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StarTrek in Another World

 スタートレックには世界中にファンがいます。

 アメリカにはスタートレックがある,日本にはようやくガンダムが現れた,と私はよく言うのですが,先進国の向かう先には,大人も子供も夢中になるSF作品があるんじゃないかと,そんな風に思ったりします。そしてそれぞれに共通するのは,宇宙と未来とメカと,そして分厚い人間ドラマです。

 ガンダムと同じように,スタートレックもいくつものテレビシリーズが作られ,映画も公開されてきました。しかし,いずれも非常にマニアックで,ファン以外お断りが不文律になっているような気さえします。

 1つの大きな世界観があり,そこに緻密な設定が存在,すべての作品において矛盾が許されず,整合性を強く求められるのは,ある意味でガンダムと同じく国民的SFの宿命といえるかも知れませんが,その整合性が完璧であるほど,マニアや歓喜し,一般人は遠のいていくものです。

 さて,そこでシリーズ最新作の「スター・トレック」です。

 アメリカでは大ヒット,日本でもまさかのヒットを記録した今年の夏の映画でした。スタートレックでも,カークやスポックが出てくる作品は,国内では「宇宙大作戦」としてタイトルが付けられるのですが,本作品は「スター・トレック」とそのままです。

 本当なら映画館で見たかった私ですが,結局引き籠もってしまい,見る事が出来ませんでした。Blu-rayで出ることを心待ちにしていたのですが,それがようやく先日発売になり,今頃になって皆さんに追いついたというわけです。

 このお話,時代的にはTOS(The Original Series,要するに最初のスタートレック)の少し前,カークやスポックが若者であった頃を描いています。しかし,これが直接TOSに続くのかというとそういうわけではなく,別次元の物語として描くことでTOSに続く物語という役割から上手に逃れ,小さな矛盾や整合性の取れていない設定に対するマニアからの批判をうまくかわすことに成功しています。

 のみならず,マニアの視線におびえることなく,面白い事を遠慮せずにやっていこうという非常に前向きな力も加わって,自由にのびのびやってるなあという印象さえ感じます。

 スポックが感情をむき出しにカークを殴るシーンもおかしければ,マッコイが離婚して仕事を失ったから艦隊に入るという負け組根性丸出しなのもどうかと思います。チェコフが最初からいる(しかもかなりきもい)のも変だし,あの凄腕のスコットランド人エンジニアのスコッティが辺境に飛ばされているというのもおかしいでしょう。ちょっと仕草とかそっくりなので笑ってしまいますが・・・それに,カークとスポックでウフーラを取り合うのはいかがなものかと。よくあるバンドの解散の理由はバンド内恋愛であることを彼らは知らないのか!(そんなもの知りません)

 一番ひどいのはカークで,謹慎中に無断でエンタープライズに乗り込み,正式な辞令も無しに無茶な行動を起こし,何度も死にそうになりながら,最終的には大成功,表彰されて昇格するなんて,宇宙艦隊には規則はないんですか?

 そんな,バントのサインを無視して手当たり次第にバットを振り回したら,天性の才能に目覚めて外野に痛烈なゴロ,1塁で止まる気などさらさらなく躊躇せずに2塁を蹴り,3塁コーチが止まれというのにこれまた根拠のない直感だけでホームに突っ込み,砂煙が消えたらホームに指先1つで触れていて逆転満塁ランニングホームランにしちゃうような,そんでもってMVPまで持って行っちゃうような,そんな面倒臭いわがままな人がいきなり艦長になるなんて,私がクルーなら即刻船を下ります。命がいくつあっても足りません。

 なんか,傷物を集めてっていうあたり,なんか日本のスポーツマンガの典型のような気がするし,知恵と勇気と団結でどんな困難も乗り越える!みたいな流れになってしまいそうな気がして,ちょっと怖い気がします。かりにも人類の英知を結集した宇宙艦隊の旗艦エンタープライズですからね,愚連隊に任せるわけにはいかんのです。

 でも,いいんです。これは別次元のお話なのです。もはやなんでもありなのです。(だからといって好き放題しないところが,監督の腕の見せ所でもあります)

 そもそも娯楽至上主義のハリウッド映画で,監督自らも「マニアに向けて作ったわけではない」と公言してはばからないくらいですから,うるさいマニアがあきれて口をあんぐり開けている姿を期待しているんでしょうね。その分,何の知識もない人が,実に楽しく見る事の出来る映画になっています。スタートレックが理由も理屈もいらない映画になるなんて,私はちょっと驚いているくらいです。

 この映画の見所は,個人的にはテンポの良さと粋の良さ。はつらつとした若者が怖いモノ知らずで暴れ回る姿は実に爽快です。

 そしてキャストがまた素晴らしいです。カークのような生まれ持った直感の鋭いアウトローを描くと,どうしてもやんちゃなだけで終わってしまうのですが,思慮深さやリーダーシップ,そして時折見せる影の部分を見事に表現しています。

 スポックもそうです。ずばり,このスポックは男前の好青年です。おそらく,この映画でもっとも良い役者だったといえると思います。

 ウフーラもオリジナルをはるかに超越した美人で,もはやこれは反則です。

 カーデシア人の悪役ネロの演技も見事です。カーデシア人はTOSの世界ではTNGやDS9とは違った描き方をされていますが,TOSでの表現に比較的忠実で,実に陰鬱なイメージで描かれています。そもそもカーデシア人は遮蔽装置を持っていたり,小型のブラックホールを手なずけてエネルギー源にしているほどですから,ある意味最強の連中ですが,それがなぜ無鉄砲な地球人のカークに負けるのか,光と影によって表現された雰囲気が,それを説明しているかのようです。いやはや,Blu-ray万歳。

 キャストがみんな,まるで本当のクルーのように,仲良く結束して楽しく映画を作っていて,肩の力の抜け具合もよい塩梅で,スタートレックという大作に気負うことなく,自然に取り組んでいる姿が非常に好印象です。

 これだけヒットすれば,続編が出るのは間違いないんじゃないかと思っていますし,すでに家族や兄弟のような親しさで繋がったキャストの,強い結束感に基づく演技をもう一度みてみたいものだと思います。クルーの強い結束と信頼,これがスタートレック全シリーズに共通する背骨だと私は思うからです。

 外伝といいますか,スピンアウト作品といいますか,アナザーストーリといいますか,そんな雰囲気で,特に熱烈なトレッキーでもない人が,純粋に良質の娯楽を目指して作ったスタートレックは,鑑賞中のマニア的視点の維持も必要なく,作る方も見る方も楽しむ事に集中できる,大変に面白い作品でした。

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