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GPSDOで手に入れる高精度クロック[結果編]

  • 2016/08/16 15:31
  • カテゴリー:make:

 今回は,GPSDOを作った,その結果です。


 まず,衛星内蔵の原子時計に同期しているのですから,GPSモジュールから出てくる周波数の精度,つまり長時間の平均で収束する周波数は,10kHzで間違いないでしょう。

 そして,この10kHzに高安定なOCXOから出てくる10MHzを1/1000して作った10kHzをPLLでロックさせますので,10KHzを中心にして前後にゆっくりとした揺らぎが,起動直後には出てくることになります。

 そして,OCXOの安定と,GPSの長周期の揺らぎの収束が丸一日かかって終わり,24時間後には,OCXOの周波数は10MHzに限りなく近い周波数に整えられているはずです。

 GPS補足後24時間の経過し,PLL Lockメータを中央に調整します。これは,PLLの制御電圧を指示するメーターですが,PLLがロックしたときには中央を示すようにしておきますので,もしロックが外れるとセンターからずれていきます。

 出力の周波数を見てみると,ちゃんと10MHzがでています。周波数の変動もありません。波形も振幅も問題なしです。

 GPSが補足されると,LCDに日時が表示されます。もちろんステータスも表示されています。

 消費電流は,起動時に600mA近い電流が流れます。最初,大きめの電解コンデンサをACアダプタに並列に入れていたんですが,そのせいで突入電流が大きくなり,ACアダプタの安全回路が働いてしまい,電圧が出てこなくなってしまいました。

 そこで,電解コンデンサは外して,今は動くようになっています。

 OCXOが安定してくると電流は300mAくらいまで減ります。消費電力は5Wくらいでしょうから,これくらいなら24時間運転しても大丈夫でしょう。

 では,ここで,なぜGPSモジュールの出力がそのままでは使えないのか,そしてOCXOの周波数をPLLでロックしてやるとどのくらい揺らぎがなくなるのかを,ちょっと見て頂きましょう。

 周波数カウンタのリファレンスに,別の安定したOCXOの10MHzを入れます。これで1E-9くらいの安定度が出るはずです。(ただし10MHzそのものはわずかにずれています)

 ゲートタイムは0.1秒に設定し,この周期で値が更新されていきます。このゲートタイムだと9桁は出なくて,おそらく8桁くらいの精度かでないと思います。

 さて,最初は,このGPSDOのGPSモジュールの10kHz出力です。

20160816153236.mp4

 0.035mHzから0.051mHzの間で,値が揺らいでいるのがよく分かります。0.016mHzの周波数で揺らぎがあるという事ですので,100000秒で1.6回の変動,言い換えると62500秒で1回の変動があります。24時間は86400秒ですので,17時間で1周期のゆっくりとした揺らぎが出ているということになります。

 また,0.016mHzという周波数の変動は,10kHzに対しては1.6E-9ということです。やはりGPSモジュールから出てくる周波数には,1E-8から1E-9くらいの変動が存在するというのは,本当のようです。

 では,次にこのGPSの10kHzにロックしたOCXOの出力を見てみます。OCXOの出力は本来は10MHzですが,これを1/1000して10kHzにしてGPSの10kHzとロックしてあるというのは,これまで何度も書きました。

20160816153325.mp4

 どうですか。0.039mHzからほとんど動いていません。一瞬0.041mHzになっていますが,それも含めて変動を0.002mHzと厳しく見てみれば,変動は2E-10です。この揺らぎ方ならそれ以下でしょうから,1E-10に近い精度が出ている事がわかります。

 それに,リファレンスのOCXOの精度も1E-9程度であることを考慮すると,もはやこの揺らぎがGPSDOの揺らぎなのか,周波数カウンタの揺らぎなのか,区別出来ません。ですから,正確なところはわからないにせよ,1E-9から1E-10くらいの精度は出ている物とみなしてよいと思います。

 最初の動画にあった揺らぎがほぼなくなっていること,そしてGPSモジュールの変動周波数の中心付近で安定していることがわかります。

 ですので,GPSDOを使った周波数測定では,その測定値が正確であることも当然ですが,1E-8程度の揺らぎくらいまでは,可視できるようになったということがいえます。

 ここでは詳しくは触れませんが,通常の水晶発振子ではもっと大きく値が変動していることがわかりますし,TCXOになればもう一桁,OCXOならさらのもう一桁,変動が少なくなっていることを,目で見ることが可能です。

 さて,ここまでくると,10MHzもどのくらいの精度が出ているのかを調べてみたい気がしますが,仮に1E-11の精度を見たければ1E-12のリファレンスクロックを持った周波数カウンタを使わないとわからないですから,もう私だけの力ではどうにもなりません。

 とはいえ,周波数が時間と共にドリフトせず「常に正確な10MHzに調整され続けるOCXO」と言い換えることのできるGPSDOは,この動画を見ただけでも,その価値が分かって頂けるでしょう。


 さて,ここで原点に戻って,TCXOで作った時計の精度を確認します。先に言い訳をしておくと,気温が31度もあるのであまりいい数字が取れませんでした。

 念のため時計の構成を書いておくと,源発に26MHzのOCXOを搭載し,Si5351Aによってこの周波数で32.768kHzを作ります。そしてこの32.768kHzで1秒を作ってカウントして時計を作ってあります。

 TCXOのスペックは1ppmですのでもしプラスかマイナスか,どちらか目一杯1ppmずれると,10日で1秒くらいの遅れか進みが出る計算です。

 また,別の機会にちょっといい周波数カウンタを借りて測定してみたら,-0.5ppmくらいの実力となっていました。0.5ppmだと1ヶ月に1秒くらいのズレが出てきそうなものです。

 しかし,この時計はなかなか優秀で,半年で1秒くらいしかずれません。

 大変気になったところで,測定結果です。

 源発の26MHzのTCXOは,25.9999941MHz(-0.2288ppm)となりました。

 そして,Si5351Aで作った32.768kHzは,32767.9924kHz(-0.2335ppm)となりました。

 多少のズレはありますが,どちらの値も-0.23ppmとすれば,Si5351Aを通したことでズレが増えることも減ることもないことがわかります。

 パラメータ設定ツールでも,周波数の誤差はないと出ていましたからこの結果は当然なのですが,なかなか感激するものがあります。

 ところで,-0.23ppmということは,約50日で1秒遅れるという計算です。2ヶ月で1秒となると,実機よりも悪いという結果になるので残念なのですが,測定時の気温が31度を超えていたこと,そして測定中にSi5351を一度壊してしまい,新しい物に交換してから値が変わってしまったことを考えると,測定の条件がよくなかったなあと,反省することしきりです。

 Si5351Aを交換してからの長期精度を確認し。少し涼しくなってきたところでもう一度測定をしようと思います。


・まとめ

 GPSDOはそんなに大規模な回路ではありませんが,なにぶん,ちょっとしたことで変動が起きてしまうようなデリケートな機械です。私が作ったこのGPSDOも,筐体を盾にすれば値がパラパラと動き,長い時間をかけて元の値に戻って行きます。

 にもかかわらず,随分ラフに作ったものだと思いますが,それでもこのくらいの制度と安定度が手に入ったんですから,とても満足です。

 仮に1E-11の精度が手に入ったとすれば3000年に1秒の精度です。通常これだけの精度の周波数を維持するには,相応のコストをかけないといけませんが,私は5W程度の電力だけで維持できることになります。

 また,今回こうして,周波数の「精度が高い」というこはどういうことなのかを,きちんと把握できたことは大きいと思います。10MHzが10.1MHzになってしまうことも精度の問題ですが,10MHzを中心にして変動する揺らぎも,また精度の問題です。

 しかしこの2つの「精度」は,使い方によって大きな違いを生みます。これまで,私はこの2つをあまり意識しないでいたのですが,それは精度が低く2つを区別出来なかったからだとわかりました。

 特に後者はジッタとか,位相雑音などと呼ばれます。そういうものがあることは分かっていても,きちんと理解していないことがわかったわけです。

 PLLの性格はループフィルタで決まるということも発見でした。PLLの心臓部はループフィルタであるという意見をよく耳にしてきましたが,それは設計や実装が難しく,トラブルの種になっているからだと思っていたのですが,それだけではなく本当にPLLの性格を決定する,文字通りの心臓部でした。

 周波数の世界は奥が深く,かつ幅が広いです。10nsの時間は極端に短いように思えますが,周波数でいえばたかだか100MHzです。そしてその10nsも,時計を作れば積み重なって,たった1000日で1秒という大きなズレになってしまいます。

 だから,実用上無視してよい,という人間の尺度による割り切りが難しい世界です。精度の高い周波数が欲しいと思った時,そして実際に手に入れた時,その事をつくづく感じました。

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