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NAMM2015雑感

 恒例のNAMMのレポートを見ると,年が明けたことを実感するのですが,ハードシンセが今ひとつ元気のない昨今においても,毎回毎回面白い情報を耳にしますし,そこからいろいろ考えさせられるきっかけになっています。

 ということで,少々今年のNAMMショーに雑感を。

・JD-Xi

 ローランドは昨年,創業者と新社長との間ですったもんだがあり,音楽業界のみならず経済紙でもその泥仕合っぷりが採り上げられたわけですが,新体制になったことで,良く方面での影響が出てきているように思います。

 よくよく考えてみると,ローランドは非常に保守的な体質で,音源の進歩も新しいコンセプトの提案もきちんとやっているメーカーではありましたが,変えない所は絶対に変えない,譲らないところは絶対に譲らないという,頑固なメーカーでもありました。

 そこが,ローランドの好きなマニアには忠誠心を誓うに値する姿勢であったわけですが,一方で他社を受け入れない壁にもなっていたと思います。

 例えば,ミニ鍵盤。例えば,ピッチベンドホイール。

 ローランドには,この2つを搭載したモデルは過去にありません。それがローランドのアイデンティティと解釈されていた節もありますが,そこにこだわっているローランドに好感を持つ人が,どれほどいたかと思うのです。

 ということで,ローランドが今回のNAMMで発表したJD-Xiは,それまでのローランドがやらなかった3つのチャレンジをやってくれました。

 1つはミニ鍵盤。KORGもYAMAHAもやっているミニ鍵盤を,ローランドはこれまで一度もやったことがありません。ショルダーキーボードでも,DTM用の鍵盤でも,一貫して標準鍵盤でした。

 しかし,よいミニ鍵盤なら問題ないという前例をKORGが作ったことで,ミニ鍵盤に対するアレルギーが,プレイヤー側からも消えつつあるように思います。そうなると,標準鍵盤にこだわるのは損なわけです。

 次にピッチベンドホイール。ローランドは30年以上前から,独自形状のスティック型のピッチベンダーを採用し続けていました。ジョイスティックという人もいますが,ローランドのものは下方向に動きませんので,三方向のジョイスティックというのが正しいでしょう。

 これも,最初は左右だけの「レバー」だったのですが,上方向にモジュレーションを割り当てたことで,ローランド独自になりました。私はこれでないと,自由に演奏出来ないのですが,世の中はピッチベンドとモジュレーションは別々のホイールになっているのが普通です。

 JD-Xiでローランドがこの2つのホイールを搭載したことが,私には一番驚きでした。ユーザーインターフェースを変えることは良くないという姿勢に好感を持つ人もおいと思いますが,同時にマジョリティに受け入れられる必要性もあるわけです。

 最後に,アナログへの回帰です。ローランドは,これも頑なに,アナログへの回帰を拒んできました。もちろんアナログモデリングはやっていますが,昔のシンセの復刻には非常に慎重で,触ってみると「ああJupiterだな」と思うことがあっても,そこをJupiterの復刻とは言わないメーカーでした。

 Jpuiter-80だって,見た目はJupiter-8っぽいですが,音はそんなことはないし,多機能で今風の音がする,Jupiterとは違うシンセです。Jupiterの復刻を願う人からは「なんか違う」といわれ,最新のシンセを期待する人からは「今さらJupiterか」とそっぽを向かれるわけで,この不遇な感じは直視できないものがありました。

 しかし,ARIAでTR-808やSystem100を「復刻」してしまった以上,もう怖いものはなくなったのでしょうね。一気に突き抜けて,本物のアナログシンセを内蔵してしまいました。

 ただ,どうも見ている限り,1VCOのモノフォニックのようなので,どこまで本気で使えるのかわかりません。

 そして,5万円という価格も,ローランドが初めて狙っていくところじゃないかと思います。

 個人的には,いつものローランドらしく,がっかりな部分があって,あまり欲しいと思いません。

 ミニ鍵盤,安いこと,SuperNATURALシンセ音源など,魅力的な部分もありますが,4パートというのがもう致命的です。しかもこのうちアナログ音源が1パート,リズムトラックが1パートなので,ポリシンセのパートは2つしかありません。せっかくシンセパートで64ポリなのに,もったいないと思います。

 これでポリシンセのパートが4つ,アナログとリズムで1パートずつの合計6パートあると,ちょっとしたDTMにも使えるので,予約して購入していたかもしれません。残念です。


・Prophet-6

 Prophet-5じゃないですよ。Prophet-6です。

 Prophet-5の生みの親であるDave Smithさんが世に問う,Prophet-5の復刻モデルとも言うべき最新作がProphet-6です。名前の通り6ポリのアナログシンセで,見た目もProphet-5によく似ています。

 驚いたのは,「SEQUENTIAL CIRCUTS」のあのロゴが入っていることです。

 実は,Dave Smithさんが立ち上げたSequential Circuitsは,1980年代後半にYAMAHAに買収されていて,その商標もロゴもYAMAHAが所有しています。だから,これがいかにDave Smithさんといえど,勝手に使う事はできないはずです。

 この話,ホントかどうかわかりませんが,小耳に挟んだエピソードとして,今から2年前の2013年に,MIDIでの貢献が認められて,ローランドの創業者である梯郁太郎さんと,Dave Smithさんがグラミー賞を受賞したことで,両者の親交がスタートし,これが縁で梯さんがYAMAHAとDave Smithさんを仲介して,本来の持ち主の所にロゴが戻ったという話です。

 梯さんは体調もあまり良くないようで,その上ローランドでのトラブルもあったりして,辛い時を過ごされたのではないかと思っていましたが,それでもこうして彼らしい活動を通じ,また1つシンセサイザーの世界に貢献をされたことを,私はいいことだなあと感じました。


・YAMAHA

 ヤマハは,今年はNAMMでシンセサイザーの新製品の展示はなかったようなのですが,しかしながら今年はYAMAHAにとってシンセサイザー発売40周年のメモリアルイヤーです。

 新製品がないなかで,ちょっと寂しいのですが,この40年を振り返るスペシャルコーナーが出ていたそうです。

 現地でCS80なんかを見た人を羨ましいとは思いますが,実はYAMAHAのサイトにある特設コーナーが大変素晴らしく,読み応えがありますのでおすすめしておきます。

 この手の公式サイトにある「~周年記念コンテンツ」なんてのは,当たり障りのないことをならべては「画期的でした」なんて宣うものなのですが,YAMAHAのそれは違います。

 大変客観的で,また貴重な情報や裏話なども満載です。時代背景を当時の記録と正確な数字で追いかけている部分もあり,大変にリアリティがあります。

 初めて見る開発中の写真,当時のカタログなども大変面白いですし,普通なら触れることもないペダルなどの小物や,シンセではない電気ピアノにまで言及するなど,とてもワクワクしながら読ませて頂きました。

 なかでもびっくりしたのは,1990年代から2000年代の不調っぷりを,あまりに正直に認めていることです。

 YAMAHAはDX7で大ヒットを飛ばし,音楽と楽器の世界を変えました。その後SY77がまではシンセサイザーを牽引するメーカーだったわけですが,その後はMOTIFシリーズが登場するまで,あまりぱっとしないメーカーだったのですが,これをきちんと書いているのですね。

 いわく,最新の音源への挑戦は続けていたが売れなかった,とても厳しい時代だったと振り返っています。そうそう,為替相場の変化やバブル崩壊後の経済状態にも言及しています。日本では中級機種だったものが,為替相場の影響で海外では高級機になってしまい,狙ったユーザーに届かないということが起きたと書いてあるあたり,当時の日本のメーカーの忸怩たる思いが伝わってきます。

 また,物理モデリングシンセサイザーの記念碑的存在あるVL1については,鍵盤を押さえただけでは音が出ないなど,演奏者に特別な技術を要求したこともあり,一般化しなかったと,その失敗を振り返っています。

 概ね,こういう場合は書かないか,書いてももう少しマイルドに書くものだと思います。VL1なんか商業的には失敗だったが製品としては大成功だったとか,そういう風に書いても許されると思うのですが,演奏者にそっぽを向かれたと書いてしまうのは,あまりに正直過ぎるなあと思ったわけです。

 これについては,VL1に対する愛情のようなものが散見されるので,読む方もほっとするわけですけど,40年の歴史を「栄光」だけではなく「挫折」や「失敗」でも振り返る事ができるというのは,とても真摯で素晴らしいと思いました。

 みなさんも,是非読んでみて下さい。


 というわけで,NAMMショーに関連して,いくつか思った事を書きました。ARP ODESSEYが復刻とか,当たり前過ぎる話はすでにご存じと思いますが,毎年毎年,なにかしら面白い話が出てくるのがNAMMのいいところだなあと思います。

 

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