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2011年06月08日の記事は以下のとおりです。

さようならFCZコイル,ありがとうFCZコイル

  • 2011/06/08 16:45
  • カテゴリー:make:

 FCZコイルがとうとう製造販売停止になりました。

 今さら説明の必要もありませんが,かのJH1FCZ大久保OMが作った,アマチュアのための高周波コイルシリーズがFCZコイルです。中波,短波,超短波などのアマチュアバンドを網羅し,ケースのサイズも10mm,7mm,5mm角と揃っています。使いやすく,再現性が高く,設計する側も作る側もこのコイルを使えばもうコイルは心配なし,使いこなしのノウハウも蓄積され,全国のパーツ店で手に入る入手性の高さに安価なお値段と,至れり尽くせりのコイルです。

 その誕生は大久保OMいわく,「かつて雑誌の記事を書いたとき,コイルを自作するように書いたら,コイルがうまく作れずに,それが原因で動かないという人が出た,当時一般的だったコイルの自作は実は再現性に欠ける・・・」

 そこで,大手コイルメーカーの製品を使う事にしたのですが,コイルが結合しないようにシールドを考えないといけなくて,これもまた再現性に難あり。適当なものがないなあと考え込んだ大久保OMは,ないものは自分で作ろうと考えて,FCZコイルを手がけることになるのです。1977年の誕生から30年以上,もっとも厄介なコイルでアマチュアを支え続けてくれました。

 FCZコイルでは,アマチュア無線で使われる各バンドのコイルをバンドごとに1種類ずつ用意してあります。それぞれは突出した特殊な性能をもっているわけではありませんが,平均的性能で,むしろ汎用性を高めてあります。そして回路全体の性能は,トランジスタの性能の向上に任せています。

 そんなことが出来るのかと,高周波の素人である私などは???な訳ですが,結果は疑いようもなく,高い汎用性,シールドケースに入った使いやすさと再現性の高さで,アマチュアの電子工作には欠かせない部品となりました。

 欲しいときにすぐに手に入ること,種類を無闇に増やしたり改良を小刻みに行うのではなく,古いコイルも新しいコイルも同じものとして扱えて,昔の回路にそのまま使えることも,大久保OMの人柄を見るようでした。

 私がこのFCZコイルについて感慨深いのは,アマチュアの電子工作のために生まれ,その存在感を放ち続けた部品だからです。

 以前にも書いていますが,電子工作という趣味は,その時々のプロが使う部品のおこぼれによって,成り立っています。真空管がゲルマニウムトランジスタになり,やがてシリコントランジスタになったり,ICがTTLからCMOSに移行したことは,アマチュアの欲しい部品をメーカーが用意してくれた訳ではなく,それがプロによって大量に消費されるようになって,値段が下がり、入手が簡単になったからです。

 2SC1815や2SK241が製造中止になってしまうことは,まさにこのことを象徴しています。

 アマチュアが使う数はたかが知れています。メーカーにしてみれば誤差のようなものです。アマチュア向けにある程度まとまった数をストックして小売りしてくれるパーツ店の存在があるから,我々は高性能な部品を,安価に使えるわけです。

 しかし,FCZコイルは違います。アマチュア(法人としてのFCZ研究所がアマチュアかと言われれば厳密には違うかも知れません)が,アマチュアのために,用意した部品です。FCZコイルはプロの設計者は使いません。カスタムで作る事ができるからです。

 FCZコイルは,汎用性の高いコイルを種類を絞って作る事で,アマチュアにも安価な価格で提供可能なコイルでした。これを使う事を前提に,多くの回路が誕生し,そしてそれらは一様に高い再現性を持っていて,作者の先生が苦心の末に練り上げた作りやすさと高性能を,全国のアマチュア達が追体験出来たのです。

 FCZコイルがあるから,アマチュアは安心して高周波の回路を作る事が出来ました。でもこれからはそうはいきません。

 大久保OMは,供給出来なくなる代わりに,コイルを手作りする方法を解説してフォローしたいと言われています。大久保OMには頭が下がります。

 かつて,初歩のラジオやラジオの製作などの雑誌がベテラン設計者の回路を掲載し,全国のアマチュアがそれを作ることが盛んに行われていました。設計者と製作者は分離していて,特に製作者のスキルには個人差がありました。

 故に誰でも完成できて,性能を出せる再現性の高さが設計者には求められたのですが,雑誌が消え,雑誌を見て製作する者がいなくなり,設計者と製作者が分離しなくなりました。

 今,部品レベルで自作が出来るのは,コイルだけです。コイルの製作と回路の設計を同時に行う方が,より性能を高めることが出来るのですから,回路設計が出来る人にとって,ただ作るだけの人のために再現性の高い汎用品のコイルを使う理由はないといえます。

 そう考えて,ひょっとすると時代が変わって,FCZコイルの役目は終わったのかも知れないなあ,と思いました。

 この30年の間,日本も世界も大きく変わりました。国内で製造するのが当たり前だった電子部品は,いつしか海外で生産されるようになりました。現在のFCZコイルも中国の部材を使って作られていましたが,ここ数年はそれら部材の度重なる値上げや仕様の変更,供給ルートの確保などでご苦労があったようです。

 部材の仕様が変わるたびに,それまでと同等の性能を維持するべくマイナーチェンジを繰り返して来られましたが,今回はどうしても元の性能を確保出来なかったとのことで,製造販売を中止するに至ったということです。

 そういう私は,結局FCZコイルを買って何かを作った事がありません。1つや2つ買った記憶はあるのですが,それが今どこにあるのか覚えていません。無線や高周波の世界に背を向けたアマチュアにとっては,FCZコイルは知っていても身近でなかったといえて,だけどもその功績はやっぱり知っています。

 大久保OMがFCZ研究所を解散したとき(2007年だったと思います)もショックでしたが,FCZコイルが過去のものになった今回の話は,確実に電子工作のフェイズが移り変わったことを示すものになったと思います。寂しいものですが,常にその時手に入る新しいもので工作するのが,これまでにも繰り返されてきた電子工作の進歩に繋がると考え,くよくよせずにいきたいと思います。

 ただ,アマチュア無線の高齢化が深刻で,近寄りがたい集団になっていることは否定できないでしょう。大昔,ラジオが最先端だった時代は,その延長にアマチュア無線がありました。オーディオとコンピュータの時代になり,アマチュア無線はそれらと接点を持たない独立国家となりました。

 携帯電話とワイヤレスデータ通信の時代がやってきて,アマチュア無線がまた最先端になるかとおもいきや,高度なディジタル変調技術のせいもあってか,同じ無線の世界でもアマチュア無線の人たちの視点と,最新の無線技術の人たちの視点にズレがあるように感じます。

 同じ無線局なのにアマチュア無線家は携帯電話には疎いですし,携帯電話大好きな人がアマチュア無線をやってるという話はあまり聞きません。私の目から見て,今のアマチュア無線に技術的に見るべきものはありません。

 ところで,PLCという,電灯線を使ってLANを構築するという仕組みが数年間にちょっとしたブームになりました。しかしこれは,アマチュア無線や短波ラジオで使われている周波数に大きな妨害を出す可能性があり,私も当時懸念していました。

 無論,アマチュア無線家や短波ラジオの愛好家が声を上げましたが,そんな声は無視され,公的機関からの認可を得て,各メーカーから一斉に機器が発売されたことを覚えています。

 あまり知られていませんが,理由もはっきりしないまま当局から認可の取り消しを受けた機器がいくつもありますし,実際にラジオの受信に妨害を受けたという事例もあるようですから,行政もメーカーもあまりにずさんだったといえるでしょう。

 PLCは結局,小さく安くなったWiFiに駆逐されるように,ほぼ消え去りました。懸念の声を無視してなかば強引に始めたにもかかわらずビジネスとしても失敗に終わりました。

 私は結構おおごとだと思っているのですが,社会一般の意識も低く,このことが話題に上ることはほとんどありません。大多数の人にとってアマチュア無線家や短波ラジオが関心の対象から外れていることを如実に示しているのではないでしょうか。

 果たしてこれでよいのかどうか。1970年代から80年代のアマチュア無線ブームで開局した人がほとんど電話級だったこと,JARLのやってきたこと,乱立したアマチュア無線機器メーカーのやってきたこと,電波を公共物として管理してきた行政のやってきたことなどなど,もう少し検証されてもよいのではないかなーと思います。

 ちょっと話が逸れましたが,FCZコイルの製造販売の停止と,アマチュア無線の衰退は,どうも無関係ではないと,そんな風に思うのです。

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