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Nutubeでヘッドホンアンプを作る

  • 2016/09/26 15:58
  • カテゴリー:make:

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 コルグがノリタケとタッグを組んで作った,21世紀の真空管であるNutube。発表から世界中で注目され,コルグからNutubeを搭載した楽器やアンプが出ることを心待ちにする人達がいる一方で,部品としてNutube単体をぜひ買いたいという声も強くありました。

 そんな中でコルグが一般販売を計画中である事を発表,そしてついにさる9月23日に大手部品販売店で一般販売が始まりました。搭載製品よりも先に部品単体での販売が始まった事に,私などはおかしな勘ぐりを入れてしまうのですが,コルグは当初から一般販売を視野に入れていたようで,決して数は多くない自作を楽しむ人達を,ちゃんと見てくれているんだなあと,とてもうれしい気分になります。

 価格は5400円と結構高価ですが,粗悪な12AX7が2000円とか3000円とかすることを考えると,まだ大量生産もおぼつかないであろうNutubeが,全数検査済みでこの値段で買えるというのは,むしろリーズナブルと言って良いんじゃないでしょうか。

 かく申す私も,Nutubeには並々ならぬ興味を抱いており,データシートを見てはあれこれと思案し,評価ボードを測定しては膝を打ったりしてして過ごしておりました。

 そしてとりあえず習作として,Nutubeのヘッドホンアンプを作ってみました。

 習作ということで,結構気軽に作ったものの,これがなかなか良く出来ていて,聞いていてとても楽しいのです。

(1)Nutubeとは

 楽器メーカーのコルグと,蛍光表示管メーカーであるノリタケが共同で開発した直熱型の双三極真空管です。開発にいたった経緯はあちこちの媒体に出ていますのでここで触れる必要もありませんが,原理的にも構造的にも真空管そのものである蛍光表示管は,多くの家電製品や自動車に多用される表示デバイスであり,量産技術も品質管理も確立しています。

 一方の真空管は100年以上の歴史がありますが,ここ30年ほど大手メーカーでの製造は止まっており,設備ごと買い取った中国やロシア,東欧のメーカーが外貨を稼ぐために昔のまま作り続けている状況が続いていました。

 主にギターアンプに使われる真空管には一定の需要があるために製造は続いているのですが,それ以外は当時の流通在庫がすべてであると言われており,その多くはすでに取り尽くされたとされています。(特にバブル期の日本人はすごかったらしい)

 ただ,現在も製造されている真空管も安泰ではなく,製造設備の老朽化による量産効率の低下や品質の劣化など,真空管を巡る状況は年々悪くなっています。

 ある楽器メーカーの方のお話では,購入した新品の真空管のうち半分くらいが不良品であり,生産台数の倍の数の真空管を調達することになってしまう,そうすると真空管1本あたりの価格は倍になってしまうので,とても高価なデバイスになってしまうのだ,ということです。性能のばらつきも大きく,経験変化も大きいので,設計者としてはこんなもの,使いたくないというのが本音のようです。

 しかし,真空管というデバイスは,原理的に半導体では考えられないほど,素直で綺麗な動作をしていて,非常によい特性を示すのです。負帰還なしでもリニアリティに優れ,歪みは出力に対して緩やかに増え,そしてその歪み成分は耳に心地よい2次高調波を多く含んでいます。

 こうした特性によって作り出される音を好ましいと思う人は多く,楽器の一部としてのギターアンプは言うに及ばず,オーディオマニアの間でも真空管のアンプは非常に好まれています。

 消費電力が大きく,特性のばらつきも大きく,寿命が短く,入手が簡単ではないという真空管には大きな魅力がありますが,かといって量産品に使うにはかなり難しい部品です。
 
 そこで,コルグは蛍光表示管に着目,すでに大量に生産され,品質にも問題がないこの表示デバイスで真空管を作る事を実現してしまったわけです。

 旧来の真空管よりも消費電力が低く長寿命,小型で熱の発生も少なく,品質のばらつきも少ない上に大量生産が可能という,夢のような真空管が,Nutubeです。


(2)Nutubeの特性

 Nutubeは直熱型の三極管なので,三極管に準じた特性を持っています。しかし1つだけ特徴的なのは,グリッドにかけるバイアスがプラスであるという事です。

 通常,グリッドはマイナスにバイアスします。もしグリッドがプラスになっていると,カソードから飛び出した電子がグリッドに吸い込まれてしまいますよね。むしろ電子を通りにくくするように,マイナスのバイアスをかけて電子の通る量を調整しないといけないわけで,それが真空管の基本的な動作原理です。

 しかしNutubeはプラスをかけます。それも,+2.0Vのバイアスの時にもっとも歪みが小さくなるんだそうです。グリッドに電流が流れても,もともとフィラメントから出てくる電子の量が少ないので大した問題にならないんだろうと思いますが,なんでバイアスをプラスにすると歪率が小さくなるのかは,不明だそうです。

 調べてみると,このバイアスによって,大きく特性が変わることがわかりました。


(3)Nutubeの考え方

 Nutubeは双三極管ですので,12AX7や12AU7,6SN7などの真空管と同じ電圧増幅管をイメージしがちですが,ここで積極的な電圧ゲインを稼ぐと言うよりは,真空管と同じ入出力特性を持つ「フィルタ」として考えるのが一番すっきりします。

 後述しますが,電圧ゲインはたかだか5倍程度です。電流も引っ張れませんので,Nutubeだけで出来る事は限られます。

 世の中には,真空管の音を再現するために,DSPを使ったエフェクタが存在しますが,このDSPの代わりにNutubeを使うという感じです。当然Nutubeだけではスピーカーもヘッドホンも鳴りません。

 ですので,Nutubeは増幅をするデバイスと言うより,真空管の音に加工するエフェクタと考えて,増幅は他のデバイスにやらせるという役割分担が最適です。

 事実,コルグの評価ボードでは,ヘッドホンはTIのヘッドホンアンプICで鳴らしています。


(3)Nutubeの使い方

 基本的には,データシートにある回路と定数を使うのが最もよい性能を引き出します。あれこれいじっても良いのですが,結局悪くにしかならないですし,無理な動作はNutubeを劣化させてしまうので,私は怖くて出来ませんでした。

 負荷抵抗は300kΩから330kΩ程度,電源電圧は12Vから15Vくらいで動かします。フィラメントは0.7Vで17mA流します。そしてグリッドのバイアスは+2.0Vが一番良くて,この状態でゲインは約14dBというのが,コルグのオススメです。

 フィラメントは,3Vで150Ωの抵抗を直列に入れるとちょうど17mA程度流れるんだそうです。2つの三極管が入っているNutubeの場合,フィラメントは並列に繋ぎますので,この抵抗は75Ωになります。

 そしてバイアスは安定化してある必要がありますので,12VからLDOを使って3.3Vを作り,フィラメントとバイアスに使う電圧を作る事にします。

 そして,Nutubeの特性を維持するため,出力にはFETによるバッファを1つ入れるのが良いようです。


(4)回路

 回路図は以下のようになります。

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 全段のNutubeはデータシートにある回路そのままです。結局これが一番良いという事になりましたが,なにせバイアスによって大きく特性が変わるデバイスですので,私はバイアスを2つ切り替えられるようにしてあります。

 NormalとHighの2つのポジションで,Normalは歪みが最小になるようにバイアスを調整します。およそ+2.0Vになります。

 一方のHighは聴感上で「これはいい」と思われるところに合わせたものです,およそ+2.3Vになりました。ゲインは実測で13dB程度で,5倍弱に増幅します。

 そして2SK30ATMのソースフォロワを通し,後段のダイヤモンドバッファにはいります。ここでしっかり低いインピーダンスの負荷もドライブするのですが,このダイヤモンドバッファ,実は以前嫁さんに作ったヘッドホンアンプの回路そのままです。

 というのも,あまりに無味無臭であり,これを音楽プレイヤーの間に挟んでも挟まなくても全く違いが分からないと酷評され,引き出しの奥にしまい込んだ回路なです。

 ですが,今回のように音の加工はあくまでNutubeであり,後段は勝手な色づけをしないことが望まれる用途においては,無味無臭はむしろ有益な個性といえて,今回まさかの大抜擢となりました。

 トランジスタは下手なオーディオ用よりもローノイズで高音質と言われる2SC1815と2SA1015のコンプリ,終段は2SC3422と2SA1359です。この2SC3422と2SA1359は耐圧が低いのでオーディオ用にはあまり出てきませんが,その分電流が流せる構造になっているので,特にコレクタ電流に対してのhFEの変動が小さく,オーディオ用によく使います。

 この終段のトランジスタのエミッタには1Ωが入っています。これ,小さくすると確実に熱暴走しますので,1Ωくらいが限界だと思います。


(5)測定結果

 測定した結果です。

 消費電流は200mA@12Vです。結構電気を食ってますが,ほとんどがダイヤモンドバッファのアイドル電流です。

 周波数特性ですが,40Hzから100kHzまで-3dB以内に入っていました。アナログ入力でハイレゾ対応もクソもないんでしょうけど,これくらいワイドレンジだと今どきの音楽もちゃんと聞こえるんじゃないでしょうか。

 S/Nは1kHz,800mV出力で82dB程度です。バイアスを切り替えてもほとんど変わりません。コルグの評価ボードでは60dB程度でしたので,まずまずの性能です。

 セパレーションは1kHz,800mVで約80dBです。これもなかなかよいと思います。

 さて,問題の歪率ですが,これは手っ取り早くグラフをご覧下さい。まずはNormal Biasから。

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 次はHigh Biasです。

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 Normal Biasにおける最小歪みは,1kHz,120mVでの0.05%です。これがHigh Biasになると1kHz,800mVで0.46%となります。はっきりいえば,High Biasの方が元気もツヤもあり,前に音が出てくる感じがします。ただ,繊細さは失われ,解像感も減ってしまいます。

 特徴的なのはグラフを見れば一目瞭然で,High Biasの方が歪みは多いのですが,歪みの増加は緩やかです。Normal Biasは歪みは少なくとても優秀なのですが,急激に歪みが増えてしまいます。

 とはいえ半導体アンプほど急激に増加することはなく,Normal Biasでも300Bにあっさりと負帰還をかけたくらいの特性です。

 こんな風に,出力に対して歪みが直線的に増えるアンプというのは,我々はあまり体験しません。これが結構心地よく,私はもっぱらHigh Biasで使っています。

 なおバイアスの切り替えは,バイアスの回路に大きめの電解コンデンサが入っているために,すぐに変化しません。2秒くらいでゆるやかに変化します。そのため,バイアスを切り替えたことで急に音質の変化は起こりません。

 しかし,その変化は大きく,しばらくしてから「今どっちのポジション?」と聞けば,ほぼ100%正解します。


(6)まとめ

 習作という事で,前段はデータシートそのまま,後段は過去に作った無味無臭な電流バッファで,その間をカップリングコンデンサで繋ぐという芸のない回路ではあるのですが,一応部品は厳選し,GNDをしっかり取って,モノアンプを2台で構成するイメージで作りました。

 おかげでNutubeのカラーが素直に出てきて,半導体アンプにありがちな鋭角的な音が引っ込み,ヘッドホンで直熱3極管の音が楽しめるようになりました。もう手放せません。

 また,独自の工夫としてバイアスの切り替え機構が大変面白く,歪みの乗り方でこんなに音が変わるものかと,はっとさせられました。

 世の中には,わざわざ2次高調波を付加して,音に元気やツヤを与えるエフェクタがあります。エキサイターというのがそれなんですが,うまく使うと音が前に出て,太くなるんですね。

 真空管のアンプにはこうした「穏やかな歪み」が多く含まれていて,それが心地よさを作ると昔から言われていますが,Nutubeが目指したのはまさにこれで,ヘッドホンアンプのようなものでも,その効果が大きいことには驚きました。

 電源はスイッチング式の12VのACアダプタですから,音質改善にはまだまだ余地があると思います。
 
 ということでNutube,そのうちこれで差動を組んだり,NutubeだけでOP-AMPを作ったりする猛者が現れるでしょう。もっと電圧ゲインを取り,後段もしっかり作って,スピーカーをドライブするパワーアンプに仕上げても面白いと思います。

 Nutubeがいつまで販売されるか分かりませんが,一過性のブームで終わることなく,自作のジャンルの1つとして定着することを願ってやみません。


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