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2017年04月10日の記事は以下のとおりです。

TDS3054Bを手に入れました

  • 2017/04/10 09:09
  • カテゴリー:make:

 先日,ふとしたことから,テクトロニクスのオシロスコープ,TDS3054Bを手に入れました。大変リーズナブルに手に入ったのですが,もちろん訳ありです。電源が入りにくかったり,突然切れたりします。

 また,アプリケーションモジュール(正面パネルの右上に4つあるスロットに入れるアップグレードモジュールのこと)はすべて抜かれており,付属品は一切なし。壊れているのかそうでないのかさえも,わかりません。

 そもそも,TDS3054Bってどんなオシロよ?

 私はデジタルに移行してからのテクトロのオシロには全く興味はなく,MEGA ZOOMが搭載されたHPのオシロを触って以降,HP(->アジレント->キーサイト)に宗門替えをしました。

 長年使っているアナログオシロの2465Aは,トリガの切れ味や見やすい表示,非常にまとまった操作系で,さすがテクトロと今でも思うのですが,その後のTASシリーズやTDSの初期のものは使いにくく,これが本当にあのテクトロなのか,と愕然としたものです。

 そこへ現れたのがHPの54645Dで,1MByteの当時としては大容量のメモリに,表示されていない部分も含めてとにかく常に目一杯記録し,水平軸を変更してもいちいち波形を取り直さないという,ごく自然なことを可能にしていたMEGA ZOOMにいたく感動したことで,私の「オシロだけはテクトロかなあ」という思い込みは覆ったのでした。

 このあたりの経緯は何度も書いているのでもう改めて書きませんが,実はこの頃のテクトロのデジタルオシロの定番品がTDS3000シリーズです。

 TDS3000シリーズはDPOと彼らがよんでいるシリーズで,波形の登場頻度を輝度の違いで表示することで,アナログオシロを擬似的に再現するもので,デジタルオシロが苦手としていた観測が可能になると,当時盛んに宣伝されていました。

 しかし,デジタルオシロの基本機能を決定付けるメモリについては,いかんせん10kWordしかありませんので,今見えている分だけが記録されるに過ぎず,水平軸を切り替えればまた波形の取り直しになるのです。

 限られたメモリを目一杯使うにはこの方法以外にないわけですが,こうした技術的制約をすでにHPが打破していたことを考えると,もうちょっとどうにかならんのかと,当時の私は思っていました。

 なにせ,トラブルシューティングには,問題の尻尾をつかむのが最優先です。オシロスコープがないと手も足も出ないトラブルが,オシロで波形を見たら一杯でわかったという経験は多くの方がされていると思いますが,これも結局そのトラブルが可視化できたからであり,オシロを使ったから解決したわけではありません。

 問題箇所の波形がいつでも取り込めるのであればいいのですが,えてしてなかなか問題発生の瞬間に波形が取り込めることは少なく,最初はとにかく手探りになります。そんな中で取り込めた「尻尾」はまさに宝物です。

 以前横河のDL1540を使っていた時,そうして取り込んだ「尻尾」が,うっかりいじった水平軸のツマミで消えてしまったことがあり,自らの愚かさに涙したことがありました。しかもご丁寧に,DL1540は水平軸を切り替えた時にキャリブレーションまで行うので,数秒間の待ち時間が発生します。私が,消えた波形を偲んで涙に暮れるには十分過ぎる時間でした。

 そんなわけで,HP54645Dはその後大活躍することになり,ライバルとされていたTDS3000シリーズには全く興味関心を持たずに来てしまったのです。

 今回改めてTDS3000シリーズを調べて見ると,2400シリーズなどがかつて担っていたメインストリームで,3000B,3000Cと改版を重ねてロングセラーになったモデルという事がわかりました。

 DPOによって波形の登場頻度が輝度でわかることから,アナログオシロからの置き換えが本当の意味で可能になった記念碑的モデルでもあります。前述のようにメモリは少なく,画面の更新頻度も今どきの廉価版に負けていますが,さすがにプロが認めたオシロスコープであり,この機種以降アナログオシロは急激に数を減らすことになるのです。

 そんなTDS3000シリーズにあって,私が手に入れたTDS3054Bは2001年に登場した2世代目のモデルで,帯域500MHz,4chの上位機種(最上位といえないのは600MHzのモデルがあるから)です。いや,もうなにも言うまい。500MHzですよ,4chですよ。当時の価格で200万円近くですよ。

 オシロスコープなどは,あまり付加機能があっても仕方がなく,どれだけレアな発生頻度の波形をきっちり取り込めるのかが最も大事です。そのために多くのトリガモードを備え,それぞれに切れ味のいいトリガがかかることがまさに命です。

 トリガがかからないのは話になりませんが,かかって欲しくない時にかかってしまうのも困りもので,その後にあったかもしれない問題波形を取りこぼしたり,余計な波形ばかりで何度も何度もやり直す羽目になったりするのは,効率も良くありません。

 欲しい波形をピンポイントで狙って取りこむ力,これこそトリガのキレであり,テクトロはその辺は心配ないでしょう。キレの悪い,ぬるいトリガのオシロは,5秒で使う気がなくなります。

 頑張っても頑張っても尻尾がつかめない時,このオシロで取れないなら,問題はここには存在しないのかもしれない,他を当たってみるかと考える事が可能かどうかは,測定器に対する信頼という形で,言い表せます。

 確かにメモリが少ないことは残念な所ではありますが,5Gsample/secというサンプリング能力は,HP54645Dとは性能以前の問題としてサンプリングに対する考え方の違いもあって圧倒的なものを持っていますし,基本性能をみてもうちで最強の500MHz,4chのオシロですから,粗末に扱うわけにはいけません。

 ロジックアナライザと統合され,トリガがアナログとデジタルで縦横無尽にかかるHP54645Dの優位性は揺らぎませんが,500MHzでないと,4chでないと,5Gsample/secでないと,見られない世界があるのは事実です。

 そんなわけで,目の前にあるTDS3054Bです。

 よく知らないのですが,TDS3000Bシリーズになって,それまで別売りのアプリケーションモジュールをささないと使えなかったFFTが,標準機能になったらしいです。ですから,アプリケーションモジュールがなにもささっていなくても,FFTは使えるようになっています。

 ファームのバージョンは3.19とのことで,現在公開されている3.41よりも古く,アップデートをしたいところではありますが,今や貴重品となっている2HDのフロッピーが4枚も必要になるので,とりあえず様子見です。FFTが無効になってもつまらないですしね。

 問題の電源ですが,ボタンを押し込んでも電源が入らなかったり,すぐに落ちたりします。そうかと思うとずっと動いていることもあり,動いている間は元気です。

 セルフテストはパス,自己校正も長い時間がかかりましたがパスし,機能そのものに致命的な問題はないようです。これは問題の出方から,電源スイッチのトラブルだと思います。

 2465Aの故障でもそうでしたが,テクトロは電源スイッチがどうも弱いようで,2465Aの時はスイッチ内部でスパークが発生し,熱で溶けていました。恐ろしいです。

 スイッチ自身の問題か,基板取り付け部のクラックのどっちかだろうと思って分解したのですが,残念ながらスイッチ周りのクラックは見つかりませんでした。また,TDS3000シリーズは,AC電源は常時通電なので,電源スイッチにAC100Vはかかっていません。

 そうこうしているうちに電源が全然入らなくなってしまったのですが,基板をコンコンと叩くと動きだしました,基板そのものは壊れていないようです。

 きっとどっかの部品のハンダ付けのクラックでしょう。目視で調べて見ても分からず。仕方がないのでそのあたり適当にハンダを盛っていきます。

 ついでですので,電源系の電解コンデンサを交換します。調べて見ると7500時間も通電されていて,1700回近く電源のON/OFFが行われていますので,好感はしておきたいです。

 手持ちの関係で交換出来るものは限られましたし,85度品しかなくてダウングレードになった箇所もあるのですが,仕方がありません。

 この頃の電子機器の問題点として,パスコンにタンタルが使われているケースがあるということです。タンタルコンデンサは壊れると短絡するので,大変危険です。幸い短絡して焦げたタンタルコンデンサを見つけることはなかったのですが,気をつけないといけません。

 汚いので分解のついでに洗浄をします。うちでは,中古品は可能な限り分解し,筐体をハンドソープでゴシゴシあらいます。これでようやく「うちの子」になる儀式が終わるわけで,TDS3054Bも,ようこそ我が家に,となるのです。

 LCDが想像以上に汚くて,保護ガラスも外して掃除をしました。おかげで綺麗になりました。

 元通り組み立てて電源を入れます。しかし画面に何も出ません。

 壊した・・・焦って中を見ると,ケーブルを1つ付け忘れています。あわてて取り付けて再度電源投入。今度は大丈夫です。何度も電源のON/OFFをしますが,問題なく起動します。セルフテストも通りました。

 この後30分ほど通電し,もう一度セルフテストと自己校正をかけ,波形をいろいろ見てみました。精度も問題なし,波形も綺麗に出ているので,実戦に十分投入可能です。

 ただ,電源投入時に画面が真っ白になってそこから先に全く進まないという問題が1回だけ起きました。何度か電源スイッチをON/OFFすると動き出し,その後問題は起きていないので気持ちが悪いです。

 ファンも回っていたので,起動に失敗している感じがします。これは当初の問題とはちょっと違っていて,同じように起動しないという問題でも,LCDのバックライトも点灯せず,ファンも周りませんでしたから,その問題は解決しているのではないかと思います。

 まあ,多少のことは仕方がないですね。

 プローブについては,500MHzということですので,帯域の狭い安いものは使いたくありません。その上,リードアウト対応品でないといけなかったりするので,とても高価です。

 とりあえず,2465A用に買っておいた,耐久性が低いけども秋月で1つ4200円と安価なテキサスのプローブを流用しましょう。1つ4200円もするのに,2465Aを使う機会がほとんどないので,ちょうど良かったかもしれません。今度秋月で買い物をするときに,もう2本買い足しておきましょう。

 そこからさらに3時間,途中,目ざとくテスト中のTDS3054Bを見つけた娘が「これなに?」と聞いてきたので,オシロスコープと教えてあげると,目をきらきらさせてボタンをおし,ツマミを回して遊び始めました。

 彼女は本当に楽しい時は「ふふっ」と声を出して遊ぶので,オシロスコープがどうも気に入ったようです。大きくなったら,このTDS3054Bをあげると,約束しました。まあ,たぶん大きくなったら興味もなくなっているだろうし,オシロスコープが欲しいほどのマニアになるなら,最新機種が欲しいと言い出すでしょうけど。

 

 つくづく思いましたが,小さくなったし,軽くなりました。奥行きが小さくなったこともそうですが,電池が内蔵できるスペースは当然空洞になっているわけで,ここにトレイが入っていて,プローブなどの小物が収納できるようになっています。

 

 内部はそれなりに複雑ですが,うまくレイアウトされているので,こんな小さなスペースに綺麗に収まっているのでしょう。大したものです。

 

 電池駆動できるという話ですので,消費電力が小さい事にも期待がかかります。実際にクランプメーターで測ってみたのですが,動作時は実測で42Wくらい,電源OFFのスタンバイ時で5Wくらいという感じでした。

 

 スタンバイ時の電力が大きいのは時代を反映しているなあと思うのですが,さすがに5Wを食わせたままでよいとは思えませんから,コンセントからは抜いておくことになると思います。

 

 ですが,動作時の50W以下というのは素晴らしい。ブラウン管のオシロスコープなど,100W越えは当たり前,300Wとか500Wの機種もざらですから,長時間使う時には大きな差になります。(オシロスコープを使う時というのは,得てして手強い相手の時ですので,長時間になるものです)

 

 この消費電力の小ささにはクラクラきていて,うちの主力機をこいつに入れ替えようかと,ちょっと本気で考えてしまいました。


 というわけで,TDS3054Bが稼働し始めました。思えば,松下製の帯域5MHzで1chの強制同期式オシロスコープを5000円で買ったのに始まり,2645Aで憧れのリードアウト/カーソル,遅延掃引付きのオシロスコープに感激し,54645Dでトリガのキレが作業効率に大きく影響することを知り,ここまで来ました。10年遅れで機材が導入されていくのですが,私自身が20年遅れているので,気分的には最新の状態です。

 ただ,いかにDPO,いかに500MHz,いかに4chとはいえ,やっぱり肌に合わないテクトロです。まだまだサクサクと操作できるほど慣れていませんし,どうももどかしいのですが,もともと置き換え目的で購入したわけではありませんから,随時使い分けを行っていくことになると思います。

 ヤフオクでは数万円程度,アキバの中古測定器店では20万円から30万円程度で売られている,アマチュア向けとしては最高級のオシロです。考えてみると,中国製や韓国製のオシロスコープで,500MHzを越えるものって極端に少ないですよね。

 これは,垂直軸のアナログ性能がオシロスコープの最も難しい部分であり,ここがきちんと作れるメーカーが限られていることを物語っています。

 繰り返し波形を見れれば良かった時代から,レーダーやコンピュータの登場で,単発現象を捉える必要性が生じて誕生した,トリガ同期式オシロスコープ。

 このトリガ同期式オシロスコープを発明した若者ががHPに持ち込んだところ,ヒューレットとパッカードは,その発明品が放つ先進性から,HPで商品化するより,自ら起業することをすすめたそうです。

 雲の上の人の声を,門前払いととらえたか,あるいは親切心ととらえたかは分かりません。分かりませんが,その後彼らが起業した計測器メーカーの隆盛が,答えの正しさを証明しているといえるでしょう。そう,その会社こそテクトロニクスです。

 数々の先進的な機能を搭載し,見えないものを見えるようにしてきた革新性,そして既存の機能を高い水準で洗練させてきた品質の高さが,電子工学がもっとも進歩したこの50年を切り開いてきたと,つくづく思います。

 もしテクトロニクスがなかったら,などと考えてしまいますが,もしかすると10年単位で技術の進歩が止まっていたかも知れません。特に,1980年代に日本が民生の電子機器で世界を席巻した時代,開発や設計の現場で困難な問題解決の心強い相棒が,テクトロニクスのオシロスコープだったことを思い起こすと,ビデオデッキもCDプレイヤーも,マザーツールである計測器がしっかりしていたからこそ,これだけの足跡を残せたのかも知れません。

 そして今もなお,テクトロニクスとHPの流れを汲むキーサイトが,オシロスコープの分野で2強として激しいデッドヒートを繰り広げていて,それらを使いこなした最先端の技術者が,新しい世界を切り開いています。

 計測器に対する憧れや夢というのは,こういうところにあるようにも思います。

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