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在りし日の姿を偲んで

 以前いた職場には,パキラという観葉植物の鉢植えがドンと置かれていました。水やりなどの管理は一応私と友人の2名で行うことにしていたのですが,数年のうちに人の背丈を超える高さに伸び,若い枝を落としても落としても1週間もあれば元に戻るといった,とても元気な木でした。

 この木も,いろいろな状況を乗り越えてきました。

 この木がやってきたのは7,8年も前のことでしょうか。当時のえらいさんが「職場が殺風景だから」と観葉植物を各職場に購入したのがきっかけで,私がいた職場にやってきたのがこのパキラでした。

 他にもドラセナも数本,一緒にやってきました。

 しかし,観葉植物も生き物ですから,水やりは当然のこと,虫が付いたり病気になれば世話をしなければ枯れてしまいます。ただ,それも観葉植物に興味や関心がないと気が付くこともなく,やがて枯れてしまうわけです。

 そもそも多くの人にとって観葉植物は,世話をしたいから買うわけではなく,緑が欲しいから買うものであるわけで,私に言わせれば「そんな都合のいい話」と馬鹿馬鹿しくなるのですが,現実というのはこの程度の無責任なものです。

 購入後割り振られて私の職場にやってきた観葉植物は,大した興味も関心も惹かず,手狭になる職場で半ば邪魔者扱いされ,出入り口のそばや部屋の隅っこに追いやられるようになりました。

 買い切りの観葉植物にはいわゆる保守サービスなどありませんから,水やりなどの世話は職場の有志(といっても庶務さんくらいのものですが)が,人知れず行ってくれていました。

 そんな中,いつの間にやら新しい観葉植物が並んでおかれるようになりました。手入れも行き届いており,生き生きとしています。

 見ていると,週に一度くらいの割合で花屋さんがやってきて,水やりから鋏による枝の手入れ,葉の掃除をやってくれています。仕事の細かさから考えて,それなりの知識や技能,それ以上に植物に対する愛着があるように感じる,好感の持てるお仕事ぶりでした。

 ところが,驚いたことに,隣に並んでいる「買い切りの観葉植物」には,目もくれません。細かい手入れをすることはなく,水すら一滴たりも与えてはくれません。

 当時私は,これがレンタルの植物に対する保守サービスであることを知らなかったのですが,それにしてもこのあからさまな差に,現実の厳しさを知ったのでした。

 この保守サービスの存在によって,職場の多くの人がすべての観葉植物の手入れがきちんとなされていると錯覚するようになりました。結果として,誰の手入れも受けなくなった買い切りの観葉植物は,哀れなことに次々に枯れていきました。

 枝にはカビが生え,虫が付いてドラセナは1つを残してすべて枯れてしまいました。植木鉢を蹴飛ばされ,土が半分なくなっても補充されることなく,たちまち茶色くなっていったものもありました。

 パキラの鉢も同じような状況です。土は乾いてひび割れ,カチカチにかたまっています。パキラのような強い木でも,徐々に元気がなくなって来るのがわかります。

 それでも,自分たちの仕事ではないとばかりに,保守の人たちはただの水一滴さえ与えてはくれません。同じように生まれた同じ種類の木であり,縁あって同じ場所に置かれてとなり同士並んでいても,方や手作業による枝葉の低入れ,方や水さえも与えられる事なく死ぬのを待つのみ,です。この差は一体なんだろうと,そんな風に考えました。

 私はパキラを自分の席の近くに置くことを願い出て,自分で水やりと手入れを行うことにしました。

 専門家ではないので出来ることは限られますが,元来植物はあるがままにあるべき,という主義の元,邪魔にならない範囲で枝も葉も伸び放題です。

 水を与えてやると,パキラはしゃきっと枝葉をのばし始め,新しい芽を次々に出すようになりました。1cmほどの小さな芽が日を追うごとに倍,さらにその倍と大きく広がり,10日もすると立派な大きな葉になっていく様を見ると,そのたくましさに励まされるような気がしました。

 なんどか職場の引っ越しがあったのですが,その度に私はこのパキラの木を自分の席のそばに置くことにしていました。いつしか,私の身長を超える高さになっていました。

 一緒に面倒を見ていた友人はドラセナの面倒を見ることにしてくれていたのですが,一昨年と昨年の2回,なんと花を咲かせました。非常に強い香りを発して,隣の部署の人にさえ知られることになったドラセナも,仲間がことごとく枯れていったことを知っているのでしょうか。

 転機は昨年やってきました。また職場が引っ越すことになりました。新しい職場は高層ビルの一室です。ビルのオーナーの意向により,植物を含めた「生き物」を置くことが全面的に禁止されており,観葉植物もすべて造花です。

 さすがにここに持ち込むことは出来ず,私と友人は泣く泣くパキラとドラセナを我々の後に入る人々に託して,出て行くことになりました。

 ご存じの方もいらっしゃると思いますが,パキラもドラセナも,挿し木で増やします。それなら,この立派になったパキラとドラセナから枝をもらい,これを育てることは出来ないでしょうか。

 私はそう一計を案じて,パキラとドラセナから枝を切り取り持ち帰りました。

 残念ながらドラセナは根が付かず,早々に枯れてしまいました。しかしパキラはさすがに強い木です。小さな植木鉢にさして置くと,根が付いたようで次々に新しい芽を出すようになりました。

 うちに来たときには1つの葉しかなかったのに,3ヶ月ほどたった9月初旬にはこれだけの葉を持つようになったのです。

ファイル 48-1.jpg

 毎日毎日,新しい芽が出ていないか,昨日の目はどれくらい大きくなったかと楽しみに水をやっていたのですが,写真を撮ったこの日は,久々に太陽に当ててあげようと,外のエアコンの室外機の上に置いておきました。

 これが失敗だったのです。

 非常に良いお天気で,日差しも強かったせいか,翌日見ると若い葉はすべて黄色くなり,枝もしおれて垂れ下がってしまいました。見ると,土がからからに乾いています。

 うっかり水やりを忘れたことも何度かありましたが,わずか1日でここまで事態が悪化したことはありませんでした。慌てて水をやりますが,もう手遅れでした。数日中にすべての葉と枝が落ちてしまい,丸坊主になったパキラは,次第に縮んで小さくなり,黒くなって枯れてしまいました。

 日差しのせいで,土の温度が上がりすぎたせいかも知れません。こんなに簡単に死んでしまうとは,私は驚く暇もないほどでした。

 実は実家に,生け垣に使われるスギ科の木が種を付け,なんとこれがたくさん芽を出していたので,1つもらって来たのですが,めでたく根が付き,少しずつ新しい枝が出ている中,パキラと同時に枯らしてしまいました。

 正確に言うと,まだ枯れていると判断しているわけではありません。成長も遅い分,変化がなかなか現れてこないのですが,葉が日に日に茶色になっていくので,もうだめなんじゃないかと思います。これも楽しみにしていたのですが,本当に残念です。

 私は実家が農家で,母が園芸を趣味にしていたこともあり,植物を愛でるのが好きな方だと思っていましたし,実際これまでに枯らしてしまったことはほとんどありませんでした。

 それが,今回,これほど劇的に植物を殺してしまったことにショックを受けましたし,なによりかわいそうなことをしたと,反省することしきりです。ちょっとした不注意が,こうした取り返しのつかない結果を招いてしまいます。

 本当に残念なことをしてしまいました。

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