・

 電池ケースの断線もあるだろうと底板を外してみるのですが,期待に反して電池ケースの断線はありません。ハンダできっちりくっついています。

 接触不良の可能性もあるなと,この配線に直接電源器を繋いで試してみると,なんとあっさり動いてしまいました。

 明るさに応じてシャッター速度も変わるし,絞りの開度も変わります。

 ということで,本体は分解をしなくても良さそうです。せっかく中身を勉強するチャンスだったので,内心残念な気持ちもありましたが,ちゃんと使えそうな個体を無理に分解して壊してしまうかもしれないというのは,私の考え方には沿いません。

 各部の清掃をしましょう。軍艦部を外します。油はもう切れているような感じですが,清掃を必要とするような汚れもなく,大変綺麗です。ただ,CdSの受光窓に貼られたモルトは腐ってボロボロになっていました。ささっと張り替えます。

 ファインダーを外し,綿棒を使って清掃します。曇っていることも考えましたが,幸いそれもなく,綺麗になってくれました。ASA表示とフィルムカウンターの表示窓を磨いて,綺麗になったところで軍艦部は終了。

 続いて底部です。本体内部に貼られた遮光用のモルトはこちらも腐っているので,張り替えることにします。約40年経過していますから,当時のモルトがダメになっているのは当たり前の話です。

 そして問題の電池ケース。どうすれば確実に通電できるかを考えたのですが,マイナス側に接触する金属のバネと,これを固定する真鍮製のビスを直接ハンダ付けしてしまえばよいのではないかと考えました。

 しかし大失敗。なかなかハンダが付かず,電池ケースが熱に耐えきれず溶けてしまいました。もうビスでバネを固定することができません。

 仕方がないのでバネとビスを外し,先にハンダ付けした後,電池ケースの別の場所に穴を開けて固定する作戦に切り替えます。しかしここでも失敗。どうもこのバネはステンレス製のようで,ハンダが乗らないのです。

 さて困った。ここで私はステンレス製のバネに通電性を期待せず,あくまでバネ性だけを頼ることにしました。通電はリン青銅板をバネと同じサイズに切って重ね,ここに直接ハンダ付けした導線で確保します。

 もともとMR9という水銀電池など使うつもりもないので,SR44の縁に1.5mmくらいの厚みのスポンジテープを巻き付けて代用します。

 長めのビスに交換し,電池ケースに穴を開けてバネを固定し,脇にもう1つ開けた穴から導線を通してハンダ付けします。これで理屈の上ではばっちりなはずです。

 電池の底と縁でショートしないように絶縁テープを貼り付け,一応の対策を行ったあと組み立てて確認すると,問題なく動作してくれています。

 問題なく,とはいいましたが,露出計の値を読み取ることが出来るわけではないので,あくまで明るさに応じてシャッター速度と絞りが変化していることを確認しているだけです。それっぽい感じで変化しているので,そんなに大幅にずれているという感じはしません。

 センチュリアの生産が終了して,安いフィルムのユーザーが難民としてさまよい歩く昨今,36枚撮り一本で72枚も撮影できてしまうハーフサイズカメラは,登場時の「フィルムを大事に使う」という本来の目的で,再び評価されるようになるかも知れません。

 考えてみると,デジタル一眼の主流であるAPS-Cサイズというのは,ハーフサイズと似たような大きさです。35mmフィルム換算の焦点距離にするのに,どちらもざっくり1.5倍します。もしかすると,このあたりの大きさが古今東西,経済的合理性によって収れんした結果なのかも知れないですね。

 さて,一通り動作確認をし,清掃を終えて,最後の仕上げに裏蓋のモルトを交換します。さぞボロボロになっていることだろうと思っていると,意外にしっかりしていて,綺麗です。さすがに弾力は失われつつあるようですが,遮光機能は十分果たしそうな感じです。

 ・・・うーん,これは一度誰かの手によってレストアされているんじゃないのかなあ。

 分解痕があり,シャッターもレンズも綺麗であったことから,素人さんによるメンテが行われたのではないかと思います。モルトの交換も行われているということでしょう。しかし軍艦部や底板を外したわけではないようで,この部分の内側に使われているモルトはボロボロのままでした。

 加えて電池バネのビスは頭がなめていました。接触不良を直そうとして,ビスを締めたかゆるめたかした際に,潰してしまったのでしょう。

 よく見ると,張り皮も大変綺麗です。40年も経過すれば薄汚れてしまうものですが,この綺麗さは張り替えがなされているのでしょう。

 全体にとても大切に維持されていた印象で,この様子だと前のオーナーは動作しなくなった時にきっと悔しかったのではないでしょうか。

 最後の最後に,各部のスミ入れです。白と赤と黒とオレンジの4色でスミ入れを行っていきます。どういうわけだかエナメルシンナーのボトルが行方不明になってしまい,捜索作業に時間がかかってしまったことは内緒ですが,ともあれ作業完了。白い文字が鮮やかだと,本当に全体の印象が変わってきます。

 試写はこれからですが,機構的に問題はなさそうですし,電気的にも確実な動作はしています。調整がずれていることは心配で,せめて無限遠くらいは確認しておこうかと思ったのですが,シャッターを開放に出来ないカメラですから面倒なのでパス。フォーカスも目測で行う程度のものですし,絞りの値もコロコロ変わるので被写界深度も不定というカメラですから,あまりこだわっても仕方がありません。

 実は今週末,所用で実家に戻ることになっています。今回は滞在期間も短いしカメラは持参しないつもりでいたのですが,このペンEEDのテストを行うのに絶好の機会です。24枚撮りのセンチュリアスーパーを詰め込んで,試し撮りをしてきたいと思います。

 今回も,また他の人の好意を受けてしまいました。その時々でふと私のことを思い出して下さるから,声をかけてくれるのでしょう。なんとありがたいことでしょうか。

 私がこうしてペンを手に入れて喜んでいると,ちょうどオリンパスからペンを関したデジタルカメラが登場しました。E-P1がそれですが,なかなかかっちょいいですね。

 いわく,ペンのフィロソフィーを継承ですか・・・確かに個性的なメカニズムや大きさ,デザインなどはそうかも知れません。しかし大事なことを忘れていませんか,オリンパスさん。

 ペンは,6000円で売れるカメラを作れ,が設計者への指示でした。性能で妥協せず価格を下げるために斬新な機構を盛り込んだことが,ペンの一番大事なフィロソフィーじゃないでしょうか。

 レンズ込みで10万円を越える高級機がペンというのも,なんとなくしっくり来ません。確かにペンFは1963年当時25000円もした高級機でしたし,今回のE-P1はFをモチーフにしているのも分かります。かつてのペンの低価格とお気楽さは現在のコンパクトデジカメが担っているという点で,この作戦しかないことは理解できます。

 でも,これはすでにペンではなく,オリンパスがかつて出し損ねた,ContaxTやContaxG1,Nikon28Ti,GR1,TC-1やHEXARなどの高級コンパクトカメラのフィロソフィーなんじゃないですか。ペンならスニーカーであって欲しかったなあと,私は思います。

 ・・・でもかっちょいいなあ,欲しいなあ。


 さてさて,バケペンですが・・・

 これはもう圧倒されっぱなしで,手に取るとため息がでてそのまま箱に戻してしまいます。大きいですし,時期的にはAsahiPentaxESあたりと同じ時期ですので,修理や分解はそんなに難しいとは思っていませんが,20cmもあるような巨大ムカデに遭遇したような恐ろしささえ感じてしまうのです。

 レンズもありませんし,フィルムもありません。というか中判なんか使ったこともありません。当然自分では現像も出来ませんし,スキャンも出来ません。ないないづくしのなかで,バケペンの修理に取り組むには,もう少し準備が必要かなあと思っています。

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