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しおりが邪魔をする

 今年はやや長めに夏休みを頂きました。普段読みたくても手が出せなかった本を読もうと意気込んで迎えた夏休みですが,電子化された出版物がどこまで「読む」という実用に耐えるのかという実験も予定していました。

 以前から何度も書いているとおり,私は現在「自炊」と呼ばれているScanSnapによる本のPDF化を日常的に行っており,アーカイブされているPDFの出力先に,ノートPCのLCD,プリンタによる印刷に加えて,KindleDXによる電子ペーパーという3つ目を加えました。

 どの手段でも読むことは出来ますが,LCDについては長時間の読書は無理,まして長編などは疲れてしまうでしょうし,持ち歩くなら紙のままの方が小さく軽いはずです。しかも電池が数時間で切れてしまうわけですから,そうなったらもうゴミみたいなもんです。(私の持論は,モバイル機器は電池が切れたらゴミ,です)

 Kindleは(あくまでLCDに比べてですが)読みやすいディスプレイを持つ,長時間の読書に耐えうる可能性を持ったデバイスです。特に大判のKindleDXは,文庫本でもハードカバーのA5サイズくらいに拡大して表示されるので,文字が大変に見やすいのですが,果たしてこれで「読書」は可能だったのでしょうか。

 結論からいうと,可能でした。

 これまでに5冊の本をKindleDXで読了しました。

・スティーブ・ジョブズの流儀
・ホームコンピュータ入門(宮永好道先生の遺作の1つです)
・三洋電機よ,永遠なれ!
・精神変容のドラマ
・科学技術政策(山川の日本史リブレットです)

 そして現在,「永遠の0」(講談社文庫)を読んでいる最中です。

 読書というのは没入感が大事です。紙で読んでいるときの没入感は実に素晴らしいのですが,それは以前に書いたように,そうあるように作り込まれているからです。

 Kindle,というよりは,私の自炊がどれくらい上手に出来ているかが,没入感を大きく左右しますが,LCDで見るときにはグレースケールでスキャンした方が綺麗に見えるのに,Kindleでは白黒でスキャンした方がはるかに美しく,読みやすいものが出来上がります。

 文字がくっきり出ることもそうですが,グレースケールでスキャンすると,ページが焼けた古い本では,紙の色が薄いグレーで取り込まれてしまい,文字とのコントラストが下がってしまうのです。

 Kindleは16階調の表示能力がありますが,これにディザを併用して濃淡の表現を行います。なので,紙の変色がひどいと,ディザによる「点」が画面いっぱいに打たれてしまうことがあるのです。こうなるともう見にくくて仕方がありません。また,グレースケールでは文字も階調を持つ形で取り込まれますが,Kindleでは薄いグレーは透明になってしまうので,文字が痩せてしまい,紙のオリジナルとはかなり印象が変わってしまいます。

 しかし,図や写真などはグレースケールでなければ話にならないですし,文字ばかりの本であっても文字の濃さを変えたものや,区切り線,ページ番号やフッタなどにグレーを用いる場合は,やはりグレースケールで取り込む他はありません。この辺は痛し痒しなところがあります。

 「ホームコンピュータ入門」などはかなり変色が進んでいましたが,写真が多いという事で最初はグレースケールでスキャンしてありました。しかしこれをKindleで読むと大変読みにくく,図や写真のないページを白黒2値でスキャンしなおし,差し替えて読了することが出来ました。

 そんなわけで,使ってみて感じたKindleのメリットです。

(1)ハンズフリー

 私は読書は寝そべっていることが多いのですが,紙の本のように手で広げて読むというのは,同じ姿勢が続いてしんどいものです。KindleDXはほぼB5サイズと大きいので,普通に手で持っているともっとしんどいのですが,例えばテーブルの脚に立てかける,例えば衣装ケースに立てかける,例えば壁に立てかける,と言う具合に,なんでもいいから立てかけると非常に楽で自然な姿勢で本を読むという,新しい体験が可能になります。

 後述しますが,文字が大きく表示されるので,少々距離があっても全然問題はありません。また,電子ペーパーは見る角度によって表示品質が変化しませんから,開く場所に制約を受けません。

 うたた寝をするときも,本ならバサッと閉じてしまうところを,Kindleならそのままの場所が表示されています。目が覚めたらまた続きから読むだけです。文字を追いうたた寝に浸り,まどろみにたゆたう贅沢を,まさに満喫できました。


(2)文字が大きい

 文庫や新書といったA6程度の本であると,ディスプレイサイズがA5程度のKindleDXなら2倍の面積で表示されます。文字が大きく表示されることは当初メリットとは考えていませんでしたが,50cm以上離しても問題なく読み進めることが可能であり,そこまで距離を稼げると読むのに楽な置き方が必ず見つかります。

 実は,文字が大きいと目の動きが大きくなりすぎ,かえって疲れてしまうことに気が付いていました。そこでKindleとの距離を離してやると,ちょうど読みやすくなったというわけです。

 ただ,あくまでオリジナルが文庫や新書であることが前提で,A4やB5といった雑誌だと,ほぼ文字を読むことは絶望です。


(3)ページをめくるのが楽

 ページをめくるときにはボタンを押さねばなりませんが,それでも紙をめくる動作よりは楽で,片手でぽちっと押すだけです。長押しすることもなく,また押しにくい位置にあるボタンを手をひねって押すわけでもなく,ただ大きな面積のボタンをかちっと押すだけです。

 Kindleへの心配事の1つとして,ページめくりの遅さが挙げられることが多いのですが,これは普通に使っていると杞憂であることに気が付きます。というのもkindleは今読んでいるページの前後をキャッシュや先読みをしてくれているからです。

 キャッシュや先読みが行われているページは,ボタンを押せば即座にその画面に切り替わってくれます。本によりますが3ページくらい先ならささっと切り替わりますし,戻るときでも2ページくらいなら瞬時に戻ることが出来ます。もっとも,そのキャッシュ範囲を超えたところになると途端に数秒から数十秒待たされてしまいますし,先読みを行う暇もないくらいページをぺらぺらめくると全く話にならない遅さになりますが,その点でもKindleは雑誌を読むには向いていない端末だと言えるでしょう。雑誌やコミックならiPadですね。


 一方で,いろいろな失敗もあります。痛恨のミスは,現在読んでいる「永遠の0」で,買ってその日のうちにスキャンし,Kindleに突っ込んでから,紙はさっさと捨ててしまったのです。それから1週間ほど経過した昨日,さくさく読み進めていると,327ページの1/3ほどが,親切で挟んでくれている「しおり」によって隠れてスキャンされていました。オリジナルはすでに手元にありませんし,しおりを手でどけようとしても無駄です。エロ本の黒塗りがどれだけ擦ってもとれないのと同じことです(違います)。

 そのにっくきネコのイラストのしおりのせいで,私はもう1冊買う羽目になりました。電子書籍バージョンは1900円の値段が付いていたと思うことにしたいと思います・・・(なお図書館で借りることも考えましたが,この本はえらい人気みたいで,近所の図書館では180人待ちでした)

 もしかすると,最新のScanSnapS1500だと,こういう場合でも重送の検出が可能だったりするのでしょうか。そうだとするとかなり安心ですが,でもS1500でもセンサは中央部にあるだけだったと思うので,しおりをきちんと検出出来たかどうかは,結構怪しいです。(と思って調べて見ると,やはりS1500の超音波センサでも,しおりの重送は検出出来ず,私と同じような悔しい思いをされている方がいらっしゃいました。)

 ページの角が折れてしまっていたケース,背の部分の糊が残ったままになっていて重送が発生しくしゃくしゃにされてしまったケース,連続使用による高温が残っていた糊を溶かしてガラスに付着,これが影となってスキャンされ続けたせいで,本来よりも大きな紙と誤認識されてしまうケース,ハードカバーの本のように,単純に背を裁つと,腹の部分の湾曲のせいで紙のサイズが連続的に変わってしまい,幅の狭い紙が斜めに送られてしまうケース,薄い紙かつ印刷された面積が小さいページでは裏移りがあったり,紙の端っこが黒くなってしまうケースなど,完全自動化というのはなかなか難しいものがあります。

 突然ですが,Kindleを前提としたスキャンのノウハウです。

・白黒600dpiを基準にせよ

 KindleDXは600dpiの白黒が綺麗に表示出来ます。アーカイブという観点でも600dpiなら十分なものがありますので,可能な限りこの設定で読むのがよいと思います。なお,文字は太くして読みやすくしておきます。


・グレースケールのページをカラーで取り込むな

 ScanSnapでは,カラーもグレースケールも同じ扱いになりますが,カラーのデータから色情報を抜き取って輝度だけにしてくれる処理が入る分,ガラスに付着したゴミによる縦線の被害も小さくなりますし,色ズレ,色の転び,紙の変色という問題も回避できます。なお,カラーもグレースケールも300dpiで取り込むのがリーズナブルです。


・白紙ページは飛ばさない

 白紙ページを飛ばす設定は便利ですが,読み取ったページ数から,重送がないことを確認するのに骨が折れます。それより,重送がなく,読み飛ばしがないことを確認したのち,白紙ページを手動で削除した方がずっと早いし楽です。でも難しいところですね,白紙ページを削除して印刷すると,両面基数ページという本来ならあり得ない状態になってしまうわけで,アーカイブという目的ではそもそも削除しないという考え方も必要だったかも知れませんね。


・出来れば毎回クリーニング

 特に高温となるセンサ部のガラスには,糊やゴミがこびりついています。この状態でスキャンするとそれが縦線としてスキャンされるので,出来れば毎回アルコールでさっと拭いてやると安心です。


・PDFのメタデータはANKで

 これは現時点の制約ですし,以前にも書いたことですが,Kindleで著者名を表示するには,PDFのメタデータにANKで書き込む必要があります。海外の作者ならいいのですが,日本人の場合に,名前-名字と書くのか,名字-名前と書くのかは,統一しておくべきでしょう。


・OCRは必要ない

 確かに,スキャンのメリットの1つに,OCRによって得られたテキストデータを透明文字にして埋め込むという手段により,検索が出来ることがあるわけですが,ことKindleで読むことを考えた場合,その必要は全くありません。アーカイブという観点からも,目次がきちんと読めれば問題はなく,かえってOCRの誤認識に気が付かないでそのまま埋め込まれていることで信用できなくなってしまうことの方が問題です。スキャンの時間も倍はかかりますし,もしやるとしても辞書を引きやすくなるという目的で英語の文献くらいはありかも知れません。


・しおりや広告はきちんと確認

 文庫や新書ではしおりや広告,葉書が挟まっていると取り返しの付かない問題を引き起こしますし,本によっては紐が切断されて紛れ込む事があります。あの紐はなかなかくせ者で,気が付かずに裁断してしまうと,短い繊維に分解してしまい,あちこちに飛び散ります。どっちにしても最初にちゃんと確認しておけば済む話です。


 そんなわけで,私の場合は,Kindleでの読書はギリギリ実用というところです。積極的に多くの方におすすめするようなものではありませんが,本が好きな方,置く場所に困っている方,ハードカバーの本が重くてつい買うのをためらってしまうというひ弱な方,芋虫のようにゴロゴロするのが大好きな方には,自炊とkindleによるメリットを少し検討しても良いかも知れません。

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