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ネットワークオーディオが変えるハイエンドオーディオの世界

 ここ最近,ちょっと大きな変化が来ていると感じていることがあります。

 それは,ハイエンドオーディオの世界で起きつつある,ネットワークオーディオへの脱皮です。

 私はハイエンドオーディオの所有者でもないし,それほど興味があるわけではありませんが,ディジタル技術に対しては比較的保守的と言える姿勢の人々に対して,各メーカーがこぞってネットワークオーディオ機器を用意していることに注目をしています。

 CDの売り上げが下がり,配信による売り上げが大きくなっていることはすでにご存じのことと思いますが,これは携帯電話で音楽をダウンロードし,そのままそれを聴く,あるいはiTunesStoreで音楽を買い,それをiPod/iPhoneで聴く,と言うスタイルの定着によって起きていることであり,つまるところオーディオのカジュアル化がさらに進んだ結果であると,考えられる傾向があるようです。

 私もそう考えていました。つまり,CDは大規模店でないと買えなくても,ダウンロード販売ならいつでも1曲単位で買えるという利便性が支持されているのだと信じていたわけです。利便性と引き替えに失ったものは音質であり,圧縮された音楽は,およそHi-Fiとは言えないものであって,面倒な事でも「儀式」として尊び,全ては音質のためにというハイエンドオーディオには,およそ無縁だと思っていたのです。

 しかし,ハイエンドオーディオがネットワークオーディオに舵を切っている事は事実です。これをオーディオのカジュアル化という文脈で捉えようとすると,失敗するように思います。

 これらハイエンドオーディオをターゲットにしたネットワークオーディオ機器の特徴は,USBによるマスストレージに記録されたファイルと,DLNAなどネットワークで運ばれるファイルの再生を行うもので,その点ではカジュアルなオーディオ,あるいはゼネラルオーディオとなんら変わらないように思えます。

 しかし,これらの機器が,24bit/96kHzといったフォーマットにちゃんと対応していることを見逃してはいけません。16bit/44.1kHzでさえも,あれだけの物量を投入するマニアの人たちですから,情報量が2.5倍にも膨れあがる24bit/96kHzに対しては,それを上回る高音質化を行わなければ納得しないでしょう。

 私が先日購入したZoomのH1も,1万円そこそこで24bit/96kHzの録音と再生が可能です。しかし,潜在的に多くの情報を含むデータから,その情報を余すことなく再生するシステムを組み上げるのは尋常ではありません。

 ここでふと気が付きます。つまり,音楽を聴くことに大きな価値を感じてお金と時間を投入するマニアをして,すでにCDやSACDといったパッケージメディア見限ったのではないか,ということです。

 CDは30年近く前のフォーマットで,制作現場で使われている24bit/96kHzに対してあまりに器が小さすぎ,かなりの情報を削り落として押し込んでいます。SACDは音質には定評がありますが,いかんせん新譜が少なく,供給という点で問題があります。

 ハイエンドオーディオのマニアが,これらのメディアに対して長年不満を募らせていたことは事実で,その中で出てきた1つの流れがLPレコードへの回帰だったと言えるのかも知れません。

 このままパッケージメディアに頼っていては,スタジオで鳴っている音には永遠にたどり着かない,そのことに気付き,焦り始めたマニアが,自然に目を向けるようになったのがネットワークオーディオだったとすると,それはとても自然です。

 言うまでもなくハイエンドオーディオのマニアたちの執念は強烈で,1mあたり何十万もするケーブルに一喜一憂し,スピーカーの位置を1cmずつ動かしてはその変化に聞き耳を立てる人たちです。どちらかというとディジタルオーディオに懐疑的な人種でありながら,フォーマットの優劣はケーブルくらいでは越えられないこともまた良く承知している聡明な人々でもあるので,彼らが本気になってネットワークオーディオに取り組み始めた時には,もうその流れを止めることは不可能でしょう。

 数年前から,24bit/96kHzなどのフォーマットをPCとUSBオーディオ機器を使って高音質再生するという試みが一部のマニアの間で検討されていましたが,オーディオ用にチューニングされていない機器を使いこなすのは難しいことであったようですし,そもそも高音質フォーマットによるソースの供給が少なすぎて,主流にはならなかったようです。

 そこへ,ネットワークオーディオに特化したハイエンドオーディオ機器が,きちんとしたチューニングとD共に相次いで登場して来たことを,見逃してはいけません。

 この流れの一番乗りは,イギリスのLINNというハイエンドオーディオメーカーです。

 高級オーディオ機器のメーカーとして知られるLINNは,2009年の年末をもってCDプレイヤーの生産を取りやめました。なんだかんだでオーディオソースの主役であるCDをラインナップから外すという英断に,私は当時大変驚いたのですが,2007年ごろから彼らが注力してきたネットワークオーディオ機器,LINN DSシリーズに対するユーザーの反応が,この大きな決断の背中を押しているわけです。

 LINNがいうには,2009年度はワールドワイドの売り上げのうち,ネットワークオーディオ機器が売り上げ全体の30%を稼いでるというのです。しかもCDプレイヤーの売り上げは前年比4割減です。もうそんな時代になっているのかと驚かれるのではないでしょうか。

 CDも,その長い歴史の中で高音質化が行われてきましたが,やはりフォーマットの壁はいかんともしがたいわけで,アナログ放送の地上波が,どれだけ高画質化しても根本的な情報量に絶対的な差のある地上デジタルのハイビジョン映像には全く歯が立たないのと同じ話です。

 ネットワークオーディオにはフォーマットへの縛りが緩いという特徴もありますし,駆動系がなく音質にも有利,しかも信頼性も高いです。PCとの親和性も高く,利便性にも優れています。中身と器を完全に分けたというのも現代においては必須の概念でしょう。

 利便性によって普及したネットワークオーディオは,ここに至ってオーディオ史上最高音質という能力を身につけ,一躍ハイエンドオーディオ向けの最重要ソースになりつつあります。

 LINNの勇気ある決定に続き,ここ最近数十万円クラスのハイエンドオーディオ機器にもネットワークオーディオが用意されるようになりました。日本のメーカー重い腰をあげてようやく参戦しつつあります。LP,CDに続く,ソースの主役に君臨する日は,もうすぐそこです。

 自宅にネットワークが張り巡らされ,サーバーには24/96を含む可逆圧縮のオーディオデータが収められて,これが数百万円のアンプとスピーカーを鳴らし切る,そんな時代がすぐそこまで来ています。これは,音楽を聴く人にとってはもちろんのこと,音楽を作る人にとっても,極めてエキサイティングなことだと思います。

 しかしながら,CDはおそらく消えません。音楽を詰め込んだパッケージには,最新の音楽を高音質で配布するという役割だけではなく,文化と歴史の担い手という非常に重要な役割があります。

 SP盤は音質としては決して良いとはいえません。しかし今でも愛好家がいますし,むしろ貴重な録音,貴重な記録という文化的側面が強いわけです。LPもしかり,CDもしかり。いずれも,これほど多くの資産を持つメディアですから,そうそう簡単に消えはしないでしょう。メディアが担う役割の比重は,年々変わっていくのです。

 ならば,ネットワークオーディオの時代になると,供給される音楽はどういう形でアーカイブされ,文化として次代に引き継がれることになるのでしょうか。

 そう,趣味性の強いハイエンドオーディオにおいては,その音質で主役になることは間違いないでしょうが,パッケージメディアが持つアーカイブという能力が欠如していることについての議論は,まだまだ浅いのではないかと思います。

 LPレコードの再生に数百万円の出費を厭わないマニアだからこそ,今の音楽を次にどうやって残していくのかを,一緒に考えてもらいたいものだと,私はそう思います。

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