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VirtualBoxで手に入れるもう一台のPC

 AVRの開発環境を実現するために,MacBookProに仮想環境として,VitrualBoxを導入したことは先日書きました。このVirtualBox,実に良くできているので,簡単に紹介しておきたいと思います。

 VirtualBoxはSunMicrosystemsの製品で,無償かつオープンソースの仮想マシンソフトです。ライセンスはGPLv2に準拠していて,個人・商用を問わず利用出来ます。エンタープライズ用途向けに24時間対応のサポートが受けられるオプションもあります。

 個人的には,エンタープライズ用途向けをちゃんと目指していることを評価していて,その上きちんとアップデートを継続していることもよいと思います。現在のところ最新版はVer.3.1.0ですが,特にVer.3以降はかなりこなれてきたという印象があります。

 そもそも論ですが,昨今はやりの仮想マシンというのは,実機の上に複数のマシンを独立で構築する仕組みです。Windows上でX68000を再現するX68000エミュレータも一種の仮想マシンですし,Javaの実行環境はJavaVMといって,これも仮想マシンの一種です。

 これらは,ソフトウェアで別のマシンを実装するもので,実機のCPUが仮想マシンのCPU向けの命令をソフトウェアでいちいち翻訳しながら動作しています。だから動作が低速になることは想像が付くと思います。

 で,最近よく耳にする仮想マシンには,x86の上で,複数のx86を動作させる仮想マシンの話が多いようです。そういえば昔仮想86モードなんてのを耳にしましたね。あれは80386上で仮想8086を実現するものでしたが,言ってみれば仮想8086が仮想x86に昇格した,という感じかも知れません。

 1台の実機上で複数のマシンを稼働できると,古い機種でしか動作しないソフトウェアをそのまま動作させる事ができたり,それぞれで異なるOSを動作させることができたりしますし,またそれぞれのマシンを完全に独立させることが出来る事から,セキュリティや信頼性の向上が期待できます。

 さて,仮想マシンの実装には,元々1つしかないリソースを複数で共有し,互いに影響を与えないようにするために,仮想マシンモニタと呼ばれるソフトウェアがリソースの配分などを行う必要があります。

 ただ,この仮想マシンモニタはオーバーヘッドが大きく,処理速度の低下が深刻であったため,出来るだけオーバーヘッドが発生しないよう,機能の一部をハードウェアで支援できるような拡張が,近年のCPUには実装されつつあります。

 例えばx86(正確にはIA32プログラミングアーキテクチャ)の場合,リング0からリング3までの特権レベルがあり,OSの低レベルの部分などはハードウェアリソースのほぼすべてにアクセスが可能なリング0で実装されてきたのですが,仮想マシンを実装する上で,OSがリング0で動作していては他のOSへの影響が避けられないため,仮想マシンモニタをリング0で動作させ,OSはリング1から3で動作させることになります。まあ当然ですね。

 ところが,OSにはリング0のみ許される特権命令が含まれているため,リング1から3で動作している状態では例外が発生します。

 これを回避するため仮想マシンモニタが例外を監視し,例外が発生したら命令をエミュレートして,OSに結果を返すようにしていたのです。なんか,非常に重たそうなことをしないと,x86で仮想マシンを実現出来ないっぽいですね。

 もう1つ,x86で仮想マシンが面倒臭いというお話をしましょう。こっちはちょっと笑えます。

 popf命令などが例ですが,なんとユーザーモードと特権モードで動作の異なる命令がx86では存在しています。建て増しを繰り返してきたから,という意見もあるのですが,どっちにしても同じ命令で動きが違うなんて,ちょっとビックリです。

 これは仮想マシンモニタにすれば非常に迷惑な話で,この命令がリング1から3で動作しているOS上で見つかった場合,それは本来リング0での動作を期待されていて,リング1から3では動作させてはならないので,例外によって知らせて欲しいのに,実際にはどちらのリングにも存在する命令ゆえに,例外すら発生しないのです。

 ということは,リング1から3で動作しているOSが発行する命令を,常時監視しなければならないわけです。これはたまりません。

 VMwareなどは,こうした仕組みを実装し,もともと仮想マシンを考慮していないx86で仮想マシンを実現していました。これらの仮想マシンが高い評価を受けているのは,こうした重たい処理を必要としながらも,実用的な速度で動作する仮想マシンを実現したことにあると思います。

 ところが,こうした不細工な方法で無理矢理仮想マシンを実現するというのは,決して褒められたことではありません。そこで,x86にも仮想マシンをハードウェアで支援する機構が用意されるようになってきました。インテルではIntel VT,AMDではAMD-Vと呼ばれるものです。それぞれ異なるものではありますが,やってることは基本的には同じです。

 まず,リングプロテクションに関する支援です。リング0から3までをそれぞれ持つ,VMXrootとVMXnon-rootの2つのモードを用意しました。VMXrootでは仮想マシンモニタが動作しており,VMXnon-rootモードではOSを動作させます。

 もしOSが特権命令を発行した場合にはVMXrootモードに移行し,仮想マシンモニタに制御を移します。このように仮想マシンモニタが特権命令を監視しなくても良いので,オーベーヘッドは大幅に削減されることになります。

 また,仮想マシンごとにレジスタなどのコンテキストを保存する専用領域を用意してあり,これらの切り替えが自動化されるようになっています。このこともオーバーヘッドの削減に寄与しています。

 さらに,I/Oについても仮想マシンの実装支援が行われています。VT-dなどと呼ばれている機能です。

 仮想マシンでは,I/Oはそれぞれのデバイスのエミュレーションによって実装され,DMAを行う場合はアドレスのリマップが必要となります。

 このことは速度の低下に加えて,エミュレートされたデバイス用のデバイスドライバが必要になるため,従来のドライバをそのまま使用できなくなる場合があります。

 そこで,ハードウェアによってDMAのアドレスをリマップする機能を用意しておきます。こうすれば速度的にも有利な上,I/Oのエミュレートを行わないので従来のデバイスドライバがそのまま使えるようになります。

 こうした支援機構によって,従来に比べて2割ほど性能が向上するそうです。

 現在利用されているx86用の仮想マシンは,別にこれらの支援機構が必須になっている訳ではありません。しかし,多くがこれらの支援機構を利用出来るようにもなっており,対応したCPUを使えば,さらに速度や利便性の向上を期待できるというわけです。

 話をVirtualBoxに戻しますが,VirtualBoxも,Intel VTのうちVT-xとAMD-Vに対応しています。ただ,過去にはこれらを使うと速度が低下したケースもあったそうですし,他にもいろいろ問題が出ていたようですので,ちゃんと考えて使わないと失敗しそうです。


 さて,私のMacBookProにインストールしてみます。ホストOSはSnowLeopardで,64bitカーネルです。ここにVirtualBoxの最新版である3.1.0をインストールしますが,これはあっさりと終了。

 VirtualBoxを起動すると,最初にディスクのイメージファイルを作る事になります。仮想ドライブの容量と同じ大きさのイメージファイルを作る方法と,イメージファイルの大きさが可変するものの2つを選ぶことが出来ますが,後者はドライブの容量サイズを変更できるという意味ではなく,これは最初にしていした容量のまま変えることが出来ません。あくまで仮想ドライブにデータを書き込むと,イメージファイルの大きさも大きくなるという仕組みで,ホストOS上に無駄にでかいファイルを置かずに済むということを狙ったものです。

 ここにWindowsXPをインストールします。MacBookPro内蔵のDVDドライブもVirtualBoxの支配下にあり,ここにWindowsのCD-ROMを入れて置けば,インストーラが起動して,いつものようにWindowsXPがセットアップされます。

 なお,仮想マシンのメモリですが,あまり巨大なものを設定すると,ホストOSでスワップが発生し,パフォーマンスががた落ちになります,私の場合4GBを搭載しているので1GBくらいなら設定してもよいだろうと思いましたが,考えてみるとホストOSにとって1GBも占有するソフトが起動するというのは結構きついことで,スワップが発生すると大変なことになります。WindowsXPなら512MBもあれば十分です。

 インストールが終わればMacの画面上でWindowsが動くという見慣れない状況が起こりますが,それぞれちゃんと動いています。当たり前なのですが感動的です。

 デバイスドライバも普通のデフォルトでインストールされるので,特に問題はなく動くのですが,ここでGuestAdditionをインストールしておきます。VirtualBoxのメニューからGuestAdditionのインストールを選ぶと,Windows上でインストーラが動き出してさらに便利な仕組みが使えるようになります。

 特に便利なのが,マウスカーソルの移動です。デフォルトでは左のコマンドキーを押すごとにマウスカーソルがホストOSとゲストOSで切り替わるのですが,これが案外面倒です。ところがGuestAdditionをインストールすれば,VirtualBoxのウィンドウの上では自動的にゲストOSのものと判断され,そこから外れた領域ではホストOSのものとされます。つまり,通常のMacOSのソフトと同じようにマウスが動かせるということです。

 ネットワーク関連ですが,ここはなにも考えず,NATで設定すればOK。ホストOSとは異なるIPアドレスを割り振る必要があるだろうと思っていたのですが,NATを実装してあるので,ホストOSのネットワークを,ゲストOSが失敬するような仕組みになっているようです。

 グラフィック周りは期待しない方がよいのですが,一応2Dと3Dのアクセラレーションが有効に出来るようです。ただ,2Dのアクセラレーションはしない方がいいと警告されますし,3Dの方はチェックしても私の環境では有効にならないようでした。

 2Dのアクセラレーションが有効にならないという事はDirectXを使ったソフトは動作しないという事になるので,実は結構な数のソフトが動作しません。古いパソコンのエミュレータを動かそうと思っていましたが,ほとんどが無理でした。

 画面関係でいえば,最大解像度がXGAまでなので,これで狭いと思っても手がありません。MacBookProの画面の大きさを考えると,ホストOSの邪魔をしないようにするにはXGA位が適当だと思うので私はそれほど問題とは思っていませんが,確かに開発系の統合環境などは,窮屈な感じがします。

 USB周りは今回の目的,開発環境の動作のためには妥協できない部分です。そもそもハードウェアリソースとしてのUSBをホストOSとゲストOSで共有することになるのですから,排他使用になる事は当たり前です。

 どちらかでしか動作しないデバイスなら別にいいのですが,USBメモリのようなどちらでも使えるものはどうするか,です。

 なにも設定をしないと,まずホストOSでマウントします。この状態でゲストOSでマウントさせようとしても,グレイアウトしてマウントできません。

 そこでホストOSでアンマウントすると,ゲストOSでマウントします。しかし,いちいち面倒ですね。そこでVirtualBoxでは,USBのIDを登録しておき,どちらのOSで使用するかを設定することが出来るようになっています。

 この方法で,AVRライタやMSP430のデバッガ,USB-シリアル変換ケーブル,USBメモリを登録しておきました。それぞれ,Windows用のデバイスドライバでなんの問題もなく動作しています。これは本当に期待通りです。

 ファイル共有ですが,VirtualBoxの設定からホストOS上のフォルダを指定しておきます。例えばそのフォルダがhogehogeだったとすると,これがゲストOS上では\\vboxsvr\hogehogeとなりますので,これをネットワークドライブとしてマウントすればOKです。

 この程度の環境設定を行って実際に使ってみると,Macで動かしているという感覚を忘れてしまうほど,そのまんまWindowsです。速度も全く問題なく高速で動きますし,ホストOSに悪さをするようなこともありません。音もきちんと出ますし,光学ドライブもちゃんと共有出来るようになっています。

 VirtualBoxでWindowsを動かしつつ,iChatAVを使ってビデオチャットということも問題なく出来ていますので,メインはMacだが時々Windowsが欲しい,という程度の話であれば,それぞれに妥協をすることなく,両方のOSを同時に使用することが十分出来ると思います。

 本当に処理速度が欲しい,あるいはスタンバイや休止状態を確実に使用したい,グラフィック関係が動かないといけない,という場合にはBootcampで再起動をかけるしかありませんが,逆に言うとVirtualBoxでダメな場合にはBootcampという手があるという事ですから,MacBookを持っている人は無敵のパソコンを手に入れたに等しいと,私は感じました。

 以前からちゃんとした仮想マシンに興味があって,それは利便性だけではなく技術的な興味関心から,実際に使ってみたいと思っていたのですが,これだけ簡単に導入でき,しかも十分実用になるというのは,良くできているなあと感じました。


 私は以前PowerMac7600をPowerPCG3の500MHz程度で使っていた頃に,Connectixという会社のVirtualPCを使っていたことがありました。Windwos95を入れて,当時使っていたシャープのザウルスの母艦にしていたのですが,動作はあまりに遅く,忍耐なしで使う事は不可能でした。

 ほぼすべてのデバイスをエミュレーションするだけでななく,CPUでさえもエミュレーションしなければならなかったVirtualPCと比べるのはかわいそうですが,互換性においても速度においても,ただ動くというレベルから使えるレベルになっていることは,ユーザーにとって大きなメリットになっていると思います。

 ゲストOSが有償なら当然買う必要はありますが,VirtualBoxは無償で利用出来ますから,特にMacの人は便利だと思います。それまで一般のユーザーが使うことの出来なかった高度な技術がいとも簡単に利用出来るのが,PCの世界です。

 高速なクロック,膨大なメモリ,スーパースカラ,ベクトルプロセッサ,仮想メモリ,賢いコンパイラ,プリエンプティブカーネル,そして今回の仮想マシンと,すべて大型機のために開発された技術ばかりです。それがこうして安価に提供され,コンスーマ用に新しい活用方法が提案されて,より便利になっていきます。

 これから先,お手本とすべき大型機が不在になるなか,PCの進化はどちらを向くことになるのでしょうか。楽しみです。

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